タグ: Classical

  • 理学博士 和合治久氏が監修するアルバム『癒しのモーツァルト』の新作がリリース決定

    理学博士 和合治久氏が監修するアルバム『癒しのモーツァルト』の新作がリリース決定

    モーツァルト音楽療法の第一人者としてメディアでも活躍している理学博士の和合治久氏が、自身が監修する人気シリーズ『癒しのモーツァルト』の第6弾となる最新アルバム『癒しのモーツァルト~感情を整える4000Hz』を2023年7月26日に発売する事が決定した。

    日々の生活の中で大なり小なり感じる不安や悲しみ、恐れなど、このような負の感情が高まると、心身を活動モードに導く自律神経である交感神経が優位になり、心身に不調が生じてくるという。今作は、モーツァルト音楽療法の第一人者、理学博士 和合治久氏が、業界最先端の知識とニーズを盛り込み、感情を整え「なりたい自分」に導くことをテーマに制作。

    人間の耳がもっとも敏感に感じ取れる4000Hz(ヘルツ)のモーツァルト楽曲を12曲収録。モーツァルトの楽曲を聴き入ることで、乱れた自律神経を整え、感情を整える手助けをするものだ。

    今回のアルバムリリースについて和合治久氏は「最近の研究から、モーツァルトの作品は、オキシトシンの分泌を増加させること、扁桃体機能を抑える作用があることが、医学的にわかってきました。オキシトシンは鎮痛、不安・恐怖の軽減に加えて、他者への共感や信頼にも作用するため、モーツァルトの作品によって感情を整え豊かな生活を送ることができると期待されるのです」とコメントを寄せている。

    アルバムに封入されるCDブックレットには、「感情を整えるために効果的なモーツァルトの聴き方」など、和合治久氏による充実の解説も掲載される予定だ。


    ■リリース情報

    2023年7月26日発売
    『癒しのモーツァルト~感情を整える4000Hz』
    CD


  • 雨の日に聴きたいクラシック音楽10選:ショパンの《雨だれ》やドビュッシーの〈雨の庭〉など

    雨の日に聴きたいクラシック音楽10選:ショパンの《雨だれ》やドビュッシーの〈雨の庭〉など

    爽やかで過ごしやすい春の季節を終えたら、次に訪れるのは梅雨の季節。雨の日にぴったりの音楽に身を委ねることで、いつもと違う気分になれるかもしれない。クラシック音楽には、「雨」にまつわる作品がたくさんある。しとしと降ったり、ザーザー降りだったり、時には嵐がやって来たり……。今回は、いろんな「雨」を表現した音楽をセレクト。雨模様の日こそ、音楽で描かれた「雨」にも耳を傾けてみたい。音楽ライター 桒田 萌さんによる寄稿。



    1. ショパン:前奏曲 第15番《雨だれ》

    「雨だれ」の通称で有名な作品。24あるすべての調性を網羅した《前奏曲集》の15番目を飾る。ショパンの恋人であったジョルジュ・サンドの自叙伝に、二人が療養と逃避のために訪れたマジョルカ島で、ある雨の日、体調不良を極めていたショパンが朦朧としながら《雨だれ》を演奏していた様子が語られている。

    多くの人が知る美しい旋律はもちろんのこと、1曲の中に穏やかなメジャーと重く暗いマイナーの対比も見事。A♭(G♯)の音が淡々と繰り返されるが、長調と短調の切り替わりによって、同じ音にもかかわらず聴き手に与える印象をガラリと変える。愛する人との幸福な逃避行、一方で衰弱していく身体。喜びと悲しみの狭間で、ショパンはいかに窓の外の雨を見つめたのだろうか。《雨だれ》を聴きながら、思いを馳せたい。

    牛田智大 – ショパン: 前奏曲 第15番《雨だれ》

    2. ドビュッシー:《版画》より〈雨の庭〉

    ピアノ曲集《版画》に収録されている1曲。ドビュッシーはのちに《映像》《前奏曲集》とフランス印象主義の金字塔的な曲集を残しており、《版画》はそれらに先駆けて書かれている。

    すばやく微細なアルペジオは、まるで庭に強く打ち付ける芯の鋭い雨を連想させる。日本では雨が降ると、湿度の高さからじめっとした空気が流れるが、この作品ではそんな湿っぽさを感じさせない。幻想的で、どこかドライだ。

    Debussy: Estampes, CD 108: III. Jardins sous la pluie

    3. ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第1番《雨の歌》

    この作品は、ブラームス自身の歌曲《雨の歌》の旋律がそのまま第3楽章に引用されていることから、同じタイトルが通称とされてきた。歌曲《雨の歌》は、ドイツの詩人・グロートの詩が歌われる。雨に喜ぶ幼少期を思い出しては「雨よ降れ」と歌い、かつての情景を思い起こす、ポエティックな作品だ。同じ歌曲集に収録されている《余韻》にも同じ旋律が登場し、こちらでは雨を涙に喩えた情緒的な詩が歌われている。

    ヴァイオリン・ソナタ第1番は、ブラームスが深い交流を続けてきたクララ・シューマン(ロベルト・シューマンの妻)の息子が亡くなる直前に書かれた。第2楽章は彼への見舞いの意を込め、葬送行進曲になっている。そして第3楽章に、懐かしさと悲しみを込めた《雨の歌》と《余韻》の旋律を挿入することで、彼やクララを見舞おうとしたのかもしれない――クララはこの作品を聴き、大変喜んだそうだ。

    Brahms: Violin Sonata No. 1 in G Major, Op. 78: I. Vivace ma non troppo

    4. ベートーヴェン:交響曲 第6番《田園》より第4楽章〈雷雨、嵐〉

    田園の風景を想起させる5つの楽章からなるある交響曲第6番《田園》。楽章ごとに、その町の人々の様子や小川の姿など、朗らかな風景を連想させる副題がついているが、第4楽章〈雷雨、嵐〉は非常に激しい曲調。

    他の楽章にはないティンパニやトロンボーン、ピッコロといったインパクトあるサウンドを鳴らす楽器が加わり、自然の厳しさを訴えるように目まぐるしく音楽は展開していく。その後の第5楽章〈牧歌 嵐の後の喜ばしい感謝の気持ち〉とセットで聴くと、晴れの日が恋しくなるかもしれない。

    Beethoven: Symphony No. 6 in F Major, Op. 68 "Pastoral": IV. Gewitter, Sturm. Allegro

    5. 武満徹:雨の樹素描Ⅱ―オリヴィエ・メシアンの追憶に―

    武満徹は雨や水にまつわる作品を多く書いており、《雨の樹素描Ⅱ》もその一つ。武満が敬愛したメシアンへの追悼の意が込められていると同時に、大江健三郎の小説『頭のいい雨の木』からインスピレーションを得て書かれている。

    ピアノならではのクリアな響きが活かされ、大小さまざまな透き通った雨粒が「雨の木」の葉に滴る様子が思い浮かぶ。静かに雨の日を堪能したい時に聴きたくなる1曲だ。

    Takemitsu: Rain Tree Sketch II

    6. プーランク:歌曲集《カリグラム》より〈雨が降る〉

    詩人・アポリネールの詩集『カリグラム』は、詩の言葉が連なっているだけでなく、その文字が絵画のように配置されるという独特の表現がなされていて、文学と他ジャンルの芸術が融合したアート作品だといえる。そこに収録されている「雨が降る」も同じく絵画のように表現されており、言葉が窓に滴る水のように配置されているのがおもしろい。

    プーランクはこの詩を採用した。気まぐれな雨のような短い序奏から始まり、雨が降り出したり、さらに暗雲が立ち込めたりするかのように、音楽は豊かな広がりをみせていく。「聞いてごらん、雨が降っているのを。後悔と蔑みが古い音楽に涙をこぼす間に」――雨にまつわる情景や比喩に、憂鬱さが漂っている。

    Poulenc: Calligrammes – Sept Mélodies sur des poèmes de Guillaume Apollinaire: 4. Il pleut

    7. ヴィヴァルディ:フルート協奏曲 第1番《海の嵐》

    嵐の日の海を想像してみてほしい。強い風に荒れ狂う波を想像する人が多いのではないかと思うが、それが雅に表現されたのがこの作品だ。上下を激しく行き交うフルートのパッセージから、海上が激しくしける様子が思い浮かぶ。その明るい作風から、むしろ嵐に動揺する海を軽々と乗りこなす優雅さすらも感じさせる。弦楽器や管楽器などのコンツェルトを多く書いてきたヴィヴァルディの本領の見せどころとも言える、華やかな作品だ。

    Vivaldi: Concerto in F Major for Flute & Strings, Op. 10, No. 1, RV 433 "La tempesta di mare":…

    8. グローフェ:組曲《グランド・キャニオン》より第5曲〈豪雨〉

    世界遺産に登録されているアメリカの大峡谷、グランド・キャニオン。この壮大な姿をグローフェは鮮やかな描写で表現した。第1曲〈日の出〉に始まり、第2曲〈赤い砂漠〉、第3曲〈山道を行く〉、第4曲〈日没〉と続き、最後は第5曲〈豪雨〉で締められる。

    轟くような激しいティンパニとシンバルの音、新たな地割れをもよおしそうな強い金管楽器の叫び、生き物たちが怯え右往左往しているような弦楽器や木管楽器の高音、効果的に用いられているウインド・マシーン。自然の恐ろしさが、多様な音の重層で表現されている。梅雨の時期に聴くには荒々しいかもしれないが、日常生活では味わえない自然の迫力を感じられることだろう。

    Grofé: Grand Canyon Suite: 5. Cloudburst

    9. シューベルト:歌曲集《美しき水車小屋の娘》より第10曲〈涙の雨〉

    さすらう若者が、旅をして訪れた町の水車小屋の美しい娘に一目惚れするものの、狩人に奪われ自ら命を絶つ――歌曲集《美しき水車小屋の娘》は、全20曲を通して悲劇的な物語が歌われる。

    第10曲〈涙の雨〉は、若者と彼女が二人きりで過ごすひとときが歌われる。彼女を目前にして、若者は口を開くことができず、小川に映る彼女を見つめるばかり。そんな彼に小川は「こっちにおいで」と呼びかけ、彼はなぜか小川に涙をこぼす。彼女はそれを見て「あら、雨が降ってきたわ。家に帰ります」と口を開く――。

    曲の終盤、それまで穏やかだった曲調は突如陰影をみせる。小川からの意味深な呼びかけと、ふとこぼれる涙(=雨)。歌曲集全体を通して、悲しい雨の行方を追いながら、この後の展開に想像を巡らせてみてはいかが。

    Schubert: Die schöne Müllerin, D. 795: No. 10, Tränenregen

    10. チャイコフスキー:幻想序曲《テンペスト》

    「テンペスト」は「嵐」を意味する。シェイクスピアが書いた『テンペスト』は、魔術で嵐を生じさせることで復習を目論むミラノ大公プロスペロー、そして彼を国から追い出し復讐を狙われている弟・アントニオとナポリ王アロンゾーたちの物語。チャイコフスキーは、この作品を元にロマンチックかつ劇的な作風で音楽を書いた。

    曲の中盤に、嵐の描写が登場する。大きく振りかぶるような風を表現するような弦楽器や、それに乗じて急かされるような木管楽器、恐ろしさを象徴するような印象的な旋律を服金管楽器。さまざまなモチーフが絡み合うことで、海上に巻き起こる嵐の激しさは一層増している。ドラマチックな雰囲気を味わいながら雨を堪能したい時に聴きたい作品だ。

