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フレディ・マーキュリー『Mr. Bad Guy』:本人が語る愛に溢れたアルバム

ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されているDJスヌーピーこと、今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第105回。
今回は40周年記念盤が発売されたフレディ・マーキュリーの『Mr. Bad Guy』について、1985年8月に行われた今泉さんによるインタビューを中心に寄稿いただきました。
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フレディ・マーキュリーの初のソロ・アルバム『Mr. Bad Guy』は、発売40周年を迎えました。その記念すべき年に、2019年に新たにミックスされた音源が紙ジャケット仕様CDとレコードでリリースされました。このアルバムは、映画『ボヘミアン・ラプソディ』の中で、クイーン存続を危ぶむキーポイントとして描かれたソロ活動として知られています。しかし、当時のインタビューを振り返ると、フレディのソロがそのすべて(危機の原因)ではなかったことは明白でした。
『Mr. Bad Guy』には、クイーンとして録音されたものの、アルバムに収録されていなかった楽曲を、フレディがソロとしてレコーディングし直した曲があります。後にアルバム『Made in Heaven』にも収録されることとなる「Made in Heaven」や「I Was Born to Love You」です。
ちなみに、『Made in Heaven』には、ブライアン・メイのソロ曲として知られる「Too Much Love Will Kill You」や、ロジャー・テイラーのザ・クロスとしてリリースされた「Heaven for Everyone」のクイーン・ヴァージョンも収録されています。
愛について語るフレディ
クイーン・ヴァージョンはまさに「クイーンの音」ですが、フレディのソロ・ヴァージョンは音作りがシンセサイザー中心で、シンプルな構成の中に、フレディのヴォーカルから溢れ出る歌詞の言葉にフォーカスしています。
「このアルバムはすべてがラヴ・ソングで、それぞれの曲に小さなストーリーがある。いろいろな愛を表現したかったんだ。情熱的な愛、気持ちが高揚していく愛、そして苦しみや痛み……。どうやら僕は、悲しい歌を書くのが好きなようだね。悲しみが人生の一部になっているんだろうな。僕はそんなに幸せな男じゃないんだよ」
私の目の前で愛について語るフレディは、とても素直に本音を語ってくれたように思えました。
「『あいつはなんでこんな歌を作るんだ? これを聴くと、あの時の痛みを思い出すよ』という具合に、聴く人誰もが一度は経験していることを歌うのが、今のフレディ・マーキュリーなんだ」
私はこの時初めて、ずっと「王子様伝説」を抱いていたフレディに対して、彼も普通に恋をして傷つきやすい人間であることを受け止めたのかもしれません。
アルバムの楽曲について
楽曲についても、細かく説明してくれたインタビューからいくつかご紹介しましょう。タイトル曲の「Mr. Bad Guy」は、まさにソロとしてフレディがやりたかったことが実現された曲です。
「オーケストラを入れてレコーディングしたかったんだ。クイーンでは、ブライアンがギターですべての音を作ってくれるからね。オーケストラを使うことがどういうことか、僕は何もわからなかった。大人数のオーケストラ団員がスタジオに入ってきた時、一体どうしたらいいんだと思ったからね。実際には、編曲はアレンジャーに任せたよ。オーケストラの楽器は、すべてが合わさった時にマジックが起こるんだ」
ラストの「Love Me Like There’s No Tomorrow」(邦題:明日なき愛)は、感情がたくさん込められていて、その感情をなるべくシンプルにまとめたいと思った大好きな曲の一つだそうです。
「最後の曲にしたかったのは、聴く人にいろいろなサウンドを楽しんでもらったあと、このまっすぐでエモーショナルなラヴ・ソングを聴いてもらいたかったからなんだ」
フレディが考える愛
とてもストレートに歌い上げるフレディの歌声。私はこの後も、フレディが考える愛について根掘り葉掘り聞きました。
「愛を失った時? そういう時こそ僕はそのことについて書く。愛が上手くいかなかった時が一番辛いよ。僕はそんなにロマンチストじゃないからね。僕はどの場面においても常に状況をコントロールできるけど、愛に関しては自分でコントロールできるわけじゃない。そういう気持ちって本当に耐えられない。失恋した時? 気持ちをすぐに切り替えることなんてできないよ。僕はパワフルで何でも耐えられると思っていたけど、愛に関しては傷が癒えるまで待つしかないんだ。それには時間がかかる。辛い気持ちが一瞬で消えてしまう薬があれば楽なのに。でもそうしたら、様々な感情を経験できないよね」
完璧主義者なフレディも、愛の前では受け身で耐えていく派なのだ、と意外な一面を知ることができました。
当時は、これほどまでに愛について語ってくれたインタビューだったとは思わなかったのですが、振り返ると、純粋に心の内を明かしてくれたフレディを知る大切な時間でした。『Mr. Bad Guy』は、そんなフレディの愛に溢れたアルバムです。
Written by 今泉圭姫子

