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来日公演当時の担当者が語るアヴィーチー:ライヴの盛り上がりと日本への想い
2025年5月16日に発売されたアヴィーチー(Avicii)初のベスト・アルバム『Avicii Forever』。この発売を記念して、日本のユニバーサル ミュージックの歴代アヴィーチー担当にインタビューを実施して、当時のことを振り返ってもらいました。
第二回は、2016年の来日当時の担当である川崎たみ子さんです。
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アヴィーチー担当としての始まり
―― 今回は、ユニバーサル ミュージック インターナショナルのレーベルヘッド、川崎さんにお話を伺います。よろしくお願いします。
川崎:よろしくお願いします。
―― 川崎さんがアヴィーチーを担当されるようになったきっかけ、仕事としての出会いはいつでしたか?
川崎:仕事としての出会いは2016年です。前任の方から担当を引き継ぎました。『Stories』というアルバムが2015年の10月に出ているんですが、年が明けた2016年の1月から新担当になったと記憶しています。9年前ですね。
―― EP『AVĪCI (01)』は担当されましたか?
川崎:EPは担当しました。ただ、『TIM』は担当していないので、担当期間は2018年までだと思います。
―― ということは、約1年半ぐらいですね。日本のファンにとっては一番激動の期間だったかもしれません。
川崎:そうですね。
―― 担当になった2016年1月の時点では、その後にリリースされるEP(『AVĪCI (01)』)の情報はご存知でしたか?
川崎:いえ、知らなかったです。
―― 日本限定でCD化されたんでしたっけ?
川崎:はい、CDにしたのは日本だけでしたね。
来日公演発表の発表
――来日公演は、SPRINGROOVEや単独公演、富士急など、それまでに3度キャンセルが続きましたが、ようやく2016年6月に来日が実現しました。この時の思い出はありますか?
川崎:2つあります。1つは、来日公演の発表方法です。キャンセルになった公演も全てクリエイティブマンさんの企画で、2016年が4度目の正直で、ファンの方から「どうせ、また来ないんだろう」と言われるのではないかという恐れもありましたね… 。もちろん私たちも前日まで本当に来るかわからなくてドキドキしていました。
そのアナウンスの仕方を工夫したいとクリエイティブマンさんと話していて、他の洋楽アーティストの来日公演とは違うやり方を考えました。どのタイミングで、どのように発表するかを、当時のデジタルチームの担当者と一緒に、打ち合わせを重ねまして、結果的にやったのが… アヴィーチーのロゴ(◢ ◤)をおにぎりで表現してカウントダウンする、という企画…だった気がするんですが、やったかな?(笑)。記憶が曖昧で申し訳ないのですが、もしかしたら夢だったかもしれません。メールも掘り起こせず。
―― 「アヴィーチー おにぎり」で検索しても出てこないですね…
川崎:出てこないですか? じゃあやってないのかな? EDM Japanっていうアカウントを当時運営していて、そこで告知する予定だったんですが… おにぎりの企画はやめたんですかね。やろうって言ってやらなかったんですね(笑)。 とにかく、いろんなアイデアを出し合って、来日公演の発表の仕方や文言について、かなり綿密に打ち合わせをしたのがすごく思い出に残っています。
クリエイティブマンとの連携とファンの熱量
―― 4度目の正直ということで日本側のスタッフの渇望感も強かったんですね。
川崎:クリエイティブマンさんも、3回のキャンセルを経て、相当な思いと覚悟で4回目に取り組んでいらっしゃいました。その熱量を私たちも感じて、同じ熱量でやれたのが良かったです。
―― 来日公演ポスターのキャッチコピーが「頼むぜ、アヴィーチー!僕らは君を諦めない!」っていう(笑)。こんなコピー、他のアーティストでは見たことないですよね。
川崎:これもクリエイティブマンさんが2、3個案を出してくれて、「これ最高です!」ってなって、「これで行きましょう!」と。
――もはや来ない前提みたいな。
川崎:そう、来たら奇跡、みたいな(笑)。ここのキャッチコピーも綿密に考えました。何書いても「どうせ来ないんでしょ」って言われるかも、と思いながらも。
―― 今ドキュメンタリーを見るとキャンセルの理由もわかりますが、そこらへんがわからない当時、都合3回キャンセルしてるとどうしてもそういうファンの方のリアクションもでますね。
