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アニメ『怪獣8号』の主題歌を担当するヤングブラッドとは? 新世代ロックンロール・スターの魅力

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2024年4月から放送/配信される新作アニメ『怪獣8号』のオープニングテーマをヤングブラッド(YUNGBLUD)が、エンディングテーマをワンリパブリック(OneRepublic)が担当することが発表された。

そのオープニングテーマ「Abyss」を歌うヤングブラッドとは、どんなアーティストなのか? そして代表曲を音楽ライターの新谷洋子さんに解説いただきました。

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【和訳】ヤングブラッド – Abyss (怪獣8号OPテーマ) / YUNGBLUD (official visualizer with lyrics)

 

ドミニク・ハリソンがヤングブラッドになるまで

Z世代のロックンロール・スターはどんな姿をしていて、どんな音を鳴らし、どんなことを歌い、どう身を処するのか? 現在26歳のヤングブラッドことドミニク・ハリソンは、ジャンル・クロッシングを基本とする音楽性や積極的なコラボレーション、ファンとの密な絆、開かれたジェンダー観と高い社会意識で、まさにその回答を提示しているアーティストのひとりだ。

それでいて彼の場合、動画の投稿などをきっかけに注目を浴びるケースが多い世代において、デビューに至るまでの経緯は非常にオーソドックスだったとも言える。1997年にイングランド北部ドンカスターで生まれたドミニクは、ギター・ショップを経営していた父の影響もあって2歳にしてギターを手にし、幅広い音楽に触れて育ち、10~11歳になる頃には曲作りを行なっていたという。

そして16歳の時にロンドンに移り住むと、パフォーミング・アートに特化した高校で演技を学びながらバンド活動に打ち込み、地道な下積みを経て2017年4月に、ヤングブラッド(“血気盛んな若者”を意味し、“Young Blood”と綴るべきところを“Yungblud”と表記している)と名乗ってデビュー・シングル「King Charles」を発表。

YUNGBLUD – King Charles (Official Video)

翌年夏にファースト・アルバム『21st Century Liability』を送り出すと、「11 Minutes」(ポップ・ディーバのホールジーと共演)や「Tongue Tied」(EDMアーティストのマシュメロらと共演)といったコラボレーション・シングルのグローバルなヒットもあって、一躍英国内外でブレイク。信頼できる新人番付としてお馴染みの“BBCサウンド・オブ2020”で3位に入り、2020年末にセカンド『weird!』を、2022年9月にサード『Yungblud』をリリースして、どちらも全英チャートの頂点に送り込んでいる。

YUNGBLUD, Halsey – 11 Minutes (Official Video) ft. Travis Barker

 

3枚のアルバムから浮かび上がる愛さずにいられないパーソナリティ

では彼の3枚のアルバムはどんな作品だったのか。まず、スカにパンクにエモ、ブリットポップ、ミクスチュア・ロック、ヒップホップ、トラップ……と、1枚のアルバムで途方もなく雑多なジャンルを網羅しながら、キャッチーなポップソング集として成立させた『21st Century Liability』は、Z世代のポスト・ジャンル志向のお手本のような作品だったと言えよう。

また、子どもの頃からスカートを履いたりメイクをしたりと個性的に装い、それゆえに周囲に馴染めず異端児扱いされてきた彼は、アウトサイダーの叫びのような歌詞を綴ったものだ。

YUNGBLUD – Polygraph Eyes

そんなドミニクが、同様に社会から疎外される弱者やマイノリティに心を寄せるのは、当然の成り行き。彼は常に抑圧的な権力者や大人やマジョリティを批判し、マッチョな男らしさを拒絶してジェンダー・フリュイドなファッションに身を包んで、未来への不安やメンタルヘルスについて、聴き手と率直に想いを分かち合って広く共感を呼び、やがて“The Black Hearts Club”なるファン・コミュニティが形成されていく。

そしてほかにも多くの若者がアウトサイダー意識に苦しんでいたのだと悟ったドミニクは、ツアー中に出会ったファンから聞いたストーリーの数々を自身の体験と織り交ぜて、代弁者の立場から『weird!』を制作。ヒップホップやトラップの影響が薄まり、メロディックなロック路線にシフトしたことも、同作について特筆すべき点だ。

YUNGBLUD – acting like that (Official Music Video)

「ファーストは怒りに満ち、10代のフラストレーションと苦悩と不安と情熱と純真さが、混然一体となっていました。だからこそ美しい作品だったんです。あのアルバムでの僕はたくさんの疑問を抱えていました。“自分みたいなヤツがほかにもどこかにいるんだろうか?”と。すると驚いたことに、ほかにも大勢いた(笑)。だからセカンドは彼らのアルバムなんです。僕が耳にした全てのストーリーと、出会った全ての人たちに関するアルバムであり、前作で投げかけた疑問への回答みたいなものですね」

2020年10月のインタヴューで彼はこう語っている。しかしセレブレーション・ムードは長続きせず、スーパースターになったドミニクは、目立つ存在であるがゆえに誤解され、バッシングの対象となり、勝手なイメージが独り歩きし始めた。

つまり成功の負の側面を突き付けられたわけだ。困惑した彼は、サード『Yungblud』では自分自身に目を向け、ポストパンク時代のアーティストたちの影響を汲んだサウンドに乗せて生い立ちを振り返り、自分の信条を再確認。そういう性質のアルバムだからこそ、セルフ・タイトルを選んだという。

YUNGBLUD – Tissues (Official Video)

 

