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ナイン・インチ・ネイルズ『The Fragile』解説:商業的な成功した不機嫌と陰気をまとったアルバム

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控えめに言っても、90年代にナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Nails)の2作のアルバムが発売された5年という歳月の間にロックとヘヴィ・メタルは大きな変化を遂げた。

1994年の『The Downward Spiral』と1999年の『The Fragile』の間にカート・コバーンが騒々しいこの世を去り、爽やかさと奇怪を併せ持ったポップ・パンクが全世界に広まり、かつてプライマスやミニストリー、そしてホワイト・ゾンビらがプラチナム・ディスクを獲得していた世の中は、リンプ・ビズキットやコーンなどを崇拝する時代を迎えていた。

しかもキッド・ロックがアメリカで1100万枚のアルバムを売る時代だ。冗談抜きで、アメリカでキッド・ロックの『Devil Without A Cause』が、パール・ジャムの『Ten』やレッド・ツェッペリンの『Physical Graffiti』よりも売れていたのは紛れもない事実である。

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時代の変遷

おそらくナイン・インチ・ネイルズにとって最も重要な変化は、トレント・レズナーの元弟子であるマリリン・マンソンが彼の世代で最も有名なロックスターになったことだろう。

ナイン・インチ・ネイルズの「Closer」は、股間を膨らませ、マチを湿らせ、S&Mの世界への頌歌であり、マーク・ロマネクが監督したミュージック・ビデオはシュールでトリッピーな世界観を表現したていた。しかしその位置も、ポリ塩化ビニルに身を包んだ大衆の黒い心の中で、宗教的および道徳的な怒りによって置き換えられサタンが炎を燃やすよりも多くの頻度で聖書が破壊し、そしてKISSやアリス・クーパーの流れを汲むロックのヒストリックとなったマリリン・マンソンに取って代わられた。

その時代の中でのトレント・レズナーの役割はなんだったのか? しかしながら彼は孤立を好み、世界が彼のことをどう思おうと少しも気にしていなかった。

前作『The Downward Spiral』は主に悪意とニヒルな自己破壊で成っているが、『The Fragile』は全体的としてどんよりとした作品である。そう、あの“知り合った誰もが最後にはみんないなくなる”と歌った「Hurt」を含んだアルバムよりもさらに暗いのだ。

 

不機嫌と陰気な雰囲気

もっと詳しく言うなら、アルバムのムードはずっと不機嫌だと言えるだろう。それでいて、よりメランコリックにもなっている。鬱や麻薬、そして諦めという深い海に溺れる閉所恐怖症のような感情よりも、怒りの方がよっぽど扱いやすい。その例として、アンビエントで陰気な「Even Deeper」、不吉で脅迫的な抑制を示す「The Wretched」、そして不気味で不安にさせるインストゥルメンタルの最終トラック「Ripe (With Decay)」が挙げられる。

25. Ripe – Nine Inch Nails

よりパーソナルで精神浄化作用のある祖母を亡くした悲しみが溢れ出し、聴く者の胸をえぐられるような「The Day The World Went Away」と「I’m Looking Forward To Joining You, Finally」も今作に収録されている。商業的で陽気なエレクトロ・ポップ「Into The Void」でさえも、“自分を救おうとしても、ただ自分を見失うだけ”とサビで歌っている。やはり暗いのだ。

Nine Inch Nails – Into The Void

『The Fragile』には「Starsuckers, Inc.」といった激しい怒りが詰まったトラックも含まれているが、『The Downward Spiral』の「March Of The Pigs」のようにメインストリームのロック・アンセムの地位を得ることはなかった。トレント・レズナーは決して人をなだめるようなタイプではなく、それはアルバム『The Fragile』の目的でもなかった。しかし結果として、この作品の成功と価値は話題となった。

 

商業的な成功

商業的な成功に関しては、『The Fragile』は一気に全米アルバム・チャートで1位を獲得し、ナイン・インチ・ネイルズにとっての初のNo.1となり、発売から1週間で23万枚のセールスを叩き出した(2枚組アルバムで価格が高かったことを考えると更にすごいことだ)。

その成功にも関わらず、『Pretty Hate Machine』や『The Downward Spiral』には数え切れない程の輝かしい批評が書かれたことを考えると、たとえ熱狂的なファンたちが『The Fragile』をトレント・レズナーの最高作品として愛していたとしても、『The Fragile』の一般的な評価としては、かやの外にされているといえるだろう。

それに加えて、タイム・パフォーマンスを気にする人々が年を追うごとに増えるこの世の中で2枚組のアルバムは消化されにくい。一方で、その魅力的で多様な103分を通じて幅広い感情を掻き立てる野心と技術を可能にできるのは“天才”レベルだと反論する者もいる。

そんな『The Fragile』のトラックはなぜかライヴと縁が薄いようだ。先行して高予算で制作された拍動のような「We’re In This Together」ビデオは、高い評価を獲得し、商業的にも成功したが、ナイン・インチ・ネイルズのライヴ・セットでは、過去に5回しか演奏されたことがない。

アルバムのタイトルトラック「The Fragile」は、ジョニー・デップに紹介され、工業用チューブ・ライトに囲まれてチェロを使用したMTVビデオミュージックアワードでの素晴らしいパフォーマンス中に初めて公の場で披露されたが、それから7年間ナイン・インチ・ネイルズのライヴで演奏されることはなかった。前例がない訳ではないが、それは確実に奇妙なことだ。

nine inch nails – the fragile live 9.9.99 MTV Video Music Awards

信じられないほど幅広いスキルを持つアーティストが、自分のすべてを作品に注ぎ込む決心をしたとき、誰もがその旅に参加できるわけではない。しかし、何十年も熱心に聴き続けても、『The Fragile』は繰り返し聴くことでその気持ちに応えてくれる。この『The Fragile』は、彼の世代で最も印象的なミュージシャンの1人による、最も印象的なアルバムの1つであるのだ。

Written By Terry Beezer



ナイン・インチ・ネイルズ『The Fragile』
1999年9月21日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


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