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  • 世界的ヴァイオリニスト、ヒラリー・ハーンが参加。アニメ「青のオーケストラ」演奏キャスト発表

    世界的ヴァイオリニスト、ヒラリー・ハーンが参加。アニメ「青のオーケストラ」演奏キャスト発表

    阿久井真原作によるTVアニメ「青のオーケストラ」が4月9日よりNHK Eテレにて放送されることが決定し、キャスト、演奏キャストが公開された。

    ヴァイオリンの元・天才少年、青野 一(あおのはじめ)を主人公に、高校のオーケストラ部を舞台にしたストーリーで、ずみずしい青春のドラマと、クラシック音楽の演奏シーンが見どころの「青のオーケストラ」。

    主人公、青野一役は千葉翔也、秋音律子役は加隈亜衣、佐伯直役は土屋神葉、小桜ハル役は佐藤未奈子、山田一郎役は古川慎が務める。また、演奏キャストには、世界で活躍するヴァイオリニストも参加することが発表され、注目を集めている。

    Japan National Orchestra最年少コアメンバーで数々の受賞歴を持つヴァイオリン奏者・東亮汰が主人公、青野一の演奏を務めるほか、原田蒼の演奏キャストに、世界の注目を浴びるスペイン出身の若手ヴァイオリニスト、マリア・ドゥエニャス、山田一郎の演奏キャストには、ミュンヘン国際音楽コンクールチェロ部門において日本人として初めて優勝し、国際的に注目を集めるチェリスト、佐藤晴真、そして、青野一の父親・青野龍仁の演奏キャストには世界的ヴァイオリニストのヒラリー・ハーンが名を連ねている。

    青野 一 役/千葉 翔也 さん

    この作品に携わることができて心から嬉しいです。製作陣の熱量が高く、リスペクトに溢れた現場だと感じます。ナチュラルな雰囲気と、映像化されたことで音楽のダイナミックさが合わさり、収録では毎回思わず感動してしまいます。青野くんの演奏するヴァイオリンだけでなく、初心者である秋音さんの奏でる音、オーケストラの迫力など全てがこだわられていて、説得力があるので、そういう「音」に力をいただきながら、青野くんの喜びや葛藤などの繊細な感情、そして成長を一つ一つ丁寧に表現していきたいです。ぜひこれから彼らとともに歩んで行ってください。放送をお楽しみに。

    ヴァイオリン演奏/東 亮汰 さん

    今回、「主人公・青野 一の演奏担当を」というお話をいただき、驚くとともに大変嬉しく、ありがたく思っています。私は以前よりオーケストラや室内楽にも力を入れて取り組んでいるので、仲間とともに音楽を作っていく楽しさ、大変さなど、『青オケ』に出てくるエピソードは、「そうそう!」と思うことも多く、感情移入しながら原作を読みました。このアニメの音楽は、“自分は青野 一”そう思って弾いていますので、青野の奏でる音からも青野の成長を感じ取っていただけましたら幸いです!
    (プロフィール)
    第88回日本音楽コンクール第1位はじめ受賞多数。特待生として桐朋学園大学音楽学部で学び、首席で卒業。特待生として桐朋学園大学大学院音楽研究科修士課程在学中。Japan National Orchestra最年少コアメンバー。ソロや室内楽、オーケストラなど精力的に演奏活動を行なっている。

    秋音 律子 役/加隈 亜衣 さん

    原作を読んだ最初の印象は、静かでクールな作品なのかな?というものでした。
    そして読み進めていくうちに、様々な人との出会いによって変化していく青野くんや律子たちのそれぞれの行動や心情に、気付けば何度も何度も胸が熱くなっていました。
    一人では決して成立しないけど一人の力がとても大切なオーケストラは、アニメ作りにも似ているように感じます。少しでもこのチームの力になれるように、嘘のないよう精一杯律子ちゃんと一緒に頑張ります。演奏シーンもぜひ!絶対に!お楽しみください!!!!!

    ヴァイオリン演奏/山田 友里恵 さん

    ヒロインの秋音は周りの友達に追いつこうと必死にヴァイオリンに打ち込みます。その姿に勇気を貰いました。演奏の収録では、彼女の弾き方の癖や改善されていく演奏の変化まで、アニメーション制作の方々と、原作を忠実に再現しました。「青のオーケストラ」は、今までにないリアルな演奏のアニメーションだと思います。
    (プロフィール)
    東京藝術大学附属高等学校、東京藝術大学を経て、同大学院室内楽研究科修士課程を卒業。
    2017 年より3年間の NHK 交響楽団アカデミーを修了。
    現在はソロや室内楽、オーケストラ奏者として演奏活動を行う。NHK交響楽団をはじめとした、様々なプロオーケストラに参加。

    佐伯 直 役/土屋 神葉 さん

    佐伯 直 役のオーディションで取り組んだシーンは、佐伯 直という人物の根幹を表すようなシーンであり、その時点で僕は彼に強く興味を持ちました。ですので、佐伯 直を演じることが決まり最高に嬉しく、また、身の引き締まる思いです。よろしくお願いいたします!

    ヴァイオリン演奏/尾張 拓登 さん

    佐伯 直の演奏を担当させていただきました尾張 拓登です。素晴らしい作品に携わることができとても光栄に思います。試行錯誤の中のレコーディングでしたが、リアル感が伝わる演奏をしようと心がけました。私も放送がとても楽しみです!
    (プロフィール)
    東京学芸大学教育学部卒業。 第 60 回全日本学生音楽コンクール東京大会第1位。第 14 回日本モーツァルト音楽コンクール第1位。現在は、ソリスト、室内楽奏者として演奏活動を行うと同時に、新日本フィルハーモニー交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団、パシフィックフィルハーモニア東京など日本各地のオーケストラで首席奏者として客演している。

    小桜 ハル /佐藤 未奈子 さん

    小桜 ハルを演じさせていただきます、佐藤 未奈子です!原作を読んだ時、ハルちゃんの性格や考え方がとても自分に似ていて、そんなハルちゃんが成長していくのをみて、自分も頑張らなきゃと勇気をもらいました。ハルちゃんの自分を変えようと葛藤する姿は、きっと多くの方が共感できるのではないかと思います。青オケで一緒に青春を謳歌しましょう!!

    ヴァイオリン演奏/小川 恭子 さん

    この度、小桜 ハルという控えめながら芯のある、愛に溢れた女の子の演奏をというお話をいただき光栄に思っております。普段、楽譜の向こう側の作曲家に寄り添えたらという気持ちで演奏しているのですが、今回はそれに加えて多感な年頃の揺れ動く心に共鳴する音作りという、新しい経験に戸惑いながらも奮闘しました。個性光る登場人物達のエネルギッシュに音楽や人と向き合う姿、そして偉大なクラシック作品の数々と織りなすこの素敵な物語を通して、少しでもクラシック音楽の魅力を共有できましたら嬉しいです。
    (プロフィール)

    桐朋学園大学を首席で卒業後、修士修了を経てウィーン国立音楽大学にて研鑽を積む。
    日本音楽コンクール第 1 位、岩谷賞(聴衆賞)、全部門で最も印象的な演奏に贈られる増沢賞ほか全ての副賞受賞。ノヴォシビルスク国際コンクール、スウェーデン国際デュオコンクール優勝等内外で受賞多数。オーケストラと共演する他各地の音楽祭やコンサートに出演。

    山田 一郎 役/古川 慎 さん

    山田を務めさせていただきます、古川 慎です。本作はオーケストラに励む学生達の青春ストーリー、といった形のお話なのですが、山田君はとにかく“良いやつ”という点を意識して収録しています。合間に挿入される演奏シーンは勿論のこと、主人公青野の事情など気になるポイント盛り沢山。是非注目していただけるとありがたいです。よろしくお願いします。

    チェロ演奏/佐藤 晴真 さん

    山田 一郎 役の演奏を担当させていただきました、チェリストの佐藤 晴真です。この度は「青のオーケストラ」アニメ化、おめでとうございます!僕にとってアニメの吹き替え演奏は初挑戦でしたが、スタッフの皆様と試行錯誤を重ね、とても新鮮で楽しい時間を過ごすことができました。僕と山田くんの歳は少し離れていますが、彼の真っ直ぐでチャーミングな人柄を思い描きながら演奏しました。絵から映像に、そして文章から音に変わる瞬間を、どうぞお見逃しなく!
    (プロフィール)
    2019 年、ミュンヘン国際音楽コンクールチェロ部門において日本人として初めて優勝し、国際的に注目を集めた。18 年、第 11 回ルトスワフスキ国際チェロコンクール第 1 位および特別賞を受賞など多数の受賞歴を誇る。国内外の著名なオーケストラと共演しており、リサイタル、室内楽でも好評を博す。21 年には、名門ドイツ・グラモフォンよりセカンドアルバムをリリース。

    立花 静 役/Lynn さん

    ヴァイオリン演奏/城戸 かれん さん

    立花 静。一生懸命すぎるあまり、衝突してしまったりするけれど、本当はただただまっすぐな女の子。初めて漫画を読んだとき、その様子にハラハラドキドキしながらも「そういう時期もあったなぁ」と私自身の記憶と重なるものがありました。そんな静が、アンサンブルを通して、音楽を通して、人としても成長していく….。その姿を皆さまと一緒に応援できることが、今から楽しみです。さぁ私も練習しないとっ!どうぞよろしくお願いします!
    (プロフィール)
    東京藝術大学を首席で卒業し、同大学院修士課程修了。これまでにミケランジェロ・アバド国際ヴァイオリン・コンクール第 1 位、日本音楽コンクール第 2 位など多数受賞。現在はソロを中心に多方面から音楽へアプローチしている。紀尾井ホール室内管弦楽団メンバー。使用楽器は個人貸与によるピエトロ・グァルネリ 1698。

    羽鳥 葉 役/浅沼 晋太郎 さん

    ヴァイオリン演奏/関 朋岳 さん

    羽鳥は自由奔放で少しチャラいとも思われてしまうキャラクターですが、何事もやればできてしまうような確実な才能もあり、時には皆を引っ張るコンサートマスターとして活躍する一面も見せます。そんな彼を演じることは容易ではありませんが、今回役を任せていただき大変光栄です。
    まだ登場回数は少ないかもしれませんが、クセのある羽鳥のキャラが皆さんの胸に刺さることを期待しています!
    (プロフィール)
    第 16 回東京音楽コンクール弦楽部門第 1 位。日本フィルハーモニー交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、東京交響楽団等と共演。NHK 交響楽団アカデミー修了。国内主要オーケストラにゲストコンサートマスターとして度々招かれている。東京音楽大学に特別特待奨学生として在籍。

    原田 蒼 役/榎木 淳弥 さん

    今回、原田 蒼の声を務めさせていただく榎木 淳弥です。演奏シーンの迫力が凄くて、音楽の美しさを再認識させてくれる作品です。ぜひ多くの人に見て頂きたいと思いますので、皆さん宜しくお願いいたします!