    Tchaikovsky: The Tempest, Op. 18, TH 44

    Written By 音楽ライター 桒田 萌



  • 水野蒼生、最新インタビュー:ニュー・アルバムで表現する“POST ROMANTIC”とは

    水野蒼生、最新インタビュー:ニュー・アルバムで表現する“POST ROMANTIC”とは

    心地いい風が吹く、5月の宵。4年ぶりの開催で人々を熱狂させたクラシック・フェス「ラ・フォル・ジュルネTOKYO 2023」にフィナーレが近づいていた。

    地上広場には人々が結集し、青く照らされたキオスクステージに現れる人を待っている。ある人は待ちきれずに笑い合い、ある人は遠くで乾杯しながら。やがて、声援に応えながらやってきた彼がDJテーブルに触れると、マックス・リヒターの幻想的な音が紡ぎ出される。その陶酔はしかし、ベートーヴェンの《運命》によって断ち切られた。腕を振り上げる水野と、それに応える観衆たち。それは、見たことのないクラシックの姿だった。

    クラシカルDJにして指揮者、水野蒼生。交響曲やオペラの名曲を、大胆な手法で現代化してきた彼は先日5月24日、初のオリジナルアルバム『HYPER NEO POST ROMANTIC』を発表した。新たな表現に踏み出す音楽家のこれまで、そしてこれからを聞いた。高野麻衣さんによるインタビュー。


    恩師との出会い

    ラ・フォル・ジュルネ(以下LFJ)には、10年間毎年、毎日通っていました。だからデビュー後、はじめて出演オファーをいただいたときは胸がいっぱいでしたね。(アーティスティック・ディレクターの)ルネ・マルタンさんからも直接メッセージをいただきました。ルネさんもDJが趣味であることを知っていましたから余計に嬉しかったですし、今日もLFJの会場で話せることが幸せです。

    ――階下から、生演奏のベートーヴェンが響き渡るガラス棟の一室で、楽しげに水野は笑った。ザルツブルク・モーツァルテウム大学で指揮を学び、首席で卒業。在学中の2019年、ドイツ・グラモフォンからクラシック音楽界史上初のミックスアルバム『MILLENNIALS -We Will Classic You-』でデビュー。多彩な経歴のはじまりとなる恩師との出会いもまた、このフェスでのことだという。

    Aoi Mizuno / Not So Long Time Ago

    中一のとき『のだめカンタービレ』のドラマがはじまり、毎週夢中で見ていたんです。ちょうどヴァイオリンをはじめてクラシックで生きていくぞ、と思いはじめた時期。指揮者という職業を知って感動し、コンサートでも指揮者ばかり見るようになりました。そんな時、LFJで井上道義先生の指揮に出会った。そして『なんだこれは!』と衝撃を受けたんです。

    ――翌年、15歳になった水野はさっそく、当時オーケストラ・アンサンブル金沢の音楽監督だった井上が開催していた指揮者講習会に参加する。参加資格は「15歳から30歳くらいまで、ソナチネ以上のピアノが弾けること」だけだった。

    あの人が教えてくれるなら飛び込んでみようと、迷いはありませんでした。当然最年少で、僕の上は22歳の指揮科の学生さん。まったく未経験だった僕はよくも悪くも浮いていたので、先生にかわいがってもらいました。講習会には高校3年間通い、文字通り手取り足取り『指揮とは何か』を教えてもらった。最初でありながら、自分の指揮の8割を形づくっている大きな経験です。

    その後、都内の私立音大に半年間通ったのですが、強烈な経験のあとでしたからね(笑)。枠にはめられることに違和感があって、留学を決意しました。元々海外で勉強したいという夢はあったので、それが早まるだけだと。ディスクユニオンのクラシック館でバイトしながらドイツ語学校に通い、満を持してザルツブルクへ。5年間、本格的に指揮者の勉強ができたこともまた、自分の糧になっています。あちらではオペラの価値が一番高いので、歌うことを学ばせてくれた。声楽のレッスンも必修なんですよ。

    ――学びの場に限らず、自分が居心地のいい環境で、最高のパフォーマンスをしたいという思いが、つねに水野の中にはある。在学中にDJをはじめたのは、仲間たちとの新しい企画が発端だった。

    一時帰国しているとき、ライヴハウスで爆音ピアノリサイタルをやる『東京ピアノ爆弾』という企画を考え、ピアノを弾かない自分が音楽を伝える手段として編み出したのが、クラシカルDJのスタイルでした。クラシック音楽っていう畑があるとしたら、その隣ちょっとあいてるよね? 耕させてもらうね? という気持ちでした。

    耕すことで、そこには外の世界との接続点や、人の流れができるんじゃないかって。僕はたぶん、指揮する行為が好きというより、音楽そのものが好き。“クラオタ”だから、それを人に伝えたいんですよね(笑)。物心がついたときにはレッスンしてた、という多くのアーティストとは感じ方が違うと思う。指揮は一つの手段であり、選んだ理由は、音楽を一番俯瞰して見れる職業だから。そう考えると、指揮もDJも手段の差でしかなかったんです。

    ――愛するクラシック音楽を伝えたい。ルネ・マルタンがその思いをLFJに託したように、水野もまた「クラシック音楽の民主化」をマニフェストにしてきた。

    今のクラシック音楽業界って、たぶん10年前とは全然景色が違いますよね?友人である角野(隼斗)くんや、反田(恭平)さんをはじめ同世代のスターがいて、どんどん新しい取り組みをはじめています。『のだめ』やLFJ、そして道義先生のような先駆者がいたからこそ変化してきたクラシックのよさを、もっと同世代に伝えたいんです。でも、少し前ではジャンルを飛び越えて活動していると、この業界は縮こまってるようにも感じられて、そこを何とかしたいという思いが高まっていました。

    人生が激変した出来事

    そんなとき、『東京ピアノ爆弾』の会場にちょっとゴツめのお兄さんがやってきて名刺を差し出された。拝見すると、まさかのユニバーサル。ぜひオフィスでお話をということで伺うと、『じつはグラモフォンが今年120周年なんです。DJ MIXアルバムを作りませんか?』と。完全にドッキリだと思いますよね(笑)。

    ひとまずデモをと言われたのでデモを作って、社長にご挨拶もしたのですがまだ腑に落ちない。学生だったので一度ザルツブルクに戻ったのですが、今度はアルバム発売に向けてプロモーションをしたいから、とエアチケットを送っていただいた。その飛行機の座席に座ってようやく『ああ、これはもうドッキリじゃない』と納得しました。それくらい劇的に、人生が激変した出来事でした。

    Photo: Daiki Tateyama

    ――日本国内での仕事のため半年間大学を休学した水野は、同レーベルのマックス・リヒターとの出会いなどで多くの刺激を受けた。その後大学を無事卒業し、いざ本格始動というタイミングで、世界をパンデミックが襲う。

    2枚目のベートーヴェン・アルバム『BEETHOVEN -Must It Be? It Still Must Be-』のプロモーションは、すべてリモートになりました。自分のバンドで出演予定だったLFJも中止に。でも今考えれば、あの年あのアルバムを出せていなかったら、僕は何もできなかった。少なからずベートーヴェン・イヤーの活動ができたから、ベートーヴェンがいてくれたからこそ年を越すことができたという、感謝に似た実感がありました。

    水野蒼生/Symphony No.5 1st Movement (LIVE at WWW)

    ――3枚目のアルバム『VOICE - An Awakening At The Opera -』が発売されたのは、そのちょうど一年後のことだ。「オペラと歌曲の現代的アップデート」を試みたこのアルバムで、水野は様々なジャンルで活躍するヴォーカリストをフィーチャリング。シューマンの危うさを見事に表現した〈献呈 feat. 君島大空〉や、友とタッグを組んだ表題作〈VOICE Op.1 feat. 角野隼斗〉で話題を呼んだ。

    水野蒼生 feat. 角野隼斗「VOICE Op.1」Teaser

    「1枚目でDJ MIX、2枚目でシンフォニーの拡大解釈を試みて、3枚目は何をやるか考えたとき、迷わず『歌』を選びました。留学時代に学んだ、クラシックの中核としてのオペラに、僕なりにいつか取り組みたいと思っていたからです。オペラは、19世紀以前の聴衆にとっては最大のエンターテインメント。現代ではよくミュージカルにたとえられますが、僕の感覚では映画館に近いんです。毎日やってて、行けば何かしら見られて、市民に開かれているもの。歌われている楽曲もじつはポップです。

    サウンドさえ現代的にすれば、そのまま今のポップミュージック、ポップカルチャーとして受け入れてもらえるんじゃないかと感じてトライしました。ゲスト・シンガーたちのファンがオペラを聴いてくれたことも嬉しかったですが、一番の収穫は、それと逆の現象が起きたこと。クラシック・ファンの方々がROTH BART BARONいいね、君島大空いいね、とインディーロックのアーティストに関心を持ってくれたことです。アルバムが交易地点になってくれた。これをきっかけに、僕自身もさまざまなジャンルへと活動の場が広がりました」

    ――『VOICE』で得た手ごたえから、水野の中に生まれたのが「自分自身のサウンド」への好奇心だった。

    クラシックは再現芸術であり、『VOICE』まではそれしかやっていませんでした。角野くんに弾いてもらった〈VOICE Op.1〉は初めての自作曲ではありますが、アルバム全体を通してテーマにしたロマン派の時代――僕の好きなリヒャルト・シュトラウスやドビュッシーの音楽のマッシュアップのような作品です。角野くんのよさを引き出せるようメロディとコードだけを渡してお願いし、そこに彼が好きなラフマニノフ的な要素も加えてくれた。

    Voice Op. 1

    あの時代のスターたちのエッセンスをぎゅっと詰め込んだ感じの曲ですから、自分で書いたという実感はあまりなかったんです。じゃあ、自分のサウンドは何だろうというところに興味がわいてきたんです。ゼロから何かを作ったら、僕は何を生み出すんだろう。それを知りたいと思いました。

    第4弾アルバム『HYPER NEO POST ROMANTIC』

    ――そうして生まれたのが、第4弾アルバム『HYPER NEO POST ROMANTIC』。ポスト・クラシカルならぬ「ポスト・ロマンティック」をコンセプトに、水野が全曲の作詞作曲をしたオリジナルアルバムである。

    Photo: Daiki Tateyama

    テーマは、クラシック音楽の柱であるロマン派。僕は、そのはじまりはベートーヴェンだと思っているんです。彼こそがゲームチェンジャーで、そこから現在まで続いていると。ベートーヴェン以前の音楽は、教会と宮廷のためのもの。だから主語が“He“なんです。しかし、ベートーヴェンははじめて『俺の音』を世界に発信した。はじめて、音楽の主語が“I”になったんです。

    やがてそれに感化された人たち――シューベルトだったりリストだったり、自分の音を求める人たちが続いた。彼らの心境みたいなものが、現在の自分とぴったり重なったんです。作曲家たちのためにアレンジした『彼の音』から、『俺の音』への問いかけに変化した気持ち。それを表現するなら、テーマは『ロマン派』であるべきだなと。

    ――言葉どおり、アルバムは交響詩のように壮大なサウンドスケープと、私小説のように親密な没入感をあわせもち、私たちの胸に迫る。それはまさしくロマン派の世界観。同時に、現代の若者を描いた映像作品のようでもある。透き通った映像が目に浮かぶと伝えると、水野は大きく頷いた。

    おっしゃるとおり、架空の映画音楽だと思って作ったんです。自分ではそれを〈夜の群像劇〉って呼んでいます。夜は、感情が露わになる時間であり、メタファーがある神秘的な時間です。ロマン派はもともと感情がダダ洩れの世界だから、夜が似合う。そう思って、さまざまなメタファーを群像劇のように並べました。

