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2026年英国最大のルーキー、シエナ・スパイロとは? 世界に羽ばたく20歳を紐解く5つの魅力

2005年に英ロンドンで生まれた現在20歳のシンガーソングライター、シエナ・スパイロ(Sienna Spiro)。彼女は現在20歳とは思えない落ち着きと歌唱力が評価され、BBC Radio 1は「百万人に一人の逸材」と、ワンリパブリックのヴォーカリストでありプロデューサー/作曲家としても活躍するライアン・テダーからは「アデル以来の最高の歌声」と評されている。
2025年10月にリリースされた最新シングル「Die On This Hill」が2026年に入ってから全英シングルチャートで9位、全米シングルチャートでも19位、SpotifyのGlobal チャートでも9位にランクインするなど、世界的にバイラルヒットを記録している。
1stアルバムをリリースする前にもかかわらず人気があがっている彼女について、音楽ライターの新谷洋子さんに寄稿いただきました。
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それは2025年11月末のこと、「Die On This Hill」と題されたシングルが全英チャートで最高9位を記録した。その後一旦ポジションは後退したものの2026年に入ってトップ10内に返り咲き、1月末の時点で全米ビルボードHOT100でも19位につけている。そんな曲を歌うのはシエナ・スパイロ。あらゆる色彩のエモーションをヴィヴィッドに描き出せるのだろうワン・イン・ア・ミリオンの声を備えた、ロンドン出身の20歳のシンガー・ソングライターだ。
ミニマルなプロダクションでその声の魅力を前面に押し出すタイムレスなバラードの数々を送り出し、有望な新人に与えられるブリット・アワードのクリティクス・チョイス賞(旧ライジング・スター賞)にも挙がって、2026年の英国最大のルーキーの一人と目されている彼女の魅力を、以下5つの切り口から検証してみたい。
1. 古典に根差した歌心
シエナの音楽的ルーツはまず何よりも、大の音楽好きである彼女の父(多くのセレブリティをクライアントに持つ著名なジュエリー・デザイナーのグレン・スパイロ)の影響で幼少期から聴き親しんだ、ジャズやソウルやブルースのレジェンドたちに遡ることができる。そう、フランク・シナトラやトニー・ベネット、ニナ・シモーン、エタ・ジェイムス、ビリー・ホリデイ、エラ・フィッツジェラルド、アレサ・フランクリン、マーヴィン・ゲイといった面々だ。
こうした偉大なアーティストたちをお手本にして歌い始め、ヴォーカル・レッスンも受けながら、持ち前のスモーキーなアルト・ボイスを深く、ソウルフルに磨いていく。60年代テイストのAラインのドレス&ブーツといった定番のファッションにも、少なからずレトロ志向が表れていると言えよう。
もっとも彼女の曲は、こうした歌い手たちが生きた時代の音楽を色濃く映しながらも、例えばフォークとソウルが交錯する「I DON’T HATE YOU」や、現代的なR&B仕立ての「BUTTERFLY EFFECT」を聞けば、単なる回顧主義者ではないことが分かるはず。
実際シエナは、しばしば比較されているエイミー・ワインハウスやアデル、或いはビリー・アイリッシュ、フランク・オーシャン、リトル・シムズなどなどもフェイバリットに挙げており、新旧にかかわらずオーセンティシティを備えたアーティストへのリスペクトを感じさせる。
約4年前にTikTokにアップし始めたヴォーカル・パフォーマンス映像で彼女が選んだのも、ビリーの兄フィニアスの「Break My Heart Again」やチャイルディッシュ・ガンビーノの「Redbone」といったコンテンポラリーなヒット曲だったが、こうした映像を通じてシエナの歌声はたちまち注目を集め、2024年5月にシングル「NEED ME」でデビュー。
さらに3か月後にセカンド・シングル「MAYBE.」で早速全英チャートのトップ50圏内に入り(最高45位)、2025年2月に8曲入りのファーストEP『SINK NOW, SWIM LATER』をリリース。ライヴ活動も本格化させることになる。
2. ビッグネームたちのお墨付き
そんなシエナはこの間、先輩たちの間で着々とサポーターを増やしてきた。前述したフィニアスに加え、エイミーのコラボレーターとして知られる名プロデューサーのマーク・ロンソン、SZA、「Die On This Hill」を耳にしてコンタクトを取って来たというサブリナ・カーペンター……と同業者のファンは枚挙に暇なく、これまでにNAO(ネイオ)やテディ・スウィムズ、サム・スミスが彼女をライヴのオープニング・アクトに抜擢。
中でもシエナが子どもの頃から大好きだったというサムは、昨秋ニューヨークで行なった24回の連続公演“To Be Free: New York City”の、最初の6夜の前座に彼女を選び、「僕は君の才能に夢中だ。今後君の星が空に高く上り、光り輝くのを見守ることになると思うと興奮させられるよ」と賞賛している。
また、情報通のエルトン・ジョンのアンテナにも当然のごとく引っかかり、彼の耳とハートを掴んだシエナは、2025年6月にエルトンがホストを務めるApple Musicの番組『Rocket Hour』に出演。「君がソングライターかつアーティストとして実践していることに僕は深く感銘を受けたよ」と告げるエルトンを前にして、信じられないといった表情を浮かべていた。
3. ソングライターとしての豊かな表現力
エルトンの指摘通り、シンガーとしてだけでなくソングライターとしても計り知れないポテンシャルを感じさせる彼女。聞けば、マイケル・ジャクソンにハマっていた10歳の時に、あの「Man in the Mirror」にインスパイアされて綴った「Lady in the Mirror」なる曲が、人生初のオリジナル・ソングだったそうだ。