    ヴァイオリン演奏/マリア・ドゥエニャス さん

    幼い頃から日本のアニメや漫画に親しんできたので、今回キャストとして参加することができて嬉しいです。日本でのレコーディングはとても楽しかったです。皆さんにも楽しんでいただけると嬉しいです。
    (プロフィール)
    スペイン出身のヴァイオリニスト。2017 年珠海国際モーツァルト音楽コンクール、2018年ウラディーミル・スピヴァコフ国際ヴァイオリン・コンクール、2021 年ゲッティング・トゥ・カーネギー・コンクール、ユーディ・メニューイン国際コンクールなど数々のコンクールで優勝し、注目を集める

    青野 龍仁 役/置鮎 龍太郎 さん

    主人公青野 一の父親、龍仁を担当させていただきます。一がヴァイオリンに対して心を閉ざしてしまった原因を作ったと言っても過言ではないトラウマ級の存在。暴君なのか支配者なのか、学園生活が中心に描かれる中で、登場シーンは決して多くないかもしれませんが、『一』の心に深く根付いている負の感情が払拭されるまで、印象的に登場するのかな?原作の担当編集さんが在籍していた学校やオーケストラ部をモデルに描かれる、臨場感たっぷりの世界観、楽しみしかありませんね。

    ヴァイオリン演奏/ヒラリー・ハーン さん

    「青のオーケストラ」にキャストとして参加することができたこと、そして私の演奏をこの日本の素晴らしいアニメを通してお聴きいただけることに感激しています。私自身もアニメを見るのを楽しみにしています!
    (プロフィール)
    アメリカ、ヴァージニア州生まれ。3 歳でボルティモアに移り、初めてヴァイオリン・レッスンを受けると弱冠 10 才でカーティス音楽院に入学。卒業後、音楽学士号を取得。2002 年にドイツ・グラモフォンと独占契約。過去 3 度にわたるグラミー賞受賞経験を持つ世界的ヴァイオリニスト。

    なお、音楽は国際的にさまざまなジャンルで活躍する小瀬村晶が手がける。

    アニメ「青のオーケストラ Season1」PV第2弾

    ■『青のオーケストラ』アニメ情報

    アニメ「青のオーケストラ」
    2023年4月9日(日)放送スタート!
    Eテレ 毎週日曜 午後5:00~5:25
    <再> 毎週木曜 午後7:20~7:45

    原作:阿久井 真
    監督:岸 誠二 シリーズ構成:柿原 優子 キャラクターデザイン:森田 和明
    音響監督:飯田 里樹 音楽:小瀬村 晶
    アニメーション制作:日本アニメーション
    制作・著作:NHK NHKエンタープライズ 日本アニメーション

    ©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション



  • スピーカーで楽しむドルビーアトモスのすすめ:サウンドバーで踏み出すホームシアターの“第一歩”

    スピーカーで楽しむドルビーアトモスのすすめ:サウンドバーで踏み出すホームシアターの“第一歩”

    Dolby Atmos®︎(ドルビーアトモス)をご存知だろうか。ドルビーアトモスとは、従来のステレオ方式と比べて高い没入感を得られるものとして、映画・音楽制作をはじめとしたさまざまな現場で用いられている立体音響技術だ。いわゆる、“空間オーディオ”と呼ばれる音響の一種である。

    今回は第1回目のスタジオ取材編第2回目のプレイリスト編に続く、第3回目。これまでの2回はイヤホン×スマートフォンを駆使したドルビーアトモスの楽しみ方をご紹介したが、今回はスピーカーを用いたドルビーアトモスの楽しみ方について、Dolby Japan株式会社の技術部(テクニカル・マネージャー)黒岩俊夫さん、ライセンス&エコシステム(ディレクター)鈴木克典さんにお話を伺った。

    また、記事の後半では、ドルビーアトモス対応スピーカーで聴いてみたいクラシック作品をいくつかご紹介。ピアニスト・編集者・ライター門岡明弥さんによるインタビュー。


    (写真左:黒岩俊夫さん 右:鈴木克典さん)

    スピーカーで楽しむドルビーアトモス

    ──今回はスピーカーを用いたドルビーアトモスの楽しみ方を追求していきたい!ということで、お話を伺いたいです。

    黒岩:まずはDolby Atmos(ドルビーアトモス)についておさらいです。これまではステレオ方式やサラウンド方式でミックスされた音を、最終的なコンテンツとしてスピーカーから届ける“チャンネルオーディオ”が主流でした。しかし、 “オブジェクトオーディオ”という音の扱い方が広まってきたことにより、音と位置情報(座標)をペアにしてひとつのコンテンツとして仕上げるオーディオの形が生まれたんですね。その中のひとつが、立体音響技術・ドルビーアトモスなんです。

    ──イヤホンで楽しむ場合と違って、スピーカーでドルビーアトモスを楽しむ際はやはり配置が大切になってくるのでしょうか。置き方のポイントなど、伺いたいです。

    鈴木:スピーカー配置のバリエーションは多数存在するため、ある程度自由が効くような仕様にはなっています。スピーカー配置例は我々のサイトに載っていますし、購入した製品の説明書に記載してあると思いますので、それらを参考に配置していただけたらと思います。

    黒岩:たとえば前方に2つのスピーカーを置いたり、天井に設置したり。あとはマルチチャンネルのスピーカー構成を備えている場合、天井に音を反射させて空間的な響きを得られるドルビーアトモス・イネーブルドスピーカーを追加したり……など、ひとことでドルビーアトモス対応スピーカーの置き方といっても機種によってさまざまな扱い方があるんです。

    ──天井スピーカーは必須なのかと感じていましたが、そんなことはないんですね。

    黒岩:そうなんです。2つのスピーカーでもオブジェクトの位置をある程度再現できるような製品も販売されているため、数多くのスピーカーを用意せずともドルビーアトモスを自宅で楽しむことはできます。天井にスピーカーを設置するのはなかなかハードルが高く感じられる方もいらっしゃるので、まずはそのようなスピーカーを使うことでドルビーアトモスを楽しむ敷居は下がるのではないかと感じていますね。

    あとはテレビの前に置くサウンドバー製品でも、ドルビーアトモスに対応した機種が増えてきています。サウンドバーの端っこに上向きのスピーカーが設置されていて、天井反射を利用して立体的な音響を楽しめる機種なんかもあるんですよ。また、サウンドバーとセットでワイヤレススピーカーが付いてきて、サラウンドの位置にワイヤレススピーカーを設置することで音を補強して聴かせるような製品も最近では出てきています。

    コンサートホールにいるかのような空間的感覚を得られる

    ──多彩なスピーカーが登場する中で、多くの機材を用意せずともドルビーアトモスを楽しめるようになってきているのですね。ちなみに、スマートフォンやタブレットなどの内蔵スピーカーでもドルビーアトモスを楽しめると耳にしたことがありましたが。

    黒岩:もちろん楽しめますが、よりよい音楽体験を得るためには、やはり多数のスピーカーを用いたホームシアターや、ドルビーアトモス対応のサウンドバーを導入する方がいいと思います。

    鈴木:特にクラシック音楽は、ピアノ・ソロからオーケストラまでさまざまな編成の作品がありますよね。ドルビーアトモスでクラシックの作品を聴くと、コンサートホールの音響とあわさって繊細な響きや、複数の楽器が重なり合いながら生まれる立体感を感じられ、あたかもコンサートホールにいるかのような体験ができます。多くのスマホやタブレットの内蔵スピーカーもドルビーアトモスに対応していますので十分楽しめますが、実際にスピーカーを配置して頂ければ、より空間的な体感を得られると思います。

    楽器そのものの音色や、空間の響きを大切にするクラシック音楽だからこそ、ドルビーアトモスで聴いたときの充実感は大きいように感じますね。

    サウンドバーを使ったホームシアター

    ──実は僕自身、サウンドバーを購入しようと考えたことがあるのですが、ドルビーアトモスに対応したサウンドバーはいくらぐらいで購入できるのでしょうか。

    鈴木:各メーカーさんがさまざまなサウンドバーを発売されていますが、特に手頃なものですと3万円台の製品も販売されています。より多くのユーザの皆さんにお手軽にドルビーアトモスの音を楽しんで頂ければと思います。

    ──3万円台。もはやいいイヤホンを買うような金額感ですね。

    鈴木:そうなんです。テレビの前にポンと置くだけでいいですし、コンパクトなタイプも販売されているため、複数個のスピーカーを設置するよりも導入しやすいところがポイントです。

    黒岩:たとえば、先程申し上げたような上向きスピーカーが搭載されているものや、ワイヤレスのサラウンドスピーカーがセットで付いてくるサウンドバーは高価な部類に入ります。

    しかし、そういったスピーカーが搭載されていなくても、ドルビーアトモス対応製品には天井スピーカーやサラウンドスピーカーがそこにあるかのような音響処理を施してくれる“バーチャライザー”が搭載されているため、複数のスピーカーが搭載されていないサウンドバーでも、手軽にドルビーアトモスを楽しめますよ。

    ──バーチャライザーによって天井スピーカーやサラウンドスピーカーが配置されているようなサウンドを楽しめる機種と、実際に複数のスピーカーが搭載されたサウンドバー。聴こえ方がどう変わるのかが気になります。

    黒岩:やはり天井スピーカーやサラウンドスピーカーがその場にある方が、細かな音の成分が際立ちますし、バーチャライザーのサウンドよりも臨場感のある音楽体験を得られると感じます。高価ではありますが、そういった意味で複数のスピーカーを搭載したサウンドバーが販売されているんですね。

    しかし、最初から多くのスピーカーを用意したり、高価なサウンドバーを購入するのは大変だと思うので、まずは手軽に楽しめる機種を購入し、その後スピーカー数を増やしたり天井にスピーカーを設置してみたり……といった形で少しずつホームシアター環境を整えていくのもオススメです。

    Dolby Atmosの再生イメージ 左:ホームシアターシステム使用時 右:サウンドバー使用時

    スピーカーで聴きたいドルビーアトモス・クラシック

    第1回目の記事ではユニバーサルミュージックのスタジオにてさまざまなドルビーアトモス音源を聴かせていただいたが、やはりスタジオで聴くのと自分の部屋にスピーカーを置いて聴くのとではまるで違った音楽体験になるだろう。しかし、あいにくまだ自室にドルビーアトモス対応スピーカーを設置できていないため、抑えきれないワクワクを込めて、ドルビーアトモス対応スピーカーで聴いてみたい作品を3曲ピックアップしてみた。

    フランティシェク・ヤーノシュカ:Souvenir pour Elise(ベートーヴェン:《エリーゼのために》による)

    “鍵盤の魔術師”と称される変幻自在なピアニスト、フランティシェク・ヤーノシュカによる作品。誰しもが聴いたことのあるベートーヴェンのフレーズに乗ってなめらかに曲が進んでいくかと思いきや、中盤の華々しい超絶技巧で度肝を抜かれるだろう。ドイツ音楽の構造的な美しさと、スパイシーな色彩を帯びたハーモニーのバランスがなんとも痛快な作品。同じく、ヤーノシュカ・アンサンブルによるJ.S.バッハの《2つのヴァイオリンのための協奏曲》もドルビーアトモス対応スピーカーで聴いてみたいところ。

    シューマン:《子供の情景》より第7曲〈トロイメライ〉

    シューマンの曲集《子供の情景》は、子供の学習用作品と誤解されることがあるが、本来は幼い頃を回想する大人のための作品である。どの曲もシューマンのロマンティシズムが遺憾なく発揮されており、特に第7曲〈トロイメライ〉は「夢」や「夢想」にふけることを意味する幻想的な空気が漂う作品だ。グラデーションのように、少しずつ空気に溶けていく響きの尊さを味わいたい。

    サラサーテ:《カルメン幻想曲》より I. Moderato

    オペラ《カルメン》に登場するメロディを用いて書かれた、オーケストラとヴァイオリンのための作品。カルメンのモチーフを使った作品は数多く存在するが、その中でも特に有名だ。正確無比な演奏技術と歌心あふれる音色を持つヒラリー・ハーンによる演奏は、まるで“歌”を聴いているかのような感動がある。余談だが、《カルメン幻想曲》を収録したアルバム『エクリプス』についてのインタビュー記事も読んでいただけたら嬉しい。

    さらに拡がるドルビーアトモスの技術

    ※2023年1月に東京ビッグサイトで開催された「第16回オートモーティブワールド-車の先端技術展-」に出展されたDolby Atmos for Cars対応の対応のデモカー

    取材の終わり際、気になる内容を耳にした。今回は自分の部屋でドルビーアトモスを楽しむ方法についてお話を伺ったが、なんと近頃は部屋の中に留まらず、車の中でもドルビーアトモスを楽しめると言うのだ。国内メーカーではドルビーアトモスのシステムを搭載した車は未発売とのことだが、既にメルセデス・ベンツや中国電気自動車メーカーのNIOがアメリカや中国で販売を開始しているそう。(ご参考)実際に乗ってみたいし、聴いてみたい。

    イヤホンで楽しむか、部屋でスピーカーを使って楽しむか、はたまた車の中で楽しむか……。ドルビーアトモスの楽しみ方はさらなる拡がりを見せているが、それぞれのシチュエーションにあった楽しみ方をさらに追求していきたいものだ。 

    Interviewed & Written By 門岡明弥


    ※Dolby、ドルビー、Dolby AtmosおよびダブルD記号は、アメリカ合衆国とまたはその他の国におけるドルビーラボラトリーズの商標または登録商標です。


     

