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【レビュー】『1971:その年、音楽が全てを変えた』:現在ともシンクロする当時の社会状況を描く

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Photo: Apple TV plus

Apple TV+にて、2021年5月21日に配信されたドキュメンタリー・シリーズ『1971:その年、音楽が全てを変えた』(原題 1971: The Year That Music Changed Everything)。

『AMY エイミー』『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』『アイルトン・セナ 〜音速の彼方へ』などのドキュメンタリー作品の映像制作チームが手掛けた全8話のシリーズについてコラムニストの山崎まどかさんに寄稿頂きました。ドキュメンタリーの配信はこちら

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1971: The Year That Music Changed Everything — Official Trailer | Apple TV+

 

1971年という年

Apple TV+で配信されているドキュメンタリー・シリーズ『1971:その年、音楽が全てを変えた』(以下:1971)で描かれているのは、タイトルの通り、1971年当時に世界に影響を及ぼした(主にアメリカの)音楽シーンの動向である。60年代から70年代にかけて、ロックやR&Bは世の中の動きと常にシンクロして巨大のうねりを見せていたが、何故、ここで1971年という年を特別に取り上げるのか。

1971年は今からちょうど50年前に当たる。愛と平和を訴えてきた60年代が終わり、人種や社会階層、世代による分断が明らかになった時期である。アメリカはニクソン政権時代。革命を望み、より過激化していく学生運動や、ブラックパンサー党、ボブ・ディランの「Subterranean Homesick Blues」の歌詞からその名を取った極左テロ組織のウェザーマン(Weatherman)などの動きを気にする彼はFBIを通じて監視体制を徹底して若者たちの動きを封じ込めようとしていた。

 

ホワイトハウスでのハプニング

『1971』のエピソード1に出てくるホワイトハウスの晩餐会で、ニクソンに招かれたミュージシャンがレイ・コニフ・シンガーズだというのが象徴的だ。

イージー・リスニング音楽の王者であるレイ・コニフ率いる彼のコーラス・グループは、長い間コロンビア・レーベルの稼ぎ頭であり、ロック・ミュージックへの本格的な参入が遅れたこのレーベルの保守性を物語るグループだった。ところが、思わぬハプニングが起こる。テレビで生中継されていた晩餐会ライブの冒頭、レイ・コニフ・シンガーズの一人として参加していたキャロル・アデッソが手書きのバナーを掲げて、ヴェトナム戦争反対を訴えたのだ。

ホワイトハウスのハプニングは正確に言うと1972年1月の出来事だが、ドキュメンタリーとしての『1971』の主張は伝わる。この時代、もはや(レイ・コニフ・シンガーズのようなグループさえ!)ポピュラー・ミュージックと政治、世の中の流れは切り離すことができない状況に来ていた。音楽が政治の不当性や社会の問題を訴え、その曲が世間の動きを扇動し、そうした世界の動向にインスパイアされて新しい音楽が生まれる。『1971』は各ミュージシャンのライブやレコーディング・シーン、インタビューなどの豊富なフッテージとドキュメンタリーやニュースの映像をコラージュして、2021年という現在ともシンクロする当時の社会状況を鮮やかに切り出してみせた。

 

“普通の家庭”とベトナム戦争

エピソード4は、キャロル・キングやジョニ・ミッチェルといった自分の言葉で人生や恋愛について歌う女性シンガー・ソング・ライターの台頭と、公共放送局PBSが放映した革新的なドキュメンタリー番組「アメリカン・ファミリー(An American Family)」を重ね合わせた構成が面白い。カリフォルニア州サンタバーバラの一般中流家庭を取り上げて追ったこのシリーズは、元祖リアリティ・ショーとも呼ばれている番組だ。番組では一見「普通の」家庭であるロード家に様々な出来事が起きる。長男のランスはアメリカのテレビに登場した初めてのオープンリー・ゲイの一般人だった。その偏見のない描き方も当時は新鮮で、Apple TV+のノンフィクション・シリーズ『テレビが見たLGBTQ』でも大きくフィーチャーされている。『1971』では息子の自由な生き方に触れ、家庭内のトラブルを残り越えて、離婚し、自立の道を探る母パット・ロードに焦点を当てて、時代の変化を見せた。

ドラッグや暴力、泥沼化するベトナム戦争も『1971』の大きなテーマであり、エピソード6でスライ&ファミリー・ストーンの『There’s a Riot Goin’ On(暴動)』、ローリング・ストーンズの『Exile on Main St.(メイン・ストリートのならず者)』、そしてジム・モリソンの死に関連して取り上げられるマンソン・ファミリーによる殺人現場のカラー写真や、大学生グループを看守と囚人に分けて役割を演じさせた悪名高い「スタンフォード監獄実験」の記録映像、そしてヴェトナムのソンミ村虐殺事件の映像はショッキングである。事件は1968年に起こったが、1971年には軍事法廷でこの虐殺にかかわり殺人罪で起訴された十四人の兵士の内、十三人が証拠不十分で無罪となっている。こうした出来事を背景に置くと、スライの「Family Affair」も、ストーンズの「Happy」もよりザラッとした感覚で響いてくる。

 

アッティカ刑務所の暴動

エピソード1でマーヴィン・ゲイの「What’s Going on」とジョン・レノンの「Imagine」が並列されているように、黒人音楽の比重が高いのもこのシリーズの魅力だ。白眉は何と言っても、ギル・スコット・ヘロンの「Revolution Will Not Be Televised(革命はテレビでは放映されていない)」をフィーチャーしたエピソード5である。主人公はわずか70ドルを盗んだ罪で10年以上も刑務所に服役している黒人青年のジョージ・ジャクソンと、彼の保釈を訴えるアクティビストのアンジェラ・デイビス。ジョージ・ジャクソンは刑務所で毛沢東とマルクスについて学び、刑務所内にブラックパンサー党の支部を作る。彼が刑務所から家族やデイビスに宛てた手紙をまとめた本『ソルダッド・ブラザー 獄中からの手紙』は話題となり、FBIはデイビスとジャクソンのカリスマを恐れはじめた。そこから始まるデイビスの不当逮捕、謎の残るジョージ・ジャクソンの逃亡劇と射殺、そしてジャクソンの死が引き金になったアッティカ刑務所の暴動。

黒人に対する警官のいわれなき暴力と人権無視を訴えるギル・スコット・ヘロンの「No Knock」がかかる中、矢継ぎ早にコラージュされる黒人たちの逮捕劇を見ていると、彼らのフラストレーションと今にも爆発しそうな怒りが伝わってくる。アンジェラ・デイビスの保釈金の支払いを申し出て、アッティカ暴動の犠牲者たちの集会に出たアレサ・フランクリンがゴスペルに込めた祈りが胸に響く。音楽を通して、今の変わらない問題の本質が私たちに突きつけられるのだ。

「革命はテレビでは放映されていない」というフレーズは、今年の夏に公開される映画『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』の副題にも引用されている。こちらは1969年の夏にハーレムで開催された音楽祭「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」の記録映画だが、スライ・ストーンやジェシー・ジャクソンなど、『1971』で取り上げられている人物と出演者が重なるのが面白い。『1971』にはヘルズ・エンジェルスを警備員に使ったオルタモント・フリーコンサートの悲劇が取り上げられているが、ブラックパンサー党を警備員として招集した「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」が平和に行われたのと対照的である。わずか二年で、音楽と世の中を巡る状況が大きく変わったのも見て取れるので、どちらかが気に入ったら、両方見ることをお勧めしたい。

Written By 山崎まどか




 

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