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『DEATH STRANDING 2』サントラで注目されるウッドキッドとは? 複数の顔を持つ彼のキャリアを辿る
世界で最も有名なゲームクリエイターの一人、小島秀夫が手掛けるゲーム『DEATH STRANDING』の続編、『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』が2025年6月に発売された。
海外のレビュー集積サイトmetacriticにて100点満点中、90点という高評価を得ているこのゲームのサウンドトラックを担当するのはフランス人アーティストのウッドキッド(Woodkid)。彼の異色な経歴と音楽性について、ポップ・カルチャー・ジャーナリストのJun Fukunagaさんに解説いただきました。
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2025年6月26日、世界中のゲームファンが待ち望んでいた小島秀夫監督の最新作『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』(以下『DEATH STRANDING 2』)がついに発売された。発売直後から大きな注目を集める同作だが、その中でMV監督、シンガーソングライター、劇伴作家など複数の顔を持つ異色のフランス人アーティスト、ウッドキッド(Woodkid)ことヨアン・ルモワンヌによるサウンドトラック『WOODKID FOR DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』も話題を呼んでいる。
今回、ウッドキッドは「プロシージャル・ミュージック」と呼ばれる斬新なアプローチを採用。これは、プレイヤーが走ればドラムロールが鳴り、止まれば静かになり、進むルートによってメロディーやリズムが変わるという、プレイヤーの行動と音楽が連動し、リアルタイムに変化する音楽システムのことを指す。
では、このような革新的なゲーム音楽体験を生み出したウッドキッドとは、一体どのような人物なのだろうか。
映像作家としてのキャリア
冒頭で述べたようにウッドキッドは、複数の顔を持つマルチアーティストだが、実は音楽の世界で注目される以前に、彼は映像作家として既に頭角を表している。その映像作品の特徴は、観る者に「何かが足りない」と感じさせ、自然とその空白を埋めたくなるような絶妙な余白の美学にあると評価されている。
この独特な映像感覚は、数々の世界的ポップスターとのコラボレーションで発揮されている。ケイティ・ペリーの「Teenage Dream」、ラナ・デル・レイの「Born to Die」、テイラー・スウィフトの「Back to December」、 ハリー・スタイルズの「Sign of the Times」など、それぞれのアーティストが持つ世界観を映像で見事に表現し、高い評価を得た。
また、自身の代表曲「Run Boy Run」のMVはMVPA(Music Video Production Association)の「Best Director of the Year」を受賞し、グラミー賞の最優秀ミュージック・ビデオ賞に3度ノミネートされた実績を持つ。そのうちの1つ「Goliath」のMVでは、時間とともにビジュアルが変化し続ける「プロシージャル・グロース」という技法が駆使されているが、この探求が先述した『DEATH STRANDING 2』でのプロシージャル・ミュージックというコンセプトに結びついている。
さらにファレル・ウィリアムスの世界的ヒット曲「Happy」では当時大きな話題になった24時間MVのクリエイティブディレクターを務めている。
ミュージシャンとしてのキャリア
音楽面では、2011年にウッドキッド名義でデビューEP『Iron』をリリース。そのタイトル曲は後にケンドリック・ラマーが「The Spiteful Chant」でサンプリングするほどの影響力を持つことになるが、彼の音楽家としての地位を決定づけたのが、2013年のデビューアルバム『The Golden Age』だ。
同作の成功は目覚ましく、全世界で100万枚以上という大ヒットを記録。批評家や音楽メディアからは「映画的」「壮大でオーケストラ的」「詩的な歌詞と大胆なプロダクション」と絶賛され、映像作家としての経験が音楽にも見事に活かされていることが証明された。