  • DG125周年を記念した、究極の名盤カタログシリーズ『ドイツ・グラモフォン-THE HISTORY』100タイトル発売決定

    DG125周年を記念した、究極の名盤カタログシリーズ『ドイツ・グラモフォン-THE HISTORY』100タイトル発売決定

    『ドイツ・グラモフォン-THE HISTORY』と題されたクラシック音楽の名盤シリーズ100タイトルがユニバーサル ミュージックより発売されることが決定した。

    1898年、円盤レコードの発明者エミール・ベルリナーによって設立された世界最古のクラシック専門レーベル「ドイツ・グラモフォン」は今年創立125周年を迎える。その125周年を記念して発売されるカタログ・シリーズ『ドイツ・グラモフォン-THE HISTORY』は、これまで高く評価されてきたアルバムや、歴史的価値の高い作品、巨匠&現役アーティスト達の名盤など、ドイツ・グラモフォンの録音の歴史をたどる100タイトルを厳選。

    2023年4月16日(水)に第1回「アナログ録音期」40タイトル、5月17日(水)に第2回「デジタル録音期」60タイトルと2回に分けてリリースされる。

    「アナログ録音期」シリーズでは、今日まで続くドイツ・グラモフォンとベルリン・フィルのコラボレーションの始まりであり、モノラル録音黎明期の貴重な記録である指揮者ニキシュの『ベートーヴェン:交響曲第5番《運命》 他』や、クラシックの歴史のなかで最も重要な指揮者であるヘルベルト・フォン・カヤランの『R.シュトラウス:交響詩《英雄の生涯》』。

    「デジタル録音期」シリーズでは、指揮者レナード・バーンスタインとピアニストのクリスティアン・ツィメルマンによる熱量高い名演として知られる『ブラームス:ピアノ協奏曲第1番』や、ピアニストのヴィキングル・オラフソンによるミニマル・ミュージックの巨匠、フィリップ・グラスへのトリビュート・アルバム『フィリップ・グラス: ピアノ・ワークス』などの名盤をセレクト。

    いずれも最良のマスターを使用し、そのポテンシャルをひき出す高音質SHM-CD&グリーン・カラー・レーベルコート仕様が採用されている。なお、アルバムのブックレットには、音楽ライター4名(寺西 肇氏、東端哲也氏、八木宏之氏、門岡明弥氏)が書き分けたわかりやすい新規書下ろしアルバム解説が掲載される予定だ。


    ■リリース情報


    『ドイツ・グラモフォン-THE HISTORY』 100タイトル
    CD

    2023年4月12日(水)発売 第1回 アナログ録音期40タイトル
    2023年5月17日(水)発売 第2回 デジタル録音期60タイトル



     

  • 新進気鋭のチェリスト、佐藤晴真:サード・アルバム『歌の翼に~メンデルスゾーン作品集』が発売決定

    新進気鋭のチェリスト、佐藤晴真:サード・アルバム『歌の翼に~メンデルスゾーン作品集』が発売決定

    2019年、長い伝統と権威を誇るミュンヘン国際音楽コンクールチェロ部門において日本人として初めて優勝する快挙を果たした24歳のチェロ奏者、佐藤晴真のサード・アルバム『歌の翼に~メンデルスゾーン作品集』が2023年4月12日(水)に発売される事が決定。本日より先行シングル「無言歌」の配信がスタートした。

    Mendelssohn: Song Without Words, Op. 109

    アルバム『歌の翼に~メンデルスゾーン作品集』は、昨年に続き今年のリサイタルでも取り上げていくメンデルスゾーンの作品を収録。演奏される機会の少ないソナタから、美しい旋律をもつ協奏的変奏曲、メンデルスゾーンの最も有名な歌曲である「歌の翼に」、ピアノ独奏のための「無言歌」のチェロ版まで。メンデルスゾーンの様々な側面、魅力を垣間見ることができる内容となっている。

    また、ピアニスト 久末航との気持ちが呼応した演奏も聴きどころで、レコーディングは埼玉県にある秩父ミューズパーク 音楽堂で3日間に亘って行われた。

    今作のリリースについて佐藤晴真は、「作品はとてもシンプルで明快な作りですが、その音一つ一つには心からの感情が込められているようです。時に喜びに心躍らせ、時に自らの出自と重ね葛藤する。完璧な様式美を持つメンデルスゾーンの作品たちを、久末航さんの素晴らしいピアノと共に是非お聴きください!」とコメントを寄せている。


    ■アーティスト情報

    佐藤晴真
    2019年、ミュンヘン国際音楽コンクール チェロ部門において日本人として初めて優勝して一躍国際的に注目を集めた。18年にはルトスワフスキ国際チェロ・コンクール第1位および特別賞を受賞。第83回日本音楽コンクール チェロ部門第1位および徳永賞・黒柳賞など受賞多数。バイエルン放送響はじめ国内外の主要なオーケストラと共演しており、リサイタル、室内楽でも好評を博している。20年には名門ドイツ・グラモフォンよりCDデビューし、現在2枚リリース。齋藤秀雄メモリアル基金賞、出光音楽賞、日本製鉄音楽賞受賞。文化庁長官表彰(国際芸術部門)。現在、ベルリン芸術大学在学中。使用楽器は宗次コレクション貸与のE. ロッカ1903年。


    ■リリース情報

    佐藤晴真『歌の翼に~メンデルスゾーン作品集』
    2023年4月12日発売
    CD


    佐藤晴真「無言歌 Op.109」
    2023年2月22日配信
    CD / iTunes /Amazon Music / Apple Music / Spotify



     

  • 雅楽師、東儀秀樹の約3年ぶりのニュー・アルバム『NEO TOGISM』3月発売決定

    雅楽師、東儀秀樹の約3年ぶりのニュー・アルバム『NEO TOGISM』3月発売決定

    新たな可能性を広げ続ける唯一無二の雅楽師、東儀秀樹の約3年ぶりとなるニュー・アルバム『NEO TOGISM(ネオ・トウギズム)』が2023年3月29日(水)に発売されることが決定。本日からティザー映像も公開となった。

    『NEO TOGISM』ティザー映像

    東儀秀樹 – 大河悠久(from AL『NEO TOGISM』) Teaser

    『NEO TOGISM』は、約3年という充電期間を経て、“プログレッシブ雅楽”をテーマに新曲から伝統的な雅楽の名曲まで、様々な楽器で自在にアレンジした13曲を収録予定。

    参加アーティストには、国立音楽大学で出会った白須今(ヴァイオリン)、野口明生(ピアノ)、堤博明(ギター)によって結成された「Shikinami」や、日本を代表するプログレッシブロックバンド「四人囃子」のリーダーでありドラマーの岡井大二、「和楽器バンド」の尺八奏者、神永大輔が起用され、息子・東儀典親も参加している。

    通常盤に加え、ミュージック・ビデオ8曲、アートワーク撮影時のビハインド映像やインタビューなどが収録された特典DVDがついた限定盤の2形態でリリースされる予定だ。

    今回のアルバム発売に関して東儀秀樹は「3年間というたっぷりとした時間の中で無理なくひらめき、生まれたアイディアを納得がいくまでとことん追求し構築しました。昔から好きだったプログレッシブロックの空気感と雅楽の宇宙観を融合してみた自信作です」とコメントを寄せている。

    これが「今」の東儀秀樹。プログレッシブロックと雅楽を完璧に融合させた壮大なアルバムがここに誕生した。


    ■リリース情報

    2023年3月29日発売
    東儀秀樹『NEO TOGISM』
    CD

    ■プロフィール

    東儀秀樹

    奈良時代から続く雅楽を伝える「楽家(がっけ)」の家系に生まれる。商社マンだった父親の仕事の関係で、幼年期をタイ、メキシコで過ごした帰国子女。國學院大學で学びながら宮内庁式部職楽部の楽生科で雅楽を学び、7年間の修業期間を経て、1986年から10年間、楽師として活躍。(楽師は国家公務員。) 宮内庁の楽師としての活動と並行して、1996年にアルバム『東儀秀樹』でデビュー。雅楽器とピアノやシンセサイザーといった現代楽器を融合させた音楽で話題に。

    雅楽器だけでなく、ピアノ、キーボード、シンセサイザー、チェロ、ドラム、ギターなどさまざまな楽器の演奏をマルチにこなす。

    また、古典芸能であった雅楽を現代音楽と結びつけ、その素晴らしさを一般に知らしめ、広く認知された功績により2004年、文化庁芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。専門として演奏する雅楽器は篳篥(ひちりき)であるが、鳳笙(しょう)、龍笛(りゅうてき)、琵琶なども演奏。


  • 若手指揮者、クラウス・マケラとパリ管によるアルバム『ストラヴィンスキー:バレエ《春の祭典》《火の鳥》』3月24日リリース

    若手指揮者、クラウス・マケラとパリ管によるアルバム『ストラヴィンスキー:バレエ《春の祭典》《火の鳥》』3月24日リリース

    27歳の指揮者、クラウス・マケラが2021年に音楽監督に就任して以来初めてとなるパリ管弦楽団とのアルバム『ストラヴィンスキー:バレエ《春の祭典》《火の鳥》』が3月24日にリリースされることが決定し、本日よりストラヴィンスキー:バレエ《春の祭典》(1947年版)から「春のきざし―乙女たちの踊り 」の配信がスタートした。

    Stravinsky: The Rite of Spring, K15, Pt. 1: II. The Augurs of Spring. Dances of the Young Girls

    クラウス・マケラは、27歳の若さでパリ管弦楽団の音楽監督、オスロ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者、オランダの名門ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の芸術パートナーを務め、「数十年に一度の天才指揮者の登場」とも評される注目を集める若手指揮者。昨年、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の楽団員の投票により2027年から10年契約で首席指揮者に就任することが発表され、世界中で大きな話題を集めた。

    今作は、2022年10月のパリ管弦楽団との来日公演で披露し好評を博した、ストラヴィンスキーのバレエ曲《春の祭典》(1947年版)と《火の鳥》(1910年版)をパリ管弦楽団の本拠地、フィルハーモニ・ド・パリで収録されたものとなっている。

    マケラは今年 10 月に首席指揮者を務めるオスロ・フィルハーモニー管弦楽団と共に再来日をする。全国各地7公演で、シベリウスの交響曲の他、ショスタコーヴィチ、シュトラウスの演奏が予定されている。

    ■公演情報

    クラウス・マケラ指揮 オスロ・フィルハーモニー管弦楽団

    10月18日(水)【東京】東京芸術劇場コンサートホール
    10月20日(金)【静岡】アクトシティ浜松 大ホール
    10月21日(土)【名古屋】愛知県芸術劇場コンサートホール
    10月22日(日)【大阪】フェスティバルホール
    10月23日(月)【東京】サントリーホール
    10月24日(火)【東京】サントリーホール
    10月26日(木)【熊本】熊本県立劇場コンサートホール

    公演詳細


    ■アーティスト情報

    クラウス・マケラ

    1996年フィンランド生まれ。12歳からシベリウス・アカデミーにてチェロと指揮を学ぶ。若くしてスウェーデン放送交響楽団の首席客指揮者に就任したほか、これまでにフィンランド放送響、ヘルシンキ・フィル、ライプツィヒ放送響など、一流オーケストラと共演し、「数十年に一度の天才指揮者の登場」とも評される大成功を収める。

    2020年、24歳の若さでノルウェーのオスロ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任、北欧を代表するオーケストラが24歳の指揮者をシェフに選んだことはクラシック界で大きな話題を集めたが、そのポストに加え、翌2021年のシーズンからは、数多くの名指揮者の薫陶を受けた名門パリ管弦楽団の音楽監督にも就任。

    さらに、2027年のシーズンからオランダの名門ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者への就任が発表されている。指揮者としてはほぼ前例がない若干20代前半での一流オーケストラからの高評価と重要ポストのオファーに世界中の音楽ファンから驚嘆と賞賛の声があがっている。


    ■リリース情報


    クラウス・マケラ『ストラヴィンスキー:バレエ《春の祭典》《火の鳥》』
    2023年 3月 24日発売
    CD / iTunes / Apple Music / Spotify /Amazon Music


  • 現代音楽を代表する作曲家、タン・ドゥンがデッカ・クラシックスとの専属契約を発表

    現代音楽を代表する作曲家、タン・ドゥンがデッカ・クラシックスとの専属契約を発表

    世界的作曲家、タン・ドゥンがデッカ・クラシックスと専属契約を締結したことが発表され、3月3日にEP『Five Souls(五つの魂)』がリリースされることが決定した。また、本日よりEPからの先行シングル「WE (West & East)」の配信がスタートした。

