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マーズ・ヴォルタ『De-Loused In The Comatorium』解説:シーンに風穴を開けたの衝撃的デビュー作

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20世紀末、アット・ザ・ドライブイン(At the Drive-In)は瞬く間に、その時代で最も愛されたパンク・ロック・バンドのひとつへとのし上がった。ポスト・ハードコア、エモ、そしてアート・ロックの要素を融合させたそのサウンドは、ポップ・パンクが台頭し始めていた当時のシーンにおいて新鮮な存在だった。しかしこのエルパソ出身バンドの活動は短命に終わり、2001年に解散に至った。そして、そこから誕生したのがマーズ・ヴォルタ(The Mars Volta)だ。

ドラマーのトニー・ハジャー、ギタリストのオマー・ロドリゲス・ロペス、そしてヴォーカリストのセドリック・ビクスラー・ザヴァラによって結成されたこのバンドが生んだ最高傑作と言えば、紛れもなく2003年のデビュー・アルバム『De-Loused In The Comatorium』だろう。

アット・ザ・ドライヴインの解散にはさまざまな理由があったが、マーズ・ヴォルタはオマーとセドリックにとって、それまで以上に壮大で大胆なサウンドを追求するための新たな創造の場となった。彼らは結成後すぐにアレックス・ニューポートとの共作によるEP『Tremulant』を完成させ、この3曲入りの作品が、続くデビュー・アルバム『De-Loused In The Comatorium』への序章としての役割を果たすこととなる。

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The Mars Volta – Inertiatic ESP (Radio Edit)

 

 

プログレの伝統を受け継ぐ壮大な1時間のコンセプト作

EP『Tremulant』で確かな礎を築いた彼らは、その後の本格的なデビュー作で、予想をはるかに超えるスケールと衝撃でリスナーを圧倒することになる。

『De-Loused In The Comatorium』は、セドリックとジェレミー・マイケル・ワードの構想によって、“サーピン・タクスト”という男の物語を描いたコンセプト・アルバムとして制作された。物語の主人公であるサーピン・タクストは、モルヒネと殺鼠剤のカクテルによって自殺未遂を起こし、1週間の昏睡状態に陥り、その間に夢の中で幻想的な冒険を繰り広げる。このキャラクターは、1996年に自ら命を絶ったセドリックの友人、フリオ・ヴェネガスに着想を得たものだった。

こうして誕生したのが、プログレッシヴ・ロックの伝統を受け継いだ、壮大な1時間におよぶ『De-Loused In The Comatorium』であり、主人公サーピン・タクストが、潜在意識の中で善と悪の狭間で葛藤する姿を、セドリックの咆哮のようなテナー・ヴォーカルが荒々しくも叙情的に浮かび上がらせていった。

Son et Lumiere

 

 

サウンドの劇的進化

ギタリストのオマーと名匠リック・ルービンが共同プロデュースを手掛けたこのアルバムは、リック・ルービンの多彩なキャリアの中でも異色の作品だった。プログレッシヴ・ロックには壮大なコンセプト・アルバムの伝統がある。ラッシュの『2112』やジェネシスの『The Lamb Lies Down On Broadway』がその好例だ。マーズ・ヴォルタはその伝統を受け継ぎながらも、独自の美学でジャンルを再構築してみせた。

この『De-Loused In The Comatorium』は、プログレッシヴ・ロックを新たな地平へと押し広げた作品として、ファンや批評家の間で賛否両論を呼んだ。ラテン音楽のリズム、ジャズ・フュージョン、スペース・ロック、そして実験音楽までを取り込んだこのアルバムは、一度聴いただけでは完全には消化しきれない、聴くたびに新しい発見がある稀有なアルバムのひとつなのだ。

The Mars Volta – Roulette Dares (The Haunt Of)

 

「Drunkenship of Lanterns」では、ジョン・セオドアの激しいドラムと、初代ベーシストのエヴァ・ガードナー脱退後に加わったレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーによる演奏が、プログレッシヴ・ロックならではの映画的なドラマ性を見事に表現している。

Drunkship Of Lanterns

さらに、同じくレッチリのジョン・フルシアンテも「Cicatriz ESP」で長大なギター・ソロを披露。テンポの緩急や即興的なジャムを巧みに取り入れた、この12分におよぶ楽曲は、アット・ザ・ドライヴイン時代のファンでさえ想像していなかった、マーズ・ヴォルタの計り知れない可能性を見せつけた。

ゆっくりと、しかし劇的に展開していく楽曲構成には、彼らの前身バンドに通じる要素も感じられるが、それをより高い次元へと引き上げようとするオマー・ロドリゲス・ロペスの姿勢こそが、マーズ・ヴォルタの進むべき方向を決定づけた。

Cicatriz Esp

そして後には、マルチ奏者ジャスティン・メルダル=ジョンセンが「Televators」でダブル・ベースを演奏し、豪華なゲスト陣に名を連ねることとなる。

Televators

 

プログレッシヴ・ロックの新境地

プログレッシヴ・ロックに対してどのようなスタンスを取るにせよ、『De-Loused In The Comatorium』はそのジャンルを異なる方向へと導き、新世代のリスナーへと橋をかけた作品だった。そしてそれは、ディア・ハンターやサンキュー・サイエンティストといったオルタナ・プログ系バンドたちの登場にもつながった。

マーズ・ヴォルタは、言わばアット・ザ・ドライヴインに対する反動でもあった。ハードコア・シーンの枠組みを超えたいという彼らの衝動から生まれたこのデビュー・アルバムで、はけ口を必要としていたすべての鬱積したアイデアと感情を爆発させた。最終的に、彼らはその賭けに報われることになる。彼らは2009年に「Wax Simulacra」でグラミー賞“最優秀ハード・ロック・パフォーマンス賞”を受賞した。

The Mars Volta – Wax Simulacra

Written By Wyoming Reynolds



マーズ・ヴォルタ『De-Loused In The Comatorium』
2003年6月24日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



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