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ワンリパブリックのライアンが語るアニメ『怪獣8号』ED曲の作り方とそこに込めたもの
ダイヤモンド・ディスク認定やグラミー賞ノミネート、代表曲の「Counting Stars」のMVはYouTube再生回数41億回など輝かしい経歴を誇るポップ・ロック・バンド、ワンリパブリック(OneRepublic)。
そんな彼らが、2024年4月期に放送されたアニメ『怪獣8号』第1期の「Nobody」に続き、2025年7月から放送されている第2期でも「Beautiful Colors」にてエンディングテーマを担当することが発表され、本楽曲は7月25日に配信となった。
約20年分の大ヒット曲を1枚に詰め込んだ編集盤『ONEREPUBLIC: The Collection』が8月15日に発売され、さらに人気が上昇する彼らのフロントパーソンであり、プロデューサー、作曲家としても大活躍のライアン・テダーの最新インタビューを中心に、彼らの作曲について松永尚久さんに寄稿いただきました。
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・ワンリパブリック「保科の休日」エンディングテーマ「Invincible (from怪獣8号)」配信
バンド成功の略歴
2007年にデビュー・アルバム『Dreaming Out Loud』をリリースして以降、さまざまな楽曲で世界のヒットチャート上位を席巻、またフロントマンであるライアン・テダーはプロデューサーとしてテイラー・スウィフトやアデルを筆頭にさまざまなミュージシャンに楽曲提供しグラミーなど数多くの音楽賞を獲得するなど、現代のポップ・ミュージックにおいて圧倒的な存在感を放つ6人組バンド、ワンリパブリック。
ここ日本においても、2008年にロックフェスであるサマーソニックに初出演するなどして、洋楽ファンを中心に着実に人気を広めてきた。その後、2022年に公開され、社会現象を巻き起こした映画『トップガン マーヴェリック』のサウンドトラックとして「I Ain’t Worried」を発表すると、全米チャートではバンド史上4作目となるトップ10入りを果たし、日本でも洋楽チャートでトップ3入り。2023年に東京・有明東京ガーデンシアターで開催された単独来日公演も、瞬く間にソールドアウト。洋楽カテゴリーを超えて、幅広い世代から支持される存在となった。
日本のアニメとの初のタイアップ
この勢いにのって彼らは、さらなる領域へと足を踏み入れ、2024年4月にはアニメ『怪獣8号』のエンディングテーマとして「Nobody (from Kaiju No. 8)」を発表。世界のチャート上位を席巻する欧米出身のミュージシャンが、日本のアニメのために楽曲を書き下ろすという異例の事態に、彼らを知るファンはもちろん、アニメ好きからも驚きの声があがった。
また、登場キャラクターの心情を繊細に切り取った歌詞も英語でありながら、アニメの世界と美しくリンク。物語だけでなく人生のその先のドアが開きそうな高揚感もある仕上がりとなっていて、幅広いリスナーを魅了させ、Spotifyでのストリーミング数は1.2億を突破。また、カラオケ・ボックスなど日本カルチャーをふんだんに取り入れたミュージック・ビデオも高視聴数をたたき出すなど、彼らの新たな黄金期を築く楽曲になった。この日本およびアニメ界での成功は、彼らの地元LAでも大きな話題になっているようで、ライアンは現状について以下のように語る。
「この2年間で僕たちの日本での活動がかなり大きくなっていることを肌で感じています。マルーン5やチャーリー・プース、テイト・マクレーなどから、<日本ですごい人気だね。どこへ行っても君たちの曲が流れてるよ>と言われたことも。特にd4vdは、熱狂的なアニメ・ファンなので、すごく嫉妬していました。どれもとてもポジティヴな反響ばかりでした。9,000マイルも離れた場所にいる人たちから、自分たちの音楽を好きという反応をいただくのは、アーティスト冥利に尽きますね」
この楽曲のリリース後に敢行した、2024年のサマーソニック、そこからわずか半年足らずで開催した2025年1月の単独公演、どちらにも満杯のオーディエンスが集結し、カラオケ・ボックスさながらの大合唱が巻き起こる。洋楽文化があまり定着しづらいと言われる日本のマーケットにおいて、人気を確立したバンドになったことを実感できたステージとなった。ライアンは、自分たちの楽曲・作品をさまざまなメディアやカルチャーと柔軟にミックスさせることが、活動を充実、人気を拡大させる重要な要素ではないかと見通す。