フレディ・マーキュリー『Mr. Bad Guy』40周年記念盤
1985年4月29日発売
40周年記念盤LP・CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
- クイーン アーティスト・ページ
- 『Mr. Bad Guy』の40周年を記念して、1985年当時の貴重インタビュー公開
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今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー
- 第1回 :U2『The Joshua Tree』
- 第2回 :バグルス『ラジオ・スターの悲劇』
- 第3回 :ジャパン『Tin Drum』(邦題:錻力の太鼓)
- 第4回 :クイーンとの出会い…
- 第5回:クイーン『世界に捧ぐ』
- 第6回:フレディ・マーキュリーの命日に…
- 第7回:”18 til I Die” ブライアン・アダムスとの想い出
- 第8回:ロキシー・ミュージックとブライアン・フェリー
- 第9回:ヴァレンシアとマイケル・モンロー
- 第10回:ディスコのミュージシャン達
- 第11回:「レディ・プレイヤー1」出演俳優、森崎ウィンさんインタビュー
- 第12回:ガンズ、伝説のマーキーとモンスターズ・オブ・ロックでのライブ
- 第13回:デフ・レパード、当時のロンドン音楽事情やガールとの想い出
- 第14回:ショーン・メンデス、音楽に純粋なトップスターのこれまで
- 第15回:カルチャー・クラブとボーイ・ジョージの時を超えた人気
- 第16回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」公開前に…
- 第17回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」サントラ解説
- 第18回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」解説
- 第19回:クイーンのメンバーに直接尋ねたバンド解散説
- 第20回:映画とは違ったクイーン4人のソロ活動
- 第21回:モトリー・クルーの伝記映画『The Dirt』
- 第22回:7月に来日が決定したコリー・ハートとの思い出
- 第23回:スティング新作『My Songs』と初来日時のインタビュー
- 第24回:再結成10年ぶりの新作を発売するジョナス・ブラザーズとの想い出
- 第25回:テイラー・スウィフトの今までとこれから:過去発言と新作『Lover』
- 第26回:“クイーンの再来”と称されるザ・ストラッツとのインタビュー
- 第27回:新作を控えたMIKA(ミーカ)とのインタビューを振り返って
- 第28回:新曲「Stack It Up」を発売したリアム・ペインとのインタビューを振り返って
- 第29回:オーストラリアから世界へ羽ばたいたINXS(インエクセス)の軌跡
- 第30回:デビュー20周年の復活作『Spectrum』を発売したウエストライフの軌跡を辿る
- 第31回:「The Gift」が結婚式場で流れる曲2年連続2位を記録したBlueとの思い出
- 第32回:アダム・ランバートの歌声がクイーンの音楽を新しい世代に伝えていく
- 第33回:ジャスティン・ビーバーの新作『Changes』発売と初来日時の想い出
- 第34回:ナイル・ホーランが過去のインタビューで語ったことと新作について
- 第35回:ボン・ジョヴィのジョンとリッチー、二人が同じステージに立つことを夢見て
- 第36回:テイク・ザット&ロビー・ウィリアムズによるリモートコンサート
- 第37回:ポール・ウェラー、初来日や英国でのインタビューなどを振り返って
- 第38回:ザ・ヴァンプスが過去のインタビューで語ったことと新作について
- 第39回:セレーナ・ゴメス、BLACKPINKとの新曲と過去に語ったこと
- 第40回:シン・リジィの想い出:フィル、ゲイリーらとのインタビューを振り返って
- 第41回:クイーン+アダム・ランバート『Live Around The World』
- 第42回:【インタビュー】ゲイリー・バーロウ、7年ぶりのソロ作品
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- 第50回:「ハイスクール・ミュージカル」シリーズとは?
- 第51回:ブライアン・メイ初のソロアルバムを振り返る
- 第52回:離婚を歌ったケイシー・マスグレイヴスが3年前に語っていたこと
- 第53回:ロジャー・テイラーのヴォーカルと楽曲
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- 第74回:50周年のエアロスミス、1988年の来日インタビューを振り返って
- 第75回:オリアンティとのインタビューを振り返る
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- 第78回:ロビー・ウィリアムスのインタビューとテイク・ザットとの関係性
- 第79回:今年クイーンが出場するNHK紅白歌合戦
- 第80回:ボン・ジョヴィを後押しした日本のファンとバンドからの愛
- 第81回:クイーン+アダム・ランバート来日公演
- 第82回:『ロッキー』と『プリティ・イン・ピンク』のサントラを振り返る
- 第83回:ボン・ジョヴィのドキュメンタリーは私たちに贈られたアナザー・ストーリー
- 第84回:テイラー・スウィフト、来日公演と報道の仕方、そしてそばにいてくれる音楽
- 第85回:ボン・ジョヴィデビュー40周年のバンドによる新たなチャプター
- 第86回:29年振りの来日公演が迫るテイク・ザット
- 第87回:カントリーは再度音楽と向き合えるチャンスを与えてくれる
- 第88回:7年振りの来日公演が控えるバステッド
- 第89回:29年振りの来日公演を行うテイク・ザット
- 第90回:ABBA最新のベスト盤『The Singles』
- 第91回:29年ぶりのテイク・ザット来日公演レポートとメンバーとの会話
- 第92回:『エルトン・ジョン:Never Too Late』:リアルな人生と最後に選んだ道
- 第93回:韓国を代表するテノール・シンガー、イム・ヒョン
- 第94回:ロッド・スチュワートの想い出と来日時のインタビュー
- 第95回:映画『BETTER MAN/ベター・マン』とロビー・ウィリアムス
- 第96回:ロビー・ウィリアムスの代表的MV
- 第97回:エルトン・ジョンの最新アルバム
- 第98回:モーガン・ウォーレン最新アルバム
- 第99回:行けなかったエアロスミス初来日公演と2枚あった『Rocks』
- 第100回:連載100回記念インタビュー
- 第101回:4年振りとなる新作を発売したスティックスを振り返る
- 第102回:2026年1月に来日を控えたブライアン・アダムス
- 第103回:ボン・ジョヴィ新作アルバムとツアーの発表
- 第104回:カーリー・レイ・ジェプセンとのインタビューを振り返って



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