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ティアーズ・フォー・フィアーズと当時のシンセ・ポップのムーブメント

ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されているDJスヌーピーこと、今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第117回。
今回は1989年に発売された『The Seeds Of Love』の新デラックス・エディションが発売されたティアーズ・フォー・フィアーズ(Tears For Fears)やシンセ・ポップのムーブメントについて。
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ローランド・オーザバルとカート・スミスのティアーズ・フォー・フィアーズは、80年代の音楽シーンを代表するグループ。1990年に仲違いするまで、数多くのヒット曲を世の中に送り出しました。そんな2人が10年ぶりに心を通わせ、ティアーズ・フォー・フィアーズとしての音楽活動を再始動させてから22年になります。
今年、ティアーズ・フォー・フィアーズはシングル「Woman In Chains」のリマスター音源をリリースしました。この曲は、もともと1989年に発売されたアルバム『The Seeds Of Love』の1曲目に収録されていて、グラミー賞シンガーのオリータ・アダムス(当時は無名のシンガー)とのデュエットで、ドラムはフィル・コリンズが担当したことも話題になりました。
またそれだけでなく、フェミニスト・アンセムであり、ローランドの母親についての歌として知られています。過去の名曲をデジタル化するという理由もあるかもしれませんが、今の時代へのメッセージとして伝えていきたいという想いが込められていると言えるでしょう。
ティアーズ・フォー・フィアーズは、1981年に「Suffer The Children」でデビューしました。この時代は、華やかなニューロマンティック・ムーヴメントが席巻し、パンク・シーンから流行が移り変わった頃で、シンセ・ポップ・ムーヴメントが音楽の新時代を築き上げるスタートとなりました。
デペッシュ・モードの「Just Can’t Get Enough」、ニュー・オーダーの「Blue Monday」、ユーリズミックスの「Sweet Dreams」、そしてティアーズ・フォー・フィアーズの「Mad World」(1983年のデビュー・アルバム『The Hurting』収録)は、当時のシンセ・ポップを代表するヒット曲です。ちなみに私は、ヴィンス・クラークが中心だった初期のデペッシュ・モードが大好きでした。1982年の『A Broken Frame』からの「See You」は、今でもラジオ番組で紹介します。ちなみに、シンセ・ポップを長く支えてきたペット・ショップ・ボーイズは、1985年にデビューしています。
当時、ティアーズ・フォー・フィアーズにインタビューする機会には恵まれませんでしたが、デペッシュ・モードのハンサムなアラン・ワイルダーにロンドンでインタビューした際の印象的な言葉は、シンセ・ポップ新時代に対するものではなく、「将来の不安は禿げること」と切実に語ったことでした。肝心なことは覚えていませんが、その言葉が40年間、頭から離れません。(余談)
シンセ・ブームは、80年代に始まったわけではありません。70年代にはドイツのクラフトワークがあり、イギリスではゲイリー・ニューマンがチューブウェイ・アーミーとして「Are ‘Friends’ Electric?」を、ソロ名義で、ニョロニョロとしたシンセの音が印象的なイントロの「Cars」をヒットさせています。彼の初来日公演を中野サンプラザで観ましたが、宇宙をイメージしていたのか、ステージにはそれほど大きくはない球体のロボットがあり、無線でちょこちょこ動かし、カクカクした彼のダンスとSF的な舞台を演出していたのを覚えています。そんな70年代の彼らの活動は、無機質なシンセの音をポップ・シーンに送り込み、80年代へと受け継がれていったのです。
ティアーズ・フォー・フィアーズに話を戻します。デビュー・アルバム『The Hurting』がいきなり全英チャートで1位になった彼らは、2年後にアルバム『Songs From The Big Chair』をリリースし、世界の頂点に立ちます。「Shout」「Everybody Wants To Rule The World」のシングル・ヒットを生み、アルバムは世界で1,000万枚以上を売り上げる大ヒットとなりました。アルバムはイギリスだけでなくアメリカでも1位となり、なんと売り上げの半分はアメリカだったということです。
上記の2曲のシングルもアメリカで1位というのは、すごいことです。当時のアメリカは、マイケル・ジャクソン、マドンナ、プリンス(そういえば全員1958年生まれ)が台頭していた時代。その中で、ティアーズ・フォー・フィアーズのアルバムは5週間1位に輝き、第2期ブリティッシュ・インベージョンという大きな流れに乗って、シンセ・ポップ・ムーヴメントを牽引しました。