「毎日おびただしい数の曲がリリースされる昨今。たとえば、自分が現在最高のソングライターで毎日最高を更新するようなアンセムを量産したとします。それらを僕らはSNSで3,500万人のフォロワーたちや、『ザ・ヴォイス』のようなテレビ番組で披露することができるかもしれない。でも、それだけではもう昔のようにヒットしないんです。時代が違います。だから、『怪獣8号』のような異なる文化的な現象と結びつくことが、活動を続けるうえで重要なことだと思うんです」
「カフカは僕にとって北極星」
「Nobody (from Kaiju No. 8)」は、彼らの鋭い感性だけでなく、アニメの世界、そしてリスナーが求めている胸を高鳴らせる鼓動を、絶妙にミックスさせた楽曲だ。
「テレビや映画のために曲を書く際のメソッドがあるんです。基本的な考え方として、インスピレーションが何であれ、ストーリーが何であれ、テーマ曲を手がけるなら、それは多かれ少なかれ、主人公をテーマにしています。物語のメインはあくまで主人公だから。もし、あなたが『トップガン』のために楽曲を書くのなら、その作品で成功をおさめたいのであるならば、トム・クルーズが演じる役柄について曲を書かなくてはいけない。それが曲を提供するということで、僕はこのやり方で30〜40本と楽曲を作ってきたんです」
だが、決して作品の世界を踏襲し過ぎない。幅広い解釈ができる適度な余白を楽曲に与えることが、ライアンの曲作りのルール。
「(アニメ主人公の)カフカは僕にとって北極星、つまり動かない指標のようなイメージです。 また、彼がスパイダーマンだったら面白いと思ったんです。クモに噛まれたとまではいかないが、寄生され怪獣に変身して、他の怪獣から身を守ったり、仲間の助けを借りて怪獣を攻撃する決断をする姿が共通していると思ったから。また、この物語は、主人公と幼なじみとの約束をめぐる展開も垣間見られました。 だから“Nobody (from Kaiju No. 8)”では、作品の世界観を直接的に表現するのではなく、聴き手それぞれが持つイメージを容易に投影できるようにするため、やるべきことがたくさんあったんです。 また、歌詞があまりにも物語を具体的に表現しすぎると、アニメを観ていないリスナーは共感されません。僕たちはそれを<スクリーンの中に入り込みすぎている>と表現するんですが、歌詞が物語によりそい過ぎると、リスナーが置いていかれてしまいます。だから、この楽曲のどこにも、アニメの世界とリンクさせた直接的な言葉はないんです。
Nobody got you the way I do. Whatever demons you’re fighting through
僕は誰よりも理解している どんな苦しみと闘っていようと
というフレーズも、カフカの言葉だけれど、『怪獣8号』を観たことのないリスナーがこの曲を聴いて、<これは自分と両親のこと><僕と恋人のこと>など、誰もが自分事に解釈できるようにしたいと思いました。アニメのサウンドトラックであるけれど、リスナーそれぞれの日常におけるサウンドトラックにもなり得る。そういう音楽を作ることを目指しているんです」
第2期「Beautiful Colors」に込めたもの
結果、アニメの熱狂的なファンはもちろんのこと、彼らの音楽リスナー、さらにはソーシャル・メディアなどを通じて幅広い世代にも浸透し、社会現象のような大きなヒットへ導かれた。さらに、2025年3月公開の『怪獣8号』第1期総集編/同時上映「保科の休日」のエンディングテーマとして、彼らは心を弾ませるダンサブルなナンバー「Invincible (from Kaiju No. 8)」を書き下ろし。そして、7月からスタートする『怪獣8号』第2期のエンディングテーマも引き続き担当。このたび「Beautiful Colors」を制作したのだった。
「すごく興奮しました。そんなことが起きることを想像していなかったから。でも、この判断は僕らにとっても、アニメにとっても賢明なものだったと実感しています。なぜなら、彼らが望むものを完璧に仕上げるために複数の楽曲が必要だとわかれば、僕らはそれに応じる準備ができますから。そんなことができるアーティストは、僕が知る限り他にはいません。僕はテレビや映画の音楽制作に深くコミットしているので、完璧な音楽を提供するためには、相当な献身が必要だと理解しています。また、僕たちは『怪獣8号』に対して、貢献すべき価値がある素晴らしい作品だと感じているんです」