    作曲をはじめる前に、一週間くらいでセルフライナーノーツを先に書き上げたんですが、おかげで、自分自身を客観的に見ることができたなという気がします。詩をしっかり描いたのも初めてだったのですが、リルケの詩やヘッセの小説、あとはランボーあたりを読み漁って、その空気感をまとって一気に書きました。

    音楽的には、コルンゴルトの存在が大きいです。〈Umi〉はドビュッシーの交響詩《海》の一節を無限ループさせたものですし、彼が愛憎したワーグナーも外せないし、それだけロマン派の音楽は広大なんだと思います。

    ――ロマン派は一般的に、19世紀から20世紀の転換期にかけて巨大化し、第一次大戦前で衰退したとされている。しかし、じつは現代にしっかり生き延びているというのが水野の持論だ。

    ロマン派はしだいにハイコンテクストなものになり、ナチズムなんかも影響しながら少しずつ拒否されるようになり、十二音技法だ、ヒンデミットだ、ストラヴィンスキーだ、という方向に変わっていった。でも僕は、ロマン派はハリウッドの映画音楽として生き延びたと思う。鍵はコルンゴルト。彼がアメリカに亡命したとき、ロマン派そのものも亡命した。

    コルンゴルトが生き延びさせたロマン派を、ジョン・ウィリアムズが引き継いでハリウッドのベーシックにし、ハンス・ジマーなども結局、その後継者なんです。僕は恐竜も好きなのですが、恐竜もまた巨大化を続け、時代の変化に合わせられなくなって絶滅しますよね、でも一部が鳥に進化して、今も空を飛んでいる。二つは一見関係なさそうだけど、確実に繋がっている。それと同じです。

    ――4曲目〈The chemist dreams.〉と8曲目〈In paradism〉にはそれぞれ、ボロディンとフォーレも引用されている。

    4曲目の引用は、ボロディンの遺作で未完の曲。グラズノフが編曲して出版されてるんですが実はこれを日本初演したのが僕なんです。学生オケでやったんですが、ものすごく思い入れのある曲。8分の5という拍子感覚で、ここまでグルーヴィーな作品はなかなかないと思います。8曲目の〈In paradism〉はフォーレのレクイエムを下敷きに創作しました。この楽曲、初演時ものすごく批判されたんですよね。本来、従来のミサの中には存在しないものでした。

    The chemist dreams.

    でも誰かを弔うときに、悲しみの中にもせめて救いがあってほしいとフォーレは考え、意図的に“楽園にて“と呼ばれるこの曲を付け加えた。アルバムのエピローグをどうしようかと考えたときに、僕もやっぱり、最後には救いがあってほしいと思った。だからこそこの曲しかないなと。そしてそれを前作時にも参加してもらったchamiさんに歌ってもらいました。それまで内省的な世界からこの〈In paradism〉で現実世界に戻ってくることが伝わるように、効果的にノイズで演出しました。

    In paradisum

    ――ノイズや曲間の秒数までにもこだわる姿勢は、過去にポスト・クラシカル作品を創ろうと思っては断念した経緯もあるという。

    ポスト・クラシカルというのは、マックス・リヒターが言葉遊び的に生み出した名前で、マックス自身も『クラシックのポスト(次、後)』だとは思ってはいないそうです。僕自身、クラシックとは違う場所にあるものだと思う。クラシックの特徴を一言で表すならタイム感だと、僕は思うからです。ハーモニーや構成は他のジャンルにもありますが、タイム感はクラシックだけのもの。

    たとえばクラシックでは、旋律に合わせてものすごく緻密にBPMが揺らぎますよね。一方、ポップスではBPMは固定され、揺らぐのはメインの旋律だけです。旋律にあわせてすべての要素が揺らぐのは、クラシックの一番の魅力だと思う。そのタイム感を作るための息遣い、間の取り方、構成の作り方っていうのが、指揮をしているときは一番大事になるんです。

    ――そうした学び、そしてたくさんの出会いを、水野はアルバムに凝縮している。

    Spectacle

    5曲目の〈Spectacle〉は、バンドでも一緒にやっているギタリスト、bejaに歌詞ではない詩(ブックレット所収)を送って共作した特別なもの。彼自身、ピアノ科を修士まで出ながら現代音楽の作曲をしていて、バンドでギターも弾くという僕と似たポジションの人間で、強いシンパシーがあります。6曲目の〈reins〉は、南雲愛美さんという20代前半の詩人によるポエトリー。

    reins

    以前『蒼生さんが詩になって走ってきたので送ります』とLINEで詩をもらったことがあって、それが素晴らしかった。ちょうど〈Umi〉を書いているとき、その情景にイントロがほしいと思い、曲を渡してお願いしたら1時間くらいで返ってきた。言葉の力を邪魔しないよう、音楽は抑えて仕上げました。今回は、オケの楽譜もかなり無茶なものだったのですが、いつも一緒にやってるメンバーだからこそしっかり意図を汲んでくれて、本当に満足のいくレコ―ディングができました。

    Umi

    ――なんて濃厚な舞台裏だろう。ある意味即興的で、誰一人欠けても生まれない、新しいロマン派の世界。まるで音楽史の1ページから抜け出たようなドラマさえある。

    ずっと、自分自身のシグネチャーになるサウンドがほしかったんです。このアルバムを通して、この音でやっていきたいと思える『音』を見つけられた。これまで“クラシック音楽の民主化“を一番のマニフェストにしてきました。そのうえで、今こそ自分自身が創り手になっていい時代なんじゃないかと思えたのです。見つけた『自分の音』が『クラシック』から脈々と、さらに未来へとジャンルを問わず繋がっていく音楽として、たくさんの方に受け入れてもらえたらと願っています。

    ――アレンジから作曲へ。内省から解放へ。音を見つけた音楽家の歓びが、アルバムからこぼれ落ちる。言葉の一つ一つに、感情が生きている。これが〈交響曲第1番〉だとしたら、次はどんな音楽がこの世に生まれるのだろう。21世紀に新しく生まれたロマン派の今後が、楽しみでならない。

    Written & Interviewed By 高野麻衣


    ■コンサート情報

    水野蒼生 「HYPER NEO POST ROMANTIC」リリース記念単独公演

    日時:7/21(FRI.) OPEN 18:00/START19:00
    場所:WALL&WALL at 表参道
    出演:水野蒼生+RASEEN(機械三重奏編成)
    ゲスト出演:chami / 南雲愛美

    チケット発売:6/10よりイープラスにて発売開始
    主催:水野電氣交響楽団

    ■リリース情報

    水野蒼生『HYPER NEO POST ROMANTIC』
    2023年5月24日発売
    CD / Apple Music Spotify

    ■アーティスト情報


    水野蒼生

    クラシカルDJ / 作曲家 / 指揮者
    2018年に歴史最古の名門音楽レーベル「ドイツグラモフォン」から史上初のクラシカルDJ(クラシック音楽専門のDJ)としてメジャーデビュー。DJとして同レーベルが主催する革新的なイベント「Yellow Lounge」の東京およびベルリン公演に出演したほか、世界最大級のクラシック音楽フェス「ラ・フォル・ジュルネ」の東京(2019年 & 2023年)、ナント(2020年)に出演。指揮者としては葉加瀬太郎氏のオーケストラツアー(2021年 & 2022年)に帯同し二度全国を周る。

    2021年に自身のバンド「水野電氣交響楽団」を結成、渋谷のライブハウスWWWにて開催したワンマンライブはソールドアウトとなった。2021年4月から2022年9月までNHKラジオ第一にてレギュラー番組「水野蒼生のミライのクラシック」パーソナリティを担当。これまでにクラシック音楽を再定義する革新的アルバムを3枚リリースし、3rdアルバム「VOICE -An Awakening At The Opera-」では角野隼斗、ROTH BART BARON、君島大空各氏ほかをゲストに迎え、さまざまな界隈で高い評価を得る。

    2023年5月には自身が提唱する “超現代的新ロマン主義” をコンセプトにした初のオリジナルアルバム「HYPER NEO POST ROMANTHIC」をリリース。オーストリア国立ザルツブルク・モーツァルテウム大学の指揮専攻第一ディプロム(学部相当)を首席で卒業。

    Twitter: @aoi_mizuno Instagram: @aoi_mizuno_official



     

  • ドビュッシー〈月の光〉:傑作の背後にある物語

    ドビュッシー〈月の光〉:傑作の背後にある物語

    ドビュッシーの作品の中で最も愛されているピアノ曲〈月の光〉にまつわるエピソードを探っていく。

    〈月の光〉はドビュッシーの作品の中で、おそらく最も愛されているピアノ曲だろう―この楽器のために彼が作曲した作品数の豊富さからしても、このことは極めて多くを物語る。〈月の光〉は《ベルガマスク組曲》の第3曲(いわゆる緩徐楽章)であるが、組曲中の他曲を超えた独自の生命力を獲得している。しかしこの曲は、この題名を有する唯一無二の存在ということではない。

    Lang Lang – Debussy: Suite bergamasque, L.75: III. Clair de lune

    ドビュッシー〈月の光〉:傑作の背後にある物語

    ドビュッシーは、実際には3つの〈月の光〉を作曲している。その着想は、ポール・ヴェルレーヌが編んだ詩集『艶なる宴(Fêtes Galantes)』にある一遍の詩に因み、この詩集もまた、ジャン=アントワーヌ・ヴァトー(1684~1721年)の絵画に触発されたものである。ドビュッシーはこの詩を含む6つの詩を、まずは1882年、そして再び1891年に音楽にした。〈月の光〉のピアノ曲はもともと1890年に作曲され、1905年に改訂された。

    象徴主義の精神

    ヴァトーの絵画は、牧歌的な雰囲気の中での宮廷生活や恋愛を様式化し、繊細に描出したもので、描かれた人々はコメディア・デラルテの登場人物(アルルカン、ピエロ、コロンビーナなど)の仮面で仮装していることもある。

    ヴェルレーヌはこうした仮装が持つ暗黙の隠された欲望の雰囲気を感じ取り、19世紀後半の象徴主義の時代に持ち込んだ。象徴主義とは、何事も額面通りに受け取ることはできないとする、芸術・文学におけるムーブメントである。私たちが知覚するものは全て、何か他のものの象徴もしくは隠蔽でしかない。物事の核心に到達するには、私たち自身の心が、潜在意識と繋がりを持たなければならないと考える。

    「あなたの魂は選ばれた風景 魅力的な仮面師やベルガマスク師が リュートを奏で踊っているが 幻想的な仮装の下では憂いているかのよう」と、ヴェルレーヌは「月の光」に記す(既にお気づきのように、ドビュッシーのピアノ組曲全体のタイトルはここに由来する)。詩は次のように続く―「彼らは“短調”で 人生と愛の勝利を歌いつつ 幸せを決して信じていないように見え 彼らの歌は穏やかな月の光に溶け込み  “悲しく美しい”月の光は 木々の鳥たちに夢を見させ 大理石の彫像の間では 大噴水が恍惚に啜り泣く」

    この詩の終わりには、私たちは最初の一行が意味したところを忘れてしまっているかもしれない。この絶妙で物憂げな光景の全てが、実は詩人の愛する人の魂の中にあるのだ。それはどういう意味か?それは、この曲を聞く私たち一人一人の解釈に委ねられる。

    ドビュッシーの音楽に、この詩が聴こえるか?

