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ジョージ・ハリスン『All Things Must Pass』解説:ロック黄金期の名盤ができるまで

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Photo: Barry Feinstein

“名作アルバム”という言葉は、ロック・ミュージック黄金時代のアルバムを描写する際に、あまりにも多く使われている用語だ。 実際、ある人にとっての名作が、別の人にとっては長い間忘れていたアルバムであったりするものだが、ジョージ・ハリスンの『All Things Must Pass』は正に“名作”の1枚であると、矛盾を恐れることなく思う。

“3作目のアルバムは難しい”という古い格言が音楽業界にはあるが、本作はジョージにとって3作目のソロ・アルバムでありながら、困難とは程遠いことが分かる。 1970年11月27日、本作が3枚組アルバムとして最初にリリースされた際、‘ローリング・ストーン’誌のベン・ガーソンは、そのサウンドを「ワーグナー調、ブルックナー風、山頂と広大な地平線の音楽」と描写ししていた。それに異議がある者がいるだろうか?

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『All Things Must Pass』の起源は、1968年11月にジョージがアメリカを訪問した時に遡る。その時、彼はウッドストックに滞在していて、ボブ・ディランと長きに渡る友情を築いていた。それはちょうど、ビートルズ内外でジョージが精力的に曲作りに取り組み、自信を深めるようになっていた時期だ。 1969年初めには、クリームのアルバム『Goodbye』で、ジョージはエリック・クラプトンと「Badge」を共作している。

アメリカーナの影響

1969年にアップル・レコードと契約したビリー・プレストンやドリス・トロイの作品に携わった他、ジョージはデラニー&ボニーのツアーにも参加。このツアーには他に、エリック・クラプトン、レオン・ラッセル、デイヴ・メイソン、ボビー・ウィットロック、カール・レイドル、ジム・ゴードンらが加わっている。こういった経験の全てが、ゴスペルの要素や、後に広く流行して“アメリカーナ”と呼ばれるようになる音楽と並び、ジョージの作詞作曲に影響を与えるようになった。

ジョージの精神的な旅路は、ハレー・クリシュナ運動にも向かっていった。これもまた、やがて『All Things Must Pass』を構成する音のジグソーパズルにとり、重要なもう1つのピースとなる。 1969年2月25日、26歳の誕生日に、ジョージは「All Things Must Pass」のデモと共に、「Old Brown Shoe」および「Something」のデモを録音。 後者2曲はビートルズでレコーディングされたが、何がしかの理由で「All Things Must Pass」はレコーディングに至らなかった。

「All Things Must Pass」は、老子による『道徳経』第23章の一部のティモシー・リアリーによる翻訳を基に書かれたものだ。

All things pass
A sunrise does not last all morning
All things pass
A cloudburst does not last all day
すべては過ぎ去っていく
日の出は朝の間ずっと続くわけではない
すべてが過ぎ去っていく
土砂降りは一日中ずっと続くわけではない

George Harrison – All Things Must Pass (2020 Mix / Audio)

その1ヶ月前にも、ジョージは『All Things Must Pass』の中で特に傑出したもう1つの曲「Isn’t It A Pity」のデモを制作していたが、同曲もまた、なぜかビートルズのアルバムには収録されなかった。

影響力のある協力者

1970年初め、ジョージは自身が書き溜めていた曲のデモを、プロデューサーのフィル・スペクターに聴かせた。具体的には「Isn’t It A Pity」や「Art of Dying」等、 古くは1966年に書かれた曲もあり、また1968年後半のウッドストック滞在中にボブ・ディランと書いた「I’d Have You Anytime」もそこに含まれていた。

アルバム『Get Back』のリハーサル中、ジョージは「All Things Must Pass」や「Hear Me Lord」、そして美しい「Let It Down」といった曲をビートルズの他のメンバーに聴かせて興味を引こうとしたが、彼らはそれを“ビートルズ的な曲”とは見なさなかった。