当時学校でいじめにあっていたことから、曲作りは内なる葛藤のはけ口として重要な役割を果たしたといい、その後パブで歌うようになってから自作曲も披露していたシエナは、クリエイティヴな子どもたちを対象にした専門学校イースト・ロンドン・アーツ・アンド・ミュージックでもソングライティングを専攻。まだ20歳とはいえ曲作り歴は短くはない。
ドラマティックなメロディに乗せた歌詞のスタイルも一様ではなく、例えば「Dream Police」のインスピレーション源は、あのクリストファー・ノーラン監督の映画『インセプション』の主人公であるドムと彼の妻マルの関係。
「ドムが彼の潜在意識と夢を通じてしか妻との愛を体験できないというアイデアは私に強い印象を刻みました」
と、フィクショナルな題材をもとにイマジネーションを膨らませた。
他方の「TAXI DRIVER」は、悲しいニュースを受け取った彼女がたまたま乗ったタクシーの運転手に心中を吐露するという設定の曲だが、実話に根差しているのだという。
「私はタクシーに乗ると、運転手に思いの丈をぶつけて、泣きながら洗いざらい話しました。彼は1時間運転して回り、確かなコネクションを実感したんです。この出来事はずっと私の心を離れませんでした」
つまりこちらは、実体験をベースにしたダイレクトなストーリーテリングの形を取っている。
中でも彼女が繰り返し取り上げているテーマはずばり、ハートブレイクだ。ビターなトーンに貫かれた「MAYBE.」然り、うっすらと皮肉を込めた「I DON’T HATE YOU」然り、エイミーの「Back To Black」へのオマージュを兼ねたと察せられる「BACK TO BLONDE」然り。
シエナのブレイクアップ・ソングは、別れの情景を背景に自分の尊厳を奪還する姿を描き出すことでエンパワーメント・アンセムとしても成立しており、悲しみの中に強い意志を浮き彫りにする。
4. 「Die On This Hill」のパワー
デビューから1年半が経過した2025年10月に登場し、冒頭で触れた通りに目下大ヒット中の「Die On This Hill」も、ハートブレイクがテーマ。非常にユニークな出自の曲でもある。というのもシエナによると、クイーンの「Bohemian Rhapsody」を覚えようとピアノを弾きながら練習していた時に、どこからともなくこのバラードの骨組みが生まれたのだという。なるほど、ブリッジの“I know nothing could matter/ God, I wish something mattered to you”というくだりを聞くと、「Bohemian Rhapsody」との接点が聞き取れるのかもしれない。
その後、共作者/プロデューサーとしてクレジットされているマイケル・ポラック(マイリー・サイラス、シャブージー)、オマー・フェディ(SZA、ヤングブラッド)、ブレイク・スラットキン(エド・シーラン、オマー・アポロ)と一緒に曲を練り、様々なアレンジを試しながら数か月を費やして現在の形に到達。
その現在の形とは、曲の出自に忠実なピアノの弾き語りを基本に、ロブ・ムース(テイラー・スウィフトを始め多数のアーティストの作品で腕を振るう名アレンジャー)が手掛けたストリングスをあしらった、シエナのデフォルトとも言える。
それでいて、マイナーコードの閉ざされた空間の中で進行する曲が多い中で、例外的にメジャー・コードに傾く「Die On This Hill」は優しさや解放感を湛えており、シエナ曰くここに描かれているのは、「もう諦めるべきなのに留まってしまうような種類の頑固なラヴ」。
そもそも“hill to die on”というフレーズは、自分にとって譲れない物事、どんな犠牲を払ってでも守りたい物事を意味しているのだが、終わりを予感しながらも、この関係に身を投じたことを自分は悔いていないという誇りを彼女は伝えている。アウトロを設けず、“I always will”と歌った瞬間にプツリと途切れるエンディングもまた、シエナの揺るがない信念を強調しているように聞こえてならない。
5. 女性主導の波に乗って
最後に、シエナを取り巻く今のシーンについても触れておきたい。なぜなら昨今の英国の音楽界は彼女以外にも女性の活躍が目覚ましく、優位な状態が続いている。最優秀ブリティッシュ・アーティスト部門における男女の区分けを廃止した、2022年以降のブリット・アワードの結果を見てみると、2022年にアデル、2024年にレイ、2025年にはチャーリーXCXが受賞。
以上3人以外にも、デュア・リパやジェイド、先頃グラミー賞新人賞に輝いた時の人オリヴィア・ディーン、ローラ・ヤング、前述したリトル・シムズ、ウェット・レッグ、ウルフ・アリス、ラスト・ディナー・パーティー、シエナと並ぶ2026年の有望新人であるスカイ・ニューマンやローズ・グレイなどなど無数のアーティストが個性を競わせ、女性の視点を打ち出し、シーンを面白くしてきた。
そんな中で、注目すべきひとつの流れを作り出しているのが、レイを筆頭にオリヴィア、ローラ、スカイ、いずれも古典的なジャズやソウルにインスピレーションを得て、そのヴィンテージ感をアップデートする美声のアーティストたち。エイミー、ダフィー、アデル、パロマ・フェイスなどなど、同様に古典を愛する若い歌い手が相次いで現れた、20年ほど前のシーンに重なる動きだ。シエナはまさにこの一翼を担う新星でもあり、アルバムを待たずして自分の声と言葉で確固とした存在感を放っている。
Written By 新谷 洋子
シエナ・スパイロ「Die On This Hill」
2025年10月10日発売
Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
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