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The 1975がリスナーを魅了する5つの理由:新世代の代弁者であるロック・バンドらしからぬロック・バンド

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Photo: Mara Palena Courtesy of Universal Music Group

2019年8月に行われたSUMMER SONICでのパフォーマンスが大きな話題となりTwitterのトレンドにも登場、2020年5月22日には4枚目のアルバム『Notes On A Conditional Form』が発売された英ロック・バンド、The 1975。彼らのライヴが多くの人を魅了した理由はなんなのか? バンドの成り立ちやサウンド、楽曲に込めた思いなどからその理由を『rockin’ on』5代目編集長、現在は音楽ライター/ジャーナリストとして活躍されている粉川しのさんに解説いただきました。

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1. UKロック・シーンの異端児だったThe 1975

今となっては信じられない話だが、デビュー当時のThe 1975はUKメディアから徹底して冷遇されていたバンドだった。「ギター・ミュージックとしてはポップすぎる」、「インディ・ロックとしてはメジャー嗜好すぎる」等、彼らに対する批判はほとんど言いがかりに近いものがあって、このThe 1975に対するトンチンカンな批判からもテン年代前半のUKロック・シーン、バンド・シーンがいかに保守化していたかが伺えるだろう。

しかしそんな逆風をものともせず、デビュー・アルバム『The 1975』(2013)は見事全英チャート1位を獲得。こうしてThe 1975がギター・ロック不況、バンド不振のUKシーンでほとんど一人勝ちに近い成功を収めることができたのは彼らが保守化したUKシーンの異端児だったからこそであり、旧来型のメディアのハイプに頼らないその成功の原動力となったのは、SNSを中心に広がった堅固なファンのネットワークとバイラルだった。ギター・ミュージックとしては破格にポップで、インディ・ロックの定型にとらわれないThe 1975のようなバンドを、新時代のキッズたちはまさに待望していたのだ。

 

2. 変化を恐れない強力なポップ・サウンド

The 1975のサウンドを一言で表現するなら「ポップ」ということになるだろう。逆に言えば、ポップでさえあれば彼らのサウンドのベースとなる要素に一切の制約はない。『The 1975』は80年代へのオマージュたっぷりのエレクトロ・ポップや、プリンスやマイケル・ジャクソンを彷彿させるソウル・ポップ、さらにはエモ風のポップ・ロックまで、あらゆるタイプのポップが試されたカラフルなアルバムで、全曲シングル・カット出来そうなフックの連続はあざといほどのキャッチーさだった。

そんな『The 1975』がストリーミングのサブスクリプションが台頭しつつあった時代に最適化されたシングル・コンピ的一作だったとしたら、セカンド・アルバム『君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。(原題 i like it when you sleep, for you are so beautiful yet so unaware of it)』(2016)は極めてアルバムらしいアルバム、言わばコンセプト・アルバムだった(何しろタイトルからしてコレだ)。

サウンド的にもさらに果敢に攻めた作品で、R&Bやエレクトロ・ファンクを取り入れるなどトレンドをより意識したアプローチの一方で、ポスト・ロックやアンビエント、シューゲイザー・サウンドにもチャレンジするという、軽やかな表層とディープな深化を両立させた傑作となり、全米、全英チャートでダブル1位の快挙を達成。メディアも手の平返しで絶賛に転じ、The 1975はセールス的にも批評的にも文句なしのトップ・バンドへと上り詰めた。

「自分たちが出発した地点から遥か彼方まできてしまって、過去の作品との音楽的繋がりを語るのは難しい」と、サード・アルバム『ネット上の人間関係についての簡単な調査 (原題 A Brief Inquiry Into Online Relationships)』(2018)の完成を受けてマシュー・ヒーリーは語っていたが、The 1975の過去に囚われず変化し続けていくこうした姿勢は、高速で移り変わっていくテン年代のポップ・ミュージックのリアリティを体現したものでもある。

 

3. 目が離せない、マシュー・ヒーリーのずば抜けたカリスマ

The 1975の前身となるバンドが結成されたのは2002年、彼らがまだ10代半ばの頃のことだった。マシュー・ヒーリー(Vo&G)、アダム・ハン(G)、ロス・マクドナルド(B)、ジョージ・ダニエル(Dr)は結成当初から不動のメンバー。幼馴染だった4人がトップ・バンドとなった今もこうして誰一人辞めずに活動を続けているのは稀有な例だろうし、そこになるべくしてスターになったマシュー・ヒーリーというカリスマの持ち主がいた幸運も重なった。

