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スティングのキャリアを振り返る:ソロデビュー40周年、9月に来日する至高のアーティスト
2025年4月26日にドミニク・ミラー(ギター)、クリス・マース(ドラム)とのトリオによる最新ライヴ盤『Live 3.0』を発売し、9月には全国6公演の来日公演も決定したスティング(Sting)。
この来日公演とソロ・デビュー40周年を記念して、過去の5枚の作品が拡張版(エクスパンデッド・エディション)となって発売、さらに2022年6月にフランス・シャンボール城で行われた『My Songs』ツアーのライヴ映像を追加収録した『3.0 Live (ジャパン・ツアー・エディション)』が発売されることになり、特設サイトではスティング関連の楽曲の人気投票も実施されている。
そんなスティングのキャリアを振り返る記事を掲載します。
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・ポリスの名盤『Synchronicity』40周年記念盤が7月に発売決定
・ポリスの名曲「Every Breath You Take / 見つめていたい」ができあがるまで
・スティング、『The Soul Cages』30周年記念版配信
ソロとしての成功
アーティストの中には、大成功したグループの一員として有名になった後で、ソロとしてもさらに大きな名声を獲得した人がわずかながらいる。その例としては、ロバート・プラント、ピーター・ガブリエル、ライオネル・リッチー、フィル・コリンズなどがあげられる。そしてスティングも、そうした選り抜きのアーティストたちのひとりだ。
彼は軽々と演奏をこなしてみせる音楽的技量の高さを持ち、実験的な試みをやろうとする意欲にあふれ、そして期待される以上のことをやってやろうという積極的な姿勢を保っている。そのおかげで、常に興味深く独創的なアーティストのひとりとなり、ポピュラー音楽だけでなく他の分野でも活躍している。つまり俳優、作家、芸術家と言ったさまざまな顔を持っているのである。
スティングは非常に多彩な音楽スタイルでソロとしてのキャリアを築き上げており、ジャズ、レゲエ、ニューエイジ、さらにはクラシックからの影響さえ自らの音楽の中に取り入れている。ソロ・ミュージシャンとして、ポリスのメンバーとして、彼はこれまでに16のグラミー賞を受賞。初めてグラミー賞を獲得したのは1981年のことで、その時はポリスで”最優秀ロック・インストゥルメンタル・パフォーマンス賞”を受賞していた。またブリット・アワードは3度受賞しており (1994年には”最優秀英国男性アーティスト賞”を受賞) 、ゴールデン・グローブ賞やエミー賞も獲得したうえ、アカデミー賞では”オリジナル楽曲賞”にノミネートされている。
デビューと芸名の由来
1951年10月、本名ゴードン・マシュー・トーマス・サムナーはノース・タインサイドのウォルセンドで、4人兄弟の長男として生まれた。そして10歳で初めてギターを手にすると、その演奏方法を学び、ポピュラー音楽に夢中になった。
学生時代はナイトクラブに通い、音楽の生演奏を楽しんだ。特にニューカッスルは、イギリス全土を回るアーティストたちのコンサート・ツアーでは定番の公演地だったので好都合だった。とはいえ、彼はさらに先へと進まなければならないと感じていた。1987年、彼は雑誌『Q』で次のように語っている。
「ここから抜け出したいといつも思っていた。この環境は窮屈だといつも思っていたんだ。毎年造船所では新しい船が建造されていて、その進水式をみんなでよく見に行っていた。造船所で作られた船は世界へと旅立っていき、ここには2度と戻ってこない。俺にとって、船は“脱出”のシンボルになっていた」
やがて彼も脱出することになった。まず教師の資格を取り、ニューカッスルの北にあるクラムリントンのセント・ポール・ファースト・スクールで2年ほど勤務した。教鞭をとるかたわら、彼はラスト・イグジットというグループでジャズ・ミュージシャンとしても活動していた。
そのうちフェニックス・ジャズマンで演奏していた時、同じバンドのメンバーだったゴードン・ソロモンがサムナーに「スティング」というあだ名をつけた。それは、サムナーが蜂のように見える縞柄のセーターを着ていたからだった。そのあだ名は、まるで蜂蜜のようにへばりつくことになった。
ポリスの結成
1977年にロンドンに移り住んだ彼は、スチュワート・コープランドとヘンリー・パドヴァーニのニュー・ウェイヴ・バンド、ポリスに参加する。このバンドはコープランドの兄マイルズが主催していたイリーガル・レーベルと契約していた。
スティング加入後まもなく、パドヴァーニの後任として業界のベテラン、ギタリストのアンディ・サマーズが加わる。そして「Message In A Bottle」で初めて全英チャートの首位を獲得した後、このバンドは10年以上にわたってポップ・ミュージック界でトップクラスの大成功を収めていった。何百万枚ものアルバムを売り上げ、6つのグラミー賞を受賞し、ニューヨークの有名なシェア・スタジアム (かつてビートルズが演奏した場所) でもヘッドライナーを務めた。