    おそらく、ある程度までは。というのも、この曲には元々〈感傷的な遊歩道〉という全く別のタイトルが付けられていた。これもまた、ヴェルレーヌ『サテュルニアン詩集(Poèmes saturniens)』に因んではいる。しかし、ドビュッシーがより描写的かつ明瞭な〈月の光〉に変更したのは、おそらくそうするに足る理由があったからだろう。この曲は、この詩の持つ繊細さ、荘厳な中にも哀しみと美しさが混ざり合った微妙な暗示を共有しており、あの啜り泣く噴水を彷彿とさせるような中盤の“ブルーノート”は、作品全体を貫く雰囲気を表現している。

    解説動画の中でラン・ランは、〈月の光〉の絵画的な特徴を強調しており、ドビュッシーは「世界で最も美しく、芸術的な映画を生み出した」と喩えている。

    曲の構成は主に3つに分かれる。まず、囁くようなメロディーから始まり、自由にラプソディックな3連符から豊かで静かなハーモニーへと拡散していく。中間部では、前述の“ブルー”ノートが特徴的な新しいメロディーが、波打つような伴奏に重なる。これが、穏やかなクライマックスを迎えた後に、高音域で演奏される最初のテーマへと戻るに連れて音楽は収束していく。中間部の回想が短いコーダを形成し、曲は冒頭のような見上げる瞑想のうちに閉じられる。

    私にも演奏できる?-レッスン

    ピアノのテクニックという面では、〈月の光〉はドビュッシーの他の曲よりも比較的シンプルだが、独自の複雑さがある。特に、鍵盤のタッチとサウンドの質、主に静かで落ち着いた色彩の中での、ダイナミクスの微妙なグラデーションに注意を払う必要がある。

    Lang Lang – Debussy: Clair de Lune (Track by Track)

    ※字幕なしの動画(英語)となります。

    ドビュッシーの〈月の光〉の冒頭部分は、木々の隙間から、“おそらく半月”を垣間見るようで、時折、明瞭さを増していく、とラン・ランは語る。冒頭部分での、彼のペダルの興味深い使い方に注目して聞いて欲しい。「ペダルを使うと、あの空間の感覚が作り出せる」と彼は示唆している。

    〈月の光〉の中間部で、ラン・ランは、“雲が月を追いかけている”時の“朧げ感”を楽しんでいる。柔らかい最初の小節の後、低音から音が強まり、高音が少なくとも一時的に輝きを増すと、新しい色彩が現れる。これこそ、この曲を解釈する上で、私たちが喜んで目指すべきディテールの豊かさなのである。

    ドビュッシー自身による〈月の光〉演奏方法のアドバイス

    興味深いことに、〈月の光〉の演奏方法について、ドビュッシー自身によるアドバイスも残されている。ピアニストのモーリス・デュメニルは、かつてこの作曲家のもとを訪れて指導を受け、学んだ内容を記事にまとめた。ドビュッシーは序盤の3連符があまりに厳密な拍子で演奏されることを望んでおらず、“全般的な柔軟性”があるべきだとした。デュメニルは更に、作曲者が彼に対して「始める前に2つのペダルを踏むことで、倍音が重なり合った瞬間に振動するように」とアドバイスしたという。

    中間部の、この曲の中で最も感情表現が豊かになる瞬間に向かうところについて、ドビュッシーは彼に、大袈裟にクレッシェンドやルバートをつけたりせず、凛とした表現にするように、つまりイタリア・オペラの過剰さを示唆するものは全て避けるように!と助言した。ドビュッシーは中間部を次のように表現した―「左手のアルペジオは、弦楽器の背景とともにハープを演奏しているかのように、流動的で、まろやかで、ペダルに溺れなければならない」。完璧である。

    推奨録音

    ドビュッシーの〈月の光〉は、ラン・ランのアルバム『ピアノ・ブック』に収録されている。このアルバムは、ラン・ランが幼少期にピアノを初めて弾くきっかけとなり、そこから世界的なスターダムへと導いた作品集である。ラン・ランは、「私の素晴らしい教え子たち、そして私と同じようにピアノを愛する世界中の全ての友人たちに、このアルバムを捧げます」と語った。

    Written by uDiscover Team


    ■リリース情報

    ラン・ラン『ピアノ・ブック』
    2019年3月29日発売
    CD / iTunes /Amazon Music / Apple Music / Spotify


  • 現代最高峰のジャズ・ピアニスト、キース・ジャレットによる未発表クラシック録音が発売決定

    現代最高峰のジャズ・ピアニスト、キース・ジャレットによる未発表クラシック録音が発売決定

    ジャズ・ピアニスト、キース・ジャレットの未発表クラシック録音『C.P.E. バッハ:ヴュルテンベルク・ソナタ集』が7月5日(水)に日本盤リリースすることが発表された。

    C.P.E.バッハの「ヴュルテンベルク・ソナタ」は、1742年から43年にかけて書かれ、ベルリンのフリードリヒ大王の宮廷でC.P.E.バッハに師事したヴュルテンベルク公爵カール・オイゲンに捧げられました。1744年に出版され、バロックと古典派の間の時代を代表する音楽的傑作とされている。

    1994年5月に自宅スタジオで録音され約30年間眠っていた今回の録音は、「ヴュルテンベルク・ソナタ」全6曲を収録。「チェンバロ奏者による『ヴュルテンベルク・ソナタ』を聴いて、ピアノ版のための可能性が残されていると感じた」とジャレットはコメントしている。初期C.P.E.バッハ作品の特質である、音楽の穏やかな遊び心、微妙で突然のテンポの変化、並外れた波打つような発明…これらすべてのソナタの表現的な意味合いを、現代最高峰の即興演奏家でもあるキース・ジャレットは瞬時に同調し見事に表現している。

    キースが本作を録音したのは、C.P.E.バッハの父親であるJ.S.バッハの音楽を好んで演奏していた時期のことで、『J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻』(1987年2月録音)、『J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲』(1989年1月録音)、『J.S.バッハ:フランス組曲』、キム・カシュカシャンとの『J.S.バッハ:ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ集』(ともに1991年9月録音)といったアルバムがECM NEW SERIESから過去に発表されている。

    これと並行して、キースはゲイリー・ピーコック、ジャック・ディジョネットとの通称スタンダーズ・トリオで活動を継続しており、ジャズ・ピアニストとしても円熟期を迎えていた。本作の録音からわずか3週間後には、このトリオはニューヨーク・ブルーノートで歴史的な3夜連続公演を行い、その演奏は6枚組CDボックス『アット・ザ・ブルーノート:ザ・コンプリート・レコーディング』として発表された。

    尚、本日、アルバムから「ソナタ 第1番 イ短調 1. Moderato」が先行デジタル配信されている。


    ■リリース情報

    キース・ジャレット『C.P.E. バッハ:ヴュルテンベルク・ソナタ集』
    2023年7月5日発売
    CD / iTunes /Amazon Music / Apple Music / Spotify



     

  • チェリスト、佐藤晴真『歌の翼に~メンデルスゾーン作品集』リリース記念。YouTubeでミニコンサート生配信が決定

    チェリスト、佐藤晴真『歌の翼に~メンデルスゾーン作品集』リリース記念。YouTubeでミニコンサート生配信が決定

    ミュンヘン国際音楽コンクールチェロ部門において日本人として初めて優勝する快挙を果たした25歳のチェロ奏者、佐藤晴真のサード・アルバム『歌の翼に~メンデルスゾーン作品集』の発売を記念して、5月15日(月) 19時30分より、ユニバーサル ミュージック公式YouTubeチャンネルにてミニコンサートの模様が生配信される事が決定した。

    ユニバーサル ミュージック公式YouTubeチャンネル

    https://www.youtube.com/c/universalmusicjapan

    ミニコンサートでは、アルバム『歌の翼に~メンデルスゾーン作品集』からの楽曲を、佐藤晴真のチェロと、ピアニストの久末航との演奏で披露される。さらに、メンデルスゾーン楽曲の魅力やアルバム制作秘話などのトークも予定されている。

    アルバム『歌の翼に~メンデルスゾーン作品集』は、演奏される機会の少ないソナタから、美しい旋律をもつ協奏的変奏曲、メンデルスゾーンの最も有名な楽曲「歌の翼に」、ピアノ独奏のための「無言歌」のチェロ版まで、メンデルスゾーンの様々な側面、魅力を垣間見ることができる内容となっている。


    ■リリース情報

    佐藤晴真『歌の翼に~メンデルスゾーン作品集』
    2023年4月12日発売
    CD / iTunes /Amazon Music / Apple Music / Spotify

    ■アーティスト情報

    佐藤晴真
    2019年、ミュンヘン国際音楽コンクール チェロ部門において日本人として初めて優勝して一躍国際的に注目を集めた。18年にはルトスワフスキ国際チェロ・コンクール第1位および特別賞を受賞。第83回日本音楽コンクール チェロ部門第1位および徳永賞・黒柳賞など受賞多数。バイエルン放送響はじめ国内外の主要なオーケストラと共演しており、リサイタル、室内楽でも好評を博している。20年には名門ドイツ・グラモフォンよりCDデビューし、現在2枚リリース。齋藤秀雄メモリアル基金賞、出光音楽賞、日本製鉄音楽賞受賞。文化庁長官表彰(国際芸術部門)。現在、ベルリン芸術大学在学中。使用楽器は宗次コレクション貸与のE. ロッカ1903年。



     

  • ヴァイオリニスト、ヒラリー・ハーンの新作『イザイ:6つの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ』発売決定

    ヴァイオリニスト、ヒラリー・ハーンの新作『イザイ:6つの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ』発売決定

    ヴァイオリニスト、ヒラリー・ハーンが新作『イザイ:6つの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ』を7月14日(金)にリリースすることが決定した。本日より「イザイ;ヴァイオリン・ソナタ第6番 ホ長調(マヌエル・キロガ) 」の配信がスタートしている。

    Ysaÿe: 6 Sonatas for Violin Solo, Op. 27: Sonata No. 6 in E Major

    今作は、伝説的なヴァイオリニスト、ウジェーヌ・イザイが作曲したプロ・ヴァイオリニストの登竜門ともいわれる「6つの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 作品27」を収録。この作品が作曲されてから100周年にあたる今年、現代を代表するヴァイオリニストでイザイの孫弟子にあたるヒラリー・ハーンが待望の全曲録音を行った。

    ウジェーヌ・イザイは第一次世界大戦以降、自身のソロ演奏を減らして後世に引き継ぐことを考え、1923年に彼の最も野心的な作品のひとつである6つのヴァイオリン・ソナタを作曲。J.S.バッハ作曲のパルティータをもとに、現代の作曲様式を包含し、ヴァイオリン演奏の未来型を描いたような作品に仕上げた。また、この6曲のソナタはそれぞれ若い世代の演奏家に捧げられていて、この音楽が今後何十年にもわたって優れた演奏家によって繁栄していってほしいというイザイの想いが込められている。

    なお、今年6月、ヒラリー・ハーンは5年ぶりの来日を予定している。ピアニストのアンドレアス・ヘフリガーと共に、全国各地4公演(兵庫、愛知、東京、茨城)で、2曲のベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタを演奏する予定だ。


    ■リリース情報

    ヒラリー・ハーン『イザイ:6つの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ』
    2023年7月14日発売
    iTunes /Amazon Music / Apple Music / Spotify





     

  • ドイツ・グラモフォンのアナログ録音期の録音をコンパイルした高音質仕様による初のコンピレーション・アルバムが発売決定

    ドイツ・グラモフォンのアナログ録音期の録音をコンパイルした高音質仕様による初のコンピレーション・アルバムが発売決定

    今年創立125周年を迎える世界最古のクラシック専門レーベル、ドイツ・グラモフォン。そのドイツ・グラモフォンのアナログ録音期の録音から編纂したSA-CD~SHM仕様(2枚組)による初のコンピレーション・アルバム『SA-CDで聴くドイツ・グラモフォン名録音集』が、2023年7月26日(水)に発売されることが決定した。

