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ウォーレン G『Regulate… G Funk Era』解説:“Gファンクの時代”を確立したアルバム
HIP HOPの輸入盤アナログ・レコードが音楽サイトuDiscovermusicの名前を冠したシリーズ「uDiscovermusic. VINYL HIP HOP」としてカラー・ヴァイナル、日本語半掛け帯付きとして2025年7月4日に数量限定で発売される(一部タイトルの発売日は除く)。
今回このシリーズで発売されるのは以下の全8タイトル。それぞれのアルバム解説を掲載。このページでは 1994年に発売されたウォーレン G『Regulate… G Funk Era』についてライターの渡辺志保さんによる解説を掲載。
<タイトル一覧・クリックすると解説がご覧になれます>
・パブリック・エネミー『It Takes A Nation Of Millions To Hold Us Back』
・ウォーレン G『Regulate… G Funk Era』
・DMX『… And Then There Was X』
・ジャ・ルール『RULE 3:36』
・50セント『Get Rich or Die Tryin’』
・2パック 『Best of 2Pac, Part 1: Thug』
・プッシャ・T『Daytona』
・ケンドリック・ラマ―『Black Panther: The Album』
G・ファンクの時代
1980年代に入って本格的に商業化したヒップホップは、80年代後半になると生まれ故郷のニューヨークから西海岸のロサンゼルスにまでその熱気を移し、そこではアイス・TやN.W.A.といったラッパーたちがデビューし、独自のラップ・コミュニティとマーケットを拡大していった。
そして、90年代に入るとN.W.A.のD J/プロデューサーでもあったDr.ドレーが1992年に『The Chronic』でソロ・デビューを果たし、翌年の1993年にはスヌープ・ドッグもDr.ドレーと組んだ『Doggystyle』で鮮烈なデビューを飾った。彼らの出現は、ウエスト・コーストを基盤とした新たなサウンドの改革をも意味した。それが、G・ファンクの登場である。そして、ウォーレン・Gの1stアルバム『Regulate… G Funk Era』もタイトル通り、G・ファンクの時代を語るには欠かせない時代を象徴する一枚となったのだった。
ドレーとウォーレン
ウォーレン・Gは1970年にカリフォルニア州のロングビーチで生まれた。幼い頃に両親が離婚し、ウォーレンは母親と共に暮らすも、のちに再婚した父親のもとに引き取られることになる。そこで出会ったのが、異母兄弟となるDr.ドレーだった。ドレーはウォーレンにドラムマシーンの使い方を教え、やがてドレーの道筋を辿るようにウォーレンも真剣に音楽への道を志す。
1990年には地元の音楽友達ともいうべきネイト・ドッグ(2011年に逝去。レスト・イン・ピース)とスヌープ・ドッグらとともにヒップホップ・グループ、213を結成。前述した通り、、間もなく相次いだドレーやスヌープらの衝撃的なソロデビューに続くべく、ウォーレン・Gもソロ活動に邁進していく。ちなみにこの当時、西海岸では『ボーイズ・ン・ダ・フッド』や『ディープ・カバー』、『ポエティック・ジャスティス』など地元の若者たちとストリート・カルチャーにフォーカスした映画作品が多く生まれた時期でもあった。
そして、文字通りそうした映画のサウンドトラックになったのが、地元ウエスト・コーストのラップ楽曲であった。1994年、Dr.ドレーやスヌープらを次々と世に送り出し、西海岸の一大ヒップホップ・レーベルとして急成長を遂げていたDeath Row Recordsがリリースしたサウンドトラックが『Above The Rim (邦題:ビート・オブ・ダンク)』だった。
俳優としても注目されていた2パックが主演を務めた作品で、サウンドトラックにはレディ・オブ・レイジ「Afro Puffs」や、DJクイックが手がけたラップ・デュオ、セカンド・トゥ・ナンの「Didn’t Mean to Turn You On」といった西海岸の若手勢らによる目玉楽曲も多く並んだ。その中で、最も際立つ一曲がウォーレン・Gのデビュー曲となった「Regulate」だったのだ。
ネイト・ドッグとの共作楽曲としてシングル・カットされたこの「Regulate」は、全米シングルチャート(Billboard Hot 100)において実に20週もランクインし、MTVのチャートでも首位に、そして瞬く間に100万枚を超える売り上げを記録した。
マイケル・マクドナルドの人気曲「I Keep Forgettin’」を幹として、ボブ・ジェームスやパーラメントの楽曲を織り重ねてサンプリングしたビートは、西海岸のチルな雰囲気を伝える極上のファンク・サウンドーーまさにGファンク・サウンドとして完成されていた。
“Gファンクの時代”を確立したアルバム
そして、「Regulate」のヒットにさらに追い風を吹かせるように堂々とリリースされたのが、本作『Regulate… G Funk Era』であった。本作では全編のプロデュースもウォーレン・G本人が手がけ、自らの視点で体現した内容を完璧にパッケージしてみせた。文字通り“Gファンクの時代”を確立したアルバムである。
大ヒット・シングル「Regulate」に続き、とことんメロウに攻めるパーティー・チューン「This D.J.」がシングル曲として発表され、ゴールド・ディスクにも認定された。3rdシングル「Do You See」ではギル・スコット・ヘロンのスポークン・ワードとエムトゥーメイ「Juicy Fruit」をサンプリングしつつ、社会的な眼差しでリリックを紡ぐ。
他にも、女性ラッパーのジャー・スキルズが丸っと一曲をラップしている「Super Soul Sis」(ジャケットにきちんと彼女の名前がクレジットされていないことが悔やまれる…)や、ファットなベース・ラインが特徴的で、レディ・レヴィのフックとウェイニアックへのマイク・パスも聴き応えがある「So Many Ways」など、煌めくGファンク・サウンドが目白押しだ。
成功の理由とその後
ウォーレン・Gならではの魅力の一つに、そのスムーズな語り口がある。ハードで荒廃した内容を歌うギャングスタ・ラップとはやや異なり、彼のリリックの焦点になっているのは日常の生活やストリート、仲間やパーティといったトピック。ネイト・ドッグのヴォーカルも相まって、ロマンチックでメロウな雰囲気も宿る。そうした親しみやすさがウォーレン・Gの人気、そして本作のセールスにも結び付いていった。
本作は現在までに米国内だけで300万枚の売り上げを誇り、1995年のグラミー賞においては二部門でのノミネートをもたらし、さらにはソウル・トレイン・ミュージック・アウォーズでは最優秀ラップ・アルバム部門に輝いたという実績を持つ。以後、ウォーレン・Gは徐々にインディペンデントの道を選び、マイペースなキャリアを築きつつ、2004年には古巣とも言うべき213名義でのアルバム『The Hard Way』を発表し、好セールスを記録した。
近年のインタビューでは、当時、Death Row Recordsとは正式な契約に至らなかったことや、あれだけ近しい関係にあったドレーやスヌープと距離が出来てしまったことなどを打ち明けている。しかし、ウォーレン・Gが築き上げたGファンク・サウンドの礎は、誰にも邪魔されることなく今後も燦然とヒップホップ史にメロウな光を照らし続けるだろう。
Written by 渡辺志保
ウォーレン G『Regulate… G Funk Era』
オリジナル: 1994年6月7日発売
再発LP: 2025年7月4日発売
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