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ファンク好きこそ大注目の「ディスコ・フィーバー・キャンペーン」(中編)

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音楽情報サイト『bmr』の編集長を務めながら音楽評論家/編集者/ラジオDJなど幅広く活躍されている丸屋九兵衛さんの連載コラム「丸屋九兵衛は常に借りを返す」の第8回の中編(全3回)です。今回は今月・来月に1枚千円、全99タイトルが再発となる「ディスコ・フィーバー・キャンペーン」のタイトルの中で気になるもの、キャメオがなぜ人数が減ったのか? なぜニューヨークからアトランタに引っ越したのか? クール&ザ・ギャングの一番お洒落なアルバムは? など語っていただきました。

*コラムの過去回はこちら


他にきになるものはありますか?

丸屋 あとはブラザーズ・ジョンソンとかね。ギターとベースの兄弟なんですけど、ベース担当の弟、ルイス・ジョンソンは後にマイケル・ジャクソンの『Thriller』なんかでも演奏するんですよね。このアルバム『Blam!』はクインシー・ジョーンズのプロデュースですよね。ジャケット写真で左利きギタリストと右利きベーシストが対になったダイナミックさは、ジョン・レノンポール・マッカートニーの左右コンビを200%増しにしたみたいですよね。ただ、演奏は凄い良いんですが、歌が弱いんですよ。でも、「Strawberry Letter 23」っていう、ベースとギターのコンビなのになぜかキーボードが光ってる素晴らしい曲があったりもします。

あとは、キャメオは5枚もあるんで、最初に聴くならこれってありますか?

丸屋 難しいですねー。たぶん『Ugly Ego』と『We All Know Who We Are』は、ちょっと上級者向けだと思います。メンバーの人数が減る前のキャメオを聞きたければ『Cameosis』か『Knights of the Sound Table(邦題:魔法の騎士)』でしょうね。しかし『魔法の騎士』っていう邦題はなんなんでしょうね。私、アーサー王の愛好家なので、ひとこと言っておきたい。原題は『Knights of the Sound Table』でしょ? アーサー王伝説の「円卓の騎士(Knights of the Round Table)」をもじった素晴らしいタイトルなのに、なんで邦題を『音卓の騎士』にしなかったんだろうね。ちゃんとジャケットにレコードっぽい円卓もあるし、そのまま日本語としてもシャレになるのに。それに1曲目の「Knights By Nights」って曲はファンファーレが入って中世っぽくて、途中まではファンタジーのサントラに使えそうなぐらいなんです。なのに『魔法の騎士』!『音卓の騎士』にしようよ~。

丸屋 80年の『Cameosis』はアース・ウインド&ファイアーのような揃いのキラキラ衣装を着けた大所帯バンドの感じのジャケットじゃないですか。でも、これってちょっと遅いんですよね。これは77年ぐらいまでにやらないといけない。だからキャメオって“遅れてきたバンド”なんですよ。アース・ウインド&ファイアーだってウォーに比べたら遅かったんですが、でもウォーが衣装を統一せずやってきたところに、アース・ウインド&ファイアーが衣装をあわせてドーンって出てきた。アースがそれをやったのが75年かな。77〜78年にめっちゃ盛り上がるわけですが、キャメオはそれを3年遅れてやってるんですね。

『Knights of the Sound Table』の時点がメンバーの人数が一番多くて、10人って言われてますが、本当はもっといるんですよ。キャメオって元々ニューヨークのバンドで、オハイオ・プレイヤーズが大好きだからニューヨーク・シティ・プレイヤーズって名前だったんですが、それはちょっとなぁ~ってキャメオに改名したんです。だからヴォーカルのスタイルが、オハイオ・プレイヤーズっぽい感じなんですよ。

ただ、キャメオのリーダー、ラリー・ブラックモンはニューヨークで大所帯のバンドをやるっていうのがいかに大変なのかを実感していたそうなんです。たぶんミュージック・マガジンに載っていたインタビューなんですが、「ニューヨークは世界で一番物価が高い街だ、東京を除いて!」って言ってたぐらいで、家賃から何から高くて、リハーサルをやるスタジオを借りるのも高いと。なのでアトランタに移住したんです。そのうえでメンバーをぎゅっと5人に絞って出したのが『Alligator Woman』。このアルバムのジャケットに登場しているアリゲーター・ウーマンさんが、割と最近亡くなったプリンスの元彼女のヴァニティ6のヴァニティさんだったそうです。当時モデル業として、顔面にアリゲーター鱗を描かれ、こんなことをやっていたと。