    Tan Dun: WE (West & East)

    水、紙、石などの自然素材を編成に取り入れた独創的な作風で知られる、作曲家兼指揮者のタン・ドゥン。2000年に映画『グリーン・デスティニー(原題:Crouching Tiger, Hidden Dragon)』の音楽でアカデミー賞とグラミー賞を受賞し、一躍注目を集めた。

    2008年には、GoogleとYouTubeから共同委嘱された自身初の《インターネット・シンフォニー》をオンライン上で披露し、2,300万もの聴衆をオンライン上で魅了した。2013年にはユネスコ親善大使に任命され、現代クラシック音楽の代表的存在として名を馳せている。

    Tan Dun – Internet Symphony Eroica

    デッカ・クラシックスとの専属契約についてタン・ドゥンは「デッカは私にとって常に夢のような存在でした。長年、多くのレーベルと仕事をしてきましたが、デッカはピュアでクラシカル、かつクールでフレッシュ、そしてあらゆる音楽や文化にオープンで、とても特別なレーベルだと改めて感じています。私は、ただ単に音楽的なアイデアを確立させるのではなく、自然とクラシック音楽、古代と現代を結びつける異文化のアイデアを発展させたいのです」とコメントしている。


    ■リリース情報

    タン・ドゥン『Five Souls(五つの魂)』
    2023年3月3日発売
    iTunes /Amazon Music / Apple Music / Spotify



     

  • 新進気鋭の弦楽トリオTime for Three、アルバム『Letters for the Future』がグラミー賞2部門受賞

    新進気鋭の弦楽トリオTime for Three、アルバム『Letters for the Future』がグラミー賞2部門受賞

    日本時間の2月6日(月)にロサンゼルスで開かれた第65回グラミー賞授賞式で、弦楽トリオTime for Three(よみ:タイム・フォー・スリー)のアルバム『Letters for the Future』(よみ:レターズ・フォー・ザ・フューチャー)が最優秀クラシック・インストゥルメンタル・ソロ賞を受賞。また、作曲家、ケヴィン・プッツがアルバムの収録曲の「Contact」で最優秀現代クラシック作曲賞を受賞した。

    Time For Threeは、ヴァイオリニストのチャールズ・ヤンとニコラス・ケンドール、コントラバス奏者のラナーン・マイヤーで構成されている弦楽トリオ。3人全員がヴォーカリストでもあり、クラシック音楽とアメリカーナ、ポップスを掛け合わせた斬新なスタイルの演奏で知られている。これまでに、カーネギー・ホール、ウィーン楽友協会、ロイヤル・アルバート・ホールなどの世界的ホールで演奏し、現代音楽にも熱心に取り組んでいる。

    今回の受賞作品『Letters for the Future』はTime for Threeのドイツ・グラモフォン デビュー作。指揮者シャン・ジャン率いるフィラデルフィア管弦楽団と共に作曲家、ケヴィン・プッツとジェニファー・ヒグドンがTime for Threeのために書き下ろした2つの協奏曲の世界初録音を収録している。


    ■リリース情報

    タイム・フォー・スリー『Letters for the Future』
    2022年6月10日発売
    iTunes /Amazon Music / Apple Music / Spotify




     

  • 新星ヴァイオリニストのマリア・ドゥエニャス、2ndシングル「ラロ:2つの即興曲 作品4から第1曲:Espérance」配信開始

    新星ヴァイオリニストのマリア・ドゥエニャス、2ndシングル「ラロ:2つの即興曲 作品4から第1曲:Espérance」配信開始

    昨年ドイツ・グラモフォンと専属契約を発表した20歳のヴァイオリニスト、マリア・ドゥエニャスの2ndシングルとなるラロの「2つの即興曲 作品4から第1曲:Espérance」の配信が本日スタートした。

    Lalo: 2 Impromptus, Op. 4 – I. Espérance

    スペイン出身のマリア・ドゥエニャスは、2017年珠海国際モーツァルト音楽コンクール、2018年ウラディーミル・スピヴァコフ国際ヴァイオリン・コンクール、2021年ゲッティング・トゥ・カーネギー・コンクール、2021年ヴィクトル・トレチャコフ国際ヴァイオリン・コンクールで優勝するなど、多くの世界的コンクールで成功を収めるヴァイオリニスト。

    2021年にユーディ・メニューイン国際コンクールで1位と聴衆賞を獲得し、以来グスターボ・ドゥダメル率いるロサンゼルス・フィルハーモニックなど各地のオーケストラのソリストとして活躍している。

    本日配信がスタートしたシングルは、フランスの作曲家、エドゥアール・ラロの生誕200周年を記念したリリース。今作のミュージック・ビデオは、本日よりApple Musicで1週間独占配信され、2月3日からすべてのプラットフォームで配信される予定だ。


    ■シングル情報

    マリア・ドゥエニャス「ラロ:2つの即興曲 作品4から第1曲:Espérance」
    2023年1月27日リリース
    iTunes /Amazon Music / Apple Music / Spotify



     

  • ベスト・ヴァイオリニスト:史上最高の20人のヴァイオリニストたち

    ベスト・ヴァイオリニスト:史上最高の20人のヴァイオリニストたち

    ヴァイオリニストの最高峰とは?
    伝説の名手から、現代の若手のスターまで、最高のヴァイオリニスト20人をご紹介。

    16世紀初頭、北イタリアに、ヴァイオリンとおぼしき楽器が出現し始めた。17世紀には、ヴァイオリンはすでに独奏楽器としても器楽アンサンブルの主力としてもその重要性が確立された。そしてこの時期、イタリアではニコロ・アマティ、アントニオ・ストラディヴァリにジュゼッペ・グァルネリによる極上の楽器が製作されていたのだ。

    下記に挙げる20人の偉大なヴァイオリニストたちのほとんどが、これらのうちの1人、あるいは複数の製作者による楽器の演奏経験を持つ。オーケストラの楽器の中でも最も幅広く、魅力的なレパートリーを持つヴァイオリンのために、多くの偉大な作曲家たちが、こぞって協奏曲、室内楽曲、独奏曲を書いているのは驚くに値しない。木の箱、4本の弦に弓があがれば出来ることに驚くばかりだ!

    史上最高の20人のヴァイオリニストたち
    20:ジェームズ・エーネス(1976-) カナダ出身

    トランペット奏者とバレリーナの両親の間に生まれたエーネスは、カナダ音楽祭コンクールの弦楽器部門にて史上最年少で優勝。その19年後、カナダ王立協会の史上最年少のフェローに選出される。母国及びジュリアード音楽院で学んだ後、濃厚な音色、パワフルなヴィブラート、おおらかで率直な演奏で国際的なキャリアを歩み始めた。録音には希少でめったに聴くことのできないブルッフの協奏曲第3番とドホナーニの協奏曲から、クライスラー、ラヴェルにドヴォルザークなど、多岐にわたる魅力的な演奏がある。

     19:チョン・キョンファ(1948-) 韓国出身

    7人兄弟の真ん中の子供で、そのうちの4人がプロの音楽家になった家庭に生まれたチョンは、ジュリアード音楽院で学んだ後、1968年にニューヨーク・デビューを果たした。1970年にイツァーク・パールマンの代役としてロンドン交響楽団と共演したことがきっかけでDeccaレーベルと契約を結び、アンドレ・プレヴィン指揮によるチャイコフスキーとシベリウスの協奏曲の録音で高く評価された。国際的な評価を得た最初の韓国人ヴァイオリニストではないものの、チョンは最も早く極東からアメリカにわたり研鑽を積んだ、重要で大きな成功を遂げたクラシックの弦楽器奏者の一人だ。

    18ヒラリー・ハーン(1979-) アメリカ出身

    驚異のヴァイオリニスト、ハーンは偉大な演奏家の一人で、4歳になる直前にヴァイオリンを始め、10歳でカーティス音楽院への入学を許された。フランコ=ベルギー、ドイツ、アメリカという異なるヴァイオリン楽派を代表する3人の教師に師事していたハーンは、モーツァルト、ロマン派のレパートリーや、熱心にとりあげる新作(ジェニファー・ヒグドンの、ハーンのために書かれた協奏曲で、ピューリッツァー音楽賞を受賞)のいずれにおいても特別にスタイリッシュな熟練の演奏を聴かせる。2021年3月にリリースされたアルバム『パリ』には、ラウタヴァーラが彼女のために書いた最後のスコア《2つのセレナード》の世界初録音が収録されている。

    17ギドン・クレーメル(1947-) ラトヴィア出身

    複数の賞を受賞したクレーメルは、父と祖父のどちらもがヴァイオリニストであった。モスクワでダヴィッド・オイストラフに師事し、1970年のチャイコフスキー国際コンクールで優勝。エネルギッシュで進取の気性に富む企業家(「クレメラータ・ムジカ」音楽祭を創設)であり、新しい音楽、現代曲や忘れられた作品の演奏で知られる。300に及ぶ録音があり、影響力のあるクレーメルは、幅広い種類の音色とテクスチュアを生み出す音楽のインテリで(無駄のないサウンドに聴こえるという人もいる)、グァルネリ、ストラディヴァリウスとアマティの楽器を所有している。

    16ジャニーヌ・ヤンセン(1978-) オランダ出身

    ジャンセンは、音楽家の家系に生まれた、同世代では最も偉大なヴァイオリニストの一人である。ヴィヴァルディの《四季》(2004年)の録音では、弦楽器パートごとに1人の奏者という最小の編成で演奏し、父親が通奏低音、母親がチェロを担当していることでも話題となった。2006年頃には、早くもクラシックで最も音楽配信のストリーミングで聴かれたアーティストとなった。

    Deccaで録音した全アルバムの売り上げは85万枚を達成、さらにストリーミングでは1億回再生されている。昨年9月には、サー・アントニニオ・パッパーノとの共演で、ストラディヴァリウスの12挺の異なる名器を使用して録音したが、その中にはかつてフリッツ・クライスラーやナタン・ミルシテインが所有した楽器も含まれている。現在ヤンセンは、ヨーロッパの篤志家から貸与された1715年製のストラディヴァリウス「Shumsky-Rode」を使用している。

    15:アイザック・スターン(1920-2001) アメリカ出身

    ヴァイオリンのアイコンとして賞賛されるスターンは、クレメネツ(当時のポーランド、現ウクライナ)のユダヤ人家庭に生まれたが、生後14カ月で一家はサンフランシスコに移住した。6歳で母親から最初のピアノ・レッスンを受け、8歳でサンフランシスコ音楽院に入学。50年にわたる国際的なキャリアの間に、63人の作曲家による200を超える作品を、すべてソニー・クラシカル(旧CBSレコード)で録音し、ヴァイオリンのレパートリーの大半を網羅した。その中には《屋根の上のヴァイオリン弾き》も含まれている。スターンのバーバーのヴァイオリン協奏曲の録音は名盤だ。テルアビブには彼の名を冠した通りがあり、カーネギーホールの大講堂は、1960年代に取り壊しの危機にあったホールを救った彼の努力が認められ、1997年に彼の名前に改名されている。

    14パブロ・デ・サラサーテ(1844-1908)スペイン出身

    19世紀後半に最も人気を博したヴァイオリニストのサラサーテは、パガニーニと似た華やかな名手であった。彼が作曲した《カルメン幻想曲》と《ツィゴイネルワイゼン》は、定番のレパートリーとなり、後者は1904年にサラサーテ自身が他の8つのタイトルとともに録音したのをはじめ、250回近く録音されている。サラサーテに献呈された重要な作品の中には、ヴィエニャフスキの《ヴァイオリン協奏曲第2番》、ラロの《スペイン交響曲》、ブルッフの《スコットランド幻想曲》にサン=サーンスの《ヴァイオリン協奏曲第3番》、そして《序奏とロンド・カプリチョーソ》がある。

    13:ヨーゼフ・ヨアヒム(1831-1907)ハンガリー出身

    最も偉大なヴァイオリニストの一人、ヨアヒムは、サラサーテとは正反対の、深淵でドイツ楽派の伝統を深く踏襲した、保守的で控えめ、シリアスな演奏家だった。彼が師事した教師は、ベートーヴェン自身の前で後期の弦楽四重奏曲を演奏した人物だ。ヨアヒムのベートーヴェンの《ヴァイオリン協奏曲》の演奏も伝説的なものであり、ヨアヒム四重奏団もまた、当時の最高峰と目されていた。ブラームスは、ヨアヒムのために《ヴァイオリン協奏曲》を書いている。ヨアヒム自身の作品は、レパートリーとしてはほとんど残っていない。彼が1903年に行った一連の録音では、録音史の中で最も早く生まれたヴァイオリニストとしての演奏を聴くことができる。

