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ニール・ダイアモンド『12 Songs』解説:リック・ルービンと完成させたキャリア後期の傑作

2005年の時点で、ニール・ダイアモンド(Neil Diamond)にとって、証明すべきことなど何ひとつ残されてはいなかった。それでも彼は、キャリア後期の傑作『12 Songs』で、自らの才能がいまだ衰えていないことを静かに、そして力強く証明してみせた。
ロックンロールの新鋭、内省的なフォークロッカー、そしてスケールの大きなエンターテイナー。長年にわたる多彩なキャリアの中で、ニール・ダイヤモンドが何よりも“ソングライター”であることを、いつしか忘れていた人も少なくなかったかもしれない。
そんな時期に彼の前に現れたのが、ジョニー・キャッシュの『American Recordings』シリーズで成功を収めた名プロデューサー、リック・ルービンだった。ジョニー・キャッシュが同シリーズでニールの「Solitary Man」をカヴァーしたことをきっかけに両者が繋がった時、リック・ルービンはすでに、ニールにも同じ魔法をかける準備ができていたのだ。
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ニール・ダイヤモンドの作品群において、『12 Songs』はどこからともなく唐突に生まれたわけではない。前作『Three Chord Opera』(2001年)で、数十年ぶりに全曲を自作したニールは、すでにかつての華やかなプロダクションから距離を置こうとしていた。そしてリック・ルービンとの共作がその流れをさらに突き詰めることになる。
アルバムのライナーノーツの中でニール自身が「リックはプロセスを急かすことなく、私が取り組んでいた楽曲の“本質”にたどり着くまで待つことを固く決意していた」と説明している通り、リックは彼に時間を惜しまずじっくりと制作に向き合うことを強く促した。
リックはまた、ニールに再びギターを手に取らせ、その弾き語りによるアコースティック・ギター演奏が本作の中核を成している。一方で、レコーディング・セッションには、ベテラン・スタジオ・ミュージシャンのラリー・ネクテル(ジェリーフィッシュのロジャー・ジョセフ・マニング Jr.とともにピアノを担当)や、ザ・ハートブレイカーズのマイク・キャンベル(本作の音楽的MVPであり、ギターとアレンジを担当)など、馴染みの顔ぶれを含む12人以上の精鋭ミュージシャンが参加。彼らによって紡ぎ出されるサウンドは、作品全体を通して親密さと温もりに満ちている。
オープニングを飾る「Oh Mary」では、途中でコーラスの歌声が加わるのを期待してしまいそうになるが、最後まで“ひとりの男が恋人の名を呼ぶ声”だけが響く。そのシンプルさこそが、楽曲に深みを与えているのだ。
『12 Songs』はジョニー・キャッシュの作品同様に、より真摯で重みのあるテーマを扱っている。しかし両者の間には大きな違いがある。ジョニー・キャッシュの『American Recordings』シリーズは、忍び寄る老いや死をテーマにした歌が多く、作品を重ねるごとにその暗さが増していったのに対し、ニールは視点はより陽気で達観したものだった。
自身の老いを歌った「Hell Yeah」は寛大でユーモアに満ちている。彼は自らを「幸運な老いぼれ夢想家」と呼び、「ずいぶん長い間生きてきた」と語る。彼は確かにいくばくかを学び、素晴らしい時を過ごしたのだ。そして彼は聴き手に向かって直接こう語りかける。「君が不安を口にしているのが聞こえるよ、果たしてやり遂げられるのか?ってね。ただ、できると信じるんだ。そうさ、君はやり遂げるさ」
同じく「Man of God」は、彼独自の哲学を歌った初期の名曲「I Am… I Said」を彷彿とさせる。ここでは「祈り方を学んだことがなかったとしても、愛や歌の中に神を見いだせる」と歌い、偉大なビリー・プレストンのハモンド・オルガンがゴスペル的な趣を添えているが、残念ながらこれが彼の最後のレコーディングとなった。
もちろんこれはニール・ダイアモンドのアルバムである以上、中心には彼の得意分野、“愛”がある。失恋を嘆く「Evermore」と新たな恋を祝う「Save Me a Saturday Night」が並んで配置されているのも象徴的だ。ブリル・ビルディング時代からのポップ職人としての本能も健在で、「I’m On to You」は威勢のいい初期のバング・レコード時代を彷彿とさせ、本作で唯一ドラムが入った楽曲となっている。また、甘くノスタルジックな「Delirious Love」は、ビーチ・ボーイズの「Help Me Rhonda」を思わせる軽快なグルーヴを帯び、ブライアン・ウィルソンをバックボーカルに迎えた別ヴァージョンが制作されたのも納得だ。
『12 Songs』は、ニール・ダイアモンドに数十年来の最高評価をもたらし、大ヒット・シングルなしで全米トップ10入りを果たした数少ない作品となった。
「64歳にして復活を果たせるのか?」その問いへの答えはシンプルだった。
「Hell yeah, he could.(もちろん、果たせたさ)」
Written By Brett Milano
ニール・ダイアモンド『12 Songs』
2005年11月8日発売
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