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ザ・ビートルズ『Anthology 1』DISC1収録曲解説:ビートルズ以前から人気グループになるまで

1995年から1996年にかけて3回に分けて発売されたザ・ビートルズのアルバム『Anthology』が、最新リマスターだけではなく、未発表や最新ミックスされた音源が追加され、2025年11月21日に『Anthology Collection』(8CD/12LP)として発売された。
新規追加された単独としても発売された新作アルバム『Anthology 4』も話題となっているが、今回は、リマスターされたアルバム『Anthology 1』から『Anthology 3』までのDISC1について、『レコード・コレクターズ 12月号』に掲載された作品解説を許諾を得たうえで順次公開。Disc2を含めた全文解説については、11月14日に発売されたザ・ビートルズが表紙の『レコード・コレクターズ 12月号』をご覧ください。雑誌の購入はこちらより。
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2021年、『ザ・ビートルズ: Get Back』を観たとき、ライヴ活動をやめて以降、音源の完成度が上がるにつれ4人の関係性が微妙になっていったビートルズが、すでに関係性が壊れる寸前ながらも“音楽が好きな4人”という原点に立ち戻ろうともがく姿がとても儚く美しく、感動したことを覚えている。
いきなり話が脱線したが、『Anthology 1』は、1995年11月20日に全世界同時発売された2枚組アルバムで、ビートルズの歩みを、当時残っていたメンバーの手で総括する一大プロジェクト『The Beatles Anthology』の第1章である。音楽好きの若者たちが紆余曲折を経てビートルズとしてデビューするまでがディスク1に、デビュー後、世界でビートルズ・ブームを巻き起こしていく1964年までがディスク2に収録されている。
特にディスク1は、音質も悪く演奏も粗削り。カヴァーも多く、最初“これはどう楽しめば?”と思った人も多そう(筆者も最初そうでした)だが、『ビートルズ: Get Back』を通過した今、これこそが彼ら(特にポール)が“ゲット・バック・セッション”で目指した原点、という視点で聴くと、また違った楽しみ方ができるかもしれないと思う。では、本アルバムのメインディッシュ「Free As A Bird」は後に回し、収録内容について順に解説していく。
ディスク1
まずディスク1。3曲目「That’ll Be the Day」、4曲目「In Spite of All the Danger」は、ビートルズ関連で2番目に古い音源(最も古い音源は1957年、ジョンとポールが出会った日のクオリーメンのライヴ音源)。ビートルズの前身、クオリーメンが1958年7月にフィリップスのサウンド・レコーディング・サーヴィスで録音した自主制作盤で、録音メンバーはジョン、ポール、ジョージにドラムのコリン・ハントン、ピアノのジョン・ダフ・ロウを加えた5人(なおこの頃、ポールはギターとヴォーカルを担当し、ベースレスの編成)。
「That’ll Be The Day」は、楽器編成やコーラス・ワーク、そのバンド名(意:こおろぎ)からも、ビートルズに大いに影響を与えたバディ・ホリー&ザ・クリケッツのカヴァーで、歌唱はジョン。ジョンは既に歌唱スタイルや自由なキャラクターが固まりつつあるが、ポールはコーラス含め控えめに参加している印象だ。
「In Spite Of All The Danger」は唯一となるポールとジョージの共作(ポール曰く“当時はリード・ギターのパートを考えたら、クレジットしなければいけないと思っていた”)のオリジナルで、こちらの歌唱はジョン。自作曲だからか「That’ll Be The Day」よりもポールのコーラスが積極的だが、ロカビリー調の曲自体は3コードのシンプルなもので、メロディ・メイカーとしての片鱗はまだ見えず。
6曲目「Hallelujah, I Love Her So」、7曲目「You’ll Be Mine」、8曲目「Cayenne」は1960年にポール宅で、借りたテープ・レコーダーで録音した音源。ジョン、ポール、ジョージに加え、後に“5人目のビートルズ”と呼ばれるスチュワート・サトクリフがベースで参加している。