丸屋 She’s Strange』はさらにメンバーを減量したアルバムで、5人だったのが4人編成に。それが次には3人になるんですよ。どんどんメンバーが少なくなって、もはやバンドなのか!?っていう。3人状態の時なんて、ラリー・ブラックモンがドラムとベースとボーカルとかいろいろ担当で、後の2人が基本的にボーカルっていうバランスが悪い編成。固定メンバーだけだと演奏できないGLAYみたいになるんですね。4人から3人になった時に、一番なんでも楽器ができるチャーリー・シングルトンが抜けちゃったんですが、彼は脱退してもキャメオ周りをうろうろしてて、手伝ったりしてるんですよ。で、ベーシストのアーロン・ミルズがのちにアウトキャストのスタジオ・ミュージシャンになって、アウトキャストの2000年のアルバム『Stankonia』でベースを弾いていたり、ビッグ・ボーイのソロでキーボードを弾いているのが、キャメオをサポートする鍵盤奏者のケヴィン・ケンドリックだったり……通称「キャメオ第6の男」とか。

なぜそうなったんですか?

丸屋 アトランタだからですね、アトランタに拠点を移したおかげで仕事にありつけた! 当時、誰もアトランタでヒップホップが盛り上がるなんて考えてなかったけど、キャメオが活動場所をアトランタに移して以来、LA・リードとベイビーフェイスも引っ越したり、アレステッド・ディヴェロップメントが出てきたり。アレステッド・ディヴェロップメントのスピーチは、エリック・ベネイと一緒でウィスコンシン州出身、えらい北からアトランタに来たんですよ。

キャメオが来る前にアトランタにブラック・ミュージックは根付いていたんですか?

丸屋 70年代のアトランタだと、ブリックっていうバンドがいました。彼らは「Dazz」っていう曲をやっているんだけど、ダズ・バンドとは別で、でもダズ・バンドがあとからブリックの「Dazz」をカバーしたりしててややこしいんだけど。ブリックのマネージメントをやっていたのが、ジャーメイン・デュプリのお父さん。ブリックのリーダーの息子がのちにダンジョン・ファミリーで歌を歌うスリーピー・ブラウンだったりして、バンドの伝統と血筋が、ちゃんとアトランタでつながってるんですよ。

今、話にでたダズ・バンドの「ダズ(Dazz)」って何なんですか?

丸屋 ダンスとジャズをあわせた造語だったと思います。キャメオのキャメオはイタリア工芸品のカメオ(Cameo)なんだけどね。あの頃はコン・ファンク・シャンを含めて、シンセを絶妙にフィーチャーした80年代型ファンク・バンドが凄くもてはやされ、愛されていた時期ですね。

 

続きましてクール&ザ・ギャング。彼らは6枚ありますね。一般的に知られている曲は「Celebration」ですよね。

丸屋 クール&ザ・ギャングの「Celebration」は、ジョージ・マイケルにおける「Last Christmas」の如し。毎年必ずかかるんですよね。「Celebration」はアメリカの卒業式で、BGMとして使われたり、吹奏楽部が演奏したりするですよ。曲の歌詞のなかで卒業を“セレブレーション”しているわけではないんですが、卒業式の定番曲になっちゃったから毎年6,7月のアメリカでは、「Celebration」を聴かないと歩けない状態ですね。

Kool & The Gang – Celebration

 

丸屋 あれ、なんでリック・ジェームスは入ってないんですかね。……という話からはズレますが、リック・ジェームスが自分のバック・バンドのストーン・シティ・バンドを単体で売り出したりとか、女性シンガーのティーナ・マリーを売り出したりとかしてるように、キャメオも弟子グループのLAコネクションを送り出したり、キャメオを辞めたチャーリー・シングルトンがソロ・デビューしたりしてるんですよね。チャーリー・シングルトンは誰よりもさまざまな楽器ができる、もしかしたらプリンスよりもできるんじゃないかと思うくらいできます。なぜならプリンスがトランペットを吹いているところを見たことがないから吹奏楽器ができる人は、ネクスト・レベルですよね。マルチ・プレイヤーの度合いでいうとスティーヴィー・ワンダーよりプリンスのほうが上、なぜならスティーヴィーは置いてある弦楽器はできるけど、ギターはできないから。で、そのプリンスよりもチャーリー・シングルトンのほうが上で、なぜなら吹くものができるから。鍵盤も弦も弾けて木管と金管が両方できる人間って、そうそういないじゃないですか。メイシオ・パーカーとかもそうなんだけど、サックスがメインだが時としてフルートをやり、暇なときはパーカッションとかキーボードもやるっていう。

復活期のティナ・ターナーのバック・バンドに金髪で長髪で筋肉ムキムキの白人のお兄さんがいて、その人はサックス・プレイヤーなんだけど暇なときは鍵盤やパーカッションをやってたんです。木管プレイヤーは時としてこうなんですよね。おそらく現代のポップミュージックにおいて吹く場面があんまりないからだよ!