これまでの楽曲同様、アニメの世界・主人公の心境を丁寧に解釈しながら、完成したという楽曲。
「僕は、カフカが自分の力と立場を自覚したとき、怪獣討伐のタスクを負う他の隊員たちに向けて伝える言葉を楽曲にしたいと考えました。彼は怪獣であると同時に、怪獣を抹殺する責任を負うリーダーとしての役割もある気がしたんです。つまり、この楽曲は自分が思うカフカ像なんです。彼は、鏡を見ている時、自分の内面にあるもの、隠しているもの、自分が何であるかを知っている人物であり怪獣である。だから彼はこう言います。<それはちょっとすごいことだし、美しいことだし、ありのままの自分だし、俺は他のみんなとは違うけど、俺の中には魔法があるんだ>と。その魔法とは、彼が怪獣であるということなんだって」
また、この楽曲にはライアンの日本の風景、イメージも込められているという。
「歌詞を書くときに考えたのは、東京や大阪、京都など。そこには色とりどりの看板が並び、芸者さんや、原宿ガールなど、いろんないでたちの人が街を闊歩している。そんなカラフルで美しい風景を思い描いていたんです。特に“All your beautiful colors”というフレーズには、東京など、日本の風景を投影させてみました。 アメリカ出身の僕から見ると、カラフルで美しく、まるで<魔法>のような場所。 それが日本であり、曲のなかに反映させた思いなんです」
多角的な<魔法>のかかった楽曲。そこにライアンは、多様性こそが世界を動かしているというメッセージを閉じ込めた。
「“君の美しい色、その内側から魔法が生まれるのが見える”と歌えば、それは“自分は拒絶されている、ちっぽけだ、劣っている、美しくない、ユニークじゃない”と感じている人たちの心に浸透していくはずです。そう思う人々は、この世界に本当に多く存在しています。また、そのなかには“今まで知らなかったけど、この人は実はすごいんだ”といわれるような人も多く潜んでいます。この曲は、人に気づかれていないと感じている人たちに向けたもの。自分が社会から見向きもされていないとか、疎外感を抱いている人のための音楽なんです」
誰かと比較するのではなく、自分の内面とじっくり向きあうことで生まれる、唯一無二の美しさが存在することを、楽曲を通して訴える。
「冒頭のフレーズ“All the voices that tell you lies while you’re in the shadows building castles in the sky / 聞こえてくるのは嘘ばかり 暗闇で空想を巡らせていると”は、誰もが抱える不安を表現しています。自分はまだ足りない、賢くない、魅力的じゃない、と自分に言い聞かせている状態のこと。“暗闇で空想を巡らせている(空に城を築く/空に絵空事を描いている)”というのは、大きな夢や希望、やりたいことはたくさんあるのに、“自分には無理だ”と思い込んでいる姿です。それを冒頭に表現することで、サビの“All your beautiful colors, I see them / 君の美しい色が全部、僕には見えるよ”という言葉に生命が宿る。君には見えないかもしれないけれど、僕(周り)にはあなたから可能性しか見えない。この楽曲で伝えたいことは、そこなんです」
Written By 松永尚久
ワンリパブリック「Beautiful Colors」
2025年7月25日配信
Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
最新ベスト・アルバム
ワンリパブリック『ONEREPUBLIC: The Collection』
2025年8月15日発売
CD / LP / iTunes Store / Apple Music
<日本盤CDトラックリスト>
1. I Ain’t Worried
2. Counting Stars
3. Run
4. I Lived
5. Runaway
6. Secrets
7. Apologize (Timbaland Mix)
8. Sunshine
9. Love Runs Out
10. Wherever I Go
11. Rescue Me
12. If I Lose Myself
13. Good Life
14. Stop and Stare
15. All the Right Moves
16. I Don’t Wanna Wait
17. Nobody
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