大物たちに愛されてロックの未来を託される

こうして紆余曲折を経ながらも好調にキャリアを築き、地元ではアリーナ・クラスの会場を軽く売り切るポジションにまで辿り着いたドミニクは、ロックがやや低迷している時代の数少ない若手スターとあって、ミック・ジャガーやオジー・オズボーンといった先輩たちに愛され、彼が歌うクイーンの「We Are the Champions」のカヴァーにブライアン・メイが賞賛を寄せたことも記憶に新しい。

ドミニクのヴァージョンに批判的コメントが集まっていたことからブライアンは、「クイーンを始めた当時のフレディ・マーキュリーも同じように揶揄されたのを覚えています。ポジティヴだろうとネガティヴだろうと強いリアクションを引き出す人は、スター・パフォーマーだと確信できます」とお墨付きを与えた。

WE ARE THE CHAMPIONS FOR @applemusic 🖤🖤🖤

自分にロックの未来を託しているかのような、敬愛する大物たちの声を彼は、「僕が大好きなアーティストたちには自由だという共通項があって、一切加工されていない無修正のエネルギーが爆発しています。その点に関しては僕も同じだと思っていますし、彼らはそこに気付いたのかもしれませんね」と、2022年7月のインタヴューで自分なりに分析していたものだ。

またここ日本でも着々と名前を浸透させ、SUMMER SONIC 2022で初来日が実現。2023年秋には、英国ロック界を代表するバンドの1組ブリング・ミー・ザ・ホライズンがキュレートした『NEX_FEST』に参加すると共に、東京で初の単独来日公演を成功させた。ちなみに前座を務めたのは、現在交際中のシンガー・ソングライター、ジェシー・ジョー・スターク。クロムハーツの創始者を父に持ち同ブランドでデザインも手掛けるジェシーとドミニクは、セレブ・カップルとしてゴシップ欄を騒がせる存在でもある。

 

ヤングブラッドの進化の道筋が見えてくる3曲

そんな彼の音楽をまだ聴いたことがないというリスナーには、次の3曲からトライしてみて欲しい。まずは、現時点で最大のヒット曲で全米ホット・ロック&オルタナティヴ・ソングス・チャートで最高3位を記録した「I Think I’m OKAY」(2019年)。

ポップパンクへの愛情がじわじわと伝わってくるこの曲は、ドミニクとアメリカ人シンガー/ラッパーのマシン・ガン・ケリーが、まさにポップパンク・シーンの雄であるブリンク182のドラマー=トラヴィス・バーカーの参加を得て作り上げたもので(ケリーのアルバム『Hotel Diablo』に収録)、当時の彼が放っていた破天荒なエネルギーを満々と湛えた1曲だ。

Machine Gun Kelly – I Think I'm OKAY [Official Music Video]

続いて2曲目の「weird!」は、公私双方で波乱含みだったという、『21st Century Liability』発表後の“奇妙な/weird”18カ月間を受けて綴った、セカンドの表題曲。世界中をツアーしたその18カ月間の締め括りに、6千人収容のO2アカデミー・ブリクストンでソールドアウトの公演を行なったドミニクは、曲の誕生について前述の2020年のインタヴューで次のように話していた。

「2年半前の僕は狭いアパートでギタリストとドラマーと同居生活を送りながら、“O2アカデミーみたいな場所でライヴをやれたらすごいよね”などと言っていました。なのに僕たちは実際にそこでプレイし、チケットは一瞬で売り切れた。それは僕にとっては本当に奇妙なことなんですよね。当然終演後はみんなで出かけて、酔っ払って、ロックンロール・スターにだけ許される良からぬことにも興じましたが、朝の4時頃にプリムローズ・ヒルという丘に登って、この曲の歌詞を書いたんです。今まで感じたことがないレベルの情熱に満たされた会場で、人生で最大のライヴを終えたばかりでしたから、ファンのみんなが書かせてくれた曲だと言えます」

YUNGBLUD – weird! (Official Video)

最後に最近のドミニクのモードを示す曲のひとつとして、昨年登場した3曲のシングルの1枚「Happier」を挙げておこう。こちらもコラボ曲で、ブリング・ミー・ザ・ホライズンを率いるオリ・サイクスとの連名で発表(ドミニクは2020年にもブリング~のシングル『Obey』に参加した)。ここでの彼は、幸せになると罪悪感を覚えてしまうという性分が人間関係に悪影響を与えてきたことを踏まえて、「ハッピーになってもいいんだよ」と自分に言い聞かせている。

東京で撮影したPVも必見のこの曲はまた、かつてなく濃厚なエレクトロニック色が新鮮で、ドリーミーな新境地を拓いた1月発表の最新シングル「When We Die(ラッパーのリル・ヨッティをフィーチャー)共々、4枚目のアルバムへの期待を否応なくかき立てている。

YUNGBLUD – Happier (feat. Oli Sykes Of Bring Me The Horizon) (Official Music Video)

Written By 新谷 洋子


【主題歌情報】

ヤングブラッド「Abyss」
2024年3月29日デジタル配信
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


ワンリパブリック「Nobody」
2024年4月12日デジタル配信
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


【アニメ『怪獣8号』作品情報】

2024年4月13日より毎週土曜23時~
テレ東系列ほかにて放送/X(Twitter)にて全世界リアルタイム配信開始
各種動画配信サービスにて毎週土曜23:30より順次配信開始

公式サイト / Twitter / Instagram

『怪獣8号』は集英社のマンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」にて2020年7月より連載中、数々のマンガ賞に輝き、既刊11巻にして国内累計発行部数が1,200万部を超える(デジタル版含む)松本直也氏による大人気コミック。2022年8月、アニメーション制作:Production I.G/怪獣デザイン&ワークス:スタジオカラーによるアニメ化が発表された。

アニメ『怪獣8号』メインPV第2弾/4月13日より毎週土曜23:00~放送・配信開始



 

 

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