ポリスは正式に解散を宣言したことはなかったが、スティングは1982年には早くもグループ外での活動を始めた。この年彼は、映画『スティング/ブリムストン&トリークル(原題:Brimstone And Treacle)』に出演。この映画の挿入歌として、1929年に作られたヴィヴィアン・エリスのスタンダード曲「Spread A Little Happiness」のカヴァーを録音している。
ソロミュージシャンとしての船出
やがて1985年、彼は初のソロ・アルバムをリリースした。そのアルバム『The Dream Of The Blue Turtles(ブルー・タートルの夢)』は洗練されたエレガントな仕上がりで、トリプル・プラチナ・ディスクに認定される大ヒットとなった。
ここではオマー・ハキムやブランフォード・マルサリスといったジャズ界の一流ミュージシャンたちと共演しており、このアルバムから最初に生まれたシングル「If You Love Someone Set Them Free」を聴けば、スティングがポリス時代に身につけたメロディアスな激しさをまったく失っていないことがわかる。
しかも彼は、それをさらに洗練されたものに成長させていた。この曲は、彼が以前の大人気グループの外でも十分にやっていけることを証明していた。彼はまた、同じ年にイギリスでベストセラーになったアルバムのひとつにヴォーカルで参加している。ポリスのヒット曲「Don’t Stand So Close To Me」のメロディーを、ダイアー・ストレイツのアルバム『Brothers In Arms』収録の世界的ヒット曲「Money For Nothing」に盛り込んだのである。
この曲は、1985年7月、ライヴ・エイドへの出演時にダイアー・ストレイツとの共演で歌っている (スティングはこの一大チャリティ・イベントにソロでも出演していた) 。
『The Dream Of The Blue Turtles』のツアーでは、マイケル・アプテッド監督によるドキュメンタリーと同名のライヴ・アルバムが制作された。それが1986年7月にリリースされた『Bring On The Night』である。このアルバムには、ロックのスーパースターのように振る舞わなければならないというプレッシャーや期待から解放され、自由奔放になったスティングの姿が記録されている。
またポリスの名曲も演奏されており、たとえば「Bring On The Night」はメドレーで「When The World Is Running Down You Make The Best Of What’s Still Around」につながっていく。こうした素晴らしいセルフ・カヴァー・ヴァージョンが、ソロ・デビュー・アルバムの曲やツアーで演奏された新曲と違和感なく並んでいた。
1986年にはポリスは改めて集結した。この年、彼らはアルバム『Every Breath You Take: The Singles』のために「Don’t Stand So Close To Me」のニュー・ヴァージョンをレコーディングした。そして北米で数回のライヴを行なっている。しかしそれ以上の活動は見られなかった。3人が再び集結するのは20年も後になる。
母にささげたセカンド・アルバム
『The Dream Of The Blue Turtles』はレコード評でも商業面でも大成功を収めた。それに触発され、スティングは次のアルバム『Nothing Like The Sun』を2枚組で発表する。この作品は当時亡くなったばかりの母親に捧げられた作品で、題名はシェイクスピアのソネットにちなんでいた。ここでスティングは、自らを現代に生きるイギリスのロマン派アーティストとして描いている。
1987年10月にリリースされたこのアルバムは、大胆で広い音楽性を持つ作品だった。参加ミュージシャンの中には、元ポリスのギタリスト、アンディ・サマーズをはじめ、エリック・クラプトン、マーク・ノップラー、そして伝説的なアレンジャーで作曲家のギル・エヴァンスも含まれていた。
このアルバムには、クエンティン・クリスプに捧げた素晴らしいトリビュート曲「An Englishman In New York」が収録されている。またここでは、チリの独裁者アウグスト・ピノチェト政権によって迫害された人たちに捧げた「They Dance Alone」や感動的な「Fragile」といった曲も聞くことができる。
「Fragile」はニカラグアでコントラ反政府組織に殺されたアメリカ人土木技師ベン・リンダーに捧げられた曲だ。スティングはこの曲のスペイン語版とポルトガル語版を録音し、これはやがて彼の代表曲のひとつとなった。このアルバムは、ポルトガル向けの別ヴァージョンの『Nada Como El Sol』も発売されている。そのことが示すように、スティングは世界各国のファンと気持ちを通じ合わせようとしていた。