「Wah-Wah」と「Run of the Mill」の2曲は1969年初頭に書かれたもので、一方「What Is Life」は、ビリー・プレストンがアップルからリリースしたアルバム『That’s The Way God Planned It』を制作していた時、ジョージが共に取り組んでいた際に生まれた曲である。

「Behind That Locked Door」は、1969年の夏、ディランがワイト島フェスティバルのステージに立つ直前に書かれたものだ。 壮大な「My Sweet Lord」は、1969年後半、デラニー&ボニーとのツアー中、ジョージがコペンハーゲンで書いた曲である。

George Harrison – My Sweet Lord

デラニー・ブレムレットがジョージにスライドギターを弾くように頼んだのは、そのツアー中のことだった。ジョージによると、「デラニーは僕にボトルネック・スライドを渡して、デイヴ・メイソンが“Comin’ Home”で弾いていた一節を弾くよう頼んできたんだよ」。それはデイヴ・メイソンがツアーから降りて間もない頃のことであった。 ジョージは「I Dig Love」でスライドギターの初期実験を行っており、そこで独自の音を生み出している。

その他、『All Things Must Pass』の収録曲は、「Awaiting on You All」や、ジョージの自宅フライアー・パークの元々の所有者に捧げた「Ballad of Sir Frankie Crisp (Let It Roll)」、そして「Beware of Darkness」などを含め、1970年前半に書かれたものだ。

本作のセッションが始まる少し前、ジョージはニューヨークでボブ・ディランのレコーディング・セッションに参加していた。そこで「If Not for You」を聴いたジョージは、逆にインスピレーションを受け、『All The Things Must Pass』のセッションが終わりに近づいた頃、ディラン風の「Apple Scruffs」を書き上げた。「Apple Scruffs」は、ビートルズのメンバーに会えることを願いつつ、アップル社のオフィスやアビイ・ロード・スタジオの外をうろついている女の子達に捧げた曲である。

Apple Scruffs (2020 Mix)

本作のレコーディングが開始されたのは、1970年5月後半のこと。ビートルズのアルバムに自身の曲が収録されないことが、ジョージの中では大きなフラストレーションとなっていたため、これほど多くの曲が『All Things Must Pass』に収録されていることも、ほとんど驚くには当たらない。オリジナルの3 枚組LPの3 枚目には『Apple Jam』というタイトルが付けられ、全5曲収録のうち4曲、つまり「Out of the Blue」「Plug Me In」「I Remember Jeep」「Thanks for the Pepperoni」が、スタジオ内で行われてたインストのジャム・セッションとなっている。

ジョージによれば、「このジャム音源に関しては、お蔵入りにはしたくなかったんだが、同時にアルバムの一部でもなかった。それでレーベルも別物にし、一種のボーナス・ディスクとして封入したんだ」とのこと。 5曲目の「It’s Johnny’s Birthday(ジョニーの誕生日)」は、ジョン・レノンの30歳の誕生日を祝うプレゼントで、クリフ・リチャードの「Congratulations」に乗せて歌われている。

George Harrison 'It's Johnny's Birthday' (Official Video)

 

巨大なサウンド

『All The Things Must Pass』の音は非常に大きく、どのトラックに誰が参加しているのか、明確にするのが困難なことがある。 前述のミュージシャン達に加え、本作には、リンゴ・スターやビリー・プレストン、そしてビートルズの『Revolver』のアルバム・ジャケットを手がけたドイツ人ベーシストのクラウス・フォアマンの他、アップル所属バンドのバッドフィンガーのメンバー達がアコースティック・ギターで参加し、サウンド・エフェクトの壁を築く手伝いをしている。

キーボードを担当しているのは、ボビー・ウィットロックとゲイリー・ライト。後者はスプーキー・トゥースの元メンバーで、1970年代後半にはアメリカで大きなソロ・ヒット曲を幾つか飛ばしていた。その他、キーボード奏者として、『Wonderwall Music』にも参加していた、トニー・アシュトンとジョン・バーラムの両者が加わっている。

