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21世紀もジャズを最先端な音楽にし続けるブルーノートのアーティスト10組

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ロバート・グラスパーからキャンディス・スプリングス、グレゴリー・ポーターからゴーゴー・ペンギンまで、多くのアーティストたちのおかげで、今年設立80年を迎えた今もブルーノートは時代に即したレーベルであり続けている。

創立80周年を迎えるということは事実ながら、ブルーノート・レコードは単に過去の実績だけで定義されるべきレコード・レーベルではない。無論、その歴史と過去のカタログはジャズ界における奇跡とも呼べるものだが、ジャズという音楽の今日性を維持する上で、先進的なリスナーたちは昔からブルーノートのアーティストたちを頼みにしてきている。

1939年、ドイツ系ユダヤ人移民のアルフレッド・ライオンとフランシス・ウルフがニューヨークに最初のオフィスを構えてビジネスをスタートさせて以来、レーベルはジャズのその時々の位相を反映し、「今」生まれている音楽を形にすることに情熱を注いできた。創業時に使命として掲げたメッセージの中で言明した通り、彼らは「妥協なき表現」のための導き手としての役割を担うことを誓ったのである。スウィングからブルーズ、ビバップ、ハード・バップ、ソウル・ジャズやフリー・ジャズに至るまで、アルフレッドとフランシスの二人はその誓いに常に忠実であり続け、多くのジャズのサブジャンルにおいて、鍵となるアーティストたちのパフォーマンスをレコードの溝に刻み続けた。

その点については、1984年から2010年までレーベルの社長を務めたブルース・ランドヴァルも同様だ。ブルーノートがEMI傘下の1レーベルとして復活したのは彼の功績である。2012年からは、有名プロデューサーであり自身もミュージシャンでもあるドン・ウォズがブルーノートという船の舵取り役となり、先達と同様、彼もまたレーベルの元来からの経営理念を支持している。そして、何より重要なのは、これもまた先達と同様、彼がジャズの伝統を認めながらも、その遺産を拡大し、限界に挑戦し続けている革新的なミュージシャンたちと次々に契約を交わすことで、ジャズのルーツを傷つけることなく、レーベルのラインナップを多様化させている点だ。

ドン・ウォズは、今は亡きブルース・ランドヴァルの時代から、ノラ・ジョーンズロバート・グラスパーという2人の看板アーティストを引き継いだ上で、ドン自らが見出し契約にこぎつけたシンガー・ソングライター、グレゴリー・ポーターという重要人物をラインナップに加えた。21世紀の今日、ジャズを時代に即した音楽として牽引するブルーノートの粋なアーティストたちの中でも、更に最前線に位置するグレゴリー・ポーターは、ジャズ・ソウルのフォーマットを復活させることに成功し、世界中で数多くのレコードを売り上げた。また、彼と共に極めて重要だったのが、もうひとりの革新的なシンガー、ホセ・ジェイムズという新しい血が加わったことだ。彼の変化に富んだスタイリスティックな個性は21世紀の音楽の主流である折衷主義をそのまま反映するものである。

Gregory Porter – Liquid Spirit

 

さらにインストゥルメンタルの分野においては、ドン・ウォズは、アンブローズ・アキンムシーレという才気煥発のトランペッターを引き入れ、更にサックス奏者のマーカス・ストリクランド(彼を擁するバンド、トワイ・ライフはジャズ、ソウル、ヒップホップの境界線を曖昧にしてしまう力を持っている)、ベーシストのデリック・ホッジ、ドラマーのクリス・デイヴと彼のグループであるザ・ドラムヘッズを獲得。そしてつい先頃にも、若きピアニストのジェイムズ・フランシーズと契約を交わしたばかりである。彼らに先んじたレーベル仲間にも、ベナン出身のリオーネル・ルエケ、ベテラン・アフロビート・ドラマーのトニー・アレン、そして未来志向のブリティッシュ・バンド、ゴーゴー・ペンギン等、国際的アーティストたちが名を連ねている。

レーベルとして80周年からその先へと向かおうとしている現在、ブルーノートは長年のリスナーと新参のファンの両方に向けて、絶えずその形を変えつつ、21世紀に適応したジャズの有効性を担うアーティストたちを潤沢に備えている。