    12:ニコラ・ベネデッティ(1987-)スコットランド、イタリア出身

    優秀なヴァイオリニストの一人であるベネデッティは、16歳の時にBBCヤング・ミュージシャン・オブ・ザ・イヤー2004で優勝して注目を集めた。その時に演奏したのは、2005年に録音も行った、シマノフスキのあまり知られていない《ヴァイオリン協奏曲第1番》であった。彼女のディスコグラフィは、スタンダードな作品(メンデルスゾーン、ブルッフなど)を、あまり知られていない新作などと絶妙にミックスしたものとなっている。2020年には、ウィントン・マルサリスの《ヴァイオリン協奏曲》と《フィドル・ダンス組曲》で、グラミー賞のベスト・クラシカル・インストゥルメンタル・ソロを獲得した。彼女の独創的な子供たちへの教育支援で、2019年にCBE(大英帝国勲章コマンダー)を受勲。

    11:ナタン・ミルシテイン(1903-92)ロシア、アメリカ出身

    ミルシテインは前世紀の最も偉大なロシア・ユダヤ系のヴァイオリニストで、レオポルト・アウアーに師事(おそらくアウアーの最後の弟子)し、ハイフェッツの同級生であり、学生時代にグラズノフの協奏曲を作曲家の指揮で弾いた。そして1929年のアメリカ・デビューでは、この作品をストコフスキー指揮の元、演奏した。アメリカの市民権を取得し、ロシアへ戻ることはなかった。彼が遺した名盤には、ブラームスの《二重協奏曲》(ピアティゴルスキー&ライナーとの共演)、ゴルトマルク(ハリー・ブレック指揮)及びバッハの《シャコンヌ》があり、ミルシテインは銀色に輝く音色を力強く響かせている。

    10:ジョシュア・ベル(1967-) アメリカ出身

    メンターであり、祖父のように慕う伝説的なジョーゼフ・ギンゴールドに師事した神童のベルは、14歳でリッカルド・ムーテイ指揮のフィラデルフィア管弦楽団と共演し、17歳でカーネギー・ホール・デビューを果たした。魂のこもった敏しょうな演奏は、数多くの極上の録音を生み出し、(特にバーバーの協奏曲、ゴルトマルクとニコラス・モウの彼に捧げられた協奏曲)や、『レッド・ヴァイオリン』、『ラヴェンダーの咲く庭で』、『天使と悪魔』などの映画のサウンドトラックへと繋がった。彼が所有するのは1713年製のストラディヴァリウス、“Gibson ex-Huberman”で、購入するのに400万ドルを支払ったという。

    9:マキシム・ヴェンゲーロフ(1974-) ロシア、イスラエル出身

    ヴェンゲーロフが5歳の時から師事した名教師、ガリーナ・トゥルチャニノーヴァは、"マキシムのようなヴァイオリニストは100年に一人しか生まれない“と断言した。
    10歳でポーランドのジュニア・ヴィエニャフスキ・コンクールで優勝してから瞬く間に国際的な評価を獲得し、スター指揮者たちと華やかな共演を重ねた。メンデルスゾーンやブルッフの協奏曲第1番、パガニーニ、プロコフィエフにショスタコーヴィチの録音には特に定評がある。ステージでのカリスマ性と豪快なテクニックで、世界中の多くのファンを魅了している。

    8:ルッジェーロ・リッチ(1918-2012) アメリカ出身

    リッチはヴァイオリニストの中で最も長いキャリアを持つばかりでなく、最も幅広いレパートリーを有している。1928年にデビューし、2003年に引退したが、その間、6000回を超えるコンサートを65カ国で行い、500を超える録音を遺した。パガニーニの《カプリース》をオリジナル・ヴァージョンで録音した初めてのヴァイオリニストであり(さらに同作品を別に6回ほど録音している)、マルコム・アーノルド、ベンジャミン・リースにアルベルト・ヒナステラなど、現代作曲家の多数の作品の世界初演を行っている。

    7:ユーディ・メニューイン(1916-99) アメリカ生まれ、イギリス出身

    7歳でメンデルスゾーンの《ヴァイオリン協奏曲》の演奏でセンセーションを巻き起こした神童メニューインは、20世紀最高のヴァイオリニストの一人と認められている。十代の頃には国際的なセレブリティとなり、驚異的な敏捷性と強烈な感動を与える解釈で賞賛された。しかし、1979年にジャズ・ヴァイオリニストのステファン・グラッペリとデュエットの名盤を録音した後、イントネーションが安定しないなど、技術的な問題が忍び寄り、1990年代前半には演奏活動を停止した。メニューインの最も有名な録音は、1931年に15歳で作曲家自身の指揮のもと演奏したエルガーの《ヴァイオリン協奏曲》である。

    6:アンネ=ゾフィ・ムター(1963-) ドイツ出身

    ムターが13歳になったばかりの時にヘルベルト・フォン・カラヤンに呼ばれてベルリン・フィルと演奏したことはよく知られている。この実り多きコラボレーションの後、彼女は世界で最も有名な器楽奏者の一人となり、当時の夫、アンドレ・プレヴィンが彼女のために書いた作品や、ジョン・ウィリアムズの《ヴァイオリン協奏曲第2番》など、数々の優れた録音を残している。同時に人道を究める多くの活動も行う。ムターは1703年製のThe Emiliani と、1710年製のThe Lord Dunn-Ravenの2挺のストラディヴァリウスを所有している。

    5:イツァーク・パールマン(1945-) イスラエル、アメリカ出身

    偉大なヴァイオリニストの一人であるパールマンは、ハイフェッツの卓越した技術と、クライスラーの温かい伝達能力(気さくでフレンドリーな性格もどこか似ている)を合わせもっている。4歳からポリオを患い、座奏をするため、必然的に別の意味での称賛を浴びることとなった。彼のおおらかで豊かな音色と、表現力の深さは、レコーディング・スタジオにもぴったりで、ジョン・ウィリアムズのスコアによる1993年の映画『シンドラーのリスト』など、いくつかの映画のサウンドトラックでも主題歌を演奏した。1986年、ロナルド・レーガンより大統領のメダル・オブ・フリーダムを贈られている。

    4:ダヴィッド・オイストラフ(1908-1974) ロシア出身

    オイストラフはオデーサ(当時はロシア、現ウクライナ)で生まれた偉大なヴァイオリニストの一人。ソヴィエト連邦では高名であったにもかかわらず、スターリン政権下のため、1955年まではアメリカでのツアーが許されず、西側では世界第二次大戦後まで知名度が低かった。プロコフィエフ、ショスタコーヴィチにハチャトゥリアンが、彼のために主要な作品を書いている。雄弁で抒情的な演奏家で、呼吸とボウイングの関連性を重視した。

    3:ニコロ・パガニーニ(1782-1840) イタリア出身

    19世紀において、パガニーニほどヴァイオリン技術の発展に強い影響を与えた者はいない。彼の《24のカプリース》は楽器の新しい可能性を高め、彼自身も、クラシック音楽界の最初の真のスーパースターであった。そのカリスマ的な舞台での存在感と、衝撃的なパフォーマンスはショパン、リスト、シューマンにベルリオーズなどあらゆる世代の作曲家たちにインスピレーションを与えた。

    2:フリッツ・クライスラー(1875-1962 ) オーストリア、アメリカ出身

    20世紀前半、クライスラーほど人々に愛されたヴァイオリニストはいなかった。温かい人柄、温厚な性格や人間としての寛容さが、その音楽作りにも知らぬ間に反映されていたようだ。私たちが聴くことのできる彼の膨大な数の録音も、まるで彼自身のようだ。まるで錬金術師のように、三流の音楽でさえ(彼も実際にたくさん演奏していた)、黄金に変えてしまう。技術も素晴らしかったが、彼ほど魅力的に演奏するヴァイオリニストはいなかった。特に彼自身が作曲した音楽については、彼は特別な存在だった。

    1:ヤッシャ・ハイフェッツ(1901-1987) ロシア、アメリカ出身

    多くの人にとってハイフェッツは20世紀の偉大なヴァイオリニストであるだけでなく、史上最高のヴァイオリニストだ。彼は後世の人が今なお模倣しようとするような、卓越した新しい基準をもたらした。ヴィリニュスで生まれ、早くから世界的なスーパースターとして活躍した。1917年の伝説的なニューヨーク・デビューと1920年のロンドンでの最初の演奏までの間にイギリスだけで7万枚のレコード・セールスを記録。

    ジョージ・バーナード・ショーは、「こんなに超人的な完璧な演奏をして嫉妬深い神を刺激すると、若くして死んでしまう。毎晩寝る前のお祈りをするかわりに、何か質の悪い演奏をするよう、切に勧めたい。人間がこれほどまでに完璧な演奏ができると誰が思うだろうか。」と、心配する手紙をハイフェッツに書き送ったという。ハイフェッツは数十年にわたり、同世代の音楽家の中で最も高い報酬を得て、1972年に引退した。彼の演奏を冷淡で、感情が入っていないと言う人もいる。そんな人たちには、彼の録音したチャイコフスキー、ヴィエニャフスキ、コルンゴルトにウォルトンの協奏曲や、ヴィタ―リの《シャコンヌ》、ショーソンの《詩曲》、ブルッフの《スコットランド幻想曲》などを聞かせてみて欲しい。冷たい? いや、むしろ白熱の演奏だ!

    Written by Jeremy Nicholas


  • SNSの総フォロワー数250万超え。ピアニスト、トニー・アンがデッカから待望のデビューEPがリリース決定

    SNSの総フォロワー数250万超え。ピアニスト、トニー・アンがデッカから待望のデビューEPがリリース決定

    SNS総フォロワー数250万を超えるカナダ在住のピアニスト、トニー・アン。SNSにアップしたピアノ演奏動画が1,400万再生を記録するなど世界的なバズを起こしている彼が、3月10日にデッカ・レコードからデビューEP『EMOTIONALLY BLUE』をリリースすることが決定した。先行シングル第1弾として、「LOST」の配信がスタートしている。

    Tony Ann – LOST (Official Visualizer)

    クリーヴランド音楽院とバークリー音楽院で学んだ後、クラシック音楽の教育を受けたトニー・アン。

    着信音のアレンジやクラシック曲のアレンジなどをピアノで披露した動画がSNSで常に数百万再生を記録するなど、バイラル・コンテンツを数多く発表し世界中のオンラインリスナーを魅了している彼だが、今回初めて自身の作品をレコーディング、リリースすることとなった。

    @tonyannn

    would you want this as your alarm?? 👀📱 #iphone #piano #alarm #ringtone #apple #song #arrangement #music #iphone14 #funny #ballad

    ♬ original sound – tony ann

    今回の作品は「感情」をテーマとしたEP3部作(『EMOTIONALLY BLUE』、『ORANGE』、『PURPLE』)の第1弾。各5曲で構成され、すべての曲が感情に対応し、24時間の一日の満ち欠けを反映したものとなっている。今回配信されたシングル「LOST」は、リスナーが言葉を提案し、その言葉をキーボードで演奏してオリジナル曲を作るというTikTok上での企画「play that word」で制作されたもので、2022年4月に楽曲の一部を投稿した動画は250万のいいね、1,400万回の再生を記録。

    彼のニュアンスに富んだ詩的な演奏が、感情の鋭さ、激しい弱さ、そしてパワフルな表現によって、完全に表現された注目のトラックだ。


    ■リリース情報

    トニー・アン SG『LOST』
    2023年1月20日発売
    iTunes / Amazon Music / Apple Music / Spotify


     

  • ピアニスト、ラファウ・ブレハッチ待望のソナタ録音『ショパン:ピアノ・ソナタ第2番・第3番 他』発売決定

    ピアニスト、ラファウ・ブレハッチ待望のソナタ録音『ショパン:ピアノ・ソナタ第2番・第3番 他』発売決定

    ショパンの演奏で高い評価を得ているピアニスト、ラファウ・ブレハッチのニュー・アルバム『ショパン:ピアノ・ソナタ第2番・第3番 他』が2月22日(水)にリリースされることが決定し、本日より「夜想曲 嬰へ短調 作品48の2」の配信がスタートした。国内盤CDは2月に予定されている来日リサイタルを記念し、世界に先駆けた日本先行発売となる。