80年代からは、ホーンが必要とされる場面はあんまりないですよね。アルバム1枚の中で数曲に、しかも曲の中で登場するのはワンフレーズぐらいなんてざらにありますよね。

丸屋 じゃあそこでホーン・プレイヤーたちが何をするかとなれば、パーカッションとか、あとはもうちょっと頑張って全曲入っている鍵盤をやるとかなんですよね。

丸屋 クール&ザ・ギャングに話を戻すと……。73年の『Wild And Peaceful』や『Light Of Worlds』は昔のクール&ザ・ギャングで、商業的に大成功する前の時代なんですよ。クール&ザ・ギャングの変身は、ブラック・アイド・ピーズで考えるとわかり易いかもしれないですね。元々ほぼインスト主体のジャズ・ファンク・バンドで、バラードでヒットする前のシカゴのようなブラス・バンドだったんです。そこに思い切って、明らかに女性受けしそうなリード・シンガーを入れる。さらに、プロデュースを、ブラジル人のエウミール・デオダート、あの「ツァラトゥストラはかく語りき」で一発当てたデオダートさんに依頼、と。こうして彼らは、『Ladies’ Night』で化けたんです。なので私にとっては、「Ladies’ Night」のほうが「Celebration」よりも重要度が上なんです。それまではホーンがきらめく熱いファンクだったのが、オシャレな都会の夜を彩るディスコ・ファンクにかわったんですよ。その変化は、『Ladies’ Night』からですね。「Celebration」っていう曲は、その路線で括るにはあまりにも派手で陽気すぎるんですが、しかもアルバムのタイトルが『Celebrate!』っていうわかりづらさ。

絶対混同してる人いますよね。

丸屋 で、その路線でお洒落なんだけど、ポップを突き詰めたのが『Emergency』。『クール・エマージェンシー』って「クール」がタイトルに付いているのは、日本の邦題だけですよね。このアルバムは凄い売れて、「Cherish」「Misled」「Surrender」とかが入ってますね。

ここぐらいまでいくと完全にお洒落になった感じですか?

丸屋 いや、本当におしゃれだったのは、むしろ『Ladies’ Night』の頃ですよ。都会的なお洒落にはなったが、「Celebration」みたいなポップなものもあって、そのお洒落とポップの間を行き来しながら、『Emergency』なんかが作られた、と。「Fresh」なんて明るさはないし、でもある程度ポップですよね。83年の『In the Heart』は一番軟弱に傾いたやつで、リック・ジェームスでいう『Garden Of Love』みたいな。

で、『Emergency』の次の『Forever』を最後に、ボーカリストのジェームス・“J.T.”・テイラーが辞めちゃって、代わりにダズ・バンドの人がボーカルが加入したり、さらにその後に“J.T.”・テイラーが再加入したり…これってブラック・サバスのボーカルのような感じですね。

後編に続く



連載『丸屋九兵衛は常に借りを返す』 バックナンバー


■著者プロフィール

maruya

丸屋九兵衛(まるや きゅうべえ)

音楽情報サイト『bmr』の編集長を務める音楽評論家/編集者/ラジオDJ/どこでもトーカー。2018年現在、トークライブ【Q-B-CONTINUED】シリーズをサンキュータツオと共に展開。他トークイベントに【Soul Food Assassins】や【HOUSE OF BEEF】等。

【今後のトークイベント】
5月26日(土)東京・銀座『Rethink World:マイノリティ・リポート vol.1』 
6月20日(水)東京・秋葉原GOODMAN:<片目と語れ>丸屋九兵衛×ダースレイダー
6月23日(土)東京・麻布:Q-B-CONTINUEDSoul Food Assassins
7月12日(木)大阪・ロフトプラスワンウエスト:サモアン・ゴッドファーザー追悼講演

bmr :http://bmr.jp
Twitter :https://twitter.com/qb_maruya
手作りサイト :https://www.qbmaruya.com/

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