丸屋九兵衛連載特別編:トークイベント「Soul Food Assassins/ブラックカルチャーと命名哲学」文字起こし

September 17, 2017


丸屋九兵衛連載特別編:トークイベント「Soul Food Assassins/ブラックカルチャーと命名哲学」文字起こし

uDiscoverでコラムを執筆頂いている(バックナンバーはこちら)丸屋九兵衛氏が7月29日に行ったソロトークライブ「Soul Food Assassins」。この第1回「トゥパックからマルコムXまで:ブラックカルチャーと命名哲学」の文字起こしを一部特別に掲載します。*第2回「差別用語の基礎知識」は9月23日(土)に開催


ブラック・カルチャーと映画

bmrの記事を見てみますと、『この「Soul Food Assassins」は、丸屋が主に洋画業界とかかわる中で「この国にはマイノリティ・カルチャ―への敬意がない」と「ブラック・カルチャー・リテラシーの低さ」を痛感したことが生まれた』とドラマチックに書いていますが、まぁ事実なんですね。

映画の話から始めようと思うんですが……

スリー・6・マフィアの説明をするときに、彼らの説明ってしづらいじゃないですか。「凶悪な顔をしている」とか? でもポジティブに説明したい時には「アカデミー歌曲賞をとった珍しいHIP HOPグループですよ」と言うんです。映画「ハッスル&フロウ」の「It's Hard Out Here for a Pimp」ですね。あれは彼ら自身じゃなくて、役者のテレンス・ハワードがラップしてますけど、それを作ったスリー・6・マフィアが賞をとってるんですね。そういう風に「アカデミー賞をとったのじゃ」って説明はしますけど、私自身はアカデミーとかグラミーとか、そういうアワードは正直どうでもいいと思ってるんですよ。

アカデミー賞受賞の様子

だがしかし。主人公の白人が、停滞したジャズ界と悩めるジョン・レジェンドを助けちゃったりする映画……つまり「ラ・ラ・ランド」よりも、低予算なのに工夫に工夫を重ねて良質に作り上げられた黒人映画がアカデミー賞を取って、しかもテーマがLGBTQだったりすると、それは素晴らしいことだと思うんですよ。ただ問題は、その映画が日本でどう紹介されているかっていうことだったりするんですけど。その映画とは「ムーンライト」なんですけどね。素晴らしい映画です、本当に素晴らしい映画だと思います。英語版のWikipediaを見る限り予算もずいぶん低いのに(*400万ドル=約4,4億円。「ラ・ラ・ランド」は3,000万ドル=約33億円)、ここに「007シリーズ」のナオミ・ハリスさんが出てるんです。彼女は「007」の宣伝ツアーでアメリカに滞在していた3日間だけであの3ジェネレーションを全部撮ったっていうから、時間を大切に使うと大女優でも安くあがるっていうことが良くわかりますね。インディーあがりの監督って……これもインディー映画ですけど……インディーな監督というのは、ピーター・ジャクソンでもジャスティン・リンでもそうなんですけど、一遍に同時進行させることに長けているから。インディーで苦労してみるもんだなぁと思いますよね。ピーター・ジャクソンなんて基本的にスプラッターの人ですからね、スプラッターで鍛えた時間感覚で「ロード・オブ・ザ・リング」を撮ったという話なんです。

映画「ムーンライト」の名前の問題


この映画「ムーンライト」本当に素晴らしいんですが、主人公の名前がね。主人公の名前だけじゃないんでけすけど、いくつか問題があって、劇場公開には間に合わなかったので、DVDとかブルーレイとか出るタイミングで私が字幕に赤入れしましょうかって、進言してみたんですよ。でも助力はいらないらしいですよ。なので、今日のこの集いがあるんですけど。