    DISC1には、1962年にエフゲニ・ムラヴィンスキー指揮、レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団の演奏により録音された「チャイコフスキー:交響曲第4番から第4楽章」など交響曲・管弦楽曲を収録。

    DISC2には、1970年にヴィルヘルム・ケンプ(ピアノ)、ヘンリク・シェリング(ヴァイオリン)、ピエール・フルニエ(チェロ)による演奏で録音された「ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番《大公》から第1楽章」など室内楽曲・協奏曲・器楽曲・声楽曲を収録。一部抜粋となる楽曲を含め、全22曲がSA-CD~SHM仕様2枚組にコンパイルされている。


    ■リリース情報


    『SA-CDで聴くドイツ・グラモフォン名録音集』
    2023年7月26日発売
    CD



     

  • 車で楽しむドルビーアトモス:“走るコンサートホール”の臨場感を全身で味わう

    車で楽しむドルビーアトモス:“走るコンサートホール”の臨場感を全身で味わう

    没入感のある音楽体験を得られる立体音響技術・Dolby Atmos®︎(ドルビーアトモス)。その名前を耳にしたことがある方も多いのではないだろうか。これまで4回(1回/ 2回/ 3回/ 4回)に渡ってドルビーアトモスの楽しみ方を紐解いてきたが、今回ご紹介するのはイヤホンやサウンドバーの話ではない。そう、タイトルにもある通り、ドルビーアトモスと車についての話だ。

    ドルビーアトモスのシステム(Dolby Atmos for Cars)を搭載した車からは、一体どんな音楽体験を得られるのだろうか。今回はDolby Japan株式会社の飯田泰充さん(ライセンス・セールス 関西支店長)、齊田智輝さん(ライセンス&エコシステム マネージャー)にお話を伺った。記事の後半では実際の試聴レポートを曲ごとにご紹介。門岡明弥さんによるインタビュー。


    ホームシアターならぬ“カーシアター”

    ──前回の取材時に「ドルビーアトモスを搭載した車がある」というお話を伺ってから、ずっと楽しみにしていました。まずは、車で立体音響を楽しめるシステムことDolby Atmos for Carsが生まれた経緯を教えてください。

    飯田:大きなきっかけは、ユニバーサル ミュージックさんを筆頭に音楽レーベルさんでドルビーアトモスによる楽曲の制作が始まり、ストリーミングサービスによりそれらの楽曲が配信されるようになった事だと考えます。加えて自動車業界では“CASE(Connectivity、Autonomous、Service&Shared、Electric)”を軸にした技術開発が大きな流れになっているのですが、”Connectivity”と “Electric”の部分にあたる電気自動車(EV)の普及が追い風になっていると感じています。

    これまでの車と比べて車内の静寂性が向上したり、車をインターネットに繋げられるようになった事と、ストリーミングサービスの普及により非常に多くの音楽や映像コンテンツが流入し車内におけるコンテンツの楽しみ方が広がってきまして。そうして、よりよいカーオーディオ体験をお届けできるのではないか?といった流れによって生まれたのが、Dolby Atmos for Carsです。

    齊田:自動車メーカーの方によると、電気自動車は充電に時間がかかってしまうので、その待ち時間をどうするか……といった意味でもエンターテイメント性を重視する流れが強まってきているみたいです。最近では走りや燃費だけじゃなく、音響のよさも車を選ぶ基準のひとつに含まれてきているそうですよ。

    (写真左:飯田泰充さん、右:齊田智輝さん)

    ──Dolby Atmos for Carsの構想はいつから練られていたのでしょうか。

    飯田:実は6年前、自動車メーカーさんに「ドルビーアトモスどうですか?」って提案したことがあったんですよ。でも、そのときはまだドルビーアトモスはBlu-Rayなど映像コンテンツが中心で音楽には十分対応出来ておらず、また車で音楽を聴く方法が今ほど幅広くなかったので具体的な話には進みませんでした。

    やはり、ドルビーアトモスで配信される楽曲が増えてきたことや、音楽を楽しむための自動車環境が整ってきたことでようやく実現できたシステムだと感じています。

    齊田:近頃はDolby Atmos for Carsを採用していただく自動車メーカーさんが増えてきております。中国メーカーのNIO(ニオ)、理想汽車(リ・オート)をはじめ、メルセデス・ベンツやボルボからもドルビーアトモスに対応した車が販売されており、アメリカや中国を中心に増えている状況です。

    ──国内で買えるのかどうかも、気になります。

    飯田:既にドルビーアトモス対応を発表された海外メーカーさんの車が間もなく国内で販売されると聞いています。まだ日本ではそのような形でしか手に入れられませんが、いずれ国内の自動車メーカーさんともご一緒させていただき、多くの方にDolby Atmos for Carsの魅力をお伝えできたらと思っております。

    21個のスピーカーで臨場感のある音響を

    ──車内をざっと拝見しただけでも、たくさんのスピーカーが設置されていますね。

    飯田:このデモカーには21個のスピーカーが搭載されているのですが、平面スピーカー(7ch)は全て2wayスピーカーになっており、天井に6個のスピーカーを備え、7.1.6chのドルビーアトモス再生環境となっています。

    ──天井にも設置されているんですね。 ちなみにイヤホンやサウンドバーでドルビーアトモスの曲を聴くことと比べて、車で聴くことにはどんなメリットがあると感じますか。

    飯田:車内には実際にスピーカーを設置しているので、そこから発せられる空気の振動をダイレクトに感じられる点が魅力だと思います。さすがに家の中に21個のスピーカーを置こうとすると、なかなか大変ですからね(笑)。もちろんイヤホンやサウンドバーでもドルビーアトモスの臨場感は楽しめますが、そこに本物のスピーカーがあるかないかの違いは大きいと感じています。

    また、車の中っていろんな素材で作られていますよね。素材によって音を反射したり吸収したりするため非常に音作りが難しい環境なのですが、実際には自動車メーカーさんやカーオーディオメーカーさんに車の空間に合わせた最適なチューニングを施していただきます。そのおかげもあり、イヤホンやサウンドバーで聴く以上に“臨場感のある音響”を全身で楽しめる環境が実現できます。

    齊田:このデモカーにはトランク部分にサブウーファーが付いているのですが、なかなかご家庭で本格的なサラウンドな音響を楽しむ機会も多くはないと思うので、それもメリットのひとつですね。

    飯田:あと、クラシックに限らず、ダイナミックレンジの広い曲ってありますよね。たとえば、静かな優しいフレーズがあったり、ドーンと鳴る強烈なフレーズもあったり。それってご家庭で聞くとき、ボリュームの調整が結構大変じゃないですか?

    ──車でクラシックを聴くときには、確かに気になるかもしれません。特にピアノ協奏曲なんかですと、オーケストラのトゥッティとピアノのソロパートでは音の聴こえ方がずいぶん違いますしね。

    飯田:そうですよね。もともと車内というパーソナルな空間では家庭内ほど音量を気にする必要は無いという事に加えDolby Atmos for Carsならひとつひとつの音がちゃんと聴こえるように最適化されているため、フレーズによって細かく音量を調整する必要もほとんどありません。ダイナミックレンジの広い曲を聴くときも、ストレスフリーに楽しんでいただけると思いますよ。

    Dolby Atmos for Carsを味わってみた

    お話を伺ったうえで、実際にDolby Atmos for Carsを体験させていただいた。クラシックをはじめとした7曲を流していただいたが、その圧倒的な臨場感に驚きを隠せなかった。

    車の中を縦横無尽に動き回る音。上から下に落ちてきたり、遠くから近づいてくるように聴こえたり……。車の広さは変わっていないのに、曲によっては物理的な空間以上に車が広く感じられたのは実に不思議な感覚。目を瞑って聴くと、まさか自分が車の中にいるとは全く思えない。まさしく、リスニングルームさながらの感覚だと言える。

    特に、録音したホールが持つ響きの違いを感じられたことには、本当に驚いた。音が空間に溶けていくグラデーションのような音響をはっきりと捉えられるため、車の中でありながらも世界各地のホールに足を運んでいるかのような気持ちになる。大袈裟かもしれないが、もはや“音の細胞”が目に見えてくるような音響……とでも言えばいいのだろうか。

    今回聴かせていただいた7曲全てに異なるよさを感じられたが、中でも以下の3曲は大きな違いを感じられたのでご紹介する。できればDolby Atmos for Carsを実際に体験していただきたいところではあるが、まずはスマホとイヤホンを使ってドルビーアトモスの空間的な音響の魅力を味わってみてほしい。

    J.S.バッハ:《2つのヴァイオリンのための協奏曲》BWV1043より第3楽章(ヤーノシュカ・アンサンブルによる編曲)

    ヤーノシュカ・アンサンブルによって変貌を遂げた、J.S.バッハの作品。ドルビーアトモスで聴いてみたい曲として毎回この曲を挙げてきたが、今回車の中で聴いてみて、改めて“クラシカルな響き”を尊重している作品であるようにも感じられた。ジャズ・セッションを思わせる緊張感やグルーヴ感と、クラシカルな響きのコントラストがたまらない!

    ドビュッシー:《ベルガマスク組曲》より第3曲〈月の光〉

    ドビュッシーが生み出した作品の中でも、特に有名な1曲。空間に音が消えていく美しさに、思わず息を呑んだ。今回聴いた7曲の中で、最もホールにいる感覚を覚えたのはこの作品かもしれない。
    何がそんなによかったか。ひとことで“ピアノ”という楽器から音が発せられていることに違いはないのだが、各音域がそれぞれ異なるスピーカーから聴こえるため、まるでオーケストラを聴いているかのような色彩感を感じられたのだ。ホールの響きに溶け込みながらも、各声部の表現がスッと耳に入ってくる感覚が心地よく、バレンボイムが持つ弱音の美しさや透明感もより感じられた。

    ベートーヴェン:《交響曲第7番》より第1楽章

    バレエ音楽を思わせるリズムに明朗快活なメロディが特徴的だが、ひとつのリズムが執拗に繰り返されつつも全く飽きの来ない構成力にベートーヴェンの手腕が光っている作品。この曲で特に印象に残っているのは、圧倒的な“人数”を感じられた点だ。ただ音数が多いのではなくて、ひとりひとりの息遣いまで感じられたというか。炊き立てのお米みたいに音の粒立ちがよく、舞台の上にいる“人”が見えてくるようだった。生演奏さながらの生き生きとした熱に、胸を打たれる。

    車でクラシックを聴く楽しさが倍増する

    今後Dolby Atmos for Carsが普及してきたら、車を走らせなくとも音楽を聴く・映画を観るためだけに車に乗る……といった楽しみ方が生まれるのではないだろうか。それに、クラシック音楽は車の走行音等のノイズがある環境では聴きづらかったため、このストレスを解決できる点もやはり魅力的だと感じた。走行環境・車種によって聴こえ方に多少の違いがあるかもしれないが、これまで以上に車でクラシック音楽を聴く楽しさが倍増することは間違いないだろう。

    多くの国産車に実装される日が、待ち遠しい!