第2期ブリティッシュ・インベージョンは、デュラン・デュラン、カルチャー・クラブ、ワム!などに代表されますが、音楽と映像のコラボレーションが新しい音楽の時代を築きました。その中でティアーズ・フォー・フィアーズは、どちらかというと、ヴィジュアルというよりも(失礼)、世代を超え、老若男女に愛される名曲を生み出したグループだったと言えるでしょう。
そして、セカンド・アルバムから6年ぶりにリリースしたのが『The Seeds Of Love』。このアルバムからソウルやジャズのエッセンスを取り入れ、生楽器を使用しました。また、制作に時間がかかったのは、完璧なサウンドを求めすぎて、完成させたアルバムを2度ボツにしたローランドのこだわりがありました。制作費は当時の金額で2〜3億円だったといいます。
そして、ようやく完成させたものの、当時ホテルのラウンジで歌っていた無名のシンガー、オリータ・アダムスを起用したことでカートのヴォーカル曲が減り、それが2人の間に亀裂を生んだということです。結局、「Sowing The Seeds Of Love」はヒットしたものの、前作を上回ることはできず、1991年にはカートの脱退という結末を迎えてしまったのです。その後、ティアーズ・フォー・フィアーズはローランド1人のグループとなります。
10年間も絶交状態だった2人ですが、2000年に事務的な手続きのため連絡を取り合うと、「なぜこんなに憎み合っていたのだろう」と和解が加速し、2004年にアルバム『Everybody Loves Happy Ending』をリリース。思えば、1990年6月30日にネブワースでのフェスに出演した際は、会場入りも別々、目も合わせず、口も利かずと、誰もが亀裂を感じ取っていました。しかし10年後、幼馴染の2人はすぐに心を通わせることになりました。そして2022年には、喪失、老い、再生をテーマにした17年ぶりの新作『The Tipping Point』をリリース。エレクトリック・サウンドも見事に蘇っています。
時代を作った2人のミュージシャンは、紆余曲折を経て、心地よく向き合える音楽を今も作り続けています。そして、80年代に生まれた名曲を歌い継いでいます。2024年にリリースした新曲を含むライヴ・アルバム『Songs For A Nervous Planet』を聴くと、改めて彼らのソングライティングのすごさを感じることができます。シンセ・ポップというカテゴリーは、もはや不要な彼らのキャリアですが、多くのアーティストが誕生した80年代のUK音楽シーンにおいて、ティアーズ・フォー・フィアーズは今も輝いている存在であると確信します。
Written By 今泉圭姫子

ティアーズ・フォー・フィアーズ『Songs From the Big Chair』拡張版
2026年10月16日発売
CD/LP

ティアーズ・フォー・フィアーズ『Songs From the Big Chair』
1985年2月25日発売
40周年記念盤 / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music
今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー
- 第1回 :U2『The Joshua Tree』
- 第2回 :バグルス『ラジオ・スターの悲劇』
- 第3回 :ジャパン『Tin Drum』(邦題:錻力の太鼓)
- 第4回 :クイーンとの出会い…
- 第5回:クイーン『世界に捧ぐ』
- 第6回:フレディ・マーキュリーの命日に…
- 第7回:”18 til I Die” ブライアン・アダムスとの想い出
- 第8回:ロキシー・ミュージックとブライアン・フェリー
- 第9回:ヴァレンシアとマイケル・モンロー
- 第10回:ディスコのミュージシャン達
- 第11回:「レディ・プレイヤー1」出演俳優、森崎ウィンさんインタビュー
- 第12回:ガンズ、伝説のマーキーとモンスターズ・オブ・ロックでのライブ
- 第13回:デフ・レパード、当時のロンドン音楽事情やガールとの想い出
- 第14回:ショーン・メンデス、音楽に純粋なトップスターのこれまで
- 第15回:カルチャー・クラブとボーイ・ジョージの時を超えた人気
- 第16回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」公開前に…
- 第17回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」サントラ解説
- 第18回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」解説
- 第19回:クイーンのメンバーに直接尋ねたバンド解散説
- 第20回:映画とは違ったクイーン4人のソロ活動
