デイヴの娘、ヴァイオレット・グロール:2世アーティストたちの苦悩とプレッシャー
ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されているDJスヌーピーこと、今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第111回。
今回は先日デビューアルバム『Be Sweet to Me』を発売したデイヴの娘、ヴァイオレット・グロールについて。
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今月は、ヴァイオレット・グロール(Violet Grohl)をピックアップします。ヴァイオレットは、フー・ファイターズのデイヴ・グロールの長女であることは、もうご存知でしょう。彼女を紹介する前に、少し2世アーティストについて話したいと思います。
音楽業界にも多くの2世アーティストがデビューしています。大スターの親の姿を生まれた時から目にし、その恵まれた音楽環境の中で、他の人たちよりもデビューのきっかけを掴むチャンスが多いであろう人たち、そんなイメージを皆さんは持っているかもしれません。もちろん、それは完全否定できませんが、意外にも、人一倍苦労が伴う存在であることも忘れてはいけません。あえて親の名前を出さずにデビューしたり、期待されすぎて常にプレッシャーの中にあったり、2世たちは、余計な雑音を受けることなく、やりたい音楽をやるための必要以上の努力を強いられるのです。
以前、ドクター・ドレーの息子カーティス・ヤングの来日プロモーションをお手伝いしたことがあります。ドクター・ドレーには、10人の子供がいると言われています。さまざまな事情もあり、カーティスは後年、実子であると認められた長男。当時はまだ彼の才能が未知数であったにもかかわらず、ドレーの息子ということで、多くのサポーターが彼を取り囲んでいました。しかし、デビューにあたり、父親のドレーからは、楽曲は聴いてくれたようですが、一切のヘルプはなかったと言っていました。
来日前にLAで会った時に、カーティスが私の目の前でラップを披露してくれたのですが、どこかまだ自信を持てていない姿と、周りからの半端ない期待感に戸惑っているようにも見えました。スタッフに聞いた話では、ドクター・ドレーは子供たちのデビューへの援助は一切しない主義とのことです。それはある意味、愛のムチなのでしょうか? あの穏やかで優しいカーティスが、今どのような活動をしているのか、何も聞こえてきませんが、うまくいってくれていたら、と願うばかりです。
ラテン界のトップスター、フリオ・イグレシアスの息子エンリケ・イグレシアスは、兄であるフリオ・イグレシアスJr.に比べて、エネルギッシュな次男で、最初から自分の世界観をしっかり持っていました。3歳で両親が離婚し、世界を飛び回る父親との生活が薄かったということもありますが、子供の頃から生き抜く力を自然に備えていたタイプです。
お兄ちゃんよりもこの世界で成功し、父親と並ぶほどの人気スターになったのは、父親の影響というよりも、彼のハングリー精神から来るものだったと感じます。日本にも何度か来日していますが、いたずらっ子な性格が魅力的で、いつも自信に満ち溢れていました。デビューの時期を、しっかり自分でコントロールし、父親の名を一切使わず、自分の世界観でスターになっていった人です。イグレシアスの名を使っても、インデペンデントな生き方ができる人でした。
余談ですが、私も少しご縁があり、エンリケと西城秀樹さんとのインストア・イベントの司会をさせていただいたことがあります。
アーティストそれぞれの環境、性格にもよりますが、過去の例から考えると、2世の悩みを悩みとせず、自分自身であり続けていくことが、成功を掴み取れる秘訣ではないかと思います。まあ、昨今はちょっと違うかもしれません。とても自然体で、音楽、演技活動を楽しんでいるように感じる2世の姿を目にします。
マイリー・サイラスは、父親ビリー・レイ・サイラスとTVドラマ『シークレット・アイドル ハンナ・モンタナ』に出演してスターとなりましたが、実は11歳の時から2年間にも及ぶオーディションで、1,200人の中から選ばれています。父親との共演は、たまたまマイリーの演技テスト中に、父親役のオーディションを受けてみた、という経緯があったと言います。マイリーの演技に対する強い思いが、役を勝ち取ることにつながったという話です。
そしてヴァイオレット・グロール。彼女は、フー・ファイターズの楽曲「Show Me How」にゲスト参加し、父娘のハーモニーで話題となり、才能を開花させました。「音楽は私にとって家族をつなぐもの」と話しているヴァイオレット。恵まれた環境を否定することなく、その中で生まれた音楽への愛を素直に表現し、音楽をジャスティン・ライゼンのプロデュースに委ねました。デイヴ・グロールは、きっかけはフー・ファイターズであっても、自分の力でデビューしたヴァイオレットを誇りに思っているそうです。
「ザ・ブリーダーズ、ビョーク、フガジ、ピー・ジェイ・ハーヴェイ、サウンドガーデンに影響を受けました。目指すところは、多くの人が私の音楽を聴きに来てくれて、楽しんでくれたらそれで嬉しい! だから、日本にもライヴで戻って来たいです」と、先日プロモーションで来日したヴァイオレットはこう話しています。すでに4、5回は日本に来ているということで、「世界で多分一番好きな国」とのこと。食べ物、ショッピングを楽しみながら、人間観察にも興味があり、いろいろな場所をぶらぶら歩くのが好きだそうです。
デビュー・アルバム『Be Sweet To Me』は、「すごく影響を受けたオルタナの中でも、サブジャンルになるシューゲイザーであったり、グランジ、あとはノイズロックとか。そういったものが自分のベースになっています。アルバムは、聴いた人がそれぞれ、自分のこれまでの経験や景色を思い出してくれたら嬉しいです。明確なメッセージを語らなくても、聴き手の人たちが自由に解釈して、自分なりに楽しんでほしいです」と語っています。
ヴァイオレットのアルバムを聴くと、デイヴ・グロールの影響を全く感じない、とは言えません。「Thum」は、子供の頃から身についてきた父親譲りのサウンドを感じます。でも、周りがなんと言おうと、私は私である、という芯を持ったアーティストであることが、彼女の音楽から聴こえてきます。20歳のヴァイオレット・グロールのこれからがとても楽しみです。
Written By 今泉圭姫子
ヴァイオレット・グロール『Be Sweet to Me』
2026年5月29日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify /Amazon Music / YouTube Music
<収録曲>
1. THUM
2. 595
3. Bug In The Cake
4. Last Day I Loved You
5. Big Memory
6. Mobile Stars
7. Often Others
8. Applefish
9. Cool Buzz
10. Pool Of My Dream
11. Plastic Couch
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