    Interviewed, Written & Photographed By  門岡明弥


    ※Dolby、ドルビー、Dolby AtmosおよびダブルD記号は、アメリカ合衆国とまたはその他の国におけるドルビーラボラトリーズの商標または登録商標です。



     

  • チャールズ国王とカミラ王妃の戴冠式の音楽をすべて収録したアルバム、デッカ・クラシックスよりリリース

    チャールズ国王とカミラ王妃の戴冠式の音楽をすべて収録したアルバム、デッカ・クラシックスよりリリース

    2023年5月6日に執り行われた、英国王チャールズ3世とカミラ王妃の戴冠式のすべての場面を収めたアルバム『The Official Album of the Coronation of Their Majesties King Charles III & Queen Camilla』(英国王チャールズ3世とカミラ女王の戴冠式—公式アルバム)が式典当日にリリースされた。1000年以上の歴史を持つ戴冠式が式典当日に全世界でデジタル配信が実現したのは、今回が史上初となる。

    本アルバムは、35年間で500枚以上の優れた録音を制作し、グラミー賞にもノミネートされたプロデューサー、アナ・バリー氏によって制作。ウェストミンスター寺院に192本のマイクを設置し収録されたもので、英国王チャールズ3世が自ら編成した式典のプログラムと、新たに委嘱した12曲が収められている。

    バリトン歌手のサー・ブリン・ターフェル、ソプラノ歌手のプリティ・イェンデなど、イギリスを代表するアーティストが参加し、伝統音楽と現代の音楽が融合したものになっている。

    式典でひときわ注目を集めたのは、大英帝国勲章も受勲している英国の作曲家、アンドリュー・ロイド・ウェバーがこの日のために書き下ろした戴冠式賛歌「Make A Joyful Noise」。英国王立空軍のファンファーレ・トランペッターズが奏でるオープニングとエンディングのファンファーレ、ウェストミンスター寺院聖歌隊の歌声と、戴冠式オーケストラの伴奏によって録音されている。


    ■リリース情報


    『The Official Album of the Coronation of Their Majesties King Charles III & Queen Camilla』
    2023年5月6日リリース
    iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


  • ジョン・ウィリアムズが30年ぶりの来日。日本が誇るサイトウ・キネン・オーケストラと共演

    ジョン・ウィリアムズが30年ぶりの来日。日本が誇るサイトウ・キネン・オーケストラと共演

    円盤式蓄音機(現在のレコードの原型)を発明し、特許を取得したドイツ出身のアメリカ人エミール・ベルリナーが1898年に創立した世界最古のクラシック・レーベル=ドイツ・グラモフォン。

    ドイツ・グラモフォンはこれまでにヘルベルト・フォン・カラヤン、レナード・バーンスタイン、小澤征爾、アンネ=ゾフィー・ムターといったクラシック音楽を代表する素晴らしいアーティストたちと芸術的な関係を築き、近年ではベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ボストン交響楽団、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ロサンゼルス・レコーディング・アーツ管弦楽団を指揮した4つの作品を発表したジョン・ウィリアムズに至った。

    そのドイツ・グラモフォンが、創立125周年を迎える今年、世界各国で記念コンサートの開催を予定している同レーベルが、日本でもガラ・コンサートをサントリーホールで実施することが決定した。

    演奏は、偉大な教育者であり桐朋学園創設者のひとりである、故齋藤秀雄の没後10年となる1984年に、弟子の小澤征爾の発案により、門下生100余名が集まり開催したメモリアルコンサートが礎となって生まれたオーケストラで、現在は総監督である小澤征爾と共にセイジ・オザワ 松本フェスティバルの中心を担うサイトウ・キネン・オーケストラ。

    © Michiharu Okubo

    出演アーティストは、映画音楽、そしてコンサート音楽の第一人者としてアカデミー賞受賞5回、グラミー賞受賞25回、ゴールデン・グローブ賞受賞4回など輝かしい受賞歴を誇る伝説的な作曲家/指揮者のジョン・ウィリアムズが自身がこれまでに作曲した楽曲のプログラムで、そしてセントルイス交響楽団音楽監督、ニューワールド交響楽団芸術監督であり、2023年よりオランダ放送フィルハーモニー管弦楽団の首席客演指揮者にも就任する世界的指揮者でジョン・ウィリアムズの長年の友人でもあるステファン・ドゥネーヴが指揮を行う。

    ジョン・ウィリアムズは小澤征爾がボストン交響楽団の第13代音楽監督を務め、マサチューセッツ州西部のタングルウッドの音楽祭を開催していたころから親交の深い盟友で、1993年に来日公演を行って以来30年ぶりの来日公演となる。

    ステファン・ドゥネーヴは2022年にはワシントン・ナショナル交響楽団との共演で、ジョン・ウィリアムズの90歳を祝う公式バースデー・ガラ・コンサートの指揮者を務めるなどジョン・ウィリアムズからの信頼が厚く、さらにはセイジ・オザワ 松本フェスティバルへも過去2回登場しており、サイトウ・キネン・オーケストラとも縁が深い指揮者だ。

    日本が誇る世界的なオーケストラの一つであるサイトウ・キネン・オーケストラと、偉大なるジョン・ウィリアムズとステファン・ドゥネーヴとの奇跡の共演に注目したい。


    ■公演情報

    < 公演概要 >
    タイトル:ドイツ・グラモフォン創立125周年Special Gala Concert
    (英:Deutsche Grammophon 125 Special Gala Concert)
    日時:2023年9月5日(火)19:00開演予定
    会場:サントリーホール 大ホール(〒107-8403 東京都港区赤坂1-13-1)
    主催:ドイツ・グラモフォン
    共催:ユニバーサル ミュージック合同会社 / 公益財団法人 サイトウ・キネン財団
    チケット価格:未定
    演奏:サイトウ・キネン・オーケストラ
    指揮:ジョン・ウィリアムズ
    ステファン・ドゥネーヴ
    曲目:後日発表
    関連リンク
    ユニバーサルミュージック ドイツ・グラモフォン125周年コンサートHP
    ドイツ・グラモフォン公式サイト(英語)

    お問合せ:ユニバーサル ミュージック合同会社
    〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-5-8 神宮前タワービルディング
    ユニバーサル ミュージック合同会社 ユニバーサル クラシックス & ジャズ
    TEL:03-4586-2341 FAX:03-4586-2389



     

  • 粗品 作詞作曲「夕さりのカノン feat.『ユイカ』のMVが明日解禁、粗品と『ユイカ』のコメントも到着

    粗品 作詞作曲「夕さりのカノン feat.『ユイカ』のMVが明日解禁、粗品と『ユイカ』のコメントも到着

    粗品が作詞作曲を担当、明日、4/26(水)にリリースされる「夕さりのカノン feat.『ユイカ』」のミュージックビデオが同日19:00にYouTube“粗品 Official Channel”にてプレミア公開されることが決定した。「夕さりのカノン feat.『ユイカ』」は、現在、NHK Eテレで放送中のアニメ「青のオーケストラ」のED曲となっている。

    「夕さりのカノン feat.『ユイカ』」MV 4/26(水)プレミア公開

    粗品 – 夕さりのカノン feat.『ユイカ』

     

    「青のオーケストラ」はヴァイオリンの元・天才少年、青野 一(あおのはじめ)を主人公に、高校のオーケストラ部を舞台にしたストーリー。みずみずしい青春のドラマとクラシック音楽の演奏シーンが見どころとなっている。原作コミックは2023年1月に第68回「小学館漫画賞」少年向け部門を受賞し、待望のアニメ化ということで大変注目を集める作品。

    今回の楽曲に関して粗品は以下のように語っている。

    「良い曲ができました。自分がこんな綺麗な音楽を手掛けられた事、自分でも信じられません。楽曲を通して、キラキラした一度きりの青春を感じて欲しいです。MVは「青のオーケストラ」ファンの方と一緒に楽しめるような映像に仕上がりました。

    個人的にはレーベルを設立して、本気で音楽を始めようと思った時の夢の一つが「アニメソングを作ること」だったので大変嬉しいです、感慨深いです。また今回syudouさんに編曲して頂いたり、演奏ではとんでもないメンバーの方々に参加して頂いたり、裏方の皆さんの尽力も熱く、えぐい1曲になりました。今までで一番たくさんの人に聞いて欲しいと思う曲が完成しました。」

    また、ヴォーカルを担当した『ユイカ』は次のようにコメントしている。

    「青のオーケストラ」は原作をいつも楽しく拝見していたので、こうして作品に携われてとっても嬉しいです! しかも、作詞作曲を粗品さん、編曲をsyudouさんという豪華すぎる方々が作り上げた楽曲に私の声が聴こえてくることがいまだに信じられません、本当に幸せです…。

    この楽曲を初めて聴いた時、音楽って“幸せ”を与えてくれるんだなと、改めて実感しました。その気持ちを込めて、幸せな気持ちに浸りながら大切に歌いました。ぜひアニメと共に沢山聴いてくださると嬉しいです!」

    なお、楽曲のリリースを記念して、26日(水)からデジタルキャンペーンが実施されることも決定。

    粗品がオンラインで悩み相談に答えるイベントに参加できるチャンスが得られるLINE MUSIC再生キャンペーンや粗品の粗品がもらえるTwitter楽曲シェアキャンペーンなど、要チェックの内容となっている。

    「夕さりのカノン feat.『ユイカ』」LINE MUSIC 再生キャンペーン

    「夕さりのカノン feat.『ユイカ』」Twitter 楽曲シェアキャンペーン

    ついに明日リリースされる今作。クラシックとポップスと高校生の青春が混じりあい、凄まじいパワーを持つ楽曲となった。今後の粗品のさらなるプロジェクトに期待は高まる。

    ■『青のオーケストラ』アニメ情報

    アニメ「青のオーケストラ」
    2023年4月9日(日)放送スタート!
    Eテレ 毎週日曜 午後5:00~5:25
    <再> 毎週木曜 午後7:20~7:45

    原作:阿久井 真
    監督:岸 誠二 シリーズ構成:柿原 優子 キャラクターデザイン:森田 和明
    音響監督:飯田 里樹 音楽:小瀬村 晶
    アニメーション制作:日本アニメーション
    制作・著作:NHK NHKエンタープライズ 日本アニメーション

    ©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション


    ■リリース情報

    粗品 夕さりのカノン feat.『ユイカ』
    2023年4月26日リリース

    ■アーティスト情報

    粗品

    1993年 大阪府生まれ。
    2歳からピアノを始め、13歳からはギター、高校からはDTMに目覚める。
    芸人として数々の受賞歴を誇る傍ら、アーティストとしての活動も広がり、2020年にはボカロ楽曲を発表。「#みどりの唄」は公開と同時にTwitterトレンド入りを果たすなど話題となった。2021年は音楽活動の本格化に向け、自身のレーベル“soshina”を設立。
    同年3月にレーベル“soshina”第一弾楽曲「乱数調整のリバースシンデレラfeat.彩宮すう(CV: 竹達彩奈)」をリリース。アップされるや否や、タイトルとMVの主人公のキャラクター名がTwitterトレンドの7位と8位にそれぞれランクインした。
    また、2021年11月には太鼓の達人20周年アンバサダーに就任。太鼓の達人20周年記念ソング「大好きな太鼓の音 feat. どんちゃん」を書下ろし、話題を呼んだ。

    『ユイカ』

    18歳女性シンガーソングライター。
    2021年にTikTokに投稿した「好きだから。」がティーンから絶大な共感を生み、
    10代2万人が選んだ“恋したくなるラブソング“1位にも選ばれるほど人気が急上昇。
    人気は日本にとどまらず、アジア各国のSpotifyバイラルチャートインを果たしヒット。
    青春の光景をリアルタイムで伝えるアーティストとして熱い注目を集めている。



