アリアナ・グランデのキャリアを振り返る:強くセクシーな女性像と悲劇、そしてポップの天下へ

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Photo: Republic Records

2026年7月31日にリリースされるアリアナ・グランデ(Ariana Grande)の8作目のスタジオ・アルバム『petal』。リード・シングル「hate that i made you love me」は英米のシングル・チャートで初登場1位、アメリカを除くグローバル・チャートでも、Spotifyのグローバル・チャートでも1位を獲得している。

“他人が作った私と決別する”ことがテーマとなる新作アルバムの発売を記念して、辰巳JUNKさんによるアリアナのキャリアを振り返る短期連載が公開。第2回となる今回は3rdアルバム『Dangerous Woman』から5枚目『thank u, next』までを取り上げる。

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「若きアリアナがポップの天下をとる」
「Side to Side」より

ニッキー・ミナージュが放った宣言どおり、アリアナ・グランデは20代前半をとおして世界最高峰のポップスターへと駆け上がっていく。

まず、3rdアルバム『Dangerous Woman』(2016)。22歳の大人になったアリアナが掲げたテーマは、おそれを知らないフェミニスト。起業家の母、そしてジャーナリストとしてピュリッツァー賞を獲得した叔母の魂を受け継ぐべく、強くセクシーな女性像が打ち出された。

「ジミ・ヘンドリックスがギターを奏でるように、アリアナは声を操る」 
(作曲家サヴァン・コテチャ)

積極的に選ばれたサウンドは、歌唱派として挑戦していなかったジャンル。表題曲「Dangerous Woman」はロック調、「Side to Side」はレゲエ風といった具合だ。

そんな開拓精神の結晶こそ「現代ポップの完成形」と讃えられる「Into You」。目標に据えられたのは、マイケル・ジャクソン流にリズムを刻んでいくパーカッシブ歌唱。終盤にはアドリブが重ねられ、爆発的なハーモニーが形成されていく。まさに、ボーカル・プロダクションによって曲に生命を吹き込むアリアナ流サウンドが確立した瞬間だ。

日本ゴールドディスク大賞では二部門に輝くなど、キャリア5年で名実ともにトップスターとなったアリアナだったが、ツアーの最中、人生を一変させる悲劇が起こる。

 

マンチェスターでの悲劇

2017年、UKマンチェスター公演の会場で自爆テロが発生し、22人が亡くなり、200人以上が負傷。被害者の多くは子どもや若者だった。

アリアナは「もう歌うことができない」と考えるほど追いつめられてしまったと言われている。しかし、その想いは、すぐに「あの場所に戻らないともう歌えない」という決意へと変わった。

事件から数週間でマンチェスターに渡って生存者を見舞い、チャリティコンサート「ワン・ラブ・マンチェスター」を開催した。世界中のスターが集ったその日、住民たちが笑顔で掲げたメッセージは「憎しみには絶対に負けない」。涙を流しながら歌いきったアリアナは、深い感謝の念をつづっている。

「マンチェスターの人々は、人間の最も醜悪な側面が露わになった悲劇を、人間の最も美しい姿を示す出来事へと変えてくれました」
「感動を与えることこそ、この世界で一番美しい行為です。もう、チャートも数字も、賞もどうでもいい。私は、人のために歌いたい。みんなと経験をわかちあいたい」 
(アリアナ・グランデ)

人生を大きく変えたこの出来ごとは、彼女の音楽のかたちも一変させることとなる。

 

「歌にしないと癒えない」

「もう流す涙は残ってない」。事件の翌年リリースされた4thアルバム『Sweetener』(2018)は実験志向で、リードシングル「No Tears Left to Cry」も複雑な構成をとっている。悲しみに沈むバラードのように始まりながら、やがてアップテンポへと転じ、立ち上がろうとする意思によって浮上していく。

