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エルトン・ジョンの最新アルバム:フェアウェル・ツアー後にみせた創造性
ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第97回。
今回はブランディ・カーライルと共作したアルバム『Who Believes In Angels?』を4月にリリースしたエルトン・ジョンについて。
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10枚目の全英1位
見事、UKアルバム・チャートの1位に輝いたエルトン・ジョンとブランディ・カーライルとのコラボレーション・アルバム『Who Believes In Angels?(天使はどこに)』。エルトンにとって、本国では10枚目の1位となりました。
映画『ロケットマン』だけでなく、最近ではドキュメンタリー『エルトン・ジョン Never Too Late』を通して、エルトンの幼少期、トップになっての苦悩を知り、最後のツアー映像『エルトン・ジョン・ライヴ:Farewell from Dodger Stadium』では、力の限りを振り絞ってファンの前で歌う姿を見ることができました。
もちろん、音楽活動を続けてきたエルトンの悲壮な姿だけでなく、最後のツアーを完走した達成感と、次なるステップへ進む安堵感による表情も印象的でした。ラストショーでは、家族やアーティストとして関わりのあった友人たちをステージに上げたシーンを見ながら、これでエルトン・ジョンのこれまでのキャリアの一部に幕が下ろされることを実感したのです。
止まらない創造性
しかし、彼のクリエイティヴな活動は止まることはありませんでした。新作のレコーディングの話が伝わってきたのです。引退するという話ではなかったので、何らかの形で音楽に携わっていくことは理解していましたが、ドキュメンタリー、フェアウェル・ツアーの映像を見ていると、次のエルトンを想像することができなかったし、しばらくは活動がないのではと勝手に思い込んでいました。
アルバムの幕開けとなる「The Rose of Laura Nyro」の長いイントロダクションは、新しい扉を開けるワクワク感を掻き立たせてくれます。そして、エルトンとブランディの重なり合った歌声は、コラボレーションであるということを前面に押し出し、二人のトップ・アーティストの個性が一つとなり、新たな歌声としてのオープニングとなっています。
数々のグラミー賞に輝いているプロデューサー兼ソングライターのアンドリュー・ワットの構想は、エルトンとブランディの真のコラボレーション・スタジオ・アルバムを目指したとのこと。
二人それぞれが主導になった楽曲で構成され、エルトンの盟友バーニー・トーピンもブランディと作詞を担当。なんと20日間で仕上げてしまったというのも驚きです。しかし、この20日間がすんなりと完成までの道のりではなかったことは、後日公開された映像などで知ることができました。心の葛藤、世界情勢、体調も含め、万全な体制ではない中、音楽を作るという同じ目的のもと、みんなが支え合いながら名曲を生み出している様子は、感動的でした。
2曲目の「Little Richard’s Bible」は、まさにエルトンのポップ・センスが光るサウンド。ピアノ・プレイも圧巻です。えっ、これがツアーから引退したアーティストの作品なのかと疑ってしまいます。
3曲目の「Swing For The Fences」は、ブランディの力強い歌声がカントリー・タッチのサウンドに乗せられ、エルトンのバック・ヴォーカルが粋に聴こえます。そして次はエルトンの歌声が響き渡るエオキュメンタリーのエンディングでもある「Never Too Late」。このように、最後まで二人の素晴らしいコラボレーションによって紡がれているのがこのアルバムです。
多くのフェアウェル・ツアー
最近では、エルトンだけでなく、70年代、80年代に数多くのヒット曲を世の中に送り出してきたトップ・アーティストがフェアウェルと銘打ったツアーを展開しています。
年齢的にタフなワールド・ツアーを行うのが大変である、という理由だけではないかもしれませんが、世界中のファンに別れを告げるツアーは、単純にコンサートを楽しむだけでなく、寂しさ、切なさの中で、ファンの人たちがそれぞれの青春の扉を閉めるような、そんな思いを抱かせます。もちろん、KISSのように、KISS ARMYのために1回だけのライヴを計画しているというサプライズは嬉しいニュースです。
先日、シンディ・ローパーのフェアウェル・ツアーを日本武道館で観てきました。最後だから、シンディのトークは止まりません。日本に特別な愛情を持つシンディならではのメッセージ、そしてパワフルな歌声を聴いていると、なぜシンディもツアーに区切りをつけたいと思ったのだろうか、と考えてしまいます。もちろん、歌声は80年代の時とは違いますが、説得力、今だから伝えられるメッセージが歌声に込められていました。彼女もエルトンと同様、歌うことをやめるわけではないと理解していますが、なぜか寂しさが募った時間でした。
エルトンに話を戻します。このアルバムを発売した時のエルトンのコメントが、驚くべきものであり、感動そのものでした。エルトンがまるで新人のように純粋な気持ちを持って音楽に向き合い、まだまだ進み続けていくことを知ったからです。
「これを作ったことで、前に進むための場所を見つけられた気がする。『天使はどこに』で、私は新しい時代に足を踏み入れ、未来に向かって扉を押し広げた。これまでやってきたことはすべて後ろにある。それらも素晴らしい、驚くべきものだった。でもここが私にとっての新たな出発点。キャリアの新たなスタート、第2章の始まり」
多くのフェアウェル・ツアー
エルトンは、音楽の力で世界を変えることができる、と信じ、次に進み始めました。ツアーはフェアウェルだったけれど、音楽を作り続けていく、そして音楽で第2章の扉を開けたと言い切ることに感動。世界に君臨する人生の先輩方が、苦しみながらも次なる喜びに向かって一歩一歩進んでいく姿に、まだまだ足元にも及ばないヒヨッコである自分を知るのです(笑)。エルトンの言葉を受け止め、幾つになっても挑戦の心を忘れず、新しい世界と出会うことを喜びと感じられる人生を、過ごしていきたいと思うのです。
Written By 今泉 圭姫子
エルトン・ジョン&ブランディ・カーライル『Who Believes In Angels?』
2025年4月4日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / YouTube Music / Amazon Music
- エルトン・ジョンアーティストページ
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今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー
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- 第2回 :バグルス『ラジオ・スターの悲劇』
- 第3回 :ジャパン『Tin Drum』(邦題:錻力の太鼓)
- 第4回 :クイーンとの出会い…
- 第5回:クイーン『世界に捧ぐ』
- 第6回:フレディ・マーキュリーの命日に…
- 第7回:”18 til I Die” ブライアン・アダムスのと想い出
- 第8回:ロキシー・ミュージックとブライアン・フェリー
- 第9回:ヴァレンシアとマイケル・モンロー
- 第10回:ディスコのミュージシャン達
- 第11回:「レディ・プレイヤー1」出演俳優、森崎ウィンさんインタビュー
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- 第20回:映画とは違ったクイーン4人のソロ活動
- 第21回:モトリー・クルーの伝記映画『The Dirt』
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