弾き語り調の「Hallelujah, I Love Her So」はレイ・チャールズのカヴァーで、歌唱はポールによる。ジョンとポール作曲の「You’ll Be Mine」はシンプルなロッカ・バラードだが、ポールはバリトン風に大げさに歌唱し、ジョンは高低使い分けたコーラスや間奏には低い声の朗読を入れ、二人がやりたい放題だ。ポール個人の作曲名義「Cayenne」は、1950年代後半から活躍したバンド、ザ・シャドウズと似たスタイルで演奏した即興性の強いインストで、ジョージは不参加。いずれの楽曲も3曲目「That’ll Be the Day」、4曲目「In Spite of All the Danger」と比べリラックスした雰囲気での演奏だ。
10曲目「My Bonnie」、11曲目「Ain’t She Sweet」、12曲目「Cry For a Shadow」は1961年6月のドイツ、ハンブルク巡業で、歌手、トニー・シェリダンのバック・バンドを務めた頃の演奏。この頃のビートルズは、これまた“5人目のビートルズ”とも言われるピート・ベストがドラムとして加入、その後、サトクリフが脱退しポールがベースを担当することになり、後のビートルズと同じ4人組の構成として固まった時期だ。
トニー歌唱の「My Bonnie」は、有名なスコットランド民謡をアップ・テンポのロックンロールにアレンジしている。11曲目「Ain’t She Sweet」と12曲目「Cry For a Shadow」はビートルズのみの演奏で、ジョンが歌唱する「Ain’t She Sweet」は1927年に作曲され、ジーン・オースティンを始めとして様々なアーティストにカヴァーされたスタンダード。1956年、ジーン・ヴィンセントのカヴァー版を基に軽快なロックンロール調にアレンジしたか。
「Cry For A Shadow」は、「Cayenne」と同じくザ・シャドウズを意識したインストで、ジョンとジョージの共同作曲という唯一のクレジット。即興感が強かった「Cayenne」より完成度は高い。巡業の成果か、これらの音源は演奏に安定感があり、デビューに向け下地が固まってきているのを感じる。
1961年12月、ブライアン・エプスタインのマネージャー就任という転機から、ビートルズはいよいよデビューに向けたレコード会社探しを始める。ブライアンによる営業活動が実り、1962年1月1日に受けるのがデッカ・レコードの選考、デッカ・オーディションで、その際に録音された15曲のうち5曲が15曲目「Searchin’」、16曲目「Three Cool Cats」、17曲目「The Sheik of Araby」、18曲目「Like Dreamers Do 」、19曲目「Hello Little Girl」。15曲目と16曲目はアメリカのR&Bグループ、コースターズのカヴァー。
「Searchin’」の歌唱はポールだ。「Three Cool Cats」は満を持してのジョージによる歌唱で、部分的にジョンとポールがコメディ調に歌っている。「Searchin’」は1982年、ポールが出演したラジオで“無人島ディスク”として選出、「Three Cool Cats」は1969年の“ゲット・バック・セッション”でも、スロウにアレンジし演奏している。
17曲目「The Sheik Of Araby」は、1921年に作曲され、ファッツ・ドミノなど多数のアーティストにカヴァーされたスタンダード。歌唱はジョージで、彼が大ファンだったジョー・ブラウン&ザ・ブルヴァーズが前年にリリースしたカヴァーをもとにアレンジ。18曲目、19曲目は3曲演奏されたオリジナル曲のうち2曲。「Like Dreamers Do」はポールによる作曲・歌唱。青臭さはあるが、随所にポールのメロディ・メイカーとしての片鱗を感じさせる。この曲はビートルズとしてリリースされることはなかったが、1964年、デッカ・レコードのバンド、アップルジャックスに提供され、英国シングル・チャートで20位にランクインした。
「Hello Little Girl」はジョンによる作曲・歌唱。この曲は1957年頃作曲の、ジョン曰く“最初の完成曲の一つ”で、前述のバディ・ホリー&ザ・クリケッツの影響が濃い。また、ポールの他にジョージのコーラスも確認でき、その後の肝となる3人でのコーラス・ワークが確認できる。これらの演奏からは、オリジナル曲のクオリティも上がりビートルズらしさが生まれてきているが、カヴァー曲が中心でオリジナル曲が少ないセットリストが影響したか、結果的にビートルズはこのオーディションに不合格となる。
その後、元メンバーのサトクリフの突然死などを経験するなか、1962年6月、EMI傘下パーロフォン所属のプロデューサー、ジョージ・マーティンによる選考がビートルズに対して実施。同年6月6日に、審査のためEMIのアビー・ロード・スタジオで録音されたのが21曲目「Besame Mucho」と22曲目「Love Me Do」だ。
