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KATSEYEの成功の理由と道のり:アメリカ的個性とK-POP的団結の調和、そしてグローバルな言語感覚
2024年6月にデビューした、HYBE x Geffen Recordsによる6人組のグローバル・ガール・グループ、KATSEYE(キャッツアイ)。今年リリースした楽曲が立て続けに話題となり、2025年7月15日時点で、Spotifyの月間リスナー数が女性グループとして世界1位を獲得している。
今年8月にはSUMMER SONIC 2025への出演だけではなく、8月18日には恵比寿ザ・ガーデンホールでプレミアム・ショーケース公演や、8月20日と21日にファンイベントも決定している彼女たちについて、様々なメディアに寄稿されている辰巳JUNKさんに解説いただきました。
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いいとこどりの画期的なグループ
音楽界の新星、KATSEYE(キャッツアイ) がやってのけた。2025年夏、スパイス・ガールズなどの大御所やK-POPグループをこえて、女性グループとして月間Spotifyリスナー数で世界一位に君臨したのだ。つづいて発表された北米ツアーも即完売。8月には「SUMMER SONIC 2025」にて初来日コンサートも決まっている。
この勢いを世界中の音楽業界が注視していることだろう。というのも、KATSEYEとは、ある種、韓国と欧米文化のいいとこどりをした画期的なグループなのだ。
KATSEYEを手がけたのは、BTSでおなじみの韓国エンターテイメント企業HYBE。そして、かつてビートルズのジョン・レノンが在籍、現在はガンズ・アンド・ローゼズといった大物バンドからオリヴィア・ロドリゴなどの新時代のポップスターが所属し、日本のAdoがパートナーシップを結んでいるアメリカの名門Geffen Recordsだ。
「グローバル・ガール・グループ」と銘打たれたKATSEYEは、K-POP独自の人材育成・開発システムを欧米音楽界に導入するプロジェクトとして掲げられた。たとえば、K-POPといえば、企業側が時間をかけてデビュー志望者を特訓していく「練習生システム」こと「T&D(Training & Development)」が特徴だが、KATSEYEが活動拠点としている音楽大国アメリカの場合、こうした大人数を対象にした教育制度は根づいていない。
フィリピン人からヨーロッパ人までが揃うKATSEYEは「五輪」に例えられるほどの多国籍・多民族なメンバーを誇るが、キャリアの始まりに関してはK-POPの定石に近かった。
オーディション番組からのスタート
まずレーベル側が応募者をつのり、世界中から集まった12万の応募者から選抜された20人の候補者を米ロサンゼルスでトレーニング。そして2023年、ファン投票による選考をふくめたサバイバルオーディション番組『The Debut: Dream Academy(ドリアカ)』によって6人のグループメンバーがお披露目された。これらの激動の過程はNetflixドキュメンタリー『ポップスター・アカデミー: KATSEYEになるまで』で垣間見ることができる。
2024年にデビューEP『SIS (Soft is Strong)』がリリースされると、当時としては珍しい簡素な振付 がとられた甘いポップ「Touch」がバズ。のちにコラボすることになるアイス・スパイスのほか、オリヴィア・ロドリゴ、サブリナ・カーペンターらと共に「米TikTok人気アーティスト年間トップ10」 に入る上々のデビューを記録した。
より大きい成功とアメリカ的精神
しかし、本領を発揮したのは、2025年、2nd EP『BEAUTIFUL CHAOS』シーズンでのことだった。ガラリと作風を変えたリードシングル「Gnarly」によって、K-POPファンのみならず世界中のポップファンにも衝撃を与えたのだ。
それどころか、一部のリスナーには不快感を抱かせた、と言っていいくらいだろう。「Gnarly」のサウンドは実験的なハイパーポップ。この10年ほどで発達したアンダーグラウンドなジャンルで、ポップミュージックを極限なまでに誇張する「やみつきになる不快さ」がポイントとも言われる。
さらに、強気な態度で罵倒語が飛び交う歌詞、セクシーなトゥワーク振付、過激で情報過多なミュージックビデオも物議を醸した。
賛否両論を予期していたメンバーたちは自信を誇示した。リーダーをつとめるSOPHIA(ソフィア)によると、参考にした先人はレディー・ガガだったという。
「ガガは斬新なサウンドで音楽シーンに革新をもたらしてきました。彼女のように、進化を恐れず、世間がまだ受け入れる準備ができていないものを先んじて提示する──それこそ、真のアーティストだと思います」
こうした精神は、まさしくアメリカ的だ。批判を恐れず、個性を貫いて限界を打ち破るカリスマ性こそ、同国で崇められてきたスターの条件と言える。
