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  • ヒラリー・ハーン待望の新作『パリ』3月5日発売決定「ヴァイオリン協奏曲第1番」先行配信スタート

    ヒラリー・ハーン待望の新作『パリ』3月5日発売決定「ヴァイオリン協奏曲第1番」先行配信スタート

    アルバム『パリ』は、ヒラリー・ハーンの1年のサバティカル休暇からの復帰作であると同時に、ドイツ・グラモフォンへの6年振りの新作となる。

    彼女のために書かれたエイノユハニ・ラウタヴァーラによる「2つのセレナード」の世界初演録音の他、エルネスト・ショーソンの「詩曲」、1923年にパリ都で初演されたセルゲイ・プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番を収録。「ヴァイオリン協奏曲第1番第2楽章」は本日、先行配信がスタートした。

    Prokofiev: Violin Concerto No. 1 in D Major, Op. 19: II. Scherzo: Vivacissimo

    「『パリ』の主眼は表現です」とハーンは語る。

    「情感です。ある街があり、その街の文化の交わりがあり、切り離すことのできない感性があります。それが演奏者にも聴く人にも閃きを与えます。アルバムにはパリが貫かれています。それだけではなく、私の音楽家人生とも大いに脈絡があります。私は十代の頃からパリで演奏をしていますが、オーケストラとの共演は、いつもと言っていいほどフランス放送フィルハーモニー管弦楽団とでした」。

    「パリ」の録音の構想は、2018年から19年にかけてのシーズンでハーンがフランス放送フィルハーモニーのアーティスト・イン・レジデンスになったことから膨らんだ。2014年、ミッコ・フランク指揮でラウタヴァーラのヴァイオリン協奏曲を演奏した後、ハーンはフランクに彼と同郷の友人のこの作曲家が協奏曲第2番を書く気持ちはないかと尋ねた。

    フランクとラウタヴァーラは話し合い、セレナードを数曲まとめた形にするという構想で落ち着いたが、ラウタヴァーラの病によりその実現は阻まれたかに思われた。2016年7月享年87歳でラウタヴァーラは死去、すべてはこれにて一巻の終りとフランクは嘆き悲しんだ。

    ところがラウタヴァーラの未亡人が彼に見せたのは、完成間近のヴァイオリンと管弦楽のための素晴らしい哀歌調の曲だった。「即座にミッコはこれが私達の曲だとわかりました」とハーンは回想する。フランス放送フィルハーモニーは、著名なフィンランドの作曲家でラウタヴァーラに師事したこともあるカレヴィ・アホにオーケストレーションの仕上げを依頼した。

    「私達のこの録音は、2019年2月の世界初演からとっています。この感極まる歴史的な演奏で、ラウタヴァーラの作曲カタログは締めくくられます。最後の音符が鳴り終わった時、ミッコは天に向かって楽譜を高く掲げ、今もそこにいる作曲家の魂に敬意を表しました」。

    本アルバムでラウタヴァーラの「2つのセレナード」と並ぶ楽曲を選ぶに当って、ハーンはパリに背景をもつ2曲の音楽を選んだ。彼女はショーソンの「詩曲」を、徹底した対比に満ちた「あくまでも表現的な作品」と呼ぶ。「ある意味、ショーソンの私的な鎮魂歌のような予兆的な作品でありながら、喜び溢れる祝祭でもある。最大の身ぶりと最小のニュアンスを描いている」と、ハーンは分析する。

    「詩曲」はイワン・ツルゲーネフの短編小説から閃きを得ている。ツルゲーネフは晩年の多くをパリ近郊で過ごした。だがこの音楽は文学的標題から解き放たれ、メランコリーとほとばしる熱情の間で曲想を行き来する。「詩曲」のパリでの初演は1897年4月、ベルギーの名手ウジェーヌ・イザイが演じ熱狂的に歓迎されたが、ショーソンは自転車事故でその2年後亡くなった。

    プロコフィエフがその初めてのヴァイオリン協奏曲に着手したのは、第一次世界大戦の初期の頃だった。1917年、ロシアの十月革命の少し前に彼は再び譜面に向かい、祖国で脱稿し、ニューヨーク次いでパリに亡命した。楽曲の公での演奏は遅く、1923年の10月になってパリのオペラ座で初演された。

    「規則破りの協奏曲です」とハーンは語る。

    「私の愛奏曲の一つ。陸上競技で走っている気がする時もあるし、蒼天を漂っている気になる時もあります。絶えず移ろい、演奏者も聴衆もどきどきはらはらしっぱなしです」。

    新作「パリ」は、ハーンのフランスの都との長いつながりと同時に、フランス放送フィルハーモニーとミッコ・フランクと培った芸術的コラボレーションの特異性を象徴している。
    ハーンが言う通り、そしてここに聴かれるように、一緒に音楽を演じると、“音符は会話の言葉の様に流れ、音色はぴたりと寄り添い、感情は誇張されるというよりも包まれる”。


    ■リリース情報

    2021年3月5日発売
    『パリ』
    ヒラリー・ハーン
    iTunes /Apple Music / Spotify

    収録曲:
    エルネスト・ショーソン
    1 . 詩曲 作品25

    セルゲイ・プロコフィエフ
    2-4. ヴァイオリン協奏曲 第1番 ニ長調 作品19

    エイノユハニ・ラウタヴァーラ
    2つのセレナード
    5 . 第1曲:愛へのセレナード
    6 . 第2曲:人生へのセレナード

    ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)
    フランス放送フィルハーモニー管弦楽団
    ミッコ・フランク(指揮)
    録音:2019年2月([5][6])、2019年6月([1]-[4]) パリ





     

  • 米インストゥルメンタル・ユニット、バルモレイの最新アルバム『The Wind』が4月9日リリース

    米インストゥルメンタル・ユニット、バルモレイの最新アルバム『The Wind』が4月9日リリース

    米テキサス州のインストゥルメンタル・ユニット、バルモレイが、ドイツ・グラモフォンとのデビュー・コラボレーションによるニュー・アルバム『The Wind』を4月9日にリリースする。

    『The Wind』は自然界とその儚さについての瞑想、空気のないフランスの谷間に風を運んだ聖人の昔話、環境活動家のグレタ・トゥーンベリが大西洋を横断した時の思いなど、様々なインスピレーションを受けた12曲のトラックで構成されている。また、先行シングル 「Rose in Abstract」は全てのストリーミング・プラットフォームで配信している。

    Announcing: THE WIND

    本作はバルモレイのオリジナル・メンバー、ロブ・ロウとマイケル・A.ミュラーによるデュオとしての新たな始まりでもある。人里離れたテキサス州の大自然にあるロウの家で、2人は新たな作曲プロセスを切り開くことができた。

    また、作曲期間の終わり近く、ロウは13世紀に出版された西洋中世奇譚集成『皇帝の閑暇』の翻訳を発見した。この物語は、アルルの大司教が荒涼とした谷間に潮風を運び、それを放ってその場所を「実り豊かで健康的な場所」にするというもの。「私たちが作った音楽に共鳴するメタファーだと感じました」とロウは話す。「風は再生のためにある」。

    先行シングル「Rose in Abstract」では、ロウとミュラーが初めて二人でピアノを演奏した。イントロでは友人のニルス・フラームのパイプ・オルガンを使い、ホルン奏者のモリス・クリフイス(スターゲイズ・コレクティヴ)、チェリストのクラリス・ジェンセン、のヴォーカリストのリサ・モルゲンスタンと協力し、曲に幅と色彩を加えている。

    「もしも私たちの物語の中に登場人物が存在するとしたら、この作品で彼女は物事が変化していることに気づくかもしれません。」とロウは語る。


    ■アーティスト情報

    バルモレイは2006年、ロブ・ロウとマイケル・A.ミュラーがサマー・キャンプで出会い、音楽作りを始めたテキサス州西部の小さな町にちなんで名付けられた。ユニットは徐々に大きなアンサンブルへと発展し、アメリカとヨーロッパでツアーを行う。

    近年、ロウとミュラーはデュオとして新しい音楽を書くためにテキサスに戻り、彼らの原点に立ち返りながら、世界最古のクラシック・レーベル、ドイツ・グラモフォンとの新たな一歩を踏み出し、最新アルバム『The Wind』を発表する。


    ■リリース情報


    2021年4月9日発売
    『The Wind』
    バルモレイ
    iTunes / Amazon Music / Apple Music / Spotify

    収録曲:
    1. Day Dawns In Your Right Eye
    2. Rose In Abstract
    3. La Vagabonde
    4. Landlessness
    5. Evening
    6. The Myth
    7. V
    8. Ne Plus Ultra
    9. Nos
    10. Vent Pontian
    11. The Crush
    12. Night Falls In Your Left




     

  • リストの聴くべき作品ベスト10:ロマン派、“ピアノの魔術師”が生み出した名曲選

    リストの聴くべき作品ベスト10:ロマン派、“ピアノの魔術師”が生み出した名曲選

    “ピアノの魔術師”と称された作曲家、リストが残した最高の傑作10選

    フランツ・リスト(Franz Liszt、1811年10月22日 – 1886年7月31日)は、ハンガリーのヴィルトゥオーソ・ピアニストであり、ロマン派で最も重要な作曲家の一人である。

    彼の超絶技巧が用いられたピアノ曲は、ピアノのレパートリーの中でも最も技術的に挑戦的な作品として知られている。リストは、フレデリック・ショパン、エクトル・ベルリオーズ、カミーユ・サン=サーンス、リヒャルト・ワーグナーなど、同時代の多くの重要な作曲家と親交があった。

    しかし、リストに最も決定的な影響を与えたのは、ヴィルトゥオーソ・ヴァイオリニストのニコロ・パガニーニであった。パガニーニの演奏は、これまで想像もしなかったような困難を乗り越えてピアノ演奏のテクニックに新たな輝きと響きを獲得するよう促し、リストを当時の最高のピアニストにした。

    リストは、ベートーヴェン、ベルリオーズ、モーツァルト、ワーグナーなどの作曲家の交響曲、オペラ、大規模なオーケストラ作品の見事なピアノ・トランスクリプションを行った。また、交響詩を含む管弦楽曲も作曲・演奏している。練習曲にハンガリー狂詩曲、メフィスト・ワルツなどのピアノ作品は、技術と表現力が要求される華麗なショーピースとして知られ、ピアノ・ソナタ ロ短調 (1853) は、一般的にリストの最高傑作と認められており、交響詩にも顕著な主題変容の技法の模範となっている。

    リストが残した名曲の数々の中から最高傑作10作品をピックアップしてご紹介したい。


    Transcendental Études, Nos 1-12
    超絶技巧練習曲集 第1-12番

    《超絶技巧練習曲集》は、現代のピアノ(とピアニスト!)の限界を超えた挑戦を求める、変化に富み、技術的にも困難な12の曲集だ。

    幅広いタイプの曲が収められ、様々な名人芸的なテクニックの習得を必要とする。《超絶技巧練習曲集》の最終稿である第3稿は1852年に出版され、リストのピアノの師であり、多くの練習曲を作曲したカール・ツェルニーに捧げられた。

    Liszt: 12 Études d'exécution transcendante, S. 139: No. 4 Mazeppa (Presto)

    Hungarian Rhapsodies Nos 1-19
    ハンガリー狂詩曲第1~19番

    《ハンガリー狂詩曲》は、ハンガリーの民族的なテーマに基づいた19曲から成るピアノ曲集で、その難易度の高さで知られている。作曲者自身によるオーケストラ、ピアノ二重奏、ピアノ三重奏のための編曲版もある。

    リストは、彼の出身地である西ハンガリーで耳にした多くの旋律を取り入れているが、これは実際にはハンガリーの上位中産階級の人々が書いた曲であり、ロマ(ジプシー)のバンドが演奏していたものも多く含まれている。この曲にリストは、ツィンバロンの響きやシンコペーションのリズムなど、ロマのバンドサウンドに特有の効果を多く取り入れている。

    Liszt: Hungarian Rhapsody No. 6 in D-Flat Major, S. 244/6

    Hungarian Rhapsodies Nos 1-6
    ハンガリー狂詩曲第1~6番

    《ハンガリー狂詩曲》第1番から第6番は、リストの最も外向的でポピュラーなオーケストラ作品の一つである。ハンガリーの民族的なテーマに基づいた狂詩曲は、ピアノ曲を原曲としており、演奏の難しさで知られている。

    《ハンガリー狂詩曲》第2番嬰ハ短調は、この曲集の中で最も有名な作品だ。オリジナルのピアノ独奏版と管弦楽編曲版ともに、アニメにも良く使われており、そのテーマはいくつかのポピュラー・ソングのベースにもなっている。

    Liszt: Hungarian Rhapsody No. 2, S. 244/2 (Orch. Müller-Berghaus in C Minor)

    La Lugubre Gondola
    悲しみのゴンドラ

    《悲しみのゴンドラ》は、リストの晩年の最高傑作の一つである。この深く内省的な作品は、リストが1882年にヴェネツィアでワーグナーの死を予感していたときに、ヴェネツィアの 潟湖に浮かぶ葬送用ゴンドラの印象的な映像からインスピレーションを得たものである。

    リストの敬愛する義理の息子であったワーグナーは、リストがこの作品を作曲してから2ヵ月も経たない1883年2月に、まさにそのような葬列の中で最期の安息の地へと運ばれていった。

    Liszt: La lugubre gondola II, S. 200 No. 2

    Mephisto Waltz No. 1
    メフィスト・ワルツ第1番

    《メフィスト・ワルツ》第1番は、リストが作曲した4つの《メフィスト・ワルツ》の中で最も人気のある曲である。このワルツは、ドイツのファウスト伝説に登場する悪魔、メフィストにちなんで名づけられた。

    リストの名人芸的な音楽のスタイルは、これらの作品に見事に反映されており、彼の悪魔や標題音楽に対する強い興味が反映されている。

    Liszt: Mephisto Waltz No. 1, S. 514

    Piano Sonata In B Minor
    ピアノ・ソナタ ロ短調

    ピアノ・ソナタ ロ短調は、一般的にリストの傑作と認められており、彼の重要な技法である「主題変容」の模範となっている。

    この壮大な単一楽章のピアノ独奏のためのソナタは、音楽的にも技術的にも演奏者に最大限の力を要求するものであり、リストの最高傑作の一つである。リストは、シューマンがリストに「幻想曲ハ長調 作品17」を献呈したことへの返礼として、このソナタをロベルト・シューマンに献呈した。

    Liszt: Piano Sonata in B Minor, S. 178: I. Lento assai – Allegro energico

    A Faust Symphony
    ファウスト交響曲

    《ファウスト交響曲—3つの人物描写による》は、ゲーテの戯曲『ファウスト』に触発されて作曲された。リストはファウストの物語を追うのではなく、3人の主人公(ファウスト、グレートヒェン、メフィストフェレス)の肖像を音楽で描いている。

    彼は、音楽的なアイデアを様々な変化を経て発展させていく「主題変容」という音楽技法を生み出した。エクトル・ベルリオーズは、リストに捧げた《ファウストの劫罰》を作曲したばかりで、リストはその恩返しとして、この交響曲をベルリオーズに捧げている。

    Liszt: A Faust Symphony, S. 108: I. Faust

    Piano Concerto No. 1
    ピアノ協奏曲第1番

    フランツ・リストは26年の歳月をかけて、このピアノ協奏曲第1番変ホ長調を作曲した。彼は1830年、19歳の時に最初のピアノ協奏曲の主要主題を書いている。冒頭の力強いモチーフは、後続のすべての主題から派生した、本質的な要素を含んでいる。この協奏曲は4楽章で構成されているが、単一楽章のように連続して演奏される。

    Liszt: Piano Concerto No. 1 in E-Flat Major, S. 124: I. Allegro maestoso

    Piano Concerto No. 2
    ピアノ協奏曲第2番

    リストのピアノ協奏曲第2番イ長調は単一楽章で書かれており、6つの部分から成る。音楽学者の中には、ピアノによる交響詩のようだと考える者もいる。ピアノ協奏曲第1番と同様に、この協奏曲の全体は、冒頭の旋律に由来しており、この旋律は作品全体で変化している。

    Liszt: Piano Concerto No. 2 in A, S.125 – I. Adagio sostenuto assai

    Totentanz
    死の舞踏

    1832年にパリでコレラが流行した時の悲惨な光景をきっかけに、リストはグレゴリオ聖歌の旋律「怒りの日(Dies Irae)」を多くの作品で使用した。この曲はグレゴリオ聖歌の素材に基づいているため、リストの《死の舞踏》には中世的な響きを持つ模倣対位法が含まれているが、アレンジの最も革新的な点は、非常に現代的で打楽器的な響きのピアノ・パートにある。

    Liszt: Totentanz, S. 525

    Written By uDiscover Team



     

  • ベスト・クラシック・ピアニスト:史上最高の25人 Vol.3

    ベスト・クラシック・ピアニスト:史上最高の25人 Vol.3

    史上最高のクラシック・ピアニストは誰か?伝説的な名手と今日の若いスターをフィーチャーした、最高のピアニストのセレクションをご覧頂きたい。

    セルゲイ・ラフマニノフ、ヴラディーミル・ホロヴィッツ、アルトゥール・ルービンシュタインなどの伝説的な名手と、ラン・ラン、ユジャ・ワン、ベンジャミン・グローヴナーなどの今日、まばゆいばかりの活躍を見せる若いスター全25人をリストアップ。年代順に3回に分けてご紹介する。今回はその第3回目となる。(第1回第2回


    最高のクラシックピアニスト:史上最高の25人 Vol.3

    内田光子(1948年生まれ)

    日本の外交官の娘として生まれた内田は、神童として主にウィーンで育ち、14歳で最初のリサイタルを行った。彼女は主にウィーンの古典派の作曲家の作品をレパートリーとし、シューベルト、モーツァルト、ベートーヴェンの演奏や録音で知られている。

    また新ウィーン楽派のシェーンベルク、ベルク、ヴェーベルンやシューマン、ドビュッシーなども得意とする。非常に表現力豊かでありながら細かい抑制の効いた奏者であり、心に直接届いてくるような鮮やかなタッチと、ほんの数音で包み込むような雰囲気を作り出す能力を備えた彼女は、ロイヤル・フィルハーモニック協会からは金メダルを、2009年には大英帝国勲章DBE「デイム」といった栄誉を受けている。

    Schumann: Kinderszenen, Op. 15 – 7. Träumerei

    グリゴリー・ソコロフ(1950年生まれ)

    ソビエト時代の偉大なロシアのピアニストであり、特にエミール・ギレリスの後継者であるソコロフの名声は、長く、かつ根強いものであった。彼は1966年にモスクワで開催されたチャイコフスキー国際コンクールで16歳にして優勝したが、長年にわたって旅行が許可されていなかったため、ソ連外での認知を得るのに時間がかかっていた。

    現在、彼はカルト的な人気を獲得しており、ファンたちの間では今日の最も偉大なピアニストと見なされている。彼はレパートリーと音の想像力において万華鏡のような多様性を持ち、クープランからプロコフィエフ、さらに多くの音楽を超人的な才能、特に一方で繊細で明瞭、もう一方で明らかに力強いという才能で、変容させることができる。彼のレコーディングのほとんどはライヴ録音である。

    Mozart: Piano Sonata No. 2 in F Major, K. 280: I. Allegro assai (Live)

    アンドラーシュ・シフ(1953年生まれ)

    最高のクラシック・ピアニストの一人であるシフは、今日活躍しているピアニストたちの中でも特別な、「ナイト」の爵位を持っているピアニストだ。ブダペストでホロコースト生存者の息子として生まれた彼は、フランツ・リスト音楽院で(現:リスト・フェレンツ音楽大学)で学んだ。

    さらに、彼にとって最も関係の深い作曲家であるバッハの演奏に大きな影響を与えたジョージ・マルコムにロンドンで師事している。並外れたスタミナと記憶に恵まれたシフは、全曲演奏を行うことに並々ならぬ意欲を持っており、バッハの鍵盤楽器のための練習曲、すべてのシューベルトのピアノ・ソナタ、ブラームスの室内楽、バルトークとハイドンのシリーズやベートーヴェンの32のピアノ・ソナタ全曲を長年にわたって演奏してきた。

    シフは、非常に珍しい純粋な音、すぐに彼だと認識できる、歌うようにやわらかい音色、そして今日に至るまでの幅広いレパートリーを持っている。近年、彼はフォルテピアノでも録音を行っている。

    J.S. Bach: Goldberg Variations, BWV 988: Var. 1 a 1 Clav.

    クリスチャン・ツィメルマン(1956年生まれ)

    1975年、ワルシャワのショパン国際ピアノ・コンクールで、史上最年少、久しぶりのポーランド人優勝者となり、ツィマーマンは国際的な注目を集めた。光り輝く音色、細部への気配り、最高のコントロールと圧倒的な感情の強さが独特に混じり合い、成功を収めている。

    彼は毎年限られた回数しかコンサートを行わず、レコーディングも比較的少ないが、それらはあらゆるカタログで頻繁に取り上げられ、その演奏はしばしばあらゆるピアニストにとっての模範となっている。

    1988年にツィマーマンは、彼のために書かれたルトスワフスキの非常に複雑なピアノ協奏曲の世界初演を行い、その後それを2回録音している。彼の最新の録音には、シューベルトの2つの最後のソナタと、レナード・バーンスタインの交響曲第2番《不安の時代》がある。

    Beethoven: Piano Concerto No. 1 in C Major, Op. 15: I. Allegro con brio

    エフゲニー・キーシン(1971年生まれ)

    神童としてキャリアをスタートさせたキーシンは、12歳のときにモスクワ・フィルハーモニー管弦楽団とショパンのピアノ協奏曲を演奏、録音した。これは故郷であるロシアと西洋諸国の両方で聴衆を驚かせた。それ以来、常に最高のピアニストとして第一線でキャリアを重ねてきた。

    彼のターニングポイントとなったのは、1997年8月のロンドンのロイヤル・アルバート・ホールにおけるヘンリー・ウッド・プロムナード・コンサートで行ったソロ・リサイタルである。彼はまた、ロシア語とイディッシュ語で詩を朗読し、ピアノと弦楽四重奏のための魅力的な作品を数多く発表している。彼のピアニズムは、その詩的な流れ、音色の深さ、そしてその思慮深さによって注目されている。

    Beethoven: Piano Sonata No. 23, Op. 57 "Appassionata": III. Allegro ma non troppo (Live)

    ラン・ラン(1982年生まれ)

    ピアノの天才としての厳しい幼少期の後(このことは彼の自伝『一歩ずつ進めば夢はかなう』で語られている)、中国の大スター、ラン・ランはアメリカのカーティス音楽院に留学し、ピアノとのユニークなコミュニケーションの取り方と、人々を圧倒するヴィルトゥオジティによって17歳で国際的に注目を集めた。

    彼の大衆文化とファッションに対する積極的な姿勢は、ラン・ランがコアなクラシック・ファンだけでなく若い層にまで人気を得る助けとなった。そして何年にもわたって、彼は世界中の若者にピアノの勉強を奨励することに多くの時間とエネルギーを費やしてきた。

    特筆すべきは音楽教育を支援するために「ラン・ラン国際音楽財団」を設立したことである。いわゆる「ラン・ラン効果」は、何百万人もの子供たちにピアノを弾くように促したと伝えられている。

    Lang Lang – Bach: Goldberg Variations, BWV 988: Aria

    ユジャ・ワン(1987年生まれ)

    北京で生まれた中国のピアニスト、ユジャ・ワンは、フィラデルフィアのカーティス音楽院で学び、ピアニストの妙技に対する驚くべき、非常に多彩なアプローチで成層圏にまで到達するような国際的なキャリアを築いてきた。

    彼女が世界的に注目を浴びたのは、20歳のときに、ボストンでマルタ・アルゲリッチの代役を務めたときである。彼女の演奏は、その輝き、エネルギー、表現力、軽やかさ、正確さで感銘を与えた。今日、彼女はベートーヴェンのピアノ・ソナタから室内楽まで、幅広いレパートリーで高い評価を得ている(クラリネット奏者のアンドレアス・オッテンザマーとの素晴らしい共演の録音もある)。

    2019年にはジョン・アダムズによる「悪魔は全ての名曲を手にしなければならないのか?」というタイトルを持つ、悪魔のような新しいピアノ協奏曲の世界初演でソリストを務めた。

    Rachmaninoff: Études-Tableaux, Op. 39: No. 1 in C Minor (Live at Philharmonie, Berlin, 2018)

    ダニール・トリフォノフ(1991年生まれ)

    2010-11年、このまばゆいばかりの若きロシアのピアニストは、開催期間が数週間以内であったモスクワのチャイコフスキー国際コンクールとテルアヴィヴのルービンシュタイン国際ピアノ・コンクールの両方で優勝という、大きな勝利を収めた。

    それ以来、彼の卓越したミュージシャン・シップは、世界中の支持者を獲得している。彼の解釈は鮮やかな想像力に溢れ、非常に敏感でスリリングなエネルギーを持っており、コンポーザー・ピアニストの先駆者の最高の存在たちに並ぶ可能性がある。

    彼の資質は、リストの超絶技巧練習曲やショパンにラフマニノフ、プロコフィエフやスクリャービンの作品といったレパートリーで最高の効果を発揮することは明らかである。そして最高のピアニストの一人であるトリフォノフは作曲家でもあり、彼自身のピアノ協奏曲を演奏して高い評価を得ている。

    Daniil Trifonov – Prokofiev: Three Pieces from "Cinderella", Op.95: II. Gavotte

    ベンジャミン・グローヴナー(1992年生まれ)

    サウスエンド=オン=シー出身のグローヴナーは、わずか11歳のとき、驚異的な神童として、2004年の「BBCヤング・ミュージシャン・オブ・ザ・イヤー」(現:BBCヤング・ミュージシャン)で優勝した。

    今日、彼は国際的なキャリアを築き、その輝きに感性、ユーモア、洞察力そして音色の美しさのブレンドによって世界中で絶賛されている。しばしば黄金時代の偉大なピアニストたちにたとえられるカラフルなカクテルのようである。

    2011年にはBBCプロムス・オープニング・コンサートに史上最年少のソリストとして出演。彼は、珍しく、またあまり顧みられていない素晴らしいピアノ音楽を好み、しばしばメトネル、カプースチン、モシュコフスキーなどの作曲家の作品を、標準的なレパートリーと並べて演奏している。

    Chopin: Piano Concerto No. 1 in E Minor, Op. 11 – II. Romance. Larghetto

    Written By uDiscover Team


    ■リリース情報ラン・ラン『バッハ: ゴルトベルク変奏曲』
    2020年9月4日発売
    デラックス・エディション 限定盤(スタジオ録音+ライヴ録音):MQACD x UHQCD 4枚組
    スタンダード (スタジオ録音):SHM-CD2枚組

    CD / iTunes / Amazon MusicApple Music / Spotify


    2021年4月9日発売予定
    サー・サイモン・ラトル指揮、ロンドン交響楽団

    クリスチャン・ツィメルマン『ベートーヴェン:ピアノ協奏曲全集』
    iTunes / Amazon Music / Apple Music / Spotify



     

  • ベスト・クラシック・ピアニスト:史上最高の25人 Vol.2

    ベスト・クラシック・ピアニスト:史上最高の25人 Vol.2

    史上最高のクラシック・ピアニストは誰か?伝説的な名手と今日の若いスターをフィーチャーした、最高のピアニストのセレクションをご覧頂きたい。

    セルゲイ・ラフマニノフ、ヴラディーミル・ホロヴィッツ、アルトゥール・ルービンシュタインなどの伝説的な名手と、ラン・ラン、ユジャ・ワン、ベンジャミン・グローヴナーなどの今日、まばゆいばかりの活躍を見せる若いスター全25人をリストアップ。年代順に3回に分けてご紹介する。今回はその第2回目となる。(第1回第3回


    最高のクラシック・ピアニスト:史上最高の25人 Vol.2

    エミール・ギレリス(1916-1985)

    ギレリスの特別なサウンドは、その音量の幅と音色の豊かさにおいて、実際オーケストラのようなものであった。彼の名声は、1938年にブリュッセルで開催された、イザイ国際コンクール(現:エリザベート王妃国際音楽コンクール)で優勝して高まったものの、戦争の勃発によって、すぐに彼のキャリアプランを保留しなくてはならなかった。

    戦争中、彼は1944年にモスクワでプロコフィエフのピアノ・ソナタ第8番の世界初演を行った。彼がアメリカ・デビューを果たし、西への旅行を許可された最初のソビエトの芸術家の一人になったのは1955年のことであった。ギレリスのレパートリーは、ウィーン古典派が中心であり、同国人のリヒターよりも多様ではなかった。彼はブラームスとベートーヴェンの演奏で高い評価を受けていたが、彼の最も有名な録音の1つは、グリーグの《抒情小曲集》であった。

    Grieg: Lyric Pieces, Book 5, Op. 54: No. 4, Notturno

    ディヌ・リパッティ(1917-1950)

    わずか33歳でディヌ・リパッティが亡くなったことで、最も愛されているクラシック・ピアニストの一人の世界が奪われてしまった。彼の演奏は、音楽への深い愛情に満ち、作品の世界を壊すことなく輝かせる、純粋で焦点を絞ったシンプルな美しさを示していた。

    リパッティはブカレストの音楽一家に生まれた。偉大な音楽家であるジョルジェ・エネスクは彼の名付け親であり、アルフレッド・コルトーやポール・デュカスに師事した。最初は第二次世界大戦の勃発、次に彼の命を奪った病であるホジキンリンパ腫によって演奏活動を妨げられ、リパッティのキャリアは約15年という短いものであった。

    最後のリサイタルの際、ショパンの最後のワルツを演奏するには体調があまりにも悪かったため、彼はマイラ・ヘス編曲によるバッハの《主よ、人の望みの喜びよ》に変更している。

    Schumann: Piano Concerto in A Minor, Op. 54: I. Allegro affettuoso (Live at Victoria Hall,…

    アルフレッド・ブレンデル(1931年生まれ)

    最高のクラシック・ピアニストの一人であるブレンデルは徐々に名声を博し、クイーン・エリザベス・ホールで行ったベートーヴェンのリサイタルで一気に知名度を高めた。

    それ以来、ベートーヴェンと深い関係が結ばれているが、彼のレパートリーはバッハからシェーンベルクにまで及び、彼の鋭い知性とウィットは、ハイドンやリストの作品や、故ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウとの共演による歌曲といったレパートリーにおける異彩を放つアプローチにつながっている。彼はまた、音楽や詩に関する本の著名な著者でもある。

    ブレンデルは正式に演奏活動から引退したが、シューベルトやベートーヴェンをはじめとした作曲家についての講演を行うなど、ステージではまだおなじみの人物である。

    Beethoven: Piano Concerto No. 5 in E-Flat Major, Op. 73 "Emperor": I. Allegro

    グレン・グールド (1932-1982)

    偉大なピアニストの一人で、とらえどころのないカナダのグレン・グールドのように、これまでにこのようなカルトを達成したピアニストはほとんどいない。彼の並外れた知性と想像力が彼を異常な方向へと導いたのだ。

    演奏キャリアの印象的なスタートの後、彼は公開演奏会から完全に撤退し、レコーディングに専念した。他の演奏家はライヴの聴衆から離れることでアドレナリンの効果を失ってしまうかもしれないが、グールドはレコーディング・スタジオを、彼の音楽における完璧主義を実現するための最良の方法と見なしたのである。

    彼の心気症、ピアノの低い座席、そして彼の幅広い思考による輝きがもたらす魅力的なキャラクターは、多くの異なる映画製作者から注目を集めた。グールドのレパートリーは膨大で、レコーディングの量も多かったものの、今日最も知られているのはバッハの演奏である。

    Goldberg Variations, BWV 988: Aria

    マルタ・アルゲリッチ(1941年生まれ)

    最高のピアニストの一人であるマルタ・アルゲリッチは、ブエノスアイレスで生まれ、8歳でデビュー。1965年にワルシャワのショパン国際ピアノ・コンクールで優勝した。彼女は、作品に燃えるようなエネルギーと深い視点をもって演奏する。アルゲリッチは惜しみなく妙技を発揮しているが、彼女の本当の魅力は作品に対する新鮮な感覚と音楽への純粋な情熱である。

    アルゲリッチはコンサートをよくキャンセルすることで有名だが、それは1990年に受けたメラノーマの治療を受けたことによる健康上の問題が大半の理由を占めている。ソロの録音がどれも傑作であるのにもかかわらず、彼女は現在、協奏曲や室内楽の演奏に傾倒し、ソロのリサイタルよりも、ステージを仲間たちと共有することを好んでいる。

    Chopin: Scherzo No. 3 in C-Sharp Minor, Op. 39

    ダニエル・バレンボイム(1942年生まれ)

    バレンボイムは常に指揮者及びピアニストという2つのキャリアを同時に重ね、それぞれの専門知識が相互作用をもたらしている。彼は故郷のブエノスアイレスで父にピアノの手ほどきを受け、7歳で最初の公開演奏会を開きデビューを果たしている。

    26歳のときにはベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲を録音した。ピアニストとしての彼の音楽性は、指揮のときに見られるのと同じような知的な厳密さ、色彩感覚、感情を音で表現することで発揮されている。ベートーヴェンやシューベルトのピアノ・ソナタ全曲などのシリーズの演奏や、ワーグナーの《ニーベルングの指環》全曲の指揮は、長年にわたって歴史的な偉業といえる。

    Daniel Barenboim – Beethoven: 33 Variations in C Major, Op. 120, Var. 14 'Grave e Maestoso'

    ラドゥ・ルプー(1945生まれ)

    1945年にルーマニアで生まれたラドゥ・ルプーは、偉大な知恵、美しさ、静けさのある解釈で賞賛されている。モスクワの有名な音楽教師であるネイガウス親子に師事した彼は、1960年代後半からその名を知られるようになり、1966年にヴァン・クライバーン国際コンクール、1967年にエネスコ国際コンクール、そして1969年リーズ国際ピアノ・コンクールと3年以内に3つの権威あるコンクールで優勝。

    リーズ国際ピアノ・コンクール優勝後にデッカからリリースしたディスクでさらに注目を集めるようになる。彼のレパートリーは、ベートーヴェン、ブラームス、モーツァルト、シューベルト、シューマンなどのオーストリアとドイツの古典派である。マスコミ嫌いのとらえどころのないキャラクターで、異端的な天才と見なされている。彼は最近演奏活動を引退した。

    Brahms: 6 Piano Pieces, Op. 118: No. 2, Intermezzo in A Major

    マレイ・ペライア(b.1947)

    最も偉大なピアニストの一人であるペライアは、ブロンクスで生まれ、1972年にリーズ国際ピアノ・コンクールで優勝した。彼が受けた影響は、師匠であるミエチスラフ・ホルショフスキの薄明りのようで詩的な演奏から、ヴラディーミル・ホロヴィッツのダイナミズムにまで及ぶ。

    ペライアはホロヴィッツが彼に言ったことを思い起こす。「君がさらに優れた名人になりたいなら、まずは名人になることだ」。さらに重要な影響は、ハインリヒ・シェンカーの音楽理論である。これは、ペライアが演奏する音楽とマスタークラスでの指導の両方に適用され、多くの場合、刺激的な結果をもたらす。

    しかし、最終的には、彼の詩的な資質が聴衆の心をつかんだのである。タッチの軽やかさ、音色の美しさと親密さ、そして間違いなく賢明で繊細な解釈である。最近はヘンレ原典版によるベートーヴェンのピアノ・ソナタの一連の新版を準備しているところだ。

    Beethoven: Piano Sonata No. 29 in B-Flat Major, Op. 106 – "Hammerklavier": I. Allegro

    Written By uDiscover Team


    ■リリース情報

    ダニエル・バレンボイム『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集』
    2020年12月16日発売
    CD / iTunes /Amazon Music / Apple Music / Spotify



     

  • ベートーヴェンはロックスターである。その理由を楽曲と生涯から辿る by 水野蒼生【連載最終回】

    ベートーヴェンはロックスターである。その理由を楽曲と生涯から辿る by 水野蒼生【連載最終回】

    2020年はクラシックの大作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの生誕250周年の年。そんな彼は現代でいうとロックスターだった?

    巨匠カラヤンを輩出したザルツブルクの音楽大学の指揮科を首席で卒業し、その後国内外で指揮者として活躍。一方で、2018年にクラシックの楽曲を使うクラシカルDJとして名門レーベル、ドイツ・グラモフォンからクラシック音楽界史上初のクラシック・ミックスアルバム『MILLENNIALS-We Will Classic You-』をリリース。今年3月にはベートーヴェン・トリビュートのアルバム『BEETHOVEN -Must It Be? It Still Must Be-』を発売するなど、指揮者とクラシックのDJという両輪で活躍している水野蒼生さんによる寄稿、今回が最終回です。(第1回第2回第3回第4回)


    受難の始まり

    1816年、まだ9歳の少年だったカール・ヴァン・ベートーヴェンは苦悩していた。父の病死と向き合って悲しむ暇もないまま裁判が始まり、この少年の親権は伯父であるルートヴィヒに半ば強奪され、母親と会うことは禁じられた。最愛の母親は健在なのになぜ共に暮らすという当たり前のことが出来ず、この不潔で強情な耳の聞こえない伯父との地獄の日々を送っているのだろう?そんなカールの嘆きなど一切考えていないベートーヴェンは、この9歳の甥を硬くキツく抱擁した。

    それでもベートーヴェンはこの父を亡くした甥っ子のためを思って(それが独善的な押し付けになっているとは1ミリも疑わずに)出来うる限りの準備をしてくれていた。まず自分に万が一のことがあってもカールが困らないようにと高額の銀行券を買いあさり、また彼を自分と同じように優れた思想を持った有能な男にするために名門の寄宿学校に預け、その上で多数の外国語、デッサン、そしてピアノの家庭教師をつけた。超教育熱心なパパになろうとしていたのだ、ベートーヴェンは。

    甥っ子のために奔走するベートーヴェンは「強引に親子を離別させたひどいやつ」という風に世間からは見え、このタイミングで古くからの友人たちもベートーヴェンから距離を置くようになってしまう。その上今までベートーヴェンを支援してきたパトロンたちがこぞって急死し、信頼していた音楽仲間の多くもさまざまな事情でウィーンから姿を消してしまった。

    これに対するベートーヴェンの精神的ショックは少なくなかった。甥に対する世話や雑務も重なったことでベートーヴェンの体調は一気に悪化してしまう。こうした理由からこの時期に残された作品はあまり多くない。しかしそんな停時期にベートーヴェンは後の時代に大きな影響を及ぼす大きな発明をする。

    「アルバム」の起源?

    とある日、病に伏せっていたベートーヴェンのもとにひとつの詩が届いた。それは孤独になっていたベートーヴェンの胸を大きく打ち鳴らせた。

    ――そうだ、こんな詩に出会いたかったんだ、俺は――

    そうしてベートーヴェンはこの詩をもとに歌曲《遥かなる恋人に》を一気に書き上げる。この作品は「連作歌曲 (Liederkreis)」という今までにない形式の作品で、複数の歌曲をひとつのコンセプトのパッケージの中に収めるという、これまでに「ありそうでなかった」ものだった。

    この形式はベートーヴェン以降の時代、シューベルトやシューマンなどのロマン派の作曲家たちの中に大流行を巻き起こすことになる。その後もこの「連作歌曲」は発展を続け、現代における「アルバム」の形成にも大きく影響を及ぼしているとも言えるかもしれない。

    Beethoven: An die ferne Geliebte, Op. 98: No. 1, Auf dem Hügel sitz ich, spähend

    この作品《遥かなる恋人に》にも見られるようにベートーヴェンの作風はこの時期から方向性が変わっていく。《エロイカ》《運命》などで見られた直接的でエネルギッシュな作風は減っていき、より内省的、叙情的な表現が多く見られるようになっていった。

    こうしてベートーヴェンの人生における「後期」が始まった。だがそれと同時にウィーンの街は社会的にも音楽的にも今までとは全く違う、新たな局面に向かっていく。

    非・文化都市ウィーン

    1819年、ウィーンの街にはナショナリズムが大きく膨れ上がっていた。特に若者の間でその動きは顕著に見られ、過激な学生運動があとを絶たない。この動きはまさにナポレオン戦争時代の反動であり、何も前進することがなかったウィーン会議に対する不満でもあった。若者たちの極右運動はどんどんと過激化していき、ついには文化人の暗殺まで起きる始末。

    こうした出来事を受け、当時ウィーンを統べていたメッテルニヒはこれを機に壮大な社会統制を企てる。郵便物や書物、そして芸術作品に対するガチガチの検閲はもちろん、街にはスパイや秘密警察が大量に投入され「華やかな文化都市ウィーン」はあっという間に息苦しい監視社会へと姿を変えてしまった。

    そんな世間がビクビクしている言論統制の世に一人だけ、何も気にせず大声で自分の意思をあげ続ける男がいた。そう、ウィーンでその名を知らない人はいない我らが大作曲家、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンである。

    実際に彼の派手な政治的発言も監視対象であり、一時はベートーヴェンを逮捕するべきかの論議が政治家たちの中で繰り広げられていた。しかし、あの全ヨーロッパが尊敬するベートーヴェンを逮捕したら世論は黙っていない。それは誰から見ても明白なことだった。ここにきてベートーヴェンは自分が築き上げた名声によって弾圧の手から救われることになった。

    言論統制の世が変えてしまったのは街の殺伐とした雰囲気だけじゃない。この「ウィーン体制」と呼ばれる悪名高き政策は、音楽的トレンドもすっかり変えてしまった。市民は生活の現実逃避として歓楽的なワルツやポルカ、そしてただ華やかなだけのイタリア・オペラを好んで選ぶようになり、思想的なメッセージの強いベートーヴェンの作品はウィーン市内ではいつの間にか時代遅れとなっていった。こうした理由からベートーヴェンの中にはウィーン市民に対する失望感が芽生え始めることになる。

    内と外の平和のために

    「来年、大司教に即位することになった。そこで君に頼みたいのだが、その式典のためにとびきりのミサ曲をひとつ書いてくれないか」

    1820年の6月、ベートーヴェンはパトロンであり弟子でもあった友人、オーストリア皇族のルドルフ大公からこんな依頼を受ける。依頼仕事にはあまり気乗りしないベートーヴェンであったが、これはベートーヴェンにとってもはやただの依頼仕事ではなかった。親しい間柄だったルドルフの頼みというだけでなく、ここ最近ベートーヴェンはすでに教会音楽に強い関心を示していたのだ。

    ――この命もいつまで持つかわからない。ついに俺も神と対峙するべき時がきたのか――

    老い先が短いことを悟っていたベートーヴェンはこの作品、《ミサ・ソレムニス》を“人生の集大成” とするべく、全身全霊を注ぎ込む勢いでこのミサの作曲を進めた。しかし“人生の集大成”がそんな短時間で作れるわけがない。

    結果的にこの作品はルドルフ大公の大司教即位式典に間に合うことはなかった。それでもお構いなしにベートーヴェンは《ミサ・ソレムニス》の作曲を続け、この作品が完成しルドルフ大公のもとに届くのは即位式典から3年後のことになる。

    ベートーヴェンには《ミサ・ソレムニス》の作曲時期に生み出された別の傑作群がある。彼の最後の3つのピアノ・ソナタであるピアノ・ソナタ第30番、第31番、第32番。

    Beethoven: Piano Sonata No. 30 in E Major, Op. 109: II. Prestissimo

    ベートーヴェンにおけるピアノ音楽の集大成とも言えるこの3作で、彼は形骸化した古典派のソナタ形式を完璧に破壊し、ピアノ音楽における新たな可能性を明確に示した。

    それと同時にベートーヴェンの時代ではすっかり「忘れ去られた作曲家」という扱いだったバッハの作品を引用し、その技法をも踏襲している。そんな、過去と未来両方を見据えた恒久的価値を持った作品群は後の時代の作曲家たちに多大な影響を与え、今現在でも「後期3大ソナタ」として多くの人に愛され続けている。

    1823年の3月、“人生の集大成”として5年も費やした《ミサ・ソレムニス》が遂に完成した。しかし、結果的にそれは人生の集大成たる作品にはならなかった。ベートーヴェンがこの作品に最も込めたかったメッセージ、それは「平和」。楽譜やスケッチには「内と外の平和」という走り書きが幾度ともなく現れている。

    Beethoven: Missa Solemnis / Karajan · Berliner Philharmoniker

    ――神と対峙する音楽であるミサを書けば「平和」を体現する音楽が書ける――

    最初はそう思っていた。しかし作曲を進めていく中でベートーヴェンは気付いてしまったのだ、自分にとっての神は「キリスト」ではなかったことを。もちろんベートーヴェンはキリスト教で、出生時はカトリックの教会で洗礼も受けている。それでも彼の持つ次世代的な哲学、思想は知らぬ間にベートーヴェンをキリスト教的思想の枠組みを超えた先に誘ってしまっていた。ベートーヴェンにはノートに自分の心に響いた言葉を書き留める習慣があったが、実際にその大半は哲学者の言葉やインド思想などで、聖書からの言葉はほぼ無いに等しい。

    気持ちを新たにしたベートーヴェンは自身の「神」の正体を探るべく次なる“人生の集大成”の創作を始めることになる。こうして次に作曲されるのがあの、全生命のための平和を謳った歓喜の歌「交響曲第9番」となるのであった。

    人生の集大成

    自身の「神」を探し出す上でベートーヴェンはある一編の詩を思い出す。18歳の時、故郷で大学の仲間たちと熱狂しながら読み漁った一編の詩を。
    フリードリヒ・シラー:「歓喜の歌」

    ――そうだ、あれこそ俺の求める思想じゃないか!――

    そうしてベートーヴェンは埃かぶった本棚の奥からしわくちゃになったその詩を取り出すや否や詩の再編を始めた。彼は詩の中から自分の心情とフィットしている部分だけを抜き出し、順番を入れ替え、更に冒頭に自ら紡ぎ出した一節を付け加える。こうしてシラーの「歓喜の歌」のリミックスを作り、オリジナルとは違う新しい文脈を持たせる事を見事にやってのけた。そしてこれまで自分が培ってきた持ちうる全ての表現方法を融合させて壮大な合唱付きの交響曲を作り上げたのだった。

    出来上がったその大規模な交響曲はまさしくベートーヴェンの「人生の集大成」というに相応しい内容で、作品の中には確かにベートーヴェンが思い描く「平和」があった。キリストではないベートーヴェンが信じる「神」がいた。このように特定の宗教的思想を持たせなかったことが結果的にこの作品が「時代を超え世界中で歌われる全人類の賛歌」となった所以があるのかもしれない。

    作品は完成した、あとは初演の場所が問題だ。先で述べたようにベートーヴェンはイタリア・オペラに浮かれているウィーン市民たちに対しての失望感があった。そのためウィーンでの初演は避け、より思想的に豊かな街での初演を希望していた。それを知ったウィーンにいるベートーヴェンの友人やパトロンたちは「この街を再び芸術の都にするためにも、交響曲の初演はウィーンでやってほしい」となんとかベートーヴェンを説得する。渋々ベートーヴェンはその説得を受け入れるが、まだウィーン市民たちに対する失望感は心の奥に残ったままだった。

    歓喜が鳴り響いた日

    1824年の5月7日、ウィーン中心にあるケルントナー劇場の舞台裏には大勢の合唱と管弦楽、そして4人のソリストが待機していた。開演を待つ演者たちの中には期待と不安が入り混じったなんとも言えない異様な雰囲気が立ち込めている。開演時間になると、大規模なオーケストラと合唱団、次に4人の歌手と指揮者が舞台袖から入場してくる。そして最後にベートーヴェンも舞台に現れ、すでに指揮者がいる指揮台に我が物顔でズカズカと上がり込んだ。

    ――指揮者が二人?そんな演奏が成立するのか?――

    そんな動揺する聴衆たちのざわつきの中、ベートーヴェン最後にして最大の交響曲の歴史的な初演は始まった。

    楽譜を視界の隅に入れながら、奏者たちの手指の動きを目で追う。そうすれば耳が不自由でも音楽が聴こえる。そうやってベートーヴェンは自ら生み出した作品の濁流に流されまいと、指揮台にしがみつく思いで立っていた。どうやら奏者たちの動きや表情を見る限り、演奏はうまくいっているようだ。無事にフィナーレも始まり、合唱も口元を見る限り間違えずに歌っている。音楽は破綻することなくオーケストラも最後の1音まで弾き切った!どうだ、これは成功したんじゃないのか?

    しかし演奏が終わった後、ベートーヴェンが感じたのは完全なる静寂だった。歓声が聴こえなくてもその熱気の「気配」くらいは分かるはずだ、ベートーヴェンはそう思っていた。しかしその場に満ちているのは静寂。

    ――やっぱりウィーンの奴らに俺の演奏なんてわかりゃしないんだ――

    指揮台の楽譜に目を落とし、悔し涙で目頭がじわじわと熱くなる。

    その時だった。アルト歌手がベートーヴェンの手を取り、彼を聴衆の方に振り向かせた。いきなりのことに動揺するベートーヴェンの視界には紛れもない爆発的な大熱狂が飛び込んできた。会場は満席で、聴衆たちは総立ちになり、涙を流している人も少なくなかった。誰しもが惜しみない拍手と歓声を舞台に、そしてベートーヴェンに送っている。ウィーン市民たちは忘れていなかったのだ、ここが芸術の都であることを。そしてその中心にはいつも、この強情な大作曲家がいたことを。こうして交響曲第9番は「ベートーヴェンの集大成」として堂々と世に送り出されることになった。

    Beethoven: Symphony No. 9 in D Minor, Op. 125 "Choral": IVc-j. Presto. O Freunde nicht diese…

    人生最大の作品にようやく到達したベートーヴェンだったが、体の衰えも以前に比べ顕著に感じるようになり、以前のような精力的な作曲活動は難しくなっていた。それでも少しずつ、彼の人生最後の作品群となる弦楽四重奏曲を細々と書き進める日々を送る。そこにベートーヴェンにとって最後の悲劇が起きる。

    最後の悲劇

    第九の初演から2年ほど経った1826年の夏の明け方、ウィーン近郊の美しい谷の中腹で銃声が2発鳴り響いた。そこに倒れていたのは20歳の若者カール・ヴァン・ベートーヴェン。幼い頃に作曲家ベートーヴェンによって半ば無理やりに引き取られた、あの甥っ子カールだった。ピストル自殺を試みたカールだったがそれは未遂で終わり、頭部に大怪我を負うものの致命傷とはならなかった。通行人に発見されたカールはあえて親権を持つベートーヴェンの名前は伏せ、会うことを禁じられていた母親のもとに運び込まれることを望んだ。

    そう、カールの精神はずっとベートーヴェンに追い詰められていたのだ。ごく平凡な家庭環境に生まれたカールはベートーヴェンに突然押し付けられたガチガチの英才教育についていける筈もなく、何より母親から無理やり引き離されたストレスは想像を絶するものだった。

    「お前は学者になれ」とベートーヴェンに言われて進んだ大学も中退。その後は過保護なベートーヴェンの目を盗んで興じる夜遊びが唯一の憂さ晴らしとなっていた。しかしそれもベートーヴェンにバレてしまい、カールに対する監視の目は益々厳しいものになっていく。こうしたストレスの積み重ねはカールに自殺を決意させるほどに膨れ上がっていった。

    この甥っ子の自殺未遂はベートーヴェンに対してどれほどのショックを与えたことだろう。

    ――これまで身骨を砕いて100%の愛情をカールに注いできたはずだ、なのに俺はいったい何を間違えたんだろう?――

    ベートーヴェンはカールが入院する病室に一目散に駆け込んだ。ベッドに横たわったカールは弱々しく虚空を見つめているが、その顔にはどこか安堵の表情がうかがえる。それを見たベートーヴェンはようやく自分の過ちを理解し、二人は落ち着いて話をすることができるのだった。

    二人の話し合いの結果、カールは軍人になりたいと願い、ベートーヴェンも不本意ながらも今度はカールの意思を尊重してその願いを聞き入れることにした。そうして二人はカールの入隊までのわずかな時間を共に過ごすことにした。

    そんな穏やかな時間も終わりを迎える1826年の晩秋、ベートーヴェンの身体に異変が起きる。顔は黄色に染まり、身体には水が溜まって高熱にうなされる日々が続く。緊急の手術をしてなんとか一命を取り留めるものの、全快になる可能性は極めて低かった。

    楽聖の終末、そして完成

    1827年の3月、その部屋の前には小さな行列ができていた。それはベートーヴェンの死期が迫っているという情報を聞いて駆けつけた人々だった。これまでの人生を共に駆け抜けたウィーンの音楽仲間やパトロンたち、そして「カール問題」を皮切りに疎遠になってしまっていた旧友たちの姿もそこにあった。そんな彼らを出迎えるベートーヴェンは今ではすっかり痩せ細ってしまったが、その眼差しはウィーンに初めて来た日のそれと変わらず力強く光を放ったままだった。

    いつもより寒い3月26日。空には厚い雲がかかり、決して弱くない雨が降り続いていた。この数日前にベートーヴェンの「死という運命」に抗い続けた精神力もついに限界を迎え、彼は昏睡状態となりベッドに横たわっていた。

    どういうわけか、その部屋の空気は窓の外の荒れ模様に反していつもより穏やかに流れている。そんな午後の一瞬にその瞬間は訪れた。轟音の雷鳴とともに一筋の稲妻がウィーン市中に降り注ぎ、その光が窓の外を真っ白に染め上げる。その時、昏睡状態だったはずのベートーヴェンは目をカッと見開き天高く拳を突き上げた。そしてその力強い拳がベッドに下ろされたのと同時にベートーヴェンの心臓は鼓動を止めたのだ。

    ――諸君、喝采を。喜劇は終わった!――

    1827年3月26日、世紀の大作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン逝去。

    革命や戦争といった大波乱の世の中で、音楽界に収まらないとてつもなく大きな爪痕を歴史に残した大作曲家の人生は57歳で幕を閉じた。その報せは一晩のうちに街中に広まり、ひとつの時代が終わったことをウィーン市民たちは実感していた。

    ベートーヴェンの葬儀は彼の死後数日のうちにひっそりと行われる筈だった。しかし死んで尚ベートーヴェンという巨大すぎる存在は、また一つのセンセーショナルな出来事を巻き起こす。ベートーヴェンの自宅から墓地へと棺が運び出されると、それを待ち焦がれていたかのように数多くの市民が葬列に加わり始めたのだ。

    葬列は進むごとにどんどんと大きくなり、結果的に2万人を超える超大規模な葬列がウィーン市中に出来上がった。それは言論統制の敷かれた都市にとっては「事件」といっても過言ではない出来事だった。たとえオーストリアの皇帝が亡くなろうとこんな巨大な葬列になることは決してない。現代にもこれだけ壮大な葬列を自然発生させるアーティストが何処にいるというのだろう?当時のウィーンの人口はおよそ30万人で、単純計算でも15人に1人という途轍もない人数の人がこの偉大な英雄の死を弔ったことになる。

    こうしてルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンという「存在」は完成された。その存在は音楽界における革命を意味し、「古典派」と呼ばれる時代を終わらせ「ロマン派」という新しい時代の碑を音楽史に打ち立てた。そしてベートーヴェン以降の音楽家たちは皆ベートーヴェンという巨大すぎる存在に苦しめられながらもそれを様々な形で継承、発展させて新しい音楽表現を生み出していくことになる。

    ベートーヴェンが存在しなかったら、現代僕らが身近に接している身近な音楽も違う様相をしていただろう。それはそれで興味深いが、僕らが生きる世界線はベートーヴェンが存在した世界線なのだ。生後250年経った今でも《運命》の冒頭や《エリーゼのために》の旋律を知らない人はいなく、年末には街中に「第九」の歓喜の歌が溢れる、そんな世界線なのだ。そしてこの、ベートーヴェンが生きた世界線の音楽を僕らはいつまでも愛してやまないのだ。

    敬愛なるルートヴィヒ。あなたの音楽はあなたが生まれた250年後の世界でも、この空の下で堂々と、そして高らかに鳴り響いています。

    2020年12月29日
    Written by 水野蒼生


     


    水野蒼生『BEETHOVEN -Must It Be? It Still Must Be-』
    2020年3月25日発売
    CD / iTunes / Apple Music / Spotify

    水野蒼生/Beethoven Symphony No.5 1st Movement [Radio Edit] MV




     

  • ベスト・クラシック・ピアニスト:史上最高の25人 Vol.1

    ベスト・クラシック・ピアニスト:史上最高の25人 Vol.1

    史上最高のクラシック・ピアニストは誰か?伝説的な名手と今日の若いスターをフィーチャーした、最高のピアニストのセレクションをご覧頂きたい。

    セルゲイ・ラフマニノフ、ヴラディーミル・ホロヴィッツ、アルトゥール・ルービンシュタインなどの伝説的な名手と、ラン・ラン、ユジャ・ワン、ベンジャミン・グローヴナーなどの今日、まばゆいばかりの活躍を見せる若いスター全25人をリストアップ。今回から年代順に3回に分けてご紹介していく。(第2回第3回


    最高のクラシック・ピアニスト:史上最高の25人 Vol.1

    セルゲイ・ラフマニノフ(1873-1943)

    ラフマニノフは、すべてのピアニストの中でも最も偉大だと考えられている。何よりもまず作曲家であり、彼を擁護したチャイコフスキーの後継者としてロシアで歓迎された。しかし、1917年の革命から逃れた後、ラフマニノフはスイス、後にアメリカに定住し、ツアー・ピアニストとして生計を立てていた。

    彼の録音は、絶妙な音色、落ち着いた音楽性、そして深い感情の源泉をもつ、比類なきものである。ラフマニノフによる自作品の演奏は、彼の作品が大音量で大げさに演奏する演奏者たちにあまりに傷つけられていることを明らかにする。ラフマニノフの演奏はむしろ、冷静で抑制されたものである。

    Rachmaninoff: Elegie in E-Flat Minor, Op. 3, No. 1

    アルフレッド・コルトー(1877-1962)

    最高のピアニストの一人であるコルトーは、記録にある過去のピアニストの中で最も美しく、クリアで、歌うような音色を持っていた。彼の自由に雄弁なスタイルは、音から詩を感じさせる。

    スイス生まれのピアニストのドラマと物語の感覚は、特にコジマ・ワーグナーが取り仕切っていたバイロイト音楽祭での指揮者およびコレペティートルとしての経験によって、おそらく高められた。さらに彼は《神々の黄昏》のパリ初演を行っているのだ。

    コルトーはジャック・ティボー(ヴァイオリン)とパブロ・カザルス(チェロ)と結成した「カザルス三重奏団」でも有名であった。また、音間違いが多かった(彼は練習を嫌っていたと言われている!)ことでも知られている。しかし、彼の解釈は、伝説的な表現の領域に達しているものである。

    24 Preludes, Op. 28: No. 16 in B-Flat Minor

    アルトゥール・シュナーベル(1882-1951)

    シュナーベルは現在のポーランドで生まれ、ウィーンで育ち、偉大なピアノ教育学者であるテオドール・レシェティツキの生徒であった。彼はソリストおよび室内楽奏者としてトップレベルのキャリアを確立し、1925年からベルリンでピアノ科の教授として勤め人気を集めていた。

    1933年にナチス政権から逃れることを余儀なくされ、最初はアメリカに移り、その後スイスに移った。彼の演奏は、知性と感情、厳格さと才気の理想的なバランスを特徴としており、ウィーン古典派の解釈で最も知られている。彼はベートーヴェンの32曲のピアノ・ソナタの全曲録音を行った最初の演奏家である。

    Beethoven: Piano Sonata No. 30 in E Major, Op. 109: II. Prestissimo

    アルトゥール・ルービンシュタイン(1887-1982)

    ルービンシュタインの人生への情熱と人間的な魅力が彼の音楽には溢れている。ポーランドで生まれた彼は才能のある子供で、7歳でデビューし、ブラームスとシューマンの友人であるヴァイオリニストのヨーゼフ・ヨアヒムにその才能を高く評価された。彼は第一次世界大戦をロンドンで過ごし、第二次世界大戦の直前にアメリカに移住した。

    若い頃は天性の才能に頼っていたが、1932年には更なる技術向上のため、集中的に練習を行っている。彼のショパンの演奏は比類なきものと見なされることが多く、ルービンシュタインのために書かれた作品には、シマノフスキのピアノ音楽、マヌエル・デ・ファリャの《ペティカ幻想曲》とストラヴィンスキーの《「ペトルーシュカ」からの3楽章》(バレエからの編曲)。彼のレコーディングは、彼の並外れた活力と音楽に対するシンプルで率直、そして誠実なアプローチを証明している。

    Arthur Rubinstein – Chopin Nocturne Op. 9, No. 1 in B flat

    マイラ・ヘス(1890-1965)

    デイム・マイラ・ヘスは、英国のピアニストを代表する存在である。さらに、第二次世界大戦中にロンドンのナショナル・ギャラリーなどでランチタイム・コンサートを企画、出演し、国民的ヒロインとなった。彼女の人気はアメリカでも強く、常に船で約40回訪れている。

    ロンドンでトビアス・マタイと共に教育を受けたヘスは、非常に知的であり、断固として目的に向かう驚異的な真剣さを持ち、豊かで透明な音色、バッハからブラームスの後期作品までの音楽に対する深い考え、寛大で精神的なアプローチで評判を得ていた。

    彼女はやや厳格な外見のイメージ(彼女はコンサートの際、常に黒を着ていた)にもかかわらず、かみそりのような鋭い機知を持っていたと、故ジョン・エイミスらによるインタビューで明かされた。録音をあまり好まなかったため、ヘスのレコーディングは決して多くはないが、現在聴けるものは彼女の崇拝者たちによって愛されている。

    Herz und Mund und Tat und Leben, BWV 147: No. 10, Jesus bleibet meine Freude (Arr. M. Hess for…

    クララ・ハスキル(1895-1960)

    果てしないあたたかさと絶え間ないインスピレーションを与える、最高のクラシック・ピアニストの一人であるクララ・ハスキルは、確かに困難な生活を送ってきた。彼女はブカレストで生まれ、パリで教育を受け、15歳でパリ音楽院のプルミエ・プリを受賞。

    しかし、彼女の初期のキャリアは、進行性の脊柱側弯症に悩まされていた。彼女はしばしば病に苦しみ、本番にも弱かった。ようやく彼女の評判が高まったのは第二次世界大戦後。ハスキルは特にウィーンの古典派、中でもモーツァルトで高い評価を得ていた。

    友人のチャーリー・チャップリンはかつて次のように述べている。「私は人生で3人の天才に出会った。アインシュタイン教授、ウィンストン・チャーチル、クララ・ハスキルだ。私は訓練を受けた音楽家ではないが、彼女のタッチは絶妙で、表現は素晴らしく、テクニックは並外れたものであった」。

    Mozart: Piano Concerto No. 23 in A, K.488: 1. Allegro

    ウラディミール・ホロヴィッツ(1903-1989)

    ホロヴィッツは唯一無二の存在だ。ヒマラヤの山脈のような表現の幅を持ち、これまでも、またこれからもない卓越した技術、熱狂な先見性を備えたピアニストである。キエフで生まれたホロウィッツは、1925年にソ連を離れてベルリンのアルトゥール・シュナーベルに師事したが、帰国することはなかった。

    1928年の彼のアメリカ・デビューは、彼を国際的なスターの座へと押し上げた。個人的な危機と抗うつ薬や他の物質への依存症の発作に悩まされていたホロウィッツは、1940年代にうつ病の電気ショック療法を受けた。彼と彼の演奏に出会った人の中には、その高い芸術性に心を動かされず、揺るがないという人はほとんどいなかった。

    Schumann: Kreisleriana, Op. 16: IV. Sehr langsam

    スヴャトスラフ・リヒテル(1915-1997)

    リヒテルのレパートリーは膨大でありながら、それぞれに相応しい解釈による演奏を披露した。作曲家の意図に絶対的な忠実であることに重きを置き、ダイナミクスの激しいスケールの大きな演奏であった。彼はかつて、演奏家を作曲家の意図を忠実に実行する執行人と見なしていると言ったことがある。

    「演奏家は作品にないものを何も加えない。もし才能があれば、作品自体の天才性、それが反映されている作品の真実を垣間見ることができるはずだ。演奏家は音楽を支配するのではなく、音楽の中に溶け込んでいくべきなのだ」。リヒテルはソ連を離れなかったが、欧米諸国を定期的にツアーで周った。彼は膨大な録音を残しており、その多くはライヴ録音である。

    Tchaikovsky: Piano Concerto No. 1 in B-Flat Minor, Op. 23: I. Allegro non troppo e molto…

    Written By uDiscover Team



     

  • 2020年度オリコン年間クラシックアルバム第1位は『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン』

    2020年度オリコン年間クラシックアルバム第1位は『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン』

    本日25日に発表になった2020年度オリコン年間クラシックアルバムランキングで、『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン』が第1位を獲得。2020年、最も売れたクラシック作品となった。

    『ジョン・ウィリアムズ・ライヴ・イン・ウィーン』は、88歳の誕生日を数週間後に控えたジョン・ウィリアムズが、世界最高峰のオーケストラ、ウィーン・フィルの指揮デビューを果たしたコンサートを収録したライヴ・アルバム。

    『スター・ウォーズ』より「帝国のマーチ」をはじめ、『ジュラシック・パーク』『E.T.』『ジョーズ』など、60年に及ぶ映画音楽の作曲家としてのキャリアを彩ってきた珠玉のレパートリーがおさめられている。

    John Williams & Vienna Philharmonic – Williams: Imperial March (from “Star Wars”)

    アルバムは8月14日に発売され、8月24日付の「オリコン週間アルバムランキング」では初登場6位にランクイン。ジョン・ウィリアムズがアルバムTOP10入りの最年長記録を更新する快挙を達成し、注目を集めた(※1)。

    また、その人気は日本のみならず、世界のランキングを席巻。アメリカ、イギリス、オーストラリアのクラシカル・チャートでは首位を獲得。ドイツ、オーストリアでは、ポップス・チャート10位圏内にランクインした。ストリーミング回数も1億5千万回を超え、iTunesクラシカル・アルバムチャートでは、世界15ヵ国以上で1位を記録している。

    この結果に、ジョン・ウィリアムズは「この特別なコンサートを収めた本作が多くの支持を得られたことは格別の喜びです。私の音楽がウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によって演奏されることは私の人生最大の夢でした。ドイツ・グラモフォンの優れた録音の力を得て、大勢の皆様とこの体験を分かち合えることを心から嬉しく思います」とコメント。

    一方、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団CEO ミヒャエル・ブラーデラーは「歴史の様々な節目で、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団はその時代の最も重要な作曲家自身によって指揮をされてきました。現代屈指の作曲家の一人であるジョン・ウィリアムズ氏がその伝統をつないでくださったこと、そしてこの稀有のコンサートが永遠に生き続けることは、私にとっても大きな喜びです」とコメントした。

    『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン』は、新バージョンで発売されることも決定している。ライヴで演奏された全19曲と、ジョン・ウィリアムズによるMCも全て収録した2枚組「完全収録盤」(SA-CDハイブリッド仕様)と既発売の限定デラックス盤からBlu-Ray単体が、ジョン・ウィリアムズの89歳の誕生日を3日後に控えた2021年2月5日に発売される予定だ。

    ※1:単独名義のアーティストを対象。グループは対象外。オリコン調べ(8/24付:集計期間:8/10~8/16)


    ■リリース情報

    2020年8月14日発売
    ジョン・ウィリアムズ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、
    アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン)
    『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン』
    CD+ブルーレイ / CD
    iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music


    2021年2月5日発売
    ジョン・ウィリアムズ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、
    アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン
    『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン 完全収録盤』
    SA-CDハイブリッド(限定盤)
    収録内容はコチラ

    2021年2月5日発売
    ジョン・ウィリアムズ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、
    アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン)
     『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン』【Blu-rayビデオ】
    収録内容はコチラ





     

  • 今年のクリスマスの贈り物に最適のクラシック・アルバム:ジョンウィリアムズ、ランランなど

    今年のクリスマスの贈り物に最適のクラシック・アルバム:ジョンウィリアムズ、ランランなど

    今年のクリスマス、クラシック音楽好きの方へのプレゼントに何を買おうかと迷っている?
    そんな心配を抱えている方に。今年リリースされた作品の中から、どんなクラシック音楽ファンもがサンタに届けてもらいたいと願うアルバムを厳選してご紹介したい。

    クラシックの名盤から、映画音楽、クリスマスの名曲、心に響く曲、コンテンポラリー・クラシカルまで。クラシック音楽が大好きな、あなたの大切な人へのクリスマス・ギフトにぴったりの1枚を見つけていただきたい。

    クラシックの名盤を愛するクラシック音楽ファンに最適なクリスマス・ギフトは……

    ラン・ラン『バッハ:ゴルトベルク変奏曲』
    世界のスーパースター・ピアニスト、ラン・ランが挑んだ新録音は、自身の生涯の夢だったというJ.S.バッハの鍵盤楽器作品の金字塔《ゴルトベルク変奏曲》だ。録音は2種類。

    一つは生前のバッハが創作活動を行ない、今もそこに眠るライプツィヒの聖トーマス教会でのライヴ演奏のワンテイク録音、もう一つはその後、スタジオに場所を移して行われたスタジオ録音。スーパー・デラックス・エディションでは、ライヴとスタジオの両方が《ゴルトベルク変奏曲》としては初めて1つのパッケージに収録され、曲の解釈と芸術の真意に目を向けるのに絶好の機会を提供してくれる。

    「これは鍵盤楽器奏者のレパートリーの中では最も創造的かつ多次元的な作品であると同時に、心深くまで訴え、直接的に届く作品です」とラン・ランは言う。「人間が自身の中に持っているものすべてを引き出す一方で、自分たちに何が欠けているか、何を学ぶべきかを気づかせてくれるのです」

    Lang Lang – Bach: Goldberg Variations, BWV 988: Aria

    シェク・カネー=メイソン『エルガー』
    エルガー作、独奏チェロのために書かれたクラシック楽曲として世界で最も有名な「チェロ協奏曲」を収録したシェク・カネー=メイソンの『エルガー』。

    シェクがチェロを学ぶきっかけは、幼い頃に聴いたジャクリーヌ・デュ・プレによるエルガーの「チェロ協奏曲」だったと言う。レコーディングは子供の頃からのシェクの憧れ、サー・サイモン・ラトル指揮ロンドン交響楽団と、かのアビー・ロード・スタジオで行なわれた。

    今年初め、チェロ奏者の作品として史上初めて全英オフィシャル・アルバム・チャートTOP10の第8位に輝いた本作は、全英クラシック・チャートでも見事首位に輝き、シェクにとって2枚目となるナンバーワン・クラシック・アルバムをもたらした。

    Elgar: Cello Concerto in E Minor, Op. 85: I. Adagio – Moderato

    ザ・カネー=メイソンズ『カーニヴァル』
    カネー=メイソン一家初のファミリー・アルバム『カーニヴァル』は、Classic FMが「類稀なる才能」と称えたカネー=メイソンの7人の子供達と、アカデミー受賞女優オリヴィア・コールマン、そして児童作家マイケル・モーパーゴによるスペシャルなコラボレーション・アルバムだ。

    フランス人作曲家サン=サーンスのユーモラスなミュージカル組曲〈動物の謝肉祭〉に乗せて詠われるのは、『戦火の馬』の著者であるモーパーゴによる書き下ろしポエム。モーパーゴ本人と、『女王陛下のお気に入り』で知られる女優コールマンがナレーターを務める。

    加えて、モーパーゴの心温まるクリスマス童話『Granpa Christmas』が初めて「金平糖の精の踊り」や「熊蜂の飛行」などのクラシック楽曲に乗せて朗読されるほか、1980年の発表から40年になるボブ・マーリーの代表曲「リデンプション・ソング」が、カネー=メイソンズ自身の編曲で新たに生まれ変わる。

    Saint-Saëns: Carnival of the Animals – The Swan

    ヴィキングル・オラフソン『ドビュッシー・ラモー』
    ピアニスト、ヴィキングル・オラフソンがアルバム『ドビュッシー・ラモー』で取り上げるのは、二人の革命的フランス人作曲家の作品、そしてそこから浮かび上がる両者のコントラストと共通性の探求だ。

    ニューヨークの学生時代にラモーの鍵盤作品と出会い、たちまちその音楽と、一点の曇りもない自由度と規律の共存に魅了されたと言うヴィキングル・オラフソン。それはドビュッシーのピアノ作品にも通じる資質だった。

    オラフソンは言う。「このアルバムは、私がこよなく愛する二人の作曲家、ジャン=フィリップ・ラモーとクロード・ドビュッシーの対話。180歳の年齢差を超え、二人は音楽で結ばれた兄弟でありソウルメイトなのです。共に無類の才能に恵まれた鍵盤音楽の作曲者である二人こそ、サウンドを通じて喚起的イメージを取り込むことができる、進歩的かつ独創的な音楽の思想家だと言えるでしょう」

    Víkingur Ólafsson – Rameau: Les Boréades: The Arts and the Hours (Transcr. Ólafsson)

     

    映画音楽が大好きなクラシック音楽ファンに最適なクリスマス・ギフトは……

    ジョン・ウィリアムズ『ジョン・ウィリアムズ・ライヴ・イン・ウィーン』
    映画音楽界に数々の伝説を残した作曲家が、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のタクト・デビューを飾った歴史的コンサートを収録。聴衆を前に、世界に名だたるオーケストラから招待を受けたことは「私の人生における最大級の栄誉の一つでした」と聴衆に語るウィリアムズ。

    そんな映画界の巨匠と世界最高峰のオーケストラに、ヴァイオリニスト、アンネ=ゾフィー・ムターを迎え、『スター・ウォーズ』『ハリー・ポッター』『インディアナ・ジョーンズ』『ジュラシック・パーク』など、映画界に金字塔を打ち立てた主題歌の数々が演奏される。

    リハーサル中、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の金管楽器奏者たちからの提案で『スター・ウォーズ』の「帝国のマーチ」をプログラムに加えたというジョン・ウィリアムズ。「それは私がこれまでに聴いた“あのマーチ”の中でも間違いなく最高のマーチでした」と称賛を送っている。

    John Williams & Vienna Philharmonic – Williams: Imperial March (from “