特に収録曲「Run Boy Run」は、先述の映像面での評価のみならず、ドイツやイギリスでゴールドディスク認定されたほか、2020年代に入ってからは、同曲を使用した「Run Boy Run」チャレンジがTikTokで大きなバズとなったことで2022年と2023年にはTikTokで最も使用された楽曲の一つとなった。
また、2020年のアルバム『S16』では、従来の有機的で感情的なサウンドからよりインダストリアル色が強い、デジタルなサウンド要素も導入。さらなる音楽的進化を見せたと評価されている。
ちなみに日本との関係性でいえば、2021年の東京オリンピックでも特別な役割を果たしている。その閉会式でのオリンピック旗引き継ぎ式の後に披露された映像では、ウッドキッドが手がけた「Prologue」という楽曲が使用され、次回開催地パリへの橋渡しを印象的に演出したことは記憶に新しい。
作品を彩る音楽作家として
さらにウッドキッドの才能は、さまざまなエンターテイメント作品の世界観を音楽で彩る劇伴作家としても発揮されている。映画の世界では、2015年の『ノー・エスケープ 自由への国境(原題:Desierto)』でサウンドトラックを手がけ、”メキシコ映画界のアカデミー賞”とも呼ばれるアリエル賞にノミネートされるなど、彼の音楽が持つ壮大で感情的なスケール感が、映画の物語を効果的に支えている。
テレビドラマでの成功も印象深い。例えば、世界的な話題作となったNetflixのアニメシリーズ『アーケイン(原題:Arcane)』では、シーズン1の第6話に楽曲「Guns for Hire」を提供し、エミー賞の最優秀音響賞を受賞。さらにシーズン2でも「To Ashes And Blood」を提供している。また、2024年のプライムビデオドラマ『Those About To Die』でもオープニングテーマを手がけるなど、その活躍ぶりは枚挙にいとまがない。
ちなみに、DEATH STRANDINGシリーズでは、先述の『S16』収録曲のうち、「Goliath」と「Pale Yellow」が2021年の『Death Stranding Director’s Cut』で使用されている。また、小島監督は当時その2曲に加えて、同作の収録曲「Reactor」と「Minus Sixty One」をXでおすすめ曲として紹介している。
この2曲には『DEATH STRANDING 2』サウンドトラック収録の「Story of Rainy」、「Amekara Nijie」などでコラボしている杉並児童合唱団が参加しているほか、「Minus Sixty One」が『DEATH STRANDING 2』のオープニングシーンで使用されている。このことから小島監督がかねてからウッドキッドの音楽に厚い信頼を寄せていることが伺える。
「フレンチタッチ」無形文化遺産登録運動とウッドキッド
余談だが、2025年6月にマクロン仏大統領がフランス発のエレクトロニック・ミュージック「フレンチタッチ」のユネスコ無形文化遺産登録を求める動きを見せていることは大きな話題になった。
フレンチタッチとは、簡単に説明するとダフト・パンクやジャスティスに代表されるY2K〜2000年代に世界的人気ジャンルとなったフランス発のエレクトロニックミュージックのことなのだが、実はウッドキッドのルーツを語る上で興味深いのは、このシーンとの関わりだ。
例えば、キャリア初期にはイエール(Yelle)やザ・シューズ(The Shoes)といった、フレンチタッチ界隈のアーティストのMVを手がけているほか、音楽面ではこの界隈の人気アーティストだったTEPR(本名:タンギー・デスタブル)と関係が深く、先述した『S16』のほか、今回の『DEATH STRANDING 2』サウンドトラックを含むいくつかの作品で共同プロデュースを行なっている。
一見、ウッドキッドは、多方面で才能を発揮する特異なキャリアの持ち主に思えるが、この点を踏まえると、実は現代フランス音楽の文脈に沿った、デジタル技術と芸術表現の融合、国境を越えた文化的影響力の継承者でもあると言える。つまり、冒頭で問いかけた「ウッドキッドとは、一体どのような人物なのか」という疑問への答えは明確だ。
彼は単なる多才なアーティストではない。フランスが世界に誇る電子音楽文化のDNAを受け継ぎながら、『DEATH STRANDING 2』のような革新的なプロジェクトでその可能性を押し広げ続けている、現代エンターテイメント界の最重要アーティストの1人なのだ。
Written by Jun Fukunaga