    ラファウ・ブレハッチは2005年、ポーランド人として30年ぶりにショパン国際ピアノ・コンクールで優勝を果たしたピアニスト。また、優勝だけでなく、ポーランド放送賞「マズルカ最優秀演奏賞」、ポーランド・ショパン協会賞「最優秀演奏賞」、ワルシャワ・フィルハーモニー賞「最優秀協奏曲演奏賞」、クリスチャン・ツィメルマンが設立した「最優秀ソナタ演奏賞」の特別賞を全て受賞し、世界中で話題になった。

    今作『ショパン:ピアノ・ソナタ第2番・第3番 他』では、ショパン・コンクール優勝後も長年にわたって研究を続けてきた、自身にとって最も大切なショパンのピアノ・ソナタ2番と3番を含む4曲を収録。ショパンのスタイルに忠実でありながら、ブレハッチが自身の心境や場の雰囲気に合わせて演奏をすることを念頭に置いたアルバムとなっている。

    ブレハッチは今作について「この4つの素晴らしい作品のすべてを、私の人生のこの時期に録音できることをとても嬉しく思っています。私はこのプログラムについて、世界中で、様々なコンサートホールで、様々なピアノで演奏し、多くの経験を積んできました。これらの曲の美しさを皆様と分かち合いたいと心から思ったのです」と語る。

    ブレハッチは2月に来日し、サントリーホール(東京)とミューザ川崎シンフォニーホール(川崎)でショパンの名曲をプログラムに含めた2つのリサイタル公演を予定している。

    ■公演情報

    ラファウ・ブレハッチ ピアノ・リサイタル
    ●日時:2023年2月25日(土) 18:00
    会場:サントリーホール
    ●日時:2023年2月27日(月) 19:00
    会場:ミューザ川崎シンフォニーホール

    来日公演の詳細はこちら


    ■リリース情報

    ラファウ・ブレハッチ『ショパン:ピアノ・ソナタ第2番・第3番 他』
    2023年2月22日発売
    CD / iTunes / Amazon Music / Apple Music / Spotify



  • サー・ゲオルグ・ショルティによる《ラインの黄金》《ヴァルキューレ》最新リマスターが発売。第3作目《ジークフリート》も発売決定。

    サー・ゲオルグ・ショルティによる《ラインの黄金》《ヴァルキューレ》最新リマスターが発売。第3作目《ジークフリート》も発売決定。

    2022年に発表された『ワーグナー:楽劇《ニーベルングの指環》』全曲スタジオ録音の新たなリマスター盤(全4作品)より、第1作目《ラインの黄金》と第2作目《ヴァルキューレ》が本日発売された。また、第3作目《ジークフリート》は3月31日(金)に発売されることが決定し、本日から予約がスタートした。

    この新たなリマスターは、レコード史上初の壮挙となったワーグナーの大作《ニーベルングの指環》のスタジオ全曲録音プロジェクトを担った指揮者、サー・ゲオルグ・ショルティの生誕110周年・没後25周年を記念して2022年にスタートした大プロジェクト。1958年―1965年録音のオリジナルのステレオ・マスターテープから2022年に制作したDSDマスターを使用し、フィジカルではSA-CD~ハイブリッド仕様、デジタルではドルビーアトモス仕様でのリリースが実現した。

    全4作品、日本盤のみグリーン・カラー・レーベルコート、オリジナルLPジャケットをあしらった三方背ケース、歌詞対訳付きブックレット付きでリリース。また、この作品を含め、演奏家の活動とその録音を生涯や社会状況とあわせてとらえ、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする山崎浩太郎氏によるオリジナル・ライナーノーツも封入される。

    さらに、デジタルメディア評論家、麻倉怜士氏とリマスターの制作を手掛けたデッカ・クラシックス・レーベル・ディレクター、ドミニク・ファイフ、そしてエンジニアのフィリップ・サイニーとの対談記事も本日公開になった。今回のリマスター盤で使用したオリジナルのステレオ・マスターテープの編集修理や、24bit/192kHzの高解像度で行ったマスタリングについて、より理解を深めていただける内容になっている。

    サー・ゲオルグ・ショルティによる《ニーベルングの指環》の新リマスター盤を徹底解説!デジタルメディア評論家、麻倉怜士氏が聞くリマスター秘話公開。


    ■リリース情報

    『ワーグナー:楽劇《ジークフリート』
    2023 年 3 月 31 日発売
    CD

    『ワーグナー:楽劇《ヴァルキューレ》』
    2023年1月11日発売
    CD / iTunes /Amazon Music / Apple Music / Spotify


    『ワーグナー:楽劇《ラインの黄金》』
    2023年1月11日発売
    CD / iTunes /Amazon Music / Apple Music

    ウィーン国立歌劇場合唱団
    ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
    指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ

    ▽今後の発売予定
    2023年5月発売予定 《神々の黄昏》
    ※発売日・商品番号・価格等詳細は決まり次第ご案内いたします。



  • 【後編】サー・ゲオルグ・ショルティによる《ニーベルングの指環》の新リマスター盤を徹底解説。デジタルメディア評論家、麻倉怜士氏が聞くリマスター秘話公開。

    【後編】サー・ゲオルグ・ショルティによる《ニーベルングの指環》の新リマスター盤を徹底解説。デジタルメディア評論家、麻倉怜士氏が聞くリマスター秘話公開。

    1958年、当時デッカ・レーベルのプロデューサーだったジョン・カルショーが考案した、指揮者サー・ゲオルグ・ショルティとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団による「ワーグナー:楽劇《ニーベルングの指環》」の史上初の全曲スタジオ録音。総演奏時間が15時間を超えるこの録音はデッカ・レーベルの総力を結集したクラシック音楽史上最高の作品として今もなお尊ばれている。

    2022年、ショルティの生誕110周年・没後25周年を記念してこの歴史的録音の新たなリマスター盤が発表された。このリリースに際して、デジタルメディア評論家、麻倉怜士氏とこのリマスターの制作を手掛けたデッカ・クラシックス・レーベル・ディレクター、ドミニク・ファイフ、そしてエンジニアのフィリップ・サイニーとの対談が実現!今回のリマスター盤で使用した1958年―1965年録音のオリジナル・ステレオ・マスターテープの編集修理や、24bit/192kHzの高解像度で行ったマスタリングについて、リマスタリング秘話を語ってもらった。(前編はこちら


    SACDの音の秘密

    麻倉:今回のSACDの音質にはたいへん感動しました。音場の立体感や、音の切れ味、質感が’58年の録音から完全に蘇ったように聴きました。きらびやかで、音場がそこにあるようで、熱い空気が渦巻いています。2chなのに、すごく奥行きがあります。この音を得るのに、どんな魔法の粉を降りかけたのでしょうか?

    サイニー:魔法というのは、カッティング・エンジニアが何をしたのかを勉強したことですよ。今回、オリジナルのアナログテープまで戻るということは、いったいどういう意味を持つのかを考えました。このリマスタリングでは、オリジナルの音に、徹底的に近づこうと思いました。

    そこで何かヒントを得るために、カルショーが書いた本『Ring Resounding』(ジョン・カルショー著, 山崎浩太郎訳『ニーベルングの指環―リング・リザウンディング』, 2007.)を読んでみました。すると、彼は最初の章で、カッティング・エンジニアが音を根本的に変えてしまったことに感謝しているんです。カッティング・エンジニアが制作したLPの音は、ジョン・カルショー、ゴードン・パリー、ジミー・ロックがレコーディング・セッションで聴いていた音よりも、ずっと良いと気づかせてくれたと、書いてありました。

    そこで私は、カッティング・エンジニアは何をしたのだろうと考え、調べてみました。オリジナルの《指環》録音に関わった存命中のカッティング・エンジニア、そして、その後の世代の方にも会いました。デッカの元エンジニアのスタン・グドールやジョン・ダンクリーと今でも連絡を取り合っていて、彼らがカッティング・ルームで何をしていたのかについて、いくつかのアイデアを教えてくれたんです。どのようなテクニックを使っていたか、も。 それで、このリマスタリングの目的は、非常に正確なトランスファーを作るよりも、ジョン・カルショーにとってどのような音であったかという方向に持っていくべきだと思い知りました。

    サー・ゲオルグ・ショルティとジョン・カルショー(©DECCA)

    ファイフ:プロデューサーのジョン・カルショーは、自身の回想録『Ring Resounding』の中で、マスターテープをLPに移すことの難しさについて述べています。「職人の技と献身がそれを可能にした」と、彼は書いています。LPレコードをプレスするためのラッカー盤をカットするのは、それ自体が芸術です。マスターテープの音をできるだけ忠実に再現するために、プロデューサーやエンジニアがその場に詰めて、カッティングを行うのです。

    そのため、今回の2022年版のリマスタリングでは、マスターテープとオリジナルのLPプレスの両方により、彼らが求める音を明確に把握することができました。しかし、当時のスピーカーは今日のようにダイナミックレンジが広く、クリアな音質ではなかったことを忘れてはなりません。私たちは、彼らが聴くことができなかったオリジナルの録音の真実を、より多く聴くことができるのです。

    ジョン・カルショーとゴードン・パリーがやったこと

    ゴードン・パリー(©DECCA)

    ファイフ:私たちは、ジョン・カルショーとゴードン・パリーの頭の中に入り込んで、彼らがどんな音を求めていたのかを探ろうとしました。音楽と演出で何をしようとしていたのか、彼が言うところの「心の中の劇場」をどのように作り出そうとしていたのか。彼らは録音の時にステージ上に網目のように線を引いて、動きの指示を出していました。

    それを解く大きなヒントは、カルショーの編集用オリジナルスコアにありました。彼はボーカルスコアに編集をマークしていました。それを拝見でき、彼がどんな効果音を探していたのか、歌手の位置はどうだったのか、などの多くの情報を知ることができました。加えて、私たちは多くのオリジナル資料を入手しました。それが、私たちが真実に辿り着くまでの道しるべとなったのです。その意味で、私たちはとても幸運でした。

    60年代に黄金のカッティング・エンジニアだったスタン・グドールはご存命なので、彼と話をすることができたし、セッションでどのマイクを使ったのかについての議論もできました。残念ながら、ゴードン・ペリーのセッション・ノートや、技術記録は紛失していました。これは、すべてのバランス・エンジニアがレコーディングの後に書き出す文書で、どのように作られたか、どのようなマイクを使用したかを記録したものでした。でも、先輩エンジニアに話を聞いたおかげで、当時何が使われていたのか、正しい方向性を見出すことができ、とても有意義でした。

    私たちがオリジナル・レコーディングを調査しているときに発見した興味深いことのひとつは、その時期が「1958年」だったことです。デッカ・サウンドの基本とも言える、デッカ・ツリー(指揮者の上にある左、右、センターのマイクと左右のアウトリガーの組み合わせ)は、開発されてから4年目で、まだ実験中でした。ステレオも初期の段階でした。

    ポイントは指向性です。 当時、一般には無指向性マイク、NeumannM50が使われていましたが、カルショーの片腕のエンジニア、ゴードン・パリーは「ディテールと輝きを求めるなら、無指向性では無理だ」と気付き、単一指向性マイクロホンを使うことにしました。それは「カーディオイド(心臓型)・マイクロホン」と言います。指向性パターンが心臓の形に似ていることから、そう呼ばれており、正面の音だけを強く拾います。

    レコーディング時に使用したマイク(©DECCA).jpg

    デッカ・ツリーに、単一指向性のNeumann M56を3本、左右のアウトリガーには広角単一指向性M49を配置しました。ジョージ・ロンドン、エーベルハルト・ヴェヒター、キルステン・フラグスタート……などの名歌手の声を収録するヴォーカル用マイクはM49でした。彼らはオーケストラのバランスを崩すことなく声楽音量をコントロールするよう、カーディオイドパターンを細かく調整しました。