で、この「ムーンライト」の主人公が「シャロン」と言われているんですね。シャロンって聞いて、「氷の微笑」とか「ストーン」という人がいるんだけど、この畑だと「ストーン」じゃなくて「ジョーンズ」って思う。だけど、シャロン・ジョーンズ大ファンのHIP HOPファンっていうのもあんまりいないらしい。シャロン・ジョーンズは去年亡くなったのかな。女版JBみたいな人で若干HIP HOP畑にアクセスする音楽性というより少し古い人だったんですけど。で、この「ムーンライト」の主人公がね、「シャロン」と訳されているわけですが……
(主人公を3つの時間軸で描いている)この映画って主人公の年齢設定が8歳の時、16歳の時なんですね、最後の部分だけ年齢がわからないんだが、2016年なのかな。たしか最初のパート、8歳のリトルのパートで、グッディー・モブの「Cell Therapy」が流れるでしょ、だからあれはたぶん95、6年なんですよ。で、現実世界ではそれから20年経っているわけだから、最後のブラックのパートっていうのは主人公は28、9歳なんだろうなってことは想定できる

で、何がよくないかというと……カタカナで全部攻めようとしているからここまでわかりづらかったんですけど、実際にはこのスペルなんですよ
CHIRON
これを「シャロン」と言い切るっていう。中国史で、秦の始皇帝が死んだあと、二世皇帝の胡亥が皇帝になった時に、悪い宦官が鹿を連れてきて、「珍しい馬が手に入りました」って言うんです。「え、これ鹿じゃないの」と言う皇帝。だけどこの宦官に逆らったら命がないんじゃないのって思った大臣たちは「馬です!馬です!」。でもまともな奴たちは、「鹿です」って言うのね。で、その「鹿です」って言ったやつを宦官は覚えていて、後から皆殺しにするんですけど、これを馬鹿問答っていうんですね。馬を鹿と言いくるめる。これ、「シャイロン」を「シャロン」と言いくるめるのもほぼ同じレベルで、これ酷いなと思ったんです。

何が酷いかというと、まぁ私は英語とクリンゴン語とドスラキ語以外は、フランス語も他の言語もわからないですけど……(*クリンゴン語は「スター・トレック」、ドスラキ語は「ゲーム・オブ・スローンズ」登場の架空言語)
こんな「C-H-I-R-O-N」っていう名前がアメリカ黒人以外にあるのかっていうことです。しかもこのスペルで、「チャイロン」でもなく「チローン」でもなく、「シャイロン」と発音するという微妙なフランス文化への憧れ。シャイ・ライツ(Chi-Lites)とか、なぜそこで「CH」を「シャ」で発音するんだっていう。これもステレオタイプですけど、ステレオタイプは理解への第一歩だから。この黒人らしさ、黒人っぽさが表れている名前へのこだわり。これ、普通のクリスチャンネームでありえないでしょ、この名前。この名前へのこだわりを無視して、「氷の微笑」みたいな名前にしやがって、っていうことですよ私が言いたいのは。なので、全部を欧米英語圏の主流文化にまとめようとしている、そこしか見てない日本の映画界っていうのが、すごく鼻について、もうちょっと多様性のあるところを見なくちゃいけない、黒人文化を見るためにはそういうのも見なくちゃいけないっていうところで始めたのが、このイベントなんですね。

2PACの読み方は「トゥポック」

「オール・アイズ・オンミー」の画像検索結果

先月、本国アメリカで6月16日に封切られた2PAC伝記映画がありますやん。2PAC、これだけ有名人ですし、2PAC(トゥパック)以外に読み方間違えようがないやろと思いますでしょ。でも非常に面白いことに彼の名前を「トゥポック」と表記している雑誌がありまして。彼がソロデビューした頃、『2Pacalypse Now』ですね。しかしよくこんなダジャレをタイトルにする人がデビューしたなって話なんですけど。彼らブラック・ピープルは本当にダジャレが好きで、『2Pacalypse Now』は2PAC以外使いようがないからいいんだけど、「Back Stabbers」の洒落の「Black Stabbers」とか「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のシャレの「ブラック・トゥ・ザ・フューチャー」とか、何べん同じシャレつかうねん!(笑)。これ聞いて「おやじギャグ」っていう人がいるんですけど、英語のシャレってそういうもんなので、おやじギャグよりむしろ、P-FUNKギャクとか言ってあげたらって思ってますね。「ファンケンシュタイン」とか(会場笑)。

