丸屋九兵衛 連載第3回「憎悪と対立の時代を見つめて」

June 30, 2017


丸屋九兵衛 連載第3回「憎悪と対立の時代を見つめて」

音楽情報サイト『bmr』の編集長を務めながら音楽評論家/編集者/ラジオDJなど幅広く活躍されている丸屋九兵衛さんの連載コラム「丸屋九兵衛は常に借りを返す」の第3回です。コラムの過去回はこちら


第3回【憎悪と対立の時代を見つめて】

昨今はゼノフォビア(異民族嫌悪)の時代でごさいます。

例えばUK。国民投票でEU脱退が決定するや否や、(主にイングランドの)白人ナショナリストたちが調子に乗って、ムスリムが経営するイスラム肉屋さんを焼き討ち! ビーフやラムがこんがり焼けてしまうという惨事が伝えられた。

「あ~あ」と思っていたら、アメリカではドナルド・トランプがまさかの大統領当選。すると、黒人教会は爆破されるわ、警官は交通事故の被害者を保護するのではなく「君は不法入国では?」と詰問し始めるわ……。
この手の事態は、政局が予想外の展開を見せたUKとUSに限ったことではない。全世界が差別と反動と対立の坩堝になってしまったような気がする。
そんな時代に対処する智恵は、常にソウルやファンク、そしてヒップホップの中にある。それは彼らが通ってきた道だから。
今回は、古今の賢人たちのリリックに見られる金言――それも真正面からの抗議ではなく、ウィットに富んだもの――を取り上げていこうと思う。

カーティス・メイフィールドが1970年に出したソロ・デビュー作『Curtis』を見てみる。A面の1曲目に収められているのは、ボビー・ウーマックなみに曲名が長い「(Don't Worry) If There's a Hell Below, We're All Going to Go」である。不穏なファズベースと、危機感をさらに盛り上がるチャカポコをバックにしたカーティスは開口一番、こう呼びかけるのだ。
「Sisters! Niggers! Whiteys! Jews! Crackers」

……スティーヴィー・ワンダーと並んで「メッセージを誠実に歌い上げる、心優しい魂の詩人」というイメージが強いカーティスの口から、Nワードその他の差別用語が連発されようとは!
この部分を意訳すると……「シスター!(←もちろん差別用語ではない) 黒んぼ! 白んぼ! ユダヤ人!(←これも差別用語ではない) 白ブタ!」となる。白人の皆さんが2回も呼びかけられているのが可哀想だが、まあ数合わせなのだろう(当時のアメリカには、ラティーノもアジア系も少なかったし)。
そのあとに、カーティスはこう断言するのだ。
「心配せんでよろしい。地獄に堕ちるとしたら、ワシら全員一緒やで!」
あえて両陣営による差別用語を一挙放出することで、70年代初頭のアメリカ諸都市で先鋭化していた人種間抗争の不毛さをあぶり出し、諌めたものだ。
カーティスらしい、真摯なクリスチャン魂はそのままに。

グッと時代は下るが、見方によっては黒人以上に虐げられてきたアジア系が、ゆえなき差別を笑いのめした例もある。
香港系アメリカ人ラッパーのジンが2004年に発表したデビュー曲「Learn Chinese」だ。
「アジア系の青年といえば中華料理の配達員」というステレオタイプを逆手に取って展開するウィットあふれるリリックは、フックの部分で絶頂に達する。
ポイントは、欧米人が抱いてきた「いつの日か、地球はアジア人に埋め尽くされるのでは」というセオリー「黄禍論」。その警戒心を敢えて逆撫でしながらジンは言う。「いつかお前たちも英語以外の言葉を喋るようになる。おっと、すまんなアミーゴ、スパニッシュのことじゃないんだよ」と。
というわけで「中国語を学べ」なのだ。

中華系だから「Learn Chinese」とは言ってみたものの、ジンは中国覇権主義とは縁遠い(そもそも香港移民二世だし)。むしろ、アジア系(主に東アジア&東南アジア系)全体を代表しての発言だったろう。
のちにジンの広東語アルバムをプロデュースしたファーイースト・ムーヴメントが「日系も韓国系も中国系も、アメリカではアジア系コミュニティは一体」と断言したように。

しかし当の東アジアでは、日本、韓国、北朝鮮、台湾、中国……の対立は絶えない。

ここ日本でも、特にインターネットではゼノフォビアの嵐が吹きまくっており、朝鮮半島と中国が「反日」という枕詞なしに語られることは少ない。我が国に住まう、それらの地域出身の皆さんは、さぞかし肩身が狭かろうと思う。
もっとも。例えば対馬海峡の向こう側でも、同じように日本を見ていることはある程度、想像できたりもする。そんな非難の応酬劇、こちらのライトウィングとあちらのナショナリストが、乏しい罵倒語彙を尽くしてお互い野次り合う様を思い浮かべると、1969年にスライ&ザ・ファミリー・ストーンが見事に描き出していたものに近い気が。
その曲は「Don't Call Me Nigger, Whitey」。スライ&ザ・ファミリー・ストーンの第4作、キャリア史上最高セールスのアルバム『Stand!』の中で、ひときわ重たい一発である。当時は「ニガーと呼ぶな、白ブタ」という邦題が付いていたという説もあるが、わたしが見る限りでは「ドント・コール・ミー・ニガー・ホワイティー」だ。

Anyway……スライが素晴らしいのは、「黒んぼと呼ぶな、白ブタ」という忘れられないフレーズのあとに、すかさず「白ブタと呼ぶな、黒んぼ」を入れたこと。これによって、この歌が一方的な主張ではなく、罵倒合戦を俯瞰&達観したものとなっているのだ。
当時のLP『Stand!』のオビには「ブラック・パワーのリーダー、スライ・ストーン」と書いてあった(し、それはそれで間違いではないのだろう)が、スライ&ザ・ファミリー・ストーンが目指していたのは、むしろ後のウォーの主張、つまり「Why Can't We Be Friends?」に通じるものではなかったか。

ウォーが1975年に大ヒットさせた「Why Can't We Be Friends?」は、激烈な邦題「仲間よ目をさませ!」でも知られる。レイドバックした曲調には似合わぬものの、歌詞のメッセージにはふさわしいものと言えるだろう。だって「世界はゲットーだ!」し、我々は逃れようもなく同じゲットーに住む、一蓮托生の仲間なのだから。

コラム中に出てきた曲をチェック

  • カーティス・メイフィールド「(Don't Worry) If There's a Hell Below, We're All Going to Go」(『Curtis』)  iTunes / Spotify
  • ジン「Learn Chinese」iTunes / Spotify
  • スライ&ザ・ファミリー・ストーン「Don't Call Me Nigger, Whitey」(『Stand!』)  iTunes / Spotify
  • ウォー「Why Can't We Be Friends?」iTunes / Spotify

■著者プロフィールmaruya

丸屋九兵衛(まるや きゅうべえ)

音楽情報サイト『bmr』の編集長を務める音楽評論家/編集者/ラジオDJ/どこでもトーカー。2017年現在、トークライブ【Q-B-CONTINUED】シリーズをサンキュータツオと共にレッドブル・スタジオ東京で展開中。

bmr :http://bmr.jp
Twitter :https://twitter.com/qb_maruya
手作りサイト :https://www.qbmaruya.com/


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