  • 佐藤晴真インタビュー:メンデルスゾーンの“自由さ”に満ちたサード・アルバム

    佐藤晴真インタビュー:メンデルスゾーンの“自由さ”に満ちたサード・アルバム

    2019年に行われたミュンヘン国際音楽コンクール(チェロ部門)にて日本人初の優勝を飾った若手チェリスト、佐藤晴真。
    その翌年である2020年にドイツ・グラモフォンよりCDデビューしたことも記憶に新しいが、今年4月12日にサード・アルバムとなる『歌の翼に~メンデルスゾーン作品集』をリリースした。
    デビュー・アルバムの『The Senses〜ブラームス作品集』、セカンド・アルバムの『SOUVENIR~ドビュッシー&フランク作品集』に続く本作を通して、彼が伝えたい想いとは。門岡明弥さんによるインタビュー。


    統一感のある選曲の理由

    ──1作目はブラームス、2作目はドビュッシーとフランク、そして今回はメンデルスゾーンの曲に取り組まれています。今回の選曲について、お話を伺いたいです。

    リサイタルの曲を組むときもそうなんですけれど、いつもプログラミングは相当悩みます。今弾ける曲を寄せ集めたプログラムには絶対したくなくて、全体を見たときにプログラムそのものに意味を成せるかというか、統一感のある曲を集められるかというか。そんなことを考えながら、CDであってもひとつの国や作曲家の作品にフォーカスすることを心がけていて。

    たとえば、メンデルスゾーンの作品の中でチェロ・ソナタの第2番は有名でも、第1番はあんまり知られていないんですね。『無言歌』もピアノのために書かれた作品62 は有名ですが、チェロとピアノのために書かれた作品109は広く知られていません。そんな知られざる名曲を知っていただくという点でも、ひとつのテーマで選曲を行うことには意味があるんじゃないかなと思っています。

    ──今回のアルバム名。いままでの2枚と違って『歌の翼に』という“曲名”になっている点も印象的です。

    やはりブラームスやドビュッシーと比べて、メンデルスゾーンは取り上げられる機会がそこまで多くない作曲家です。声楽曲の《歌の翼に》は日本で特に知られている作品なので、このアルバムが多くの方にメンデルスゾーンの魅力を知っていただくための入り口となったらいいな……という想いも込めて、このタイトリングにしました。

    メンデルスゾーンの“自由さ”に気づいた瞬間

    ──レコーディングは3日間かけて行われたと思います。思い出に残っているエピソードなど伺いたいです。

    いつも3日間かけてレコーディングを進めていくのですが、初日って1番難しいんですよね。特に今回は初めてのホールだったので、どんな音を出したらいい音が鳴るか、どういう位置関係で弾いたらバランスよく聴こえるか、試行錯誤しながら進めていきました。あとはマイクと奏者の距離感や、マイクとホールがなじむ時間も必要で。不思議なんですけれど、同じ立ち位置、同じマイクの位置で弾いても、1日目と2日目ではなぜか聴こえ方が違うこともあるんですよね。そんな“場の空気”に慣れるまでの時間が難しくもあり、面白いところでもあるなぁと。今回も、そんな部分が印象に残っています。

    ──初日はどこまで録音を終えられたのでしょうか。

    1日目はソナタの第2番を録って、次の日に第2番の残りと第1番を。そして、3日目に残りの小品を録りました。3日間フルに使って、なんとかギリギリ終えられた感じです。ピアノも非常に技巧的な曲ばかりでしたし、なかなかハードなプログラムでした。

    ──ちなみに今回共演されたピアニストの久末航さんとはこれまでも共演されたことがあるのでしょうか。

    そうですね。最初に共演したのは2019年で、久末くんとヴァイオリニストの北川千紗さんと一緒にメンデルスゾーンのピアノ・トリオ第1番を演奏しました。実はそのときから既にベルリン芸大で一緒だったんですけれど、まだベルリンでは会ったことがなかったんですね。なので、初共演は日本で実現した形になります。

    久末くんはベルリンで行われたメンデルスゾーン全ドイツ音楽大学コンクールで第1位を獲っていますし、彼自身メンデルスゾーンへの理解が本当に深いんですよね。彼のピアノを聴いたときに僕のメンデルスゾーンに対するイメージが全く変わったことも覚えていて、今回のアルバム制作が決まったときには「絶対に彼と弾きたい!」と思っていました。

    ──そうだったのですね。久末さんのピアノによって、晴真さんが持つメンデルスゾーンへのイメージがどのように変わったのか、気になります。

    メンデルスゾーンは英才教育を受けて育ち、本当に頭の切れる人だったみたいなんですけれども、そんな頭の回転の速さや理路整然とした音が久末くんのピアノには滲み出ているんですね。でも、インテリジェンスな細やかさだけではなくて、発想の柔らかさも持ち合わせていて。

    メンデルスゾーンの作品はフレーズのほとんどが4小節ごとのすっきりした構成になっているため、僕自身はかっちりしたイメージを持っていました。ただ、それでいてとにかく音数が多くて大変な曲ばかりなので、これまではピアニストの方に「もっとこういう風に弾いて欲しい」って要求しづらかった部分があったというか、気を使い過ぎて自由さを損なってしまっていたというか……。そんなこともあって、これまでメンデルスゾーンの曲を弾いていてしなやかさを感じたことがありませんでした。

    でも、久末くんと演奏したときに「こんなに自由な曲なんだ!」って初めて気づけたんです。いろんな表現をして、遊んでもいいんだって。なので、今回のレコーディングでもアイデアを止めることなく、終始楽しく演奏できました。

    佐藤晴真が思う、収録曲の聴きどころ

    ──今回録音した曲について、それぞれどんな部分がお好きかお聞きしたいです。曲の聴きどころなども含め、コメントをお願いいたします。

    チェロ・ソナタ第1番 変ロ長調 Op.45

    コンサートホールで弾くための作品というより、サロンで家族と楽しむような暖かさを感じられる作品です。
    全3楽章構成でどれも美しい曲なのですが、特に第3楽章はきれいな水が流れるような美しさを感じられるというか。いちばん最後に第3楽章の最初のメロディが断片的に出てきて、しんみりしてしまうくらい美しく、そして暖かく曲を終える様子が特に気に入っています
    チェロとピアノのためのソナタって大体華々しく終わることが多いので、この終わり方には深い意味を感じさせられますね。第1楽章も含め、美しいメロディばかりなのでぜひ聴いていただけたらなと思います。

    無言歌 Op.109

    この曲も最後は静かに終わるのですが、中間部のアジタートでは激しい曲調になるんですね。その二面性が面白いなと感じています。
    ただ、アジタートの部分も全面的にアジタート!というよりも、内面がよりアジタートで。葛藤や焦燥感というか、心の奥底にある情緒が深く表れているように思っています。
    メンデルスゾーンは裕福な家庭で育った人ではありますが、ユダヤ人の家系であったため、さまざまな葛藤や苦悩を持って生きてきました。彼の生き方と重なる部分がこの作品にはあると感じるんです。

    Mendelssohn: Song Without Words, Op. 109

    歌の翼に Op.34-2

    ファースト・アルバム、セカンド・アルバムにも歌曲を入れたこともあり、今回のアルバムにも同様に歌曲を取り入れました。やっぱりチェロという楽器は人の声に一番近いと言われますし、チェロは僕の声とほとんど同じ音域なので、この楽器で歌曲を演奏することはライフワークのようなものになっていますね。

    Haruma Sato – Mendelssohn:On Wings of Song, Op.34-2(Music Video)

    ──晴真さん、結構声が低いですよね。

    そうですね。チェロと最低音が一緒です(笑)。

    ──そうなのですね。もはや、声を出すようにチェロを弾く……とでも言うのでしょうか。

    やっぱり感覚的にはチェロの音で作品をイメージするというよりも、自分の声でイメージすることの方が多いですね。歌曲だと、なおさらです。
    どういう風に弾けば人の声に近い音になるかとか、歌詞によってどんな単語や子音があって、どんな技術を使えばチェロでそれを再現できるのかとか。そんなことを考えて、どれだけ歌に寄せられるか研究しながら弾いています。

    ──歌曲に限らず、普段の練習時に自分の声で歌ってみることもあるのでしょうか。

    歌曲以外でも、普段からそれはやっていますね。弓が足りなかったり、返さないといけなかったり、ある種の“楽器の都合”を越えてどんな音楽を表現したいか。それを頭でイメージすることがいちばん大切だと思っています。なので、まずは自分の声でイメージを作ってから、チェロでどう表現するか試行錯誤するようにしています。

    協奏的変奏曲 ニ長調 Op.17

    この作品はあまり知られていない曲ではないでしょうか。僕もチェロの作品を調べている中で見つけた作品だったので……。
    いままで演奏会で聴いたこともありませんでしたし、録音している方もそこまで多くなかったので、せっかくメンデルスゾーン作品集を作るならこれも入れたいなぁと思って選曲しました。バリエーションなので基本となるメロディは同じなんですけれども、複雑に変奏されていく様子が面白い作品です。
    メンデルスゾーンの作風自体はシンプルですが、彼の作品が持つ気品やメロディ性はこの作品にも同様に備わっていると感じます。

    Mendelssohn: Variations Concertantes, Op. 17

    チェロ・ソナタ 第2番 ニ長調 Op.58

    メンデルスゾーンの交響曲第4番《イタリア》と通じる勢いを持つ作品だと感じます。でも、それでいて勢いだけでもないし、メロディの美しさだけでもないというか。一見、勢いと美しさは全く別物だと思うのですが、なんだかそれらがうまく調和しているんですよね。
    よく考えると不思議な曲調だなぁと思っています。メロディが持つ息の長さと、伴奏系の細やかさがここまでマッチするんですもの。

    ──確かに、この音数でありながらもメロディと伴奏系がお互いを邪魔していないというか。

    本当にそうなんですよ。僕が特に好きなのは、第4楽章です。
    第3楽章が静かに終わって、第4楽章の冒頭で一気に激しさを帯びるんですね。その後に現れる主題を弾いているときに、ものすごく幸せで楽しい感情になります。

    第1番のピアノ・トリオを弾いたときも、最終楽章の終わり方に別れを惜しむような感情を覚えたんですよね。かといって、悲しさだけではないし、新しい環境に対してのワクワク感もあって……。なんだろう、メンデルスゾーンの曲の最終楽章を弾くときは、複雑な気持ちになりますね。

    たとえば、アメリカの卒業式って日本の卒業式と違って、帽子を投げるじゃないですか。そういう、寂しさはありつつもみんなでお祝いするようなフェスティバル感って言うんですかね。う〜ん、パッと言葉で説明するのが難しいんですけれども。

    ──単なる“寂しさ”でもないと言いますか。

    そうですね。日本の卒業式はみんなしんみりして、『旅立ちの日に』を歌って涙する……みたいな感じだと思うのですが(笑)。
    そういう感じとは違って、いろんな気持ちが入り混じった“別れ”とでも言うんですかね。

    ──今お話を伺っていて、少なくともこう……。後ろ向きな別れではなく、前を向いた“別れ”というニュアンスが近いようにも思えます。

    悲しさだけを見せない。それだけを見せるのではなくて、一緒に頑張っていこうねとか。自分にもエネルギーをもらったりとか、逆にみんなにもあげたりとか。特にこのチェロ・ソナタ第2番の最終楽章には、いろんな“愛”を感じるなって。そんな感覚がいちばんしっくり来るかもしれません。