俳優の両親のもとでショウビズの世界を間近に見て育ったマシューは、ポップ・スターの振る舞いを本能的に理解している人物だ。真っ赤に染めた髪でファンを驚かせた「Give Yourself A Try」や、いきなりの長髪ストレート&ゴスメイクで「マリリン・マンソン?!」と話題を呼んだ「People」のMVなどでのしたたかなビジュアル戦略も含め、彼にはロック・スター不在と言われる時代にあってなお、見るものの目を捉えて離さない存在となるに欠かせないオーラがある。近年では音楽シーンのみならずGQのような雑誌の表紙も飾るなど、ファッション・アイコンとしても注目を集めているのも納得だ。

The 1975 – People

ただし、マシューは単なる表層的なポップ・スターではなく、『ネット上の人間関係についての簡単な調査』でドラッグ中毒に苦しんだかつての自分を告白したように、自分の弱さをさらけ出すことも厭わないリアルな存在だ。ファンにとってマシューはステージで刹那的な輝きを放つ憧れのスターであり、同時に自分たちと同じように問題を抱え、混乱した若者でもある。その二面性が何よりも彼の魅力であり、多くのファンを引きつけてやまないものなのだ。

 

4. シリアスなメッセージ性を獲得した傑作誕生、そして新世代の代弁者へ

サード・アルバム『ネット上の人間関係についての簡単な調査』と2020年にリリースが予定されている次回作『Notes On A Conditional Form』は、The 1975にとって初の連作として制作されたアルバムで、この2枚を制作した時期を彼らは「Music for Cars」と称している。「Music for Cars」とはマシューいわく「The 1975が本物のバンドになった時代」であり、「多くの若い人たちにとって重要な存在となったことで、さらに進化しなきゃいけなかった時期だったんだ」と彼は語っている。

実際、『ネット上の人間関係についての簡単な調査』はThe 1975がトレンディなポップ・バンドから若い世代に絶大な影響力を持つシリアスなバンドへと大きく進化を遂げた、過去最大の転機作にして傑作だった。トランプ米大統領への痛烈な批判やリル・ピープの自殺、移民・難民問題など多くのポリティカルなテーマを内包した「Love It If We Made It」や、彼らを含む若者たちが抱えるメンタル・ヘルスの問題に切り込んだ「I Like America & America Likes Me」、そして前述のように自身のヘロイン中毒を告白し、警句とした「It’s Not Living (If It’s Not with You)」など、同作にはこのネット社会の希薄なリアリティの中で生きる私たちが抱える様々な問題がビビッドに反映されている。優れたポップ・ミュージックがビートルズの時代から常に時代・社会の写し鏡であり続けてきたことを思えば、The 1975はまさに本物のバンドに、真に「ポップ」なバンドになったということだろう。

新作『Notes On A Conditional Form』から先行リリースされた「The 1975」では地球温暖化と気候変動の阻止を求める16歳のアクティヴィスト、グレタ・トゥーンベリのスピーチを全編でフィーチャーし、「People」ではアンチ・ファシズムのキッズたちへのエールを送るなど、その後もよりダイレクトなメッセージ・ソングが続いている。マシュー自身もLGBTQの権利問題や環境問題について積極的に発言を重ねるなど、彼らは名実ともにミレニアル世代以降の若者たちの象徴、代弁者たるバンドになりつつあるのだ。

グレタ・トゥーンベリ(左)とマシュー・ヒーリー

5. The 1975は「ビリー・アイリッシュの時代」のロック・バンドのあるべき姿だ

The 1975の最新ライヴのクライマックスでは、「ROCK AND ROLL IS DEAD, GOD BLESS THE 1975」なるメッセージがスクリーンに大写しにされる。「ロックンロールは死んだ」と言われて久しい昨今、ポップ・ミュージックにおけるロック・バンドの存在感が日に日に薄れていっている不可逆な現状を思えば、彼らがこの逆説的メッセージに込めた強烈な自負を感じ取ることができるだろう。

かつてユース・ミュージックのど真ん中で思春期の象徴として鳴っていたロックの代わりに、今のキッズはヒップホップに夢中になり、ビリー・アイリッシュの歌声に自分たちのメロウな10代の日々を重ね合わせている。そんな時代にロック・バンドはいかにサバイブすべきかーー「ロック・バンドらしからぬロック・バンド」として出発し、軽やかにポップを横断しながら、シリアスなメッセージ性を兼ね備えた「新時代のロック・バンド」へと見事に変容したThe 1975の挑戦の軌跡が、その解になるんじゃないだろうか。

 

Written By 粉川しの


The 1975『Notes On A Conditional Form』
2020年5月22日発売
CD / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music / Tシャツ



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