とにかく「トゥポック」と、表記している雑誌がありまして……何を隠そう、ブラック・ミュージック・リヴュー「bmr」でございます(会場笑)。その時は私はまだ編集部にいませんけど。今その写真を探そうとしてもなかなか見つからないんですが、KKKに囲まれている2PACの写真って知ってます?本物じゃなくて、あの白い衣装を着ているのはたぶんデジタル・アンダーグラウンドのメンバーじゃないかって気がするんですが、その人たちに囲まれている2PACの写真を表紙にしたbmrが90年代初頭にあったんですよね。表紙をめくってみると表紙の解説が書いてあって、ちょっとうろ覚えなんですが、『デジタル・アンダーグラウンドからデビューしたラッパー、トゥポック[資料に本当にそう書いてある]』みたいなことが書いてあって(会場笑)。これはある意味で、2PACの名前のこだわりと異質性を解く鍵にはなると思います。米欧人は、我々が習うような発音記号はほぼできないので、アクセントがくるよってところが大文字で書いてあったりとか、そういう発音記号がわりの表記で「POK」って書いてあったんでしょうね。

あの映画から見る黒人の名前の様式

映画話の続きなんですが、映画業界に関わってみると、まぁみなさんブラックミュージックに興味がないこと凄いんですよ。そんな映画界との関わりの中でこういう名前の人たちが目につきまして、こういう話をするのに凄いいい例になるなと思ったんですよ。

ANTOINE CARRABY
ERIC WRIGHT
ANDRE YOUNG
LORENZO PATTERSON
O’SHEA JACKSON

たぶんこれが上から年齢順なんですけど、これねぇ確かに、黒人男性名に関していうと、とてもいいサンプルなんですよね。まず普通の英語のファースト・ネームがエリックしかいない。そして一番上は何て読むんだっていう問題があって、まぁ「アントワン」なんですけど、さっきも言った「シャイロン/ CHIRON」と同様に、「TOI」で「トワ」って読ませるこのフランス文化への憧れ、これが黒人文化を読み解く一つのポイントですね。

というわけでこれはN.W.Aのメンバーの名前なんです。「ANTOINE CARRABY」は「DJイェラ」ですね、まずここでガツンとくるでしょ。で「ERIC WRIGHT」は「イージー・E」ですよ。で、「アンドレ・ヤング」って名字がすんごい普通なのに、名前は「アンドレ」でフランス趣味。これは「ドクター・ドレー」ですね。そして「ロレンゾ・パターソン」。アンドレのドレーとロレンゾは一応芸名に生きているのかな。「ロレンゾ」って「ロ・レンゾ」なんですね、第2音節にアクセントがくるので、通称「レンゾ」。だから「MCレン」です。今聞くとMCレンって日本人のラッパー名みたいですね。最後は「オシェイ・ジャクソン」。これはアイス・キューブです。これも見慣れない人にはめちゃめちゃエイリアン(異質)な名前だったらしく、私の監修前には「オシェア」って字幕で書かれていました。N.W.Aリテラシーが高い人には『NIGGAZ4LIFE』に入っている「Alwayz Into Somethin」の中のドレーのフレーズで「Dre, I was speakin' to yo' bitch “O'Shea” / ドレー、俺はお前のビッチ、オシェイと話してたのさ」」っていう一節があって……ここ、ドレーが「俺はこう話しかけられた」という形式なので、ちょっとわかりづらいですが。最近はアイス・キューブを演じた息子、オシェイ・ジャクソンJr.の認知度が上がって「オシェイ」認知度もあがってきていると思うんですが、しかしこの名前なんなんだろねぇ。この、このアポストロフィ感(会場笑)。