今聴くべきブルーノートのジャズ!プレイリストを 今すぐ聴いて、 ジャズを今も色あせさせないブルーノートのアーティストたち10組のリストはこちらをスクロールして読んでください。

 

1. ロバート・グラスパー

14年前にブルーノートと契約を交わしたこのテキサス生まれのキーボードの魔術師は、ブルーノート・デビュー作となった2005年の『Canvas』ではごくストレートなアコースティック・ジャズを演奏していたのだが、その後はジャズ、R&B、ヒップホップなどジャンルを隔てる境界線を先鋭的なアプローチで混沌化させている人物だ。ソロとして、またグループの一員として、ロバート・グラスパーはジャズの現代性維持に貢献しているブルーノート所属アーティストたちの中でも先進的な考えを持った屈指のアーティストである。2012年のジャンルの壁を吹き飛ばすかのような『Black Radio』は、現代アーバン・ミュージックの様々な要素を違和感なく融合させた真の意味で画期的なアルバムで、グラスパーにとっても彼のバンド、エクスペリメントにとっても出世作となった。その後、ロバート・グラスパーウェイン・ショーターハービー・ハンコックといった自らのヒーローと並んで、ブルーノート・オールスターズのアルバム『Our Point Of View』に参加。最近では、スーパーグループ、R+R=NOWを結成し、2018年のアルバム『Collagically Speaking』でヒップホップとR&Bを掛け合わせた脈絡の中にジャズという枠組みを採り入れるアプローチをより深く追求している。

R+R=NOW – Change Of Tone (Audio)

 

2. ゴーゴー・ペンギン

マーキュリー・プライズにもノミネートされたマンチェスター出身のゴーゴー・ペンギンは、確かにジャズ・トリオではあるが、普通のジャズとは一味違う。アコースティック楽器を演奏しながら、彼らの主たるインスピレーションの源はエレクトロニカであり、テクノ、ヒップホップ、ダブステップ、それにフィリップ・グラス的マイクロ・ミニマリズムの要素までもブレンドしてしまう。ピアニストのクリス・イリングワース、ベーシストのニック・ブラッカ、そしてドラマーのロブ・ターナーは個々のミュージシャンとしての技量を誇示するような長いソロはプレイせず、全員でひとつの存在として溶け合い、めくるめく映像的なサウンドスケープを創り出している。彼らが現在までにブルーノートでリリースしたアルバムは2016年の『Man Made Object』と昨年の『A Humdrum Star』のみだが、文字通り画期的なグループとして、彼らをジャズの今日性を維持するブルーノートのアーティストたちのラインナップに加えることには何の異論も出ないだろう。

GoGo Penguin – Raven (Live at Low Four Studio)

 

3. アンブローズ・アキンムシーレ

この比類なき才能に恵まれたカリフォルニア生まれのトランペットがブルーノートに加わったのは2011年、彼が28歳の時で、デビュー・アルバム『When The Heart Emerges Glistening』はリリース直後から批評家から絶賛の声を浴びた。とにかく衝撃的だったのは、アンブローズ・アキンムシーレの、時に昔ながらのホーンと言うよりフルートのようにすら聴こえるゴージャスなトーンと、その楽曲に対する独特のアプローチである。また彼はレコーディングを通して社会的・政治的見解を明らかにするという姿勢を自ら打ち出している。ブルーノートからの4作目のアルバムとなる2018年の『Origami Harvest』は、 ポスト・バップ・ジャズ、ヒップホップとクラシックとの野心的なモザイクであり、一部には歴史的傑作との意見もあるほどだ。最先端のコンテンポラリー・ジャズをお求めなら、この男をチェックしておけば間違いない。

Ambrose Akinmusire – a blooming bloodfruit in a hoodie (Audio)

 