「Besame Mucho」は、メキシコのコンスエロ・ベラスケスにより1932年に書かれたスタンダード。この曲は上述のデッカ・オーディションや、1969年の“ゲット・バック・セッション”でも演奏された。そして、ついにその後、ビートルズとして公式にリリースされる曲が登場。のちのデビュー・シングル「Love Me Do」だ。
この曲はマーティンがなかなかドラムに満足せず、リンゴが叩いた録音、セッション・ミュージシャンであったアンディ・ホワイト(彼も、5人目のビートルズの“3人目”と呼ばれることがある)が叩いた録音が公式リリースされているが、ここで収録されたのはピートが叩いた1番最初の録音。大まかなアレンジは既に固まっているが、大きな特徴は、途中でリズムが大胆に変わること。マーティンはピートのドラミングに難色を示し、ビートルズのデビューが決まった後の8月15日、ピートは解雇され、代わりにリンゴ・スターが加入してついにビートルズのメンバーが揃う。
当初、マーティンは当時の慣例通り、作曲家が書いた曲でのデビューを提案し録音されたのが英国の作曲家、ミッチ・マレー作の23曲目「How Do You Do It」で、歌唱はジョン。アレンジもビートルズらしく演奏も申し分ないが、自身のオリジナルでデビューしたいというメンバーの意見が最終的に通り、「Love Me Do」でのデビューが決まる。
それならば、とマーティンは2枚目のシングルに「How Do You Do It」を推すが、メンバーがオリジナルにこだわるため、“この曲に負けない曲を作れ”と発破をかける。それを受け、当初、スロウ・テンポだったのを、マーティンのアドヴァイスもありテンポを上げて録音したのが24曲目「Please Please Me」。結局、この曲が2枚目のシングルとなるが、正ヴァージョンとの主な違いは、ハーモニカが入っておらず、コーラスが控えめ、そしてドラムをアンディが担当しているところ。
なかなか日の目を見ない「How Do You Do It」はミッチ・マレー自身、ビートルズが行なったアレンジが気に入らず、またB面と扱われるのを嫌い、お蔵入りに。「Please Please Me」は英国チャートで1位を記録し、ビートルズは一躍、人気グループとなる。
勢いそのままシングル「From Me To You」の制作を開始。そのセッションの中録音されたのが25曲目と26曲目の「One After 909」。ここではたびたび演奏を止めては話し合う模様が記録され、その後通して演奏されたのがとなる。試行錯誤が伝わるが、結局この録音はお蔵入りに。その後、6年越しに”ゲット・バック・セッション”で演奏・録音され、『Let It Be』に収録される。
27曲目「Lend Me Your Comb」と28曲目「I’ll Get You」、30曲目「I Saw Her Standing There」から34曲目「Roll Over Beethoven」は、1stアルバム『Please Please Me』のリリース後、TVやラジオに出演した時の演奏。27曲目「Lend Your Comb」は、英国放送協会(BBC)での放送のため録音されたカヴァー。原曲は1957年にリリースされており、その同年にカール・パーキンスがカヴァーしたヴァージョンを基にしたアレンジか。
28曲目「I’ll Get You」はTV番組での収録で、絶えず黄色い歓声が上がるなかでの演奏。30曲目から34曲目は、スウェーデンのラジオ番組での演奏で、32曲目「Money」から34曲目「Roll Over Beethoven」は2ndアルバム『With The Beatles』に収録されるカヴァーだが、そのリリース前の演奏である。
Written by ポニーのヒサミツ

ザ・ビートルズ『Anthology Collection』
2025年11月21日発売
① 8CDボックス・セット
品番:UICY-80700/7
価格:22,000円税込/完全生産限定盤
予約はこちら
② 12LPボックス・セット
品番:UIJY-75340/51
価格:69,300円税込/直輸入盤仕様/完全生産限定盤
予約はこちら

ザ・ビートルズ『Anthology 4』
2025年11月21日発売
2CD / 3LP
ザ・ビートルズ『Free As A Bird / Real Love』
7インチ・ヴィニール:2025年11月28日発売
CDシングル:2025年12月3日発売
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