ドラマー陣には、後にイエスに加入する、プラスティック・オノ・バンドのメンバー、アラン・ホワイトが参加している他、ジェネシス加入前のフィル・コリンズがコンガを担当、ジンジャー・ベイカーはジャム曲「I Remember Jeep」で演奏している。 その他、ナッシュビルのペダル・スティール奏者ピート・ドレイクや、プロコル・ハルムのゲイリー・ブルッカーらといったミュージシャン達が含まれていた。

I Remember Jeep (Remastered 2020)

エリック・クラプトン、ボビー・ウィットロック、ジム・ゴードン、カール・レイドルは、1970年6月14日、ロンドンのストランド地区にあるライシアム・シアターでの公演に出演。ステージに上がる直前に、バンド名をデレク&ザ・ドミノスとすることに決めた。その日、彼らはアビイ・ロード・スタジオで『All Things Must Pass』のセッションを行っており、その際に「Tell The Truth」を録音。同曲は1970年9月に、デレク&ザ・ドミノスのファースト・シングルとなった。このシングルのB面は「Roll It Over」で、これも6月25日に行われた『All Things Must Pass』のセッション中にレコーディングされたものである。ここにはジョージの他、トラフィックのデイヴ・メイソンがギターとヴォーカルで参加している。

Tell The Truth

当初ジョージは、このアルバムを録音するには2ヶ月程しかかからないだろうと考えていたが、結局セッションは5ヶ月間続き、終了したのは10月下旬であった。 このレコーディング中、ジョージの母親は癌で闘病しており、彼女を見舞うため、ジョージは頻繁にリバプールに足を運ぶ必要があった。 ジョージの母親が亡くなったのは、1970年7月のことであった。

プロデューサーとして、フィル・スペクターは少々信頼性に欠けていたため、ジョージはプロダクション作業の大半を自分で手掛けることにした。アルバムの最終的なミキシングは、10月末、フィル・スペクターと共にニューヨークで開始。ジョージはスペクターの仕事に完全に満足していたわけではなかったが、それでも本作の輝きが失われることはない。トム・ウィルクスが3枚のLPを収めるボックスのデザインを担当、フライアー・パーク前の芝生でジョージが4体のノーム人形に囲まれて座っている象徴的な写真を撮影したのは、バリー・ファインスタインだ。

あらゆる場所で観客を魅了する名盤

レコーディングが開始された時点では10月のリリースが予定されていたが、種々の遅れにより、米国での発売は英国から3日後、1970年11月27日となった。 1人のアーティストによる初の3枚組アルバムとなった本作は、世界各国のリスナーを魅了。12月19日付の全米アルバム・チャート(ビルボード)にランクインを果たした後、年明け1971年の第1週から7週間、首位の座を維持し続けた。英国では、“公式”の全英チャートでは最高位4位だったが、NME誌のアルバム・チャートでは7週間1位を記録。本アルバムからのリード・シングル「My Sweet Lord」は、英米両国でシングル・チャート1位を獲得しベスト・セラーとなった。

やがて時代が降るにつれ、この驚異的なアルバムはファンにより一層愛されるようになった。 本作は、1960年代から1970年代にかけ、音楽をあれほどまでに活気づけたのは何だったのか、それについて多くを物語っているようなアルバムだ。素晴らしい歌詞の数々は、当時重要な意味を持っていただけでなく、今日でも人々の共感を呼び起こす。

この先数十年に渡り、新たな世代の音楽ファンが過去を振り返った時、本アルバムは神秘的な地位を占める作品となるはずだ。その制作の過程について説明している文章を読めるということと、実際にこのアルバム聴きながら、その音に包み込まれ、心地よい響きを味わい、今生きている場所がより良い世界だと感じさせてもらえることは、全くの別物である。

『All The Things Mus Pass』は、ジョージの精神的な高まりが表現された真の名作であり、紛れもなく、音楽史上最高のアルバムの1枚、いや2枚、いや3枚である。

Written By Richard Havers



ジョージ・ハリスン『All Things Must Pass』50周年記念盤
2021年8月6日配信

「スーパー・デラックス・エディション(5CD + 1ブルーレイオーディオ)」
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