しかし、リリース二ヶ月以内でSpotify一億回再生を達成した 「Gnarly」にはK-POP流の魅力も備わっていた。まず、シュールな作風自体が第二〜第三世代K-POPスターを彷彿とさせるとも評判だ。
なにより、メンバーが尽力したのはパフォーマンスの特訓だった。自信に満ちて突き進んでいく曲調を損なわないよう、メンバーや振付師と相談しながら動作を合わせる場面と個性を発揮する瞬間を決めていき、それぞれのアティチュードや「表情演技/管理」 を完成させたという。
特訓の結果、最初は曲が苦手だったリスナーも、パワフルに躍動するパフォーマンスに惹かれていく流れができた。「Gnarly」のヒットとは、アメリカ式の開拓精神とK-POP式のプロフェッショナリズムが合わさった結果だ。
「個性」と「団結」の調和とグローバルな言語感覚
They could describe everything with one single word
You know? Like
Boba tea (Gnarly)
ひとつの言葉ですべてを表現できるの
ほら例えば
タピオカティー(ヤバいわね)
(「Gnarly」)
奇抜なこの曲が、KATSEYEの個性に合致した曲だったことも見逃せない。曲中で連呼される「Gnarly」とは、褒めと貶しの両方に使えるスラングで、日本語で例えるなら「ヤバい」に近い。この多層なユニークさに惹かれて同曲を制作した 鬼才音楽家こそ、中国出身者として米国で活動するアリス・ロンギュ・ガオ。つまり、グローバルな言語感覚から生まれた歌なのだ。
普段からさまざまな文化圏のスラングを飛び交わせているKATSEYEは、ニュアンスに満ちた「Gnarly」の言語感覚を乗りこなすばかりか、さらに多層な方向へアップデートさせた。韓国人の最年少メンバーYOONCHAE(ユンチェ)によると「Gnarly(ナーリー)」は韓国語で「大騒ぎ/난리/ナルリ」に近いため、同語話者のファンと盛り上がることができたという。多様性に富んだグループとファン層だからこそ結実したグローバルセンセーションだ。
多国籍だからこその多彩な音楽性
「宝石のような多彩なきらめき」を意味する名を持つKATSEYEは、音楽性も豊富になっている。各メンバーの嗜好もさまざまだ。たとえば、ハワイ育ちのパフォーマー、MEGAN(メーガン)はラップファン 。インド系の歌唱派LARA(ララ) にとってのアイコンは、南アジア系として世界的スターダムを築いたM.I.A.だという。
「Gnarly」につづいてシングルカットされたチャーリーXCX制作のラテンポップ「Gabriela」でとりわけ輝くのは、キューバ&ベネズエラ系アメリカ人、DANIELA(ダニエラ)が歌いこなすスペイン語パートだろう。
「Gabriela」で描かれるのはキャットファイト(女子同士の争い)。韓国人モデルのパク・スジュも出演するテレノベラ風(中南米のメロドラマ)ミュージックビデオでは、ヒスパニック系スターのジェシカ・アルバ演じる社長のお気に入りの座「ガブリエラ」を巡る争いが繰り広げられる。
「Gabriela」は、メンバー間でも解釈がわかれるほど、いろんな考察ができる作品となっている。LARAにとって「ガブリエラ」とは「敵」 、MANON(マノン)にとっては「ときに恋人」 。
ひとつ確かなのは、メンバーは「ガブリエラ」ではないということだ。 オーディション番組の過酷な競争を通して有名になったKATSEYEは、つねに不仲の噂を立てられてきた。あえて大喧嘩を演じてみせた本作は、そうしたゴシップに対するクリエイティブな否定であり、団結の証なのだ。
もちろん、世界中のファンを導くガール・グループとしての使命も果たしている。批判へのレスポンスとされた「Mean Girls」は「意地悪な子」、つまりアンチまでふくめた全女子に対して「競争よりもやさしさ」 を提示する一曲だ。
クィアなメンバーも在籍するグループとして「トランスジェンダー女性と、その間にいるすべての女の子」への賛辞も含まれている。作曲家ジャスティン・トランターによると、同曲の提供を望んだアーティストのうち、この一節を削除しようとしなかったのはKATSEYEだけだったという。
初期作のファンも置いていってはいない。ミュージックビデオも公開された「Gameboy」は「Touch」を継ぐキュートなポップソング だ。それぞれ多様な音楽嗜好を持つグループながら、みんなで合唱するのはブリトニー・スピアーズや少女時代 というから、これからも多様なサウンドと王道ポップの両方を期待できる。くわえて、EPの最後を飾るメンバー全員のお気に入りアンセム「M.I.A」 は、ライブの熱狂にぴったりだ。
多彩なサウンドが混じり合う『BEAUTIFUL CHAOS』が表すのは、豊かな個性が一つになるKATSEYEのあり方そのもの。前人未到の「グローバル・ガール・グループ」しか輝かせられない混乱に身を預けてみよう。
Written By 辰巳JUNK
KATSEYE『BEAUTIFUL CHAOS』
2025年6月27日発売
CD&LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music