    こうした努力の結果、音響ステージを動き回る声部の透明性とともに、直感的なオーケストラのサウンドが得られました。天才ペリーは、次ぎに述べるウィーンのゾフィエンザールの自然な輝きと、ピンポイントの正確な音場を結びつけることに成功したのです。特にヘッドフォンで聴くと、オーケストラのすべてのセクションがどこに座っているのか、ほとんど図が描けるほど、たいへんクリアです。金管楽器、ティンパニ、ダブルベースなどの位置関係も手に取るようにわかります。

    《指環》における彼の重要性は、カルショーがこの録音についての著書『Ring Resounding』をたった二人に捧げていることからも明らかです。それもパリー、ショルティの順なのです。

    ゾフィエンザールの音響

    ワーグナー:楽劇《ニーベルングの指環》録音時の様子(©Decca)

    ファイフ:1826年、皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の母、バイエルンのゾフイ公女にちなんでウィーンのマルクス・エルガッセに室内温水プール「ゾフィエンバッド」がオープンしました。1849年には「ゾフィエンザール」となり、コンサートとダンスホールとして生まれ変わりました。ヨハン・シュトラウス1世がオープニングの舞踏会を指揮。シュトラウスのワルツの数々はここで初めて聴かれたのです。

    ゾフィエンザールはデッカのウィーンにおける専用スタジオとして、1956年から1980年代半ばまで、より華やかなムジークフェラインを差し置いて、ロンドンのキングスウェイ・ホールやアビー・ロード、ニューヨークの30番街にあるコロンビアスタジオなどと同じ、象徴的な録音会場でありました。1980年代半ばにコンツェルトハウスに移りました。

    2001年8月に火災が発生し、メインホールと周囲の部屋のほとんどを焼失してしまいました。その後、ホテル、アパートメント、オフィスとして再開発され、2013年12月に再オープンしました。元のメインホール(デッカの《指環》の録音スタジオだった)は、部分的に元のように再建されましたが、大部分は見栄えです。

    とてもユニークなホールでした。もともと水泳用の浴場だったので、プールを空にして、その上に床を張ったようなものです。そうすると、チェロの内部と同じような効果が生まれて、音が共鳴します。だから、低音弦から素晴らしい音の深みが出るんです。ゾフィエンザールは最初からこのようなアコースティックな性質を持っていたのです。ウィーンフィルやビルギット・ニルソンと同様にこの録音の重要な要素となっていますね。

    フィリップと私は、2016年にこのホールを訪れました。元のホールの形と寸法を把握することはできましたが、それ以外はあまりにも変わってしまっていて、音響を正確に評価できませんでした。でもありがたいことに、そこで働いていた多くのプロデューサーやエンジニアがまだ生きていて、ホールの音響特性を詳細に説明いただくことができました。ブックレットのクレジットの中に、その方々の名前が記されています。

    ワーグナー:楽劇《ニーベルングの指環》録音時の様子(©Decca)

    サイニー:私は89年にデッカに入社しました。当時でもデッカはホールにこだわり、サンフランシスコやクリーヴランド、そしてシャルル・デュトワのためにサン・ユースタッシュで、教会を解体し、すべての客席を取り払っていました。それには巨額の資金が必要でしたがそれは、音をちゃんと出すためのこだわりだったんです。もちろん、マイクや機材、エンジニアも大きな役割を担っています。でも、会場も非常に大きな役割を担っているんです。ゾフィエンザールはその代表的なケースですね。

    Dolby Atmosをどのように制作するか。

    麻倉:さきほど、ドミニクさんはDolby Atmosの登場が、今回のリマスタリングのきっかけのひとつになったとおっしゃいました、Dolby Atmosバージョンについて教えてください。

    ファイフ:『Ring Resounding』に、とても興味深い章があります。1967年に書かれたのですが、「information avalanche」と呼ばれるものの到来を予言しているのです。通信やネットワークで世界が覆われ、今でいうDVDやブルーレイのようなメディアについても触れています。彼は明らかに、未来を予言した人でした。

    この新しいリマスターのDolby Atmosは当時、彼らが絶対に手に入れたかったものだと思います。歌手がステージを動き回るというイリュージョンと、それに伴う音響効果、金床や馬の音など、ワーグナーが楽譜に記したさまざまな指示が実行されています。もし彼らが今日Dolby Atmosを使用していたら、これらの音と音場はさらに素晴らしいものになったでしょうし、私たちが2022年に向けて試みたことに、彼らがとても満足することは間違いありません。

    とはいえ、もともと2チャンネルしかありません。ではいかに、そこからマルチチャンネルのDolby Atmosを制作するか。それには、正しいやり方が必要です。Dolby Atmosは、上方とサラウンドに音響が加わりますから、どんな音を加えるべきかを明確にしなければいけません。現代ではマルチトラック録音が当たり前で、上方のアンビエントはその中から、作成できます。でもユニバーサルのアーカイブに問い合わせたところ、マルチトラックテープはなく、唯一、ステレオテープのみでした。

    でもそれは、とりもなおさずカルショーとパリーが承認した最終ミックスなのです。だから、それを基に、Dolby Atmosのサラウンドとアンビエントをつくるのは、正しい方向でした。基本は彼らのミックスのままです。私たちがしたことは、ゾフィエンザールの音響のある種の没入感を与えることだけです。それは私たちがゾフィエンザールのアンビエントとみなすものです。まるでホールの奥に入り込んだかのように、壁から反射した音が聞こえてくるようにしました。

    1950年代、1960年代の素晴らしいデッカ・チームの作品を聴いて欲しい

    麻倉:たいへん興味深い話をありがとうございました。最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。ショルティの《指環》は歴史的なコンテンツなので、オリジナルテープからのSACDには、日本のファンはとても歓迎すると思います。当時でも、ここまでの高音質で聴けた人はいないと思います。マスターテープからコピーを作って、それをもとに各国でマスタリング、プレスされていたわけですから。元々、音質で高い評価を得ているものを、オリジナルテープからハイレゾを経てSACD化したところが、たいへん素晴らしいポイントです。

    ファイフ:1950年代、1960年代の素晴らしいデッカ・チームの作品を生かし続けるのが、たいへん重要なことです。信じられないようなワーグナーの偉大な声楽家たちが揃い、未来のどの時代においても、あのような質の高い歌声を再び聴くことができるとは想像し難い。それに1950年代のウィーンフィルは、まだとても特別な響きをもっていたんです。オーケストラ、レコード会社、アーティスト、歌手による、完全に偶然的な集合なのです。そして、65年後の今、私たちはまだこの話をしている。65年後もフィリップと私の作ったレコードのことをみんなが話してくれたら、とても幸せですね。

    サイニー:これまでのSACDのリリースでは、レコード会社はおそらくダイナミックレンジを拡張することに、少し興味を持ちすぎていたように思います。私たちは、もしジョン・カルショーが今、一緒にいたら、彼自身がやっていただろうと思うような方法で、この作品を表現しました。日本の音楽ファンがそれを評価してくれることを願っています。

    麻倉:《指環》も素晴らしいですが、お二人のお話もとても素晴らしかったです。たいへんありがとうございました。

    第1作目《ラインの黄金》と第2作目《ヴァルキューレ》の国内盤は2023年1月11日に発売。第3作目《ジークフリート》は3月31日、《神々の黄昏》(2023年5月)順次リリースされる予定。

    Written By 麻倉怜士


    ■対談者プロフィール

    麻倉怜士 あさくられいじ

    オーディオ・ビジュアル/音楽評論家。UAレコード合同会社主宰。日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長)を経て、独立。津田塾大学では2004年以来、音楽理論、音楽史を教えている。2015年から早稲田大学エクステンションカレッジ講師(音楽)。HIVI、モーストリー・クラシック、PEN、ゲットナビなどの雑誌に音楽、映像、メディア技術に関する記事多数執筆。音楽専門局「ミュージック・バード」では、2つレギュラー番組を持つ。ネットではアスキーネット「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」、AVウォッチ「麻倉怜士の大閻魔帳」を連載。CD、Blu-ray Discのライナーノーツも多い。

    ドミニク・ファイフ(プロデューサー)

     2002年に録音プロデューサーとしてデッカ・クラシックスに入社、2020年1月からレーベル・ディレクターに就任。2003年から指揮者、小澤征爾とサイトウ・キネン・オーケストラのプロデューサーを務め、2015年グラミー賞最優秀オペラ賞(『ラヴェル:歌劇《こどもと魔法》』)、2016年度 第54回「レコード・アカデミー賞」 オペラ部門で大賞を受賞(『バルトーク:歌劇《青ひげ公の城》』)。また、ファイフは17年間、故ネルソン・フレイレのプロデューサーも務め、2013年にはラテン・グラミー賞の最優秀クラシック・アルバム(『ブラジレイロ~ヴィラ=ロボスと仲間たち』)を受賞。2018年にはクラシックのプロデューサーとして初めてロンドンのMBW A&R AwardsでA&R of the Yearの受賞を果たす。

    フィリップ・サイニー(エンジニア)

    1989年にデッカに入社し、ジミー・ロック、スタン・グドール、ジョン・ダンカーリーといったデッカの伝説的なエンジニアの下で働く。1996年にバランス・エンジニアとなり、シカゴのサー・ゲオルク・ショルティ、モントリオールのシャルル・デュトワ、日本の小澤征爾、ライプツィヒとミラノのリッカルド・シャイー、ウラディーミル・アシュケナージやチェチーリア・バルトリなど著名なデッカ・アーティストのエンジニアを務める。2009年からはフリーランスとして新録音とリマスタリングの両方で功績を残しており、1997年と2012年の《指環》のトランスファーもそのひとつである。


    ■リリース情報


    『ワーグナー:楽劇《ジークフリート』
    2023 年 3 月 31 日発売
    CD


    『ワーグナー:楽劇《ヴァルキューレ》』
    2023年1月11日発売
    CD / iTunes /Amazon Music / Apple Music / Spotify


    『ワーグナー:楽劇《ラインの黄金》』
    2023年1月11日発売
    CD iTunes /Amazon Music / Apple Music

    ウィーン国立歌劇場合唱団
    ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
    指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ

    ▽今後の発売予定
    2023 年 5 月発売予定 楽劇《神々の黄昏》
    ※発売日・商品番号・価格等詳細は決まり次第ご案内いたします。



  • 【前編】サー・ゲオルグ・ショルティによる《ニーベルングの指環》の新リマスター盤を徹底解説。デジタルメディア評論家、麻倉怜士氏が聞くリマスター秘話公開。

    【前編】サー・ゲオルグ・ショルティによる《ニーベルングの指環》の新リマスター盤を徹底解説。デジタルメディア評論家、麻倉怜士氏が聞くリマスター秘話公開。

    1958年、当時デッカ・レーベルのプロデューサーだったジョン・カルショーが考案した、指揮者サー・ゲオルグ・ショルティとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団による「ワーグナー:楽劇《ニーベルングの指環》」の史上初の全曲スタジオ録音。総演奏時間が15時間を超えるこの録音はデッカ・レーベルの総力を結集したクラシック音楽史上最高の作品として今もなお尊ばれている。

    2022年、ショルティの生誕110周年・没後25周年を記念してこの歴史的録音の新たなリマスター盤が発表された。このリリースに際して、デジタルメディア評論家、麻倉怜士氏とこのリマスターの制作を手掛けたデッカ・クラシックス・レーベル・ディレクター、ドミニク・ファイフ、そしてエンジニアのフィリップ・サイニーとの対談が実現!今回のリマスター盤で使用した1958年―1965年録音のオリジナル・ステレオ・マスターテープの編集修理や、24bit/192kHzの高解像度で行ったマスタリングについて、リマスタリング秘話を語ってもらった。(後編はこちら


    「今」のリリースの理由は?