4. ホセ・ジェイムズ

ヒップホップ世代のジャズ・シンガーとして讃えられることの多い、ミネアポリス生まれのホセ・ジェイムズは、2008年に英インディー・レーベルからファーストLP『The Dreamer』でデビューして以来、数々の音楽的変身を遂げている。当時の彼はジョン・ヘンドリックス同様、バップの影響色濃いジャズ・シンガーの灯を掲げているように見えたが、その後10年の間に発表した数作のアルバム(彼がブルーノートと契約を交わしたのは2012年のことだった)を通して、卓越した多才さを見せるようになり、R&Bシンガーとして、ジョニー・ハートマン的なジャズ・クルーナーとして、更にはオルタナティヴ・シンガー・ソングライターとして、ファンキーなポスト・ミレニアムのディスコ野郎として新たな音楽性を追求してきた。ホセ・ジェイムズのブルーノートから5枚目のアルバムとなる2018年の『Lean On Me』は、ソングライティング職人のビル・ウィザースに対するソウルフルなトリビュート・アルバムとなっている。彼の折衷主義は、音楽ジャンルの境界線を無視するという21世紀のブルーノートが志向するところを見事に反映している。

José James – Lovely Day ft. Lalah Hathaway

 

5. グレゴリー・ポーター

カリフォルニア出身で、そのパワフルで表現力豊かな甘いバリトン・ヴォイスと同じくらい、スタイリッシュなヘッドギアを身につけていることで有名なグレゴリー・ポーターは、そのゴスペル色濃い特徴的なサウンドで、いともたやすくソウル・ジャズの美意識を復活へと導いてしまった。モーティマ・レーベルにおける2枚の佳作を経て、2013年に発表したブルーノートでのデビュー作『Liquid Spirit』は、カリフォルニア州ベーカーズフィールド生まれの人なつこいこの男にグラミー賞を与えただけでなく、強大な支持基盤を持つ英国においてプラチナ・ディスクを獲得した。素晴らしいヴォイスとステージでのカリスマ的な存在感を併せ持つグレゴリー・ポーターはスタンダードの教則本ばかりに依存せず、自らペンを振るうことを好むジャズ・シンガーであり、その点においてもジャズの今日性を維持しようと努めるブルーノートのアーティストたちのひとりとして揺るぎない地位を確保している。彼の最新スタジオ・プロジェクト『Nat “King” Cole & Me』は、自らに最も大きな影響を与えたシンガーに対する心温まるオマージュである。

Gregory Porter – Hey Laura (Live At The Royal Albert Hall / 02 April 2018)

 

6. キャンディス・スプリングス

かつてプリンスが「雪をも溶かす」と表現した、スモーキーで官能的な声を持つこのナッシュビル生まれの歌姫がブルーノートに加わったのは、2014年のこと。その2年後に、彼女はソウルとジャズ両方のジャンルの昔ながらの要素を現代的なアプローチで絶妙にブレンドしたデビュー・アルバム『Soul Eyes』で高い評価を受けた。セカンド・アルバム『Indigo』では、敏腕プロデューサーとして知られるカリーム・リギンスの指揮の元、より直截的なヒップホップのヴァイブを導入している。かと言って、キャンディス・スプリングスのソウルフルな持ち味が損なわれているわけではなく、変わらずそれは彼女の魅力の核心にあり続ける。彼女の音楽はブラック・ミュージックの伝統を明確に認識しているものであり、それに加えて革新的かつ斬新な視点を21世紀のジャズとソウルに持ち込んでいると言うべきだろう。

Kandace Springs – Breakdown

 

7. マーカス・ストリックランド

アメリカのジャズ・バイブルであるダウンビート誌において、テナー・サックスの新星と謳われたロイ・ヘインズやデイヴ・ダグラスの元サイドマンであるこのフロリダ生まれの男マーカス・ストリックランドは、2001年から自分の名義でアルバムのレコーディングを行なっていた。彼がブルーノートと契約を交わしたのは2016年で、直後に初めてのセルフ・プロデュース作『Nihil Novi』を発表し、高い評価を得た。ポスト・バップ・ジャズとR&B、ヒップホップの胸躍るフュージョンであるこのアルバムを、彼は自分のバンド、トワイ・ライフと共にレコーディングしている。自身もサックス各種とバス・クラリネットをプレイするマーカス・ストリックランドは、先頃再びトワイ・ライフと組み、ブルーノートからの2作目『People Of The Sun』を制作したが、今作はシンガーのバイラルとラッパーのファロア・モンチをゲストに迎え、アフリカ人たちのディアスポラ(離散)をテーマにしたメディテーション・アルバムとなっている。そして何より、マーカス・ストリックランドの手による様々な音楽表現の違和感のない融合を際立たせるものが、ジャズとヒップホップの間の相互連結と共通地盤でもあるのだ。それここそが、ジャズの今日性を維持しているアーティストたちの多くが生息している場所なのである。

