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モーガン・ウォーレン最新アルバム『I’m The Problem』:超ヒットと枠が広がるカントリー
ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第98回。
今回はアメリカのシンガーソングライターで、先日発売した最新アルバム『I’m The Problem』が全米アルバムチャート初登場1位、そして全米シングルチャートも1位はもちろんのこと全37曲が同時チャートインとなったモーガン・ウォーレン(Morgan Wallen)について。
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枠が広がるカントリー
モーガン・ウォーレンの『One Thing At A Time』が、私のフェイヴォリット・アルバムであることは、第87回のコラムで書かせていただきました。実は業界に入りたての頃に、全米カントリー・チャートの番組を担当していたこともお話しさせていただきました。その頃に鍛えられ、愛さえ生まれたカントリー・ミュージックは、今ようやく、私の音楽人生を豊かに彩ってくれているようです。
ポスト・マローンのアルバム『F-1 Trillion』に参加したコラボ曲「I Had Some Help」は、相変わらずリピート・ソングですが、モーガン・ウォーレンの新作アルバム『I’m The Problem』に、ポスト・マローンが参加した「I Ain’t Comin’ Back feat Post Malone」も、ポップス、ヒップホップ、カントリーの枠から飛び出した新しいアメリカン・ポップスの形を作り上げていて、お気に入りです。
この曲を代表するように、ジャンルレスなサウンドが、今ではアメリカの主流であり、それが世界で成功を収めています。
日本では「Dirty Dancing」でお馴染みのオースティン・マホーンが、少しずつカントリーの世界観を見据えています。「新作は、子供の頃に聴いてきたカントリー・ソングのルーツに戻る」、とオースティンは宣言。今年3月に発売された「Rearview」は、まさに新作の方向性を示していると言えます。
また、今話題のシンガー、チャペル・ローンの新曲「The Giver」も彼女のカントリー・ルーツに戻った楽曲としてリリースされています。
さらに、ジョナス・ブラザーズのジョー・ジョナスが14年振りにリリースしたソロ・アルバム『Music For People Who Believes In Live』では、カントリー・シンガー、シエラ・フェレルやフォーク・シンガー、タイニー・ハビッツと共演しています。
もう一つ追加するなら、カントリー界のラスカル・フラッツとバックストリート・ボーイズとの共演による「What Hurts The Most」もぜひ聴いていただきたいです。
現代カントリーとモーガン・ウォーレン
今では、カントリー・ミュージックの定義は、幅広くなっています。バンジョー、スティール・ギターのサウンドが心地よいのは、カントリーの醍醐味ではありますが、さまざまなスタイルの音楽がミクスチャーされた上で、カントリーならではの日常の出来事、人間関係、愛がもつれた感情表現などを描くことで、多くの人の共感を得ているのが、現代カントリーの魅力だと言えます。
モーガン・ウォーレンのアルバムには、歌詞の中に、スラングや商品名、有名人の名前などを織り交ぜ、同世代の代弁者としての歌が、聴く人の感情を高ぶらせてくれます。とてもパーソナルな歌だからこそ、モーガンへの魅力にもつながっているのだと思います。
ちなみに「I Ain’t Comin’ Back feat Post Malone」には、Redneck、Skoal、Richard Petty、97 Chevy、Johnnie Walker Blackなどの言葉が登場するので、Slangや商品名を調べ、楽しみながら聴いてください。
実は、新作『I’m The Problem』は、イギリスでもナンバー・ワンに輝きました。前作『One Thing At A Time』は、UKでは最高位40位でしたが、たった2年で初登場1位に輝くアーティストになりました。モーガン自身こう語っています。
「イギリスで、今起こっている現象は、本当に特別なことです。自分の音楽が、時間をかけて本物となり、築き上げられ、ファンの皆さんと意味のある場所で繋がっていることに、心から感謝し、謙虚な気持ちでいます。本当にありがとうございます!」
イギリスでは、この1位を記念した一夜限りのスペシャル・ライヴが、5月28日ラウンドハウスで開催されました。
Review: @MorganWallen’s intimate London show was delivered to a frenzied, loud and loyal set of fans in some style.
Read our thoughts & see the setlist.#MorganWallenLink ➡️ https://t.co/5DZwFpySYF pic.twitter.com/9PWknMyaku
— EF Country (@EFCountry) May 29, 2025
モーガン・ウォーレンのようなアーティストが、単独で来日公演を果たすことを楽しみにしていますが、フェスなどで来日してくれたら、フェス離れの私もいそいそと出かけてしまいそうです。今、私にとって、モーガン・ウォーレンと韓国のトロット出身で、トロットに留まらず、幅広いジャンルを歌うイム・ヨンウンの単独公演を日本で観ることができたら大満足です。
Written By 今泉 圭姫子
モーガン・ウォーレン『I’m The Problem』
2025年5月16日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / YouTube Music / Amazon Music
- モーガン・ウォーレン アーティストページ
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今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー
- 第1回 :U2『The Joshua Tree』
- 第2回 :バグルス『ラジオ・スターの悲劇』
- 第3回 :ジャパン『Tin Drum』(邦題:錻力の太鼓)
- 第4回 :クイーンとの出会い…
- 第5回:クイーン『世界に捧ぐ』
- 第6回:フレディ・マーキュリーの命日に…
- 第7回:”18 til I Die” ブライアン・アダムスのと想い出
- 第8回:ロキシー・ミュージックとブライアン・フェリー
- 第9回:ヴァレンシアとマイケル・モンロー
- 第10回:ディスコのミュージシャン達
- 第11回:「レディ・プレイヤー1」出演俳優、森崎ウィンさんインタビュー
- 第12回:ガンズ、伝説のマーキーとモンスターズ・オブ・ロックでのライブ
- 第13回:デフ・レパード、当時のロンドン音楽事情やガールとの想い出
- 第14回:ショーン・メンデス、音楽に純粋なトップスターのこれまで
- 第15回:カルチャー・クラブとボーイ・ジョージの時を超えた人気
- 第16回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」公開前に…
- 第17回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」サントラ解説
- 第18回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」解説
- 第19回:クイーンのメンバーに直接尋ねたバンド解散説
- 第20回:映画とは違ったクイーン4人のソロ活動
- 第21回:モトリー・クルーの伝記映画『The Dirt』
- 第22回:7月に来日が決定したコリー・ハートとの思い出
- 第23回:スティング新作『My Songs』と初来日時のインタビュー
- 第24回:再結成10年ぶりの新作を発売するジョナス・ブラザーズとの想い出
- 第25回:テイラー・スウィフトの今までとこれから:過去発言と新作『Lover』
- 第26回:“クイーンの再来”と称されるザ・ストラッツとのインタビュー
- 第27回:新作を控えたMIKA(ミーカ)とのインタビューを振り返って
- 第28回:新曲「Stack It Up」を発売したリアム・ペインとのインタビューを振り返って
- 第29回:オーストラリアから世界へ羽ばたいたINXS(インエクセス)の軌跡
- 第30回:デビュー20周年の復活作『Spectrum』を発売したウエストライフの軌跡を辿る
- 第31回:「The Gift」が結婚式場で流れる曲2年連続2位を記録したBlueとの思い出
- 第32回:アダム・ランバートの歌声がクイーンの音楽を新しい世代に伝えていく
- 第33回:ジャスティン・ビーバーの新作『Changes』発売と初来日時の想い出
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- 第54回:ABBAの新作と、“第2のビートルズ”と言われていた40年前
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- 第59回:ブライアン・メイ復刻盤『Another World』の聴き所
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