オーストラリアから世界へ羽ばたいたINXS(インエクセス)の軌跡【今泉圭姫子連載】

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CREDIT Andrew Southam

ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第29回。今回は、オーストラリアから世界に羽ばたいたバンド、INXS(インエクセス)について。世界ではコンサート『Live Baby Live』がリストアされ劇場公開、サントラも新たに発売となり、再評価の気運高まる彼らの過去や思い出とともに執筆していただきました(これまでのコラム一覧はこちらから)


Photo: Petrol Records/ Eagle Rock Films

INXSがオースラリアを飛び出し、世界を目指したのは1983年でした。本国でアルバム『Shabooh Shoobah』が大ヒットしたことにより、彼らは一気に世界に目を向けるのです。マイケル・ハッチェンスのパワフルでありながら、繊細なヴォーカリストとしてのスタイルは、ロックだけにこだわらず、ファンクな装いもINXSとしてのスタイルに取り込んでしまう魅力がありました。1984年、ナイル・ロジャースが手がけた「Original Sin」は、デュラン・デュランが「The Wild Boys」でシック・ファミリーとタッグを組んだ時期と重なります。ファンクとロックの融合は、アイドル時代を生きてきたバンドに、新しい世界の扉を開いたのです。

デュラン・デュランの「The Wild Boys」は全米シングル2位になり、彼らは次なる「Notorious」で、さらにその世界観を自分たちのものにしました。しかしINXSの「Original Sin」は、ダリル・ホールがバック・ヴォーカルを担当したという話題を作りながらも、全米では58位という結果。彼らの世界制覇は、1986年の「What You Need」までお預けとなるのです。ちなみに「Original Sin」のMVは、日本で撮影されています。

 

80年代のオーストラリア、ニュージーランド勢は、INXSだけでなく、数多くのアーティストが活動の場を世界へと広げました。ビー・ジーズ、オリビア・ニュートン・ジョン、AC/DC、リック・スプリングフィールドといった先駆者達の背中を追いながら、エア・サプライ、クラウデッド・ハウス、メン・アット・ワークが成功を収め、アイドル・フィールドからもインディセント・オブセッション、ワ・ワ・ニーなどが誕生しました。さらにドラマ「ネイバーズ」からは、カイリー・ミノーグ、ジェイソン・ドノヴァンといった世界的ポップ・スターが生まれています。振り返ってみると、一つの大きなムーヴメントになっていたのですね。

以前にも書きましたが、1984年、U2の『The Unforgettable Fire(焔)』のシドニー公演を観に行った時、どなたの推薦だったかは忘れてしまいましたが、今やオーストラリアを代表するロック・シンガーで、当時はオーストラリアのブルース・スプリングスティーンになるだろうと紹介されたジミー・バーンズのライヴを小さなライヴハウスで観ました(推薦は、天辰保文さんだったかもしれません!)。オーストラリアのアーティストでも世界進出を果たした人たち以外は目にしたことがなかった私は、地元をベースにし、地道に活動している骨のあるロック・シンガーが、まだたくさんいるという事実のひとつを間にあたりにし、衝撃受け、オーストラリアの層の厚さを感じたものです。そんなジミー・バーンズは、その後、キーファー・サザーランドの出世作にあたる映画「ロスト・ボーイズ」のサントラで、マイケル・ハッチェンスと「Good Times」で共演しています。二人のパフォーマンス映像を見ると、イメージは対照的なのですが、ロック・スター然とした二人の姿に感動してしまいます。

 

INXSは、ファリス兄弟とマイケル・ハッチェンスが中心となって結成され、1980年にオーストラリアでデビュー、1986年「What You Need」でアメリカ、ヨーロッパでもブレイクしました。1988年7月から1年間ロンドンに滞在していた私は、1989年のブリット・アワードに招待され出席したのですが、(余談ですが、ドレスコードがあり、おしゃれして行きました!その後のグロブナー・ホテルで行われたパーティーでは、目をキョロキョロしながら、ボーイ・ジョージがいる〜、などワクワクの中でワインを飲んでいました)ベスト・インターナショナル女性シンガーのプレゼンターとして登場したマイケル・ハッチェンスとジョン・ファリスに、ロイヤル・アルバート・ホールに集まったファンは大熱狂。その人気を実感したものです。その時のマイケルは坊主だったような・・・。

その頃彼は、カイリー・ミノーグとおつきあいしていた時期でしょうか?当時のドラマ「ネイバーズ」では、カイリー演じるかわいい、かわいいシャーリーンには、ジェイソン・ドノヴァン演じる正統派ハンサム・ボーイ、スコットという素敵なパートナーがいたので、シャーリーンのプライベートのパートナーがロック・シンガーであったことにちょっと違和感を覚えたりしました(これはドラマ・ファンとしての感想。毎日見ていたのだから仕方ありません。もしかしたら、シャーリーンはスコットと結婚し、ネイバーズを卒業していた時期かもしれませんが)。

話を元に戻し、INXSは、1991年のブリッド・アワードでは、ベスト・インターナショナル・グループ、マイケル・ハッチェンスはベスト・インターナショナル・男性ヴォーカルを受賞し、世界のトップに立ちました。もちろんARIA Awards(*オーストラリアのグラミー賞)の常連であったことは言うまでもありません。2001年には、オーストラリアのHall of Fame入りを果たしています。