Marcus Strickland's Twi-Life – Alive ft. Jean Baylor

 

8. ジェイムズ・フランシーズ

ブルーノートにおいては最も新参組のひとりであるジェイムズ・フランシーズは、R&Bやヒップホップの言語も流暢にこなすという点においては典型的なアメリカの若手ジャズ・ミュージシャンの多くと同様だ。一方で、彼はサイドマンとして、ローリン・ヒルやホセ・ジェイムズ、コモンナズザ・ルーツといった錚々たるメンツと共演してきた実績の持ち主である。これら2つの別々のジャンルから受け継がれてきた DNAは、昨年末にリリースされた、この23歳の凄腕キーボーディストによる才気縦横なブルーノートからのデビュー・アルバム『Flight』からも十二分に感じ取ることができる。レーベルの同僚で、2015年のニーナ・シモンのトリビュート・アルバム、『Nina Revisted』で共演を果たしたロバート・グラスパーと同じく、ジェイムズ・フランシーズもテキサス州ヒューストンの出身であり、21世紀が20年目へと向かう中で、ジャズの進むべき道を示す先駆者のひとりとなる見込みは十分にありそうだ。

James Francies – Dreaming (Audio)

 

9. デリック・ホッジ

フィラデルフィア生まれのデリック・ホッジは単なるベーシストに留まらず、名のある映画音楽作曲家でありプロデューサーでもある。ポスト・ミレニアムのスタジオ・シーンでは引っ張りだこだった売れっ子セッション・プレイヤーであるデリック・ホッジは、クラーク・テリーからロバート・グラスパー、カニエ・ウェストに至るまで、実に膨大かつ幅広く、2001年以降の数え切れないほどのジャズ、R&B、ヒップホップのレコードに参加している。ブルーノートからも高い評価を得たアルバムを2作出していると同時に、グループR+R=NOWの一員でもある。2013年のデビュー作『Live Today』は様々な影響が織りなす音楽のタペストリーとも言うべき万華鏡のようなアルバムだが、何より大きな功績はジャズとヒップホップの親密な関係をより深めた点だ。彼の2作目となる『The Second』では、斬新なアプローチに洗練された音が加わり、現代においてジャズの今日性を維持するブルーノートのアーティストたちの中で、唯一無二の存在としてデリック・ホッジの足場をしっかりと確保させるものになっている。

Derrick Hodge – The Second (Audio)

 

10. クリス・デイヴ・アンド・ザ・ドラムヘッズ

ブルーノートのレーベル仲間であるロバート・グラスパーやジェイムズ・フランシーズと同じく、ドラマーのクリス・デイヴもテキサス州ヒューストンの出身である。ドラマーだった父親からの影響により、クリス・デイヴは幼い頃からジャズに魅了され、やがて90年代にミネアポリスで活躍したR&Bバンド、ミント・コンディションでプレイすることになる。彼の膨大なレコーディング・セッションの経歴には、アデルやジャスティン・ビーバーディアンジェロ、ロバート・グラスパー、ミシェル・ンデゲオチェロ等々、錚々たる面々が名を連ねている。ザ・ドラムヘッズを率いたクリス・デイヴは、2018年にブルーノートと契約を交わし、ヒップホップとコンテンポラリーR&Bからの影響をジャズに反映させた自らの名前を冠したデビュー・アルバムでキャリアをスタートさせた。様々なジャンルの融合に加え、野心的なポリリズム(対照的リズムの組み合わせ)と絶妙なシンコペーションの使い手で知られるクリス・デイヴは、ブルーノートを現代ジャズ界の最前線に君臨するための助けとなる創意工夫と、音楽に対する探究心の両方を持ち合わせた奇才である。

NEW Chris Dave & The Drumhedz Last Night at The Virgil After the BET AWARDS
Written By Charles Waring


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