    麻倉:今日は、よろしくお願いします。新しくリマスタリングされた《ニーベルングの指環》
    (以下《指環》)のSACDを聴き、圧倒的な素晴らしさにノックアフトされました。まさにジョン・カルショーが夢見た、高品位で臨場感豊かな音響世界が、初めてディテールまで、完全に聴けた思いでした。ぜひ、本作品のリマスタリングに関して、お聞きしたいと思います。最初に、今回の《指環》の制作、リリースがなぜ「今」なのか、とても気になりました。

    ファイフ:それには3つの理由があります。1番目の理由は、このプロジェクトを担った指揮者、サー・ゲオルグ・ショルティ(1912~97)の生誕110周年・没後25周年記念を祝うことです。2番目は偶然にも、1997年にジミー・ロック(James Lock、有名なデッカのレコーディング・エンジニア)がリマスタリング制作したCDから25年目であるということです。それについては後でもう少し詳しく説明しましょう。

    3番目の理由は、Dolby Atmosの登場です。ご存知のように、Dolby Atmosはアップルやアマゾンなどのストリーミング・プラットフォームの多くで採用されており、ユニバーサル ミュージックはリリースに力を入れ、Appleや他のパートナーに、できるだけ多くのカタログを提供しようと考えています。エンジニアのフィリップ・サイニーはすでに、ヴラディミール・アシュケナージなどのカタログの中から、王冠のような作品をいくつかに取り組みました。

    私たちが最初に《指環》のリマスタリングの検討を始めたのは約1年半前です。ここまで来るのにとても長い時間がかかりました。その推進力は今、述べたようにシュルテイ卿の記念日と、Dolby Atmosの登場だったのです。今回のリリースでは、SACD、CD、LPレコードと広く普及しているメディアだけでなく、2チャンネルとDolby Atmosのストリーミングも、行います。

    サー・ゲオルグ・ショルティ(©DECCA Christina Burton)

    55℃で10時間焼き、テープ修復に成功

    麻倉サイニーさんは、2012 年にも《指環》をリマスタリングされています。それと今回
    の違いを教えてください。

    サイニー2012 年、私たちはロンドンのアナログ専門家、ファインスプライスのベン・タ
    ーナーに、アーカイブにあったアナログテープを調べてもらいました。
    ユニバーサル ミュージックは彼にテープを送りましたが、彼は見たもの、聞いたものにかなり愕然とし、アナログテープを使うのは止めた方がいいと報告してきました。なので、その時はアナログテープに戻るのではなく、ジミー・ロックが作ったデジタル・リマスターを強化するという方針にしました。でもジミーが作ったデジタル・トランスファーは、今できる解像度からすると、かなり低いものでした。

    麻倉:今回は、オリジナルテープから直接デジタル変換したと伺っておりますが、テープはかなり昔に録音されたものなので、劣化したり、傷がついていたりするはずです。どのように修復したのでしょうか?

    《ジークフリート》オリジナルテープ(©DECCA)

    サイニー:デッカが使用した多種類のテープの問題と、アンドリュー・ウェドマンの存在がポイントでした。デッカは《ラインの黄金》ではAmpexを使い、その後Scotch 102に変えています。特にScotch 102は酸化物がテープから剥がれ落ち、現在でも問題を引き起こしています。だからアナログテープは非常に慎重に扱わなければなりません。2012年当時、テープはドイツの施設に保管されていました。ユニバーサル ミュージックはアーカイブ・プロジェクトの一環として、38本のテープの管理とトランスファーを、ドイツのギュータースローにあるアルヴァートという会社に依頼していました。

    録音から最大65年前のオリジナル・マスターテープなので、どうしても酸化膜剥離が発生します。特に状態の悪いテープは、55℃で10時間焼くことで修復に成功したそうです。さらに補修を加え、すべて192kHz/24bitでデジタル化されました。その作業は2013年頃から行われ、2年をかけてすべて完了していました。

    そこに超一流の専門家がいたのが幸運でした。元ドイツ・グラモフォンのエンジニアのアンドリュー・ウェドマン(Emil Berliner Studios)です。彼は素晴らしいアナログのスペシャリストです。彼に《指環》トランスファーを担当していただきました。テープはStuder A820で再生し、Weissアナログ/デジタルコンバーターを経由し、独自のワークステーションがデジタルファイルを記録しました。

    麻倉:24bit/192kHzのパラメーターを選択したのですか?現在では、DSDやDXDなどのより高品質も可能ですが。

    サイニー:確かに、それ以上のクォリティのフォーマットも現在では選択できますが、2013年では192kHz/24bitは最上位のフォーマットでした。もうひとつこのパラメーターにしておけば、デッカの様々な部門が望むダウンサンプリングが容易だという理由もありますね。192kHz/24bitは非常に高い周波数を記録します。人間の聴覚の閾値をはるかに超え、コウモリや犬でさえも満足させることができます。今回のSACD用には192kHz/24bitから変換されたDSDファイルが使われています。

    アナログテープのイコライジング・カーブは?

    麻倉:アナログテープは独自の再生カーブを持っています。ドイツでのトランスファーではこの問題については、どのように対処したのでしょうか。

    サイニー:各オペラの最初のテープリールには、左右の識別信号とテープヘッドの正しいキャリブレーションを確認するための一連のトーンが収録されていたので、テープレコーダーのヘッドアライメント調整には大いに助けられました。再生時には、できるだけ平坦な周波数特性を得るために、古典的なNABイコライザー・カーブを使用しました。

    テープはDolbyノイズリダクション技術が適用される前なので、アンペックス社が提案したAME(Ampex Master Equalization)カーブを使用していました。録音時に中高域を標準特性より強くして、高域の録音レベルをあげ、再生時に逆に下げることによって、ヒスなどの高域ノイズを減らすという方法です。でもドイツでの作業では、AMEのデコード回路がないので、NABイコライザー・カーブのままで、高域が持ち上がった形でそのままトランスファーされました。

    なので、これを聴くと、あまりいい音ではありません。ヒステリックな音なのです。ドミニクがそれを聴くのをとても楽しみにしていたので、私は手許のワークステーションでデジタル的にAMEを逆再生するためのキュー・カーブを作り、納得いくものができるまで、ただひたすら調整に没頭しました。

    ファイフ:それは、たいへん素晴らしかったですよ。LPや以前のリマスターCDと比較しても、とても良い音でした。その存在感、ダイナミックレンジの広さ、ディテールの綿密さに驚かされました。興奮してフィリップに電話をかけました。「これだ!よりクリーンな音、より鮮明で、より生き生きとしていて、本当に興奮した!」。自分たちの耳で聴いたことを、今回のプロジェクトでは、そのまま伝えたいと思いました。

    サイニー:それで、私は落ち着いて、ドミニクに言っていることが正しいかどうかを考えました。確かに、ずっとずっと良くなっていた。テープは太陽の下での古い写真のようなものです。私の別荘には、太陽の光で色褪せた絵があります。毎年色がどんどん落ち、買い替えなければならなくなります。つまり、AMEカーブの調整とは、経年劣化を補うことだったんですね。

    ファイフ:トランスファーの大元のテープは、プロの写真家が撮ったときに記録する、RAWファイルに喩えると良いでしょう。RAWファイルとは、色調補正などの処理を行う前の画像のことです。ですから、トランスファーについて私が言える最も良い喩えは、それは「戦争写真のようなもの」ということです。それがとても優れていたので、ここからイコライゼーション・カーブ、ノイズ除去、テープヒスの低減など、ほとんどゼロから作業を始めることができました。

    では、今回はどんなイコライジング・カーブにするのが最良なのか。私達はオリジナルのLP、最初のCD、97年のジミー・ロックのCD、その後のトランスファーもSACDもすべて入手し、すべてを仔細に検討しました。フィリップがリマスターに取り組んでいたときの彼のコンピュータの画面を想像してみてください。これらすべてを並べていたのです。

    だから、われわれはいつでも過去にさかのぼって、何が行われていたのかをすぐに聴くことができました。どんな周波数特性にするのか、最終的には私たちの耳で判断し、すべてのバージョンに共通する理想的なイコライジング特性を得ることができました。

    ヒスを除去する作業で、注意しなければならないこと

    麻倉:そのノイズ除去には、最新のRX9、CEDARレタッチなどの洗練されたツールを使用されたそうですが。確かに以前のバージョンに比べ、ヒスノイズが大幅に減っていることに驚きました。

    サイニー:先進的な機器で、ヒスを除去すると、それは同時に音楽信号の高調波(倍音)と高周波を除去することにもつながります。だから非常に、非常に慎重に作業しなければなりません。もともとの音楽信号には、興味深い情報がたくさん含まれているのですが、それはノイズリダクションでとても簡単に失われてしまいます。だから、ヒスノイズ除去はたいへんなのです。時間がかかるんですね。古い家具を修復して、何層にも塗り重ねられたペンキを剥がしながら、その下の木材を傷つけないようにするようなものです。

    音楽音とノイズをあるレベルまで下げることの間の微妙なバランスを見つけなければなりません。ノイズが気にならないレベルでありながら、同時に音楽的な内容が削除されないような、絶妙なバランスにする必要があります。今回、いくつかのパッセージでは、まだヒスやバックグラウンドノイズが少し聞こえますが、以前のような大きな音ではありません。

    1997年当時、「ディヒス」技術は、かなり粗雑なものでした。当時のCEDARは単体のユニットで、ボックスの前面にノブがひとつあるだけでした。ジミーは、リアルタイムで再生される音楽に合わせて、このつまみを調整しなければならなかったと教えてくれました。彼はかなり苦労したはずです。何度も試行錯誤を繰り返したといいます。

    現代では、時間の進行と細かな調整がコンピュータで関連づけられ、いちど覚えさせるとコンピュータが私の動きを記憶しているから、私はじっくりと腰を据えて、微調整するだけです。だから、ジミーよりずっと楽でした。もしジミーがそこに座って見ていたら、とてもうらやましいと思うでしょうね。(後編は続く

    第1作目《ラインの黄金》と第2作目《ヴァルキューレ》の国内盤は2023年1月11日に発売。第3作目《ジークフリート》は3月31日、《神々の黄昏》(2023年5月)順次リリースされる予定。

    Written By 麻倉怜士


    ■対談者プロフィール

    麻倉怜士 あさくられいじ

    オーディオ・ビジュアル/音楽評論家。UAレコード合同会社主宰。日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長)を経て、独立。津田塾大学では2004年以来、音楽理論、音楽史を教えている。2015年から早稲田大学エクステンションカレッジ講師(音楽)。HIVI、モーストリー・クラシック、PEN、ゲットナビなどの雑誌に音楽、映像、メディア技術に関する記事多数執筆。音楽専門局「ミュージック・バード」では、2つレギュラー番組を持つ。ネットではアスキーネット「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」、AVウォッチ「麻倉怜士の大閻魔帳」を連載。CD、Blu-ray Discのライナーノーツも多い。

    ドミニク・ファイフ(プロデューサー)

     2002年に録音プロデューサーとしてデッカ・クラシックスに入社、2020年1月からレーベル・ディレクターに就任。2003年から指揮者、小澤征爾とサイトウ・キネン・オーケストラのプロデューサーを務め、2015年グラミー賞最優秀オペラ賞(『ラヴェル:歌劇《こどもと魔法》』)、2016年度 第54回「レコード・アカデミー賞」 オペラ部門で大賞を受賞(『バルトーク:歌劇《青ひげ公の城》』)。また、ファイフは17年間、故ネルソン・フレイレのプロデューサーも務め、2013年にはラテン・グラミー賞の最優秀クラシック・アルバム(『ブラジレイロ~ヴィラ=ロボスと仲間たち』)を受賞。2018年にはクラシックのプロデューサーとして初めてロンドンのMBW A&R AwardsでA&R of the Yearの受賞を果たす。

    フィリップ・サイニー(エンジニア)

    1989年にデッカに入社し、ジミー・ロック、スタン・グドール、ジョン・ダンカーリーといったデッカの伝説的なエンジニアの下で働く。1996年にバランス・エンジニアとなり、シカゴのサー・ゲオルク・ショルティ、モントリオールのシャルル・デュトワ、日本の小澤征爾、ライプツィヒとミラノのリッカルド・シャイー、ウラディーミル・アシュケナージやチェチーリア・バルトリなど著名なデッカ・アーティストのエンジニアを務める。2009年からはフリーランスとして新録音とリマスタリングの両方で功績を残しており、1997年と2012年の《指環》のトランスファーもそのひとつである。


    ■リリース情報


    『ワーグナー:楽劇《ジークフリート』
    2023 年 3 月 31 日発売
    CD


    『ワーグナー:楽劇《ヴァルキューレ》』
    2023年1月11日発売
    CD / iTunes /Amazon Music / Apple Music / Spotify


    『ワーグナー:楽劇《ラインの黄金》』
    2023年1月11日発売
    CD iTunes /Amazon Music / Apple Music

    ウィーン国立歌劇場合唱団
    ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
    指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ

    ▽今後の発売予定
    2023 年 5 月発売予定 楽劇《神々の黄昏》
    ※発売日・商品番号・価格等詳細は決まり次第ご案内いたします。