- 第21回:モトリー・クルーの伝記映画『The Dirt』
- 第22回:7月に来日が決定したコリー・ハートとの思い出
- 第23回:スティング新作『My Songs』と初来日時のインタビュー
- 第24回:再結成10年ぶりの新作を発売するジョナス・ブラザーズとの想い出
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- 第30回:デビュー20周年の復活作『Spectrum』を発売したウエストライフの軌跡を辿る
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- 第57回:80年代後半に活躍したグラス・タイガーを振り返る
- 第58回:ブライアン・メイのソロ2作目『Another World』を振り返る
- 第59回:ブライアン・メイ復刻盤『Another World』の聴き所
- 第60回:ポリスのドキュメンタリー『Around The World』とインタビュー
- 第61回:フィル・ライノットの生涯と音楽を振り返るドキュメンタリー映画
- 第62回:10代のジャネット・ジャクソンとのインタビューを思い返して
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- 第64回:セバスチャン・イザンバールが語る新作や、故カルロス・マリンへの想い
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- 第67回:アリアナ・グランデとのインタビューを振り返って
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- 第76回:クランベリーズのドロレス・オリオーダンとのインタビューを振り返る
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- 第79回:今年クイーンが出場するNHK紅白歌合戦
- 第80回:ボン・ジョヴィを後押しした日本のファンとバンドからの愛
- 第81回:クイーン+アダム・ランバート来日公演
- 第82回:『ロッキー』と『プリティ・イン・ピンク』のサントラを振り返る
- 第83回:ボン・ジョヴィのドキュメンタリーは私たちに贈られたアナザー・ストーリー
- 第84回:テイラー・スウィフト、来日公演と報道の仕方、そしてそばにいてくれる音楽
- 第85回:ボン・ジョヴィデビュー40周年のバンドによる新たなチャプター
- 第86回:29年振りの来日公演が迫るテイク・ザット
- 第87回:カントリーは再度音楽と向き合えるチャンスを与えてくれる
- 第88回:7年振りの来日公演が控えるバステッド
- 第89回:29年振りの来日公演を行うテイク・ザット
- 第90回:ABBA最新のベスト盤『The Singles』
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- 第92回:『エルトン・ジョン:Never Too Late』:リアルな人生と最後に選んだ道
- 第93回:韓国を代表するテノール・シンガー、イム・ヒョン
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- 第97回:エルトン・ジョンの最新アルバム
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- 第99回:行けなかったエアロスミス初来日公演と2枚あった『Rocks』
- 第100回:連載100回記念インタビュー
- 第101回:4年振りとなる新作を発売したスティックスを振り返る
- 第102回:2026年1月に来日を控えたブライアン・アダムス
- 第103回:ボン・ジョヴィ新作アルバムとツアーの発表
- 第104回:カーリー・レイ・ジェプセンとのインタビューを振り返って
- 第105回:フレディ・マーキュリー『Mr. Bad Guy』:本人が語る愛に溢れた作品
- 第106回:ブルー(BLUE):リユニオン後の活動とライブへの期待
- 第107回:新ドキュメント『テイク・ザット ~30年の軌跡~』ともう一つの物語
- 第108回:ジェイ・チョウの魅力と過去のインタビュー
- 第109回:ジェイ・チョウの新作アルバムのMVと映像の世界観
- 第110回:映画『マイケル』を見て思い出す吉川晃司と見たウェンブリー公演
- 第111回:デイヴの娘、ヴァイオレット・グロール:2世アーティストたちの苦悩
- 第112回:ジェイ・チョウ、リイシューされる3作品と2007年の来日インタビュー
- 第113回:ジェイ・チョウ『カプリコーン』制作時のインタビュー
- 第114回:KISSによる50周年の新ライヴ盤と1978年での日本武道館での来日公演
- 第115回:ボン・ジョヴィとの終わりたくない物語
- 第116回:ジェイ・チョウ日本でのCDデビュー時のインタビューと本人解説




