彼は明らかに自らの活動の進め方に満足していた。雑誌『Q』のインタビューで、彼は次のように語っている。
「自分が満足できれば、それで十分だよ。アルバムが何百万枚も売れれば、いい気分だね! 素晴らしい気分だよ。そのおかげで、自分の努力が実を結んだことを確認できるわけだ。でも、だからといって、そのために曲作りの面で無理に妥協しているわけじゃない。自分の外見に妥協しないのと同じだね」
父に捧げた3作目と私生活
1991年、スティングは『The Soul Cages』をリリースする。母親に続いて亡くなった父親に捧げられたこのアルバムは、より侘しく内省的な内容になった。このアルバムからは、「All This Time」が大ヒットしている。
『The Soul Cages』の直後、スティングは映像作品プロコフィエフの『ピーターと狼』のナレーションを担当した。『ピーターと狼』のナレーションと言えば、それ以前にもヴィヴィアン・スタンシャル、デヴィッド・ボウイ、ジョン・ギールグッド、ボリス・カーロフらがナレーターを務めており、スティングもそうした豪華な顔ぶれと肩を並べることになった。ドイツ・グラモフォンからリリースされたスティングのヴァージョンは、クラウディオ・アバド指揮のヨーロッパ室内管弦楽団との共演で録音されている。
もっとも、多くの人が注目したのは、1993年のアルバム『Ten Summoner’s Tales』の方だった。女優のトゥルーディ・スタイラーとの結婚にも良い影響を受けたスティングは、ここでキャリアを代表するような最高の曲をいくつか作り上げた。歓喜に満ちた「Shape of My Heart」や感動的で内省的な「Fields Of Gold」などがあげられる。
またこの年スティングは、ブライアン・アダムス、ロッド・スチュアートとともに小粋なバラード「All For Love」で、現在までのところ唯一の全米チャート1位を獲得している。この曲は1993年のディズニー映画『三銃士』の挿入歌だった。
この時期の興味深く珍しい作品として、『Demolition Man』がある。このEPには、シルヴェスター・スタローンが主演した同名の近未来SF映画のために再録音されたポリスの曲「Demolition Man」が収録されている。
自らの多芸多才ぶりを示すかのように、スティングは1995年5月、IMAX映画『The Living Sea』のサウンドトラックでスティーヴ・ウッドとコラボレーションを行った。この映画は世界の海をテーマとした素晴らしいドキュメンタリーで、メリル・ストリープがナレーションを務めている。
1996年のアルバム『Mercury Falling』の発表を前にして、スティングは雑誌『Mojo』のシルヴィー・シモンズに次のように語っている。
「このアルバムにテーマがあるとすれば、それは変えられないものを受け入れることなんだ。若い頃の俺はすべてのものと闘い、人生のすべてに戦いを挑む傾向があった。とにかく、人は年を取って行くんじゃないかな。個人的に中年の危機を経験しているとか、そういうことは全然ない。でも中年という年代なのとは確かだし、中年であることに満足している。このアルバムの制作はとてもくつろげる経験だった」
これは成熟して洗練された作品であり、「You Still Touch Me」や「I’m So Happy I Can’t Stop From Crying」と言ったヒット・シングルも収録されていた。
商業的に成功した『Brand New Day』と冒険
1999年にリリースされた『Brand New Day』はスティングのとりわけ人気の高い作品のひとつとなり、世界中で800万枚以上を売り上げた。このアルバムから生まれた雰囲気に富んだ官能的なシングル「Desert Rose」は、アルジェリアの民族音楽ライの第一人者、シェブ・マミとのデュエットだった。
アルバム発表後のツアーでは45カ国で数百回の公演が行われている。このころになると、スティングはポリスの楽曲も分け隔てなく取り上げるようになっており、コンサートではキャリア全体からまんべんなく選曲されていた。
2003年にアルバム『Sacred Love』をリリースして大成功を収めた後、スティングは時間をかけてその次の展開を探った。そうして彼がたどり着いたのはスタイル面での前進であり、同時にノスタルジックな意味での回帰だった。
2006年10月に発表された『Songs From The Labyrinth』は、メインストリーム路線から最もかけ離れた作品となった。またもや名門クラシック・レーベル、ドイツ・グラモフォンからリリースされたこのアルバムでは、スティングはクラシックの演奏家たちと一緒にリュートを演奏し、エリザベス朝の作曲家ジョン・ダウランドの曲を録音している。過去のような商業的な成功は見込めなかったが、スティング本人にとっては個人的な偉業だった。