    ──晴真さんが伝えたいこと、ひしひしと伝わってきます。でも、言葉にするのが難しいこの感じ。

    難しいですね。言葉にできないからこそ、音楽で表現する部分もあるというか……。

    ──だからこそ、このアルバムをみなさんにも聴いていただきたいですね。

    そうですね(笑)。だからこそ、僕は音で表現しているんだって。言葉で説明できたら、これはこういう音楽ですよって説明していると思うので。それができない次元の気持ちを音で表現しているんだなと、感じます。

    リフレッシュにはサウナとゲーム

    ──お忙しい日々が続いているかと思います。アルバムのお話から外れてしまうのですが、いつも本番前はどのように調整を行っているのでしょうか。愚問ですが、緊張とかされますか。

    もちろんしますよ(笑)ただ、緊張したときは1回寝てリセットします。寝ると緊張がほぐれるんですよ。

    ──今度真似してみようかな……。でも、寝ると体が固まっちゃいませんか。

    弾く楽器によってその辺りの感じ方は違うと思うんですけれども、僕は大丈夫ですね。あとはお腹すいたまま舞台に立たないとか、そんなことを意識しています。お腹が空いた状態で弾いた本番にはいい思い出がないので、ウィダーインゼリーはいつも持っていくようにしています。

    ──そうなんですね。また、休日はどのように過ごして調子を整えているのでしょうか。趣味などについても伺いたいです。

    最近はよくゲームをしています。コールオブデューティとか、主にFPS系のゲームをやっていますね。

    ──まさかのCODですか、なんだか意外です。じゃあどこかの誰かは、画面の向こうにいる相手が晴真さんと知らずにオンラインで戦っていた……なんてこともあったわけですね。

    そうなります、結構ガチでやっていますよ(笑)。
    あとはグーグルマップを見るのが好きなので、素敵なカフェや温泉宿を調べることも多いかな。あ、あと最近サウナにもハマっているんですよね。

    ──サウナ!僕もよく行きます。

    個室サウナが家の近くにあるんです。自転車で10分くらいのところにあるので、1時間とか1時間半のコースで籠もっています。疲れたな〜と思うときに行って、水風呂も入って、リフレッシュしていますね。ユニバーサルミュージックの近くにも個室サウナがあるので、今度ここで打ち合わせしたあとに行ってみようとも思っています(笑)。

    前まではマッサージに通っていたのですが、やっぱり施術していただく人の腕によるところもあるし、10,000円近くかかってしまうので……。個室サウナなら1時間半で5,000円もしませんし、自分のペースでゆっくりできるから、芯からリラックスできるなぁと感じています。

    いつか通る道にJ.S.バッハが

    ──最後に、今後チャレンジしていきたい内容について教えてください。

    J.S.バッハの《無伴奏チェロ組曲》のアルバム制作にはいつか挑戦したいです。リサイタルの最初にバッハを弾くことでしか取り組んだことがなかったので、いつかはオール・バッハ・プログラムの演奏会を開くときが来るんじゃないかとも思っていますね。

    あとは、現在リサイタルやコンチェルト、室内楽のお話をいただいているんですけれども、今後室内楽に取り組む際、弦楽四重奏の作品も入れていきたいなと感じています。弦楽四重奏は、ソナタや独奏曲などのジャンルと比べて全く違う世界なんですよね。たとえばベートーヴェンですと、彼の人生を全て映し出しているかのような変遷も見られますし、そんな世界もこれからどんどん勉強していきたいです。

    Interviewed & Written By 門岡明弥


    ■リリース情報

    佐藤晴真『歌の翼に~メンデルスゾーン作品集』
    2023年4月12日発売
    CD / iTunes /Amazon Music / Apple Music / Spotify

    ■アーティスト情報

    佐藤晴真

    2019年、ミュンヘン国際音楽コンクール チェロ部門において日本人として初めて優勝して一躍国際的に注目を集めた。18年にはルトスワフスキ国際チェロ・コンクール第1位および特別賞を受賞。第83回日本音楽コンクール チェロ部門第1位および徳永賞・黒柳賞など受賞多数。バイエルン放送響はじめ国内外の主要なオーケストラと共演しており、リサイタル、室内楽でも好評を博している。20年には名門ドイツ・グラモフォンよりCDデビューし、現在2枚リリース。齋藤秀雄メモリアル基金賞、出光音楽賞、日本製鉄音楽賞受賞。文化庁長官表彰(国際芸術部門)。現在、ベルリン芸術大学在学中。使用楽器は宗次コレクション貸与のE. ロッカ1903年。



     

  • NHK Eテレアニメ「青のオーケストラ」。粗品「夕さりのカノン feat.『ユイカ』」がリリース決定

    NHK Eテレアニメ「青のオーケストラ」。粗品「夕さりのカノン feat.『ユイカ』」がリリース決定

    4/9(日)に初回放送を終えた、NHK Eテレアニメ「青のオーケストラ」。ED曲は粗品が作詞作曲をしたということもあり、注目が集まっていた。昨日の放送でED曲の全貌が明らかとなり、SNS等でも大変好評を博している。そんな「夕さりのカノン feat.『ユイカ』」が4/26(水)にリリースすることが決定した。

    「青のオーケストラ」はヴァイオリンの元・天才少年、青野 一(あおのはじめ)を主人公に、高校のオーケストラ部を舞台にしたストーリーで、みずみずしい青春のドラマとクラシック音楽の演奏シーンが見どころ。原作コミックは2023年1月に第68回「小学館漫画賞」少年向け部門を受賞し、待望のアニメ化ということで大変注目を集める作品。キャストには千葉翔也、加隈亜衣、土屋神葉らが参加、演奏キャストとして、世界的ヴァイオリニスト、マリア・ドゥエニャスらの参加も発表され、話題を集めている。

    「夕さりのカノン feat.『ユイカ』」は作品になぞらえて、クラシックのモチーフを多用し、ストリングスも入ったことでゴージャスな作りとなった。そこに透き通るヴォーカルの声が入り、キラキラとした印象を受けるポップソングに仕上がっている。シンガーには18歳女性シンガーソングライターの『ユイカ』を迎えた。また、「うっせぇわ」をAdoに提供し、自身の歌唱曲も多方面で評価されている、シンガーソングライター/ボカロPのsyudouが編曲を担当している。

    ドラムはAnswer to Rememberを率いる傍ら、くるりなど数多くのアーティストのライブ、作品に参加している石若駿。KIRINJIのベースとして活動、他にも多くのアーティストのライブや作品で演奏をするベーシストの千ヶ崎学。あいみょんやSuperfly等のライブや作品に参加しているギタリストの八橋義幸。TVアニメ「ピアノの森」で雨宮修平のピアノ演奏を担当したピアニスト髙木竜馬。そしてNHK交響楽団の選抜メンバーがストリングスを担当。また、「青のオーケストラ」の主人公青野一役の演奏シーンを担当した、ヴァイオリニストの東亮汰も参加している。

    粗品はこの楽曲に関して、『「青のオーケストラ」は原作も拝見しており、今回のお話はとても光栄でした。作品の登場人物がその世界で感じていることを、曲に込めたつもりです。本当に色んな方の協力があってこの一曲が出来上がったんですが、それはまるでオーケストラのようでした。』とコメントをしている。

    クラシックにも造詣の深い粗品が、豪華なミュージシャンと共に高校生の青春をどのように表現するか、非常に楽しみな作品である。

    ■『青のオーケストラ』アニメ情報

    アニメ「青のオーケストラ」
    2023年4月9日(日)放送スタート!
    Eテレ 毎週日曜 午後5:00~5:25
    <再> 毎週木曜 午後7:20~7:45

    原作:阿久井 真
    監督:岸 誠二 シリーズ構成:柿原 優子 キャラクターデザイン:森田 和明
    音響監督:飯田 里樹 音楽:小瀬村 晶
    アニメーション制作:日本アニメーション
    制作・著作:NHK NHKエンタープライズ 日本アニメーション

    ©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション


    ■リリース情報

    粗品 夕さりのカノン feat.『ユイカ』
    2023年4月26日リリース

    ■アーティスト情報

    粗品

    1993年 大阪府生まれ。
    2歳からピアノを始め、13歳からはギター、高校からはDTMに目覚める。
    芸人として数々の受賞歴を誇る傍ら、アーティストとしての活動も広がり、2020年にはボカロ楽曲を発表。「#みどりの唄」は公開と同時にTwitterトレンド入りを果たすなど話題となった。2021年は音楽活動の本格化に向け、自身のレーベル“soshina”を設立。
    同年3月にレーベル“soshina”第一弾楽曲「乱数調整のリバースシンデレラfeat.彩宮すう(CV: 竹達彩奈)」をリリース。アップされるや否や、タイトルとMVの主人公のキャラクター名がTwitterトレンドの7位と8位にそれぞれランクインした。
    また、2021年11月には太鼓の達人20周年アンバサダーに就任。太鼓の達人20周年記念ソング「大好きな太鼓の音 feat. どんちゃん」を書下ろし、話題を呼んだ。

    『ユイカ』

    18歳女性シンガーソングライター。
    2021年にTikTokに投稿した「好きだから。」がティーンから絶大な共感を生み、
    10代2万人が選んだ“恋したくなるラブソング“1位にも選ばれるほど人気が急上昇。
    人気は日本にとどまらず、アジア各国のSpotifyバイラルチャートインを果たしヒット。
    青春の光景をリアルタイムで伝えるアーティストとして熱い注目を集めている。



  • ドイツ・グラモフォン125周年記念、究極の名盤カタログ・シリーズ第1回「アナログ録音期」40タイトルがリリース

    ドイツ・グラモフォン125周年記念、究極の名盤カタログ・シリーズ第1回「アナログ録音期」40タイトルがリリース

    『ドイツ・グラモフォン-THE HISTORY』と題されたクラシック名盤シリーズの第1回「アナログ録音期」40タイトルが、本日ユニバーサル ミュージックよりリリースされた。

    1898年、円盤レコードの発明者エミール・ベルリナーによって設立された世界最古のクラシック専門レーベル「ドイツ・グラモフォン」は今年創立125周年を迎える。その125周年を記念して発売されるカタログ・シリーズ『ドイツ・グラモフォン-THE HISTORY』は、これまで高く評価されてきたアルバムや、歴史的価値の高い作品、巨匠&現役アーティスト達の名盤など、ドイツ・グラモフォンの録音の歴史をたどる100タイトルを厳選。

    今回発売となった第1回「アナログ録音期」シリーズでは、20世紀を生きた作曲家のなかで、もっとも作品が演奏されている作曲家の一人であるリヒャルト・シュトラウスの自作自演集、イタリア・オペラの全てを知り尽くした指揮者のトゥリオ・セラフィンが晩年に古巣のミラノ・スカラ座管弦楽団、合唱団と録音したヴェルディの歌劇《トロヴァトーレ》。さらに、新ヴィーン楽派の作曲家、アルバン・ベルクの20世紀の最も重要なオペラとして世界中の歌劇場のレパートリーに定着した《ヴォツェック》など、名盤40タイトルをセレクト。

    いずれも最良のマスターを使用し、そのポテンシャルをひき出す高音質SHM-CD&グリーン・カラー・レーベルコート仕様が採用されている。なお、第1回シリーズのアルバム・ブックレットには、音楽ライター3名(東端哲也氏、八木宏之氏、門岡明弥氏)が書き分けたわかりやすい新規書下ろしアルバム解説が掲載されている。第2回「デジタル録音期」60タイトルは2023年5月17日(水)にリリースされる予定だ。


    ■リリース情報


    『ドイツ・グラモフォン-THE HISTORY』 100タイトル
    CD

    2023年4月12日(水)発売 第1回 アナログ録音期40タイトル
    2023年5月17日(水)発売 第2回 デジタル録音期60タイトル