ミュージックビデオの最後に映るミツバチは、マンチェスターのシンボル。アリアナは、街への敬意を込めながら、前へと進もうとする希望を歌い上げたのだ。

「これまでの私は、キラキラ歌って踊る存在でした。『Sweetener』にもノれる曲はあるけれど、奥深いメッセージが込められていて、私の魂が詰まっています。制作中は何百回も泣きました」
(アリアナ・グランデ)

制作は決して容易ではなかった。「歌にしないと癒えない」。プロデューサーのファレル・ウィリアムズの指南もあり、アリアナはこれまで以上に作詞作曲へ心血を注いだ。「breathin」はセッション中にパニック発作を起こした日に書かれた。事件関係者に捧げられた終幕曲「get well soon」では、頭のなかで反響する声が幾重ものボーカルによって表現されている。

キャリア随一の評価を得た『Sweetener』は「ワン・ラブ・マンチェスター」と同じく、悲劇から生まれた、美しいものだった。

 

マック・ミラーの訃報と『thank u, next』

希望で世界を照らした『Sweetener』のリリースからわずか1ヶ月後、ふたたび痛ましい喪失が降りかかる。デビュー前のアリアナを鼓舞し、いっとき交際もしていた26歳のラッパー、マック・ミラーが事故により急逝してしまったのだ。訃報の直後、アリアナは、当時婚約していたコメディアンのピート・デヴィッドソンと破局した。

世界中が心配するなか、アリアナは音楽で想いを発表した。なんと、親しい共作者と1週間でアルバムを書き上げ、さらに2週間ほどでレコーディングも完成させたのだ。

「『thank u, next』は、私の命を救ってくれたアルバムです」
「自分が出したいから、そうしないと心が張り裂けてしまいそうだから、音楽をリリースする。そうやって自分の物語を取り戻すんです」
(アリアナ・グランデ)

急遽リリースされた5thアルバム『thank u, next』(2019)は、その年最大の話題作となった。数字の面では、キャリア初の全米シングルチャート1位を獲得したのみならず、ビートルズ以来となるトップ3独占を果たし、配信サービスでも数々の記録を樹立している。

こうした即席型のリリースは、本来ヒップホップのやり口で、当時の女性ポップスターには異例のこと。「7 rings」で女子会の豪遊をトラップポップに乗せて歌ったように、アリアナは、発表方法を含めたヒップホップの流儀を配信時代のポップシーンへ持ち込んだのだ。デビュー以来、自分らしさを貫いてきたアーティストにふさわしい功績と言えよう。

しかし、一番のサプライズは、その内容にあった。

アメリカのポップスターによる破局ソングといえば、別れた相手への怒りや批判を歌うものが少なくない。ところがアリアナは、表題曲「thank u, next」において、マックからピートまでの歴代恋人の名前を挙げながら感謝を示していった。そして、彼らとの苦楽を通して成長した自分自身も肯定して、前に進もうとする。「ありがとう、次へ」と。

「私は全力で生きてます。失敗もするけど、そこから学ぶ。どんな経験にも感謝したいんです」
(アリアナ・グランデ)

『thank u, next』が時代を象徴する作品になったことには、大きな意味がある。2019年当時といえば、政治や社会が大きく変動し、分断や衝突が激しくなっていた時期。そんなとき、傷つけ合ってもきた関係をポジティブにとらえたアリアナの歌声が、癒しと学びの機会を与え、文字どおり多くのリスナーの人生を変えたのだ。

20代前半を通して、幾多もの悲しみを歌へと昇華してきたアリアナ・グランデ。正真正銘「ポップの天下」に到達したころには、自分らしさを貫くポップスターというだけではなくなっていた。勇敢にもみずからの経験をわかちあい、世界を癒す芸術家として、頂点にのぼったのだ。

一方、本人はこうも語っていた。

「まだ、ポテンシャルを少ししか発揮できていないと感じてます。だから、これからも鍛錬を重ねていきます」

事実、このあとには、驚きの新境地が待っていた。

Written by 辰巳JUNK



アリアナ・グランデ『petal』
2026年7月31日発売
CD・LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music

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