それに続いて、まさしく対極にあるポリスの再結成が行われた。2007年は、サマーズ、スティング、コープランドの3人にとって再集結するのにちょうどいいタイミングに感じられた。そして彼らは、華々しい再結成コンサート・ツアーを世界中で行った。
その後、2009年10月に『If On A Winter’s Night』がリリースされた。このアルバムの題名は、イタリア人作家イタロ・カルヴィーノが1979年に発表した小説にインスパイアされている。ポリスを再結成したばかりのスティングは、慌ててありきたりなヒット曲を集めたアルバムを作るようなことはしなかった。それどころか、むしろキャリアの中で最も完成度の高いアルバムのひとつを生み出したのだ。イギリスの伝統的なウィンター・ソングと初期のキャロルを集めたこのアルバムは、ノーザンブリアの選りすぐりのミュージシャンたちを起用して録音されている。
2010年7月にリリースされた『Symphonicities』では、スティングは自らの楽曲をロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団と共にスタジオやライヴで録音している。ここでは彼の曲がシンフォニックなオーケストラ作品として新たに編曲されていた。このロイヤル・フィルとの共演ツアーの模様を記録したライヴ盤『Live In Berlin』は、同じ年の11月にリリースされた。
ポップスの世界への帰還
本業に戻ったスティングは、長年に亘って準備してきたミュージカル『The Last Ship』を発表した。これは、自らの子供時代とイギリス北東部の造船業に捧げる賛歌だった。このミュージカルはシカゴで初演された後、ブロードウェイのニール・サイモン劇場で上演され、トニー賞で最優秀作曲賞と最優秀オーケストレーション賞の2部門にノミネートされた。
このミュージカルのアルバム・ヴァージョンには、AC/DCのブライアン・ジョンソン、旧友ジミー・ネイル、地元のフォーク・ガール・グループのジ・アンサンクス、そしてキャサリン・ティッケルのウィルソン・ファミリーが参加している。
その後スティングが久々に発表したロック・アルバム『57th & 9th』は高い評価を得ることになった。2016年11月にリリースされたこのアルバムには、典型的なスティング・サウンドの「I Can’t Stop Thinking About You」や自伝的な「Heading South On The Great North Road」が収録されている。
ここでプロデュースを担当したのは、レディー・ガガ、マドンナ、キーン、ロビンなどの作品にソングライター/プロデューサーとして参加してきたマーティン・キーゼンバウムだった。このアルバムのデラックス/スーパー・デラックス・エディションには、ラスト・バンドレーロスとの共演で録音された「Next To You」 (ポリスのデビュー・アルバム『Outlandos d’Amour』のオープニング曲) のライヴ・ヴァージョンが収録されている。
『57th & 9th』のリリースと同じ月に、スティングはテロ事件で休業していたパリのバタクラン・クラブの再開第1弾ライヴを行った。これは彼のキャリアの中でも、とりわけ感慨深い瞬間だった。この夜披露された7曲の新曲の中には、「50,000」も含まれていた。これは、この最高に悲しい年に亡くなった多くのロックスターの死にインスパイアされた曲だった。
2019年には自身のソロ曲とポリスの楽曲をあわせて、再録音を行った『My Songs』を発売。2021年には、世界的規模のパンデミックによる混乱に見舞われた1年間に書かれた曲を収録した新作アルバム『The Bridge』を発売。レコーディングの多くをリモートで行わざるを得ず、離れ離れになった人々の間に“橋”を架けることがメインテーマだった。
2025年9月からはドミニク・ミラー(ギター)とクリス・マース(ドラム)とトリオ“STING 3.0”としてツアーを開始。それをまとめたライブ・アルバム『Live 3.0』を2025年に発売するなど、勢力的にリリースを続けている。
スティングは絶えず評論家を困惑させ、ファンを喜ばせてきた。彼の数々の作品は成熟し、思慮深く、そしてしばしば喜びに満ちている。そこにはまぎれもなく思慮深いポップ・シングルと共に、より深く沈思黙考するような実験的な作品も含まれている。そうした作品は、ごく普通のファンにも新たな発見をもたらすだろう。
Written By uDiscover Team
スティング『3.0 Live (CD+Blu-ray)』
2025年9月10日発売
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スティング『3.0 Live』
2025年4月26日配信
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