川崎:だからこそ、熱量高く打ち出していって、最終的にはファンの方も「クリマン頑張れ!」みたいになっていましたね。
川崎:それにこの来日公演に合わせて『Stories』のジャパン・ツアー・エディションも出したんです。これも私が担当でした。この来日記念盤だけのボーナストラックとか、色々入れさせてもらって。この『Stories』の「O」の文字を日本の日の丸みたいに赤丸にしたデザインも、何パターンか出して、アヴィーチーがこれを選んでくれたんです。やっぱり日本への愛はある人なんだなって、このアルバム制作のやり取りで感じていました。5曲もボーナストラックも許諾してくれましたし。
だから、これを作りながら「もう絶対来る!」って思ってましたし、来てほしいと思ってましたし、彼の日本への愛もちゃんとあるんだなっていうのを確認できたので。実際会ってそれを再確認した、という感じですね。これも出させてもらってよかったです。
遂に実現した来日
―― そしていよいよ2016年の6月に。
川崎:来日する当日、まず「無事、来ました!」という連絡がきたのを覚えています。当たり前のことなんですけど、他の来日公演では「羽田到着しました」「了解です」みたいなやり取りですが、彼の場合はもう、本当に来るのかと、正座して待つような心境でした(笑)
―― 本当に飛行機に乗ったのか? と。
川崎:そうそう(笑)。クリエイティブマンさんから「来ました!」ってショートメールが来て、「うわー!来たんだー!」って。当時の上司とかに報告したら、「うおー!」って大拍手でした(笑)。
―― 海外でもキャンセルがありましたもんね。
川崎:そうですね。本人のメンタル的なことも色々あったんですがそれでも、ちゃんと来てくれました。最初の日程では少しオフがあって、鎌倉の大仏を見に行ったり、普通に電車に乗ったりしていましたね。
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――インスタにも上がっていましたね。
川崎:どんどんインスタに日本にいる写真が上がっていくので、本当に嬉しくて。そこのコメントとかも、普通の何倍も日本語のコメントがたくさんついていて。みんながアヴィーチーが来たことを、本当にオリンピックぐらいの盛り上がりで喜んでいました。
3回もキャンセルしたから、「日本嫌いなんじゃないか説」まで出ていましたが、実際に来てくれて、めちゃくちゃエンジョイしてくれて。インスタに上がってる写真とか、道とか自販機の写真とかも含めて、楽しんでるのが伝わってきて。ライヴを行う前から、それだけでもう、みんな涙が出るくらい嬉しかったですね。
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ライヴ当日の熱狂とアヴィーチーの素顔
―― そして、いざライヴ当日。
川崎:大阪は行けなかったんですが、千葉マリンは「はぁ〜、これがずっとドキュメンタリーとかYouTubeで見てたやつだ…」っていうような雰囲気で。もう、めちゃくちゃ会場は盛り上がって。アヴィーチーといえば、キャップに、あの手の動き(DJプレイのジェスチャー)、そしてDJ。それを実際にこの目で見て「本物だ!」みたいな(笑)。すごくミーハーな感想ですけど、「うわー!」って思いましたね。
公演には日本人のDJの方も何組か出演していて、最後にアヴィーチーだったので、余計に高揚感とか一体感が素晴らしかったです。来日決定から入国、そして公演まで、全てが良い流れで、そこを担当させていただけて本当に良かったです。ありがたかったですね。
――実際に直接お会いにもなったんですよね? どこで会ったんですか?
川崎:マリンスタジアムの楽屋です。まずライヴ当日の開演前、うちの社長をはじめ役員とか上司、チームメンバーとか十数人で「ウェルカム・トゥ・ジャパン!」って感じでご挨拶に。マリンの楽屋で。やっぱりイメージ通りというか、ちょっとシャイな感じでしたね。たまに目は合わせてくれるけど、みたいな。
―― ナイーブな感じですか?
川崎:すごく言葉を選んで話す方でした。もちろん「今までキャンセルしてごめんね」とまでは言わないけど「日本をエンジョイしてるし、本当にやっと来れて嬉しい」というのは本人も言っていました。すごく素敵な人だなと思いました。あと、「インスタ見て、鎌倉行ったんだね」とか話したら、結構その話をしてくれて。「電車も面白いし」とか。
―― スタッフの方への気遣いも感じられましたか?