ご存知のように、マイケル・ハッチェンスは37歳の若さで亡くなっています。1991年以降は名声を手にしながらも、プライベート面において、心穏やかな日々はなかったという印象があります。そんなマイケル・ハッチェンスのドキュメンタリー『Mystify: Michael Hutchence』が公開になりました。カイリーは、大切にしていた二人の映像をドキュメンタリーに提供。2年間の付き合いではありましたが、ロック・スターとポップ・アイドルとのロマンスのワンシーンが初公開されたのです(下のトレイラーでチェックできます)。またカイリーと破局した後につきあっていたモデルのヘレナ・クリステンセンの告白では、1992年にハッチェンスがタクシー運転手に襲われて脳を損傷した時の詳細や、それによって、彼が嗅覚を失い、激高する人物に変貌していった状況にも触れています。さらに旧友であるU2のボノのインタビューも収録されているとのことです。数奇な運命を抱えた37歳の人生ではありましたが、ロック史に残るヴォーカリストとしての栄光は、間違いなく語り継がれています。

 

マイケル・ハッチェンスには、ボブ・ゲルドフの元奥さんであるTVプレゼンターのポーラ・イェーツとの間に娘タイガー・リリーがいます。マイケルを追うかのように数年後に亡くなったポーラに代わって、ボブ・ゲルドフは、タイガー・リリー・ハッチェンスをタイガー・リリー・ハッチェンス・ゲルドフとして養子に迎えて育てたという話があります。

INXSは、世界のトップに立った年となる1991年7月13日、ロンドン・ウエンブリー・スタジアムで74,000人を集めたコンサートを行いました。 もちろんソールドアウト。これは《Summer XS》ツアーと題されたワールド・ツアーの一環として行われたもので、その年の11月に『Live Baby Live』(UK8位)としてこのツアーのライヴ・アルバムがリリースになっています。INXSのキャリアの中でも、ビッグ・イベントのひとつとなったこのコンサートは、2003年に映像化されていますが、この度、アビーロード・スタジオにおいて、ジャイルズ・マーティンの手によって、Dolby Atmos Remixで生まれ変わり、2019年11月に世界各地で上映されます。日本でもたった一回だけのメディア向け試写会が先日催されましたが、28年前とは思えないリアリティが伝わってくる映像で、マイケル・ハッチェンスの”今を精一杯音楽で生きる姿”を感じさせてくれました。そしてINXSが作り上げてきたヒット曲の数々にプラスして、INXSの未来におけるロック・シーンでの立ち位置を垣間見ることができました。

亡くなった後も、活動を続けてきたバンドの姿勢に敬意を払うとともに、もしマイケル・ハッチェンスが生きていたら、INXSの存在は、これまで以上に大きなものになっていることを想像することができるのです。そしてマイケル・ハッチェンスのカリスマ溢れるヴォーカルは、今のロック・ファンにもインパクトを与え続けていたことでしょう。

 

また、このライヴ映像は、当日のコンサート通りの選曲となっており、全21曲が収録されています。なんといっても、ラスト・シーンで、ステージを降りるのが名残り惜しいマイケル・ハッチェンスが、ギターを弾き始めて歌い、最後にピースをして去る姿が目に焼きついて離れません。そしてあらためて、このウエンブリー・スタジアムという場所は、ドラマを生む会場なんだと思いました。

きっと、この映像、このライヴ音源は、INXSを応援してきたファンにとって、そして80年代から90年代を駆け抜け、INXSの第1章を生み出したメンバーにとって、過去のものではなく、今も呼吸を続けている”生きる作品”となっていることでしょう。

INXSには、初来日時に新宿のホテルでインタビューしたことがあります。ことのほか、マイケル・ハッチェンスがフレンドリーだったことを記憶しています。

Written By 今泉圭姫子


INXS(インエクセス)『Live Baby Live』
2019年11月15日発売
CD / LP / iTunes

CD1
01. Guns in the Sky
02. New Sensation
03. I Send a Message
04. The Stairs
05. Know the Difference
06. Disappear
07. By My Side
08. Hear That Sound
09. Lately
10. The Loved One
11. Wild Life

CD2
01. Mystify
02. Bitter Tears
03. Suicide Blonde
04. What You Need
05. Kick
06. Need You Tonight
07. Mediate
08. Never Tear Us Apart
09. Who Pays the Price
10. Devil Inside



今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー


今泉圭姫子(いまいずみ・けいこ)

ラジオDJ、音楽評論家、音楽プロデューサー
1978年4月、湯川れい子氏のラジオ番組「全米Top40」のアシスタントDJのオーディションに合格し、この世界に入る。翌年大貫憲章氏とのコンビでラジオ番組「全英Top20」をスタート。以来現在までにラジオDJ以外他にも、テレビやイベント、ライナー執筆など幅広く活動。また、氷室京介のソロ・デビューに際し、チャーリー・セクストンのコーディネーションを行い、「Angel」のLAレコーディングに参加。1988年7月、ジャーナリスト・ビザを取得し、1年間渡英。BBCのDJマーク・グッドイヤーと組み、ロンドン制作による番組DJを担当。
1997年、ラジオ番組制作、企画プロデュースなど活動の場を広げるため、株式会社リフレックスを設立。デュラン・デュランのジョン・テイラーのソロとしてのアジア地域のマネージメントを担当し2枚のアルバムをリリース。日本、台湾ツアーも行う。
現在は、Fm yokohama「Radio HITS Radio」に出演中。

HP:http://keikoimaizumi.com
Twitter:https://twitter.com/radiodjsnoopy
Radio:Fm yokohama「Radio HITS Radio」

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