「Straight Outta Compton」の画像検索結果

昔、もう亡くなったP-FUNKの「鍵盤の魔術師」ことバーニー・ウォーレルっていう人と話したことがあって、バーニー・ウォーレルに今どういうミュージシャンが好きか聞いたら「ほら、あの、女性のベース弾いてる人」って言うんです。「どういう人ですか?」って聞いたら「ほら、スキンヘッドで」「あぁ、ミシェル・ンデゲオチェロ(Me'Shell NdegéOcello)!」って言ったら「そうそうそう、そのンデゲなんちゃらかんちゃら」って、私のほうがよっぽど名前を憶えてたって話なんですけど(会場笑)。あえてNから始まるっていうのは、フランス系とはまた別の「ルーツ系」の発想だと思うんですけど、ミシェルの途中に入るアポストロフィや、ンデゲオチェロの途中にはいるアクサンによってある種の異国感を出すっていうのが、黒人にとって一つの大きなポイントだと思うんですね。でも「O’SHEA」Oのあとにアポストロフィついてたら、アイリッシュ?って思うんですが。ほんと、「オシェイ」ってなんなんだろね、未だに私わからないです。アントワンはフランス風、アンドレもフランス風だし、ロレンゾはスパニッシュ? イタリアン? とにかく何かしらラテンですよね。ファースト・ネームにおける、この英語率の低さ。それでいて名字は黒人らしい。

「2PAC=トゥパック・アマル・シャクール」の名前が持つ意味

トゥパク・アマル

ここで2PACに戻ります。彼のパスポートがあるんですが、そこには名字が先で、「シャクール、トゥパック・アマル」って書かれています。これまでいろいろな名前を語ってきましたが、そもそも「トゥパック・アマル」って何か知っています? 「トゥパック」といは蛇神を指す言葉なんですね。中南米は蛇の神を持つ文化が多い地域。アステカ文明でいうと「ケツァルコアトル」、マヤ文明でいうと「ククルカン」という神様がいるんですが、そのインカ文明ヴァージョンが「トゥパック」なんです。「アマル」は英語で言うと「シャイニング」くらいの意味なので、「トゥパック・アマル」は「シャイニング・スネイク」みたいな意味なんです。

その昔、インカ帝国の時代に「トゥパック・アマル」という名前の皇帝がいました。インカ帝国最後の皇帝ですね。この人は若くして、スペインからの侵略者に殺されたんですが、殺される時でさえも最後まで威厳を崩すことがなかったという偉大な皇帝なんです。その何百年かあとに、この皇帝の子孫を名乗る「トゥパック・アマル2世」という人物が出てきて、当時のスペインの植民地だったペルーの民衆を率いて、スペイン当局の圧政に刃向った人なんですが、最後には失敗して、手足をそれぞれ馬に結び付けられて、馬が一斉に走るっていう四つ裂きの刑にあって殺されちゃうんです。でも、彼が残した「農民よ、地主は二度とあなたの貧しさを食いものにしない」っていうセリフがあって、それがのちに「南アメリカ解放の父」と言われるシモン・ボリバルのモチベーションを高めたりしたという偉大な革命家なんですね。

凄いなぁと思うのが、トゥパックのお母さんって過激な黒人解放闘争をしていたブラック・パンサー党員で、テロ容疑で捕まっちゃったりもした人なんです。それで刑務所に入って……と聞くと、黒人ナショナリズムでガチガチなのかなと思ってしまいがちなんですが、そうではなくて、中南米の革命家の名前をあえて息子につける、そういう思考の広がりや世界を見ているセンスがあったんだな、これは素晴らしいって思うんです。欧米中心主義に刃向うものならなんでも仲間っていう感覚で、広い視点でネーミングを考えていたということは心に留めておきたいなっていう今日この頃です。


♪ コラム中に出てきたアルバム/映画をチェック


■著者プロフィールmaruya

丸屋九兵衛(まるや きゅうべえ)

音楽情報サイト『bmr』の編集長を務める音楽評論家/編集者/ラジオDJ/どこでもトーカー。2017年現在、トークライブ【Q-B-CONTINUED】シリーズをサンキュータツオと共にレッドブル・スタジオ東京で展開中。

・9月23日(土)開催のトークライブは2本だて
第1部:秋分の日のエイリアン! 怒涛の異星人狂想曲
第2部:ブラック・ミュージック解読講座:差別用語の基礎知識

bmr :http://bmr.jp
Twitter :https://twitter.com/qb_maruya
手作りサイト :https://www.qbmaruya.com/

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