川崎:すごく仲間思いだなと思いました。いろんなスタッフの方と鎌倉とかも一緒に行っていたので。
―― 主役でありながら気遣いをされる方なんですね。
川崎:すごく周りに気をつかう方だなって。あの若さで素晴らしいなと思いました。それが出会った1回目。あと、出国する日にも最後にお会いしました。今度はクリエイティブマンの担当の方と私と3人で。滞在していたホテルで送り出ししましょうって話して。
―― ライヴの翌日ですか?
川崎:確かもう1日ぐらい日本に滞在してたかな? その時も、「すごく楽しかったし、また日本に来たい」って言ってたんですよ、最後に。
―― そうだったんですね…
川崎:「じゃあまた待ってるね」って言って。クリエイティブマンの担当の方と私とアヴィーチーと4人で写真撮って。その写真がね、たまに「何年前の今日」ってiPhoneの通知で出てくるんですよ。消せない宝物です。その時もすごくシャイだけど丁寧で。ホテルのロビーで、パッとバイバイするだけのつもりでしたが、「本当にありがとう」みたいに、すごく感謝してくれて。
―― へえー。
川崎:話のトーンとかも一定で、わーっとは言わないんですけど、すごく心からの言葉なんだろうなっていうのが伝わってくる方でしたね。
―― スウェーデンの方らしいというか、アメリカ人みたいな「ヘーイ!」って感じではないけど、気持ちが伝わってくるんですね。
川崎:本当に思ってることを口にしてくれてるんだなっていうのが伝わってきました。本当に「またカムバックしたい」って。どういう形かわからない、プライベートかもしれないけど、「日本は素晴らしい場所だし、またいつか訪れたい」って言ってたので、「いつでも待ってるね」というのが最後に交わした言葉になっちゃいましたね。
――なるほど…
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アヴィーチーのベストソング
―― 川崎さんが一番好きなアヴィーチーの曲は何ですか?
川崎:難しい… 私は「X You」が好きなんです。それと「Without You」も好きで。3つでいいですか?
―― はい、3つでお願いします。
川崎:アヴィーチーって、歌詞の良さもありますよね。泣ける歌詞、泣きメロ、そして唯一無二のサウンド。本当に他のDJにはない魅力。皆さん語られてると思いますけど。私はその「泣きメロ」で言うと…「X You」は歌詞はないんですけど、メロが最高。それともう1曲は「Dear Boy」ですね。
―― やはりアヴィーチーの魅力は、今おっしゃった歌詞、メロ、サウンドの3つですか?
川崎:サウンドは本当に、いろんなエッセンスとか、国の音楽とかからインスパイアされていて、もう「ジャンル:アヴィーチー」みたいな感じですよね。そこが唯一無二だと思います。自分の中で、担当になったのは2016年ですが、初期の「Levels」とかも大好きですし、出てきた時から… 当時他のEDM DJを担当してたこともあって、初期から聴かせてもらってて、ファンとして。でもやっぱり今言った3曲とか… 「Without You」は後期ですけど。それが印象深いので、その3曲を選ばせてもらいました。
あとは、知れば知るほど… メロから入る人もいれば、いろんなパターンがあると思うんですけど、メロから入っていって、お父さんのことを歌った曲だとか… 色々歌詞も深いじゃないですか。
―― はい。
川崎:だからどんどん沼っていくんだろうなって、皆さん。ダンスミュージックだから当然高揚感もあって、踊れて楽しくてクラブでイェーイ!みたいなのもあるけど、実は歌詞を見ると泣けたり、深かったり。歌詞で背中を押されてる人もいる。そこが他のEDMアーティストとは違うところかなと思いますね。
――今日は貴重なお話をありがとうございました。
川崎:担当ができて本当に光栄でした!
Interviewed and written by uDiscover Team
*インタビュー第1回、初代担当者インタビューはこちら
アヴィーチー「Avicii Forever」
2025年5月16日発売
CD&LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify
- アヴィーチー日本公式サイト
- アヴィーチー初のベスト盤『Forever』発売決定、新曲も収録
- アヴィーチー『TRUE』解説:デビューアルバムへ至る道のりと後世に残したもの
- アヴィーチー生前最後のパフォーマンス映像が公開
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