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ピート・タウンゼント、ザ・フー『Life House』の変遷と発売、そして名作『Who’s Next』を語る

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The Who in 1971. Photo: Gijsbert Hanekroot/Redfern

ザ・フーの『Who’s Next/Life House』超豪華ボックスセットは、このグループの最も由緒ある楽曲群の起源となるものを聴くという夢のような機会をファンにもたらした。だが同時に、一人の男が自分の声を聞いてもらおうとする、その前代未聞の構想を理解してもらおうとする壮絶な闘いの記録でもある。

その男とは、もちろんピート・タウンゼント。壮大な野心と先見の明を宿す『Life House』プロジェクトの実現に挑んだその奮闘ぶりは、彼に絶望と心身の衰弱をもたらすこととなった。155トラック(内89トラックが未発表)を収めた10枚組CDや複数枚アナログ盤セットに宿るこのボックスセットの栄光は、とてつもなく洞察に富んだ社会的未来像の予測に対する新たな見解を照らし出すのだ。

その過程で我々は、後にザ・フーの代表曲となる「Won’t Get Fooled Again」や「Baba O’Riley」がいかにしてこの厳しい試練の時期から生まれ、バンドの最高傑作の一つ『Who’s Next』に収録されることとなったか、を聴くこととなる。

この新たなボックスセットは、タウンゼントによる100ページに及ぶ新たなエッセイ、ザ・フー専門家の編集者アンディ・ニールとマット・ケントによるライナーノーツ、『Life House』のストーリーが綴られたグラフィック・ノベル、さらには当時の写真やメモラビリアといった豪華な特典と共に提示される。

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ピートが語る『Life House』の変遷と発売

このボックスの起点となるのは、タウンゼントが、『Tommy』に続くマルチメディア作品として、映画脚本であり“ライヴ音楽の実験”である『Life House』を構想した1969年である。それから50年以上の時を経て、彼はこの2023年版へと繋がる音源発掘に、少なくともこれらの楽曲の初期テイクの自宅制作デモを査定し編纂するという点で、深く関わることとなった。こうした音源は本セットの魅力の重要なパートとなるものだ。

彼は、ロンドン南西部トゥイッケナムの18世紀ジョージアン様式の実家にある小さなスタジオで録音された1970~71年のデモについて、我々に「僕が少しでも関わっているのはデモだけだよ」と打ち明けた。

ここでは、上記の曲の初期ヴァージョンを生み出した、インスピレーションに満ちたソングライティングが、ディスク2枚に亘って繰り広げられている。他にも、『Who’s Next』に収録されることとなる「Going Mobile」や「The Song Is Over」、また、この物語のために書かれた「Greyhound Girl」「Mary」「Time Is Passing」などがあった。ピート・タウンゼントはこう語ってくれた。

「大変な作業だったよ。アーカイブの中から8トラック・テープを探し出して、再生機にかけなきゃいけなくて——僕が使っていた再生機にはドルビー(ノイズ・リダクション)が備わっていたから、細心の注意を払って設定しなければならなかったんだ——。それから、新たなミックスと過去にやったミックスを比較しなければならなかった。というのもアルバム『Who’s Next』は何度も修正されたからね。デモ音源も過去に何度かリリースされていると思う。だから、そこに新しい何かを加えなければならなかった。興味を持ってもらえるようなシズル感をね。もしかしたらまだリリースされていないものがいくつかあるかもしれないよ」

「実際どういうことがあったかというと、当時は、バラバラに散らばっていた断片を全て使うよりもデモを丸ごと使うことにこだわっていたんだ。このディスクの編纂者は、カッティング・ルームの床に散らばっていたあらゆるものを使いたがっていたけど、僕はそれを拒絶したよ。ある程度のところまでね」

Greyhound Girl (Lifehouse Chronicles / Demo / Remastered 2022)

 

作品に描かれた先見性とコンセプト

半世紀以上に亘って、そして彼の作品が新たに提示されることで、気候変動や大気汚染によってダメージを負った世界、個人の自由の喪失、そして、インターネットを予見したと広く捉えられている。さらにヴァーチャル・リアリティ体験スーツを通した娯楽“グリッド”によって手懐けられた人々を描き出したタウンゼントの洞察力は再び多くの人々に称賛されている。しかし、彼はそうした先見性は大したことではないと嘯く。

「『Life House』には、フィクション映画の脚本の一部となるように書かれた曲がいくつかあった。そのままの形でね。あのプロジェクトは2つのパートに分かれていたんだ。架空の映画の脚本はSFだった——素朴なSFだ。今振り返ればそう思うよ。というのも、今日ではいかに先見の明があるように見えようとも、僕はみんなと同じようにSF小説を読んできたし、1940年代から今まで素晴らしい物語が次々と作られたからね。アイザック・アシモフをはじめとする数多くのSF作家たちは未来を予見していた。まさに現代のような世界をね。だから僕の作品は、僕の着ていたシャツが今の時代に思われているほど格好良くはなかったよ」

それでもなお、彼の創造物をより広い文脈で捉える機会は、より広い世界という意味でも、ザ・フーがその後辿った足跡という意味でも、少なからず価値のあるものだ。

「ザ・フーのファンは、この物語を伝えてくれるもの、あるいはこの物語にまつわるものを収集したいと常に考えていて、今はその新たな機会になっているんじゃないかな。グラフィック・ノベルを見て、2つの映画脚本を感じ取る——だって、まずは1971年に書いたものがあって、それをアップデートすべく1974年に書いたものがあるからね——そして、それらは作家ジェームズ・ハーヴェイによって一つの物語へと繋ぎ合わされ、そこには新たな要素も加えられているんだ。遊び心があって、愉快で、楽しいものさ」

「だけどそこにはコンセプトがあるんだ。音楽を聴くと、もしもこのプロジェクトが実現していたらどんなものになっていたかを感じ取ることができるんだ」

Time Is Passing (Lifehouse Chronicles / Demo / Remastered 2022)

 

ロジャー・ダルトリーから見た『Life House』

また別のインタビューで、バンドメイトのロジャー・ダルトリーは、タウンゼント作品の全貌を理解しようと奮闘していたことを率直に明かす。彼は、世界に神々しいハーモニーのようなものをもたらすあの一つの音についてそう述べる。

「当時は何度も何度も理解しようとした。あのサウンドのアイディアが気に入っていたからね。実際のところ、そこにはきっとかなりの真理があると思うよ。だけど、それが文字に起こされるとね。今日我々が享受するインターネットやテクノロジーの時代より遥か昔のことだよ。いわば、脳のストレッチさ。控えめに言ってね」

タウンゼントのかなり作り込まれていた自宅制作デモについて、ロジャー・ダルトリーがこう付け加える。

「あいつは全てを演奏していたよ。その力量があったんだ。ピートは驚くべきミュージシャンだ。それは疑うべくもない。俺の考えでは、あいつは最高のリズム/リード・ギタリストだ。誰も奴のように弾くことはできない。完全なオリジナルだ」

 

実現しなかった『Life House』の発売と生まれた『Who’s Next』

これらのデモは、1971年3月ニューヨークのレコード・プラントでのスタジオ・セッションへと繋がり、それもまたボックスセットの壮大な絵コンテの中の1枚のディスクを占めているが、さらには4月のロンドンのヤング・ヴィックでのパフォーマンスと、12月のサンフランシスコのシビック・オーディトリアムでの大規模コンサートが各2枚のディスクに収められており、後者は『Who’s Next』リリース後のライヴだった。当時はまだ『Life House』のアイディアに固執していたタウンゼントがこう語る。

「これらのニューヨーク録音を聴けば、それがいかに素晴らしいかが分かるだろう。僕は思ったよ“うぁ、これは上手くいくんじゃないか”って」

「そしてその後、突然気づいたんだ。キット(ザ・フーのマネージャーの一人であり、タウンゼントの良き助言者でもあったキット・ランバート)がいないって。最悪なことに、彼はヘロインを常用していたんだ。もういい仕事が出来なくなったということではなかった。彼は(全米R&Bシーンを牽引したグループ)ラベルと極めて素晴らしい仕事をしていたからね。原因は、彼が変わってしまったことだよ。だから、すぐさま鬱状態が始まったんだ。でも、すぐに治まった。僕は飛行機に飛び乗り、ロンドンに戻ったからね。妻の元へと帰って、こう言ったんだ。“終わってしまった。失ってしまったよ”って」

ザ・フーのファンにとって幸いなのは、全く新たな作品を得られたことだった。英国で最も需要のあるスタジオ・マンとのセッションからすぐさま生まれたアルバム『Who’s Next』だ。

「(共同マネージャーの)クリス・スタンプの提案だったと思う。グリン・ジョンズが音源を持っていくのに適したプロデューサーじゃないか、って。グリンに音源を送ったら気に入ってくれた。彼にプロジェクトのことを売り込んだら、彼は理解できなかったけど、ヒット作になると確信できたアルバムを作ってくれた。素晴らしいサウンドのレコードだったよ」

「我々はあの音楽を既に何度も演奏していた。実際にライヴでも演奏していたんだ。“Won’t Get Fooled Again” “Baba O’Riley” “Behind Blue Eyes” “Love Ain’t For Keeping”とかね。4~5回のギグでそれらの曲を演奏していたよ。だから、我々がグリンとスタジオに入ったら、二週間でやり終えたんだ。アルバムを作るのに最良の方法だよ。すぐさま完成し、いきなりチャートインした。そして、初めてLAとサンフランシスコを訪れると、我々は突然新たな役割を担うこととなったんだ」

The Who – Baba O'Riley (Shepperton Studios / 1978)

Written By Paul Sexton



ザ・フー『Who’s Next / Life House』

2023年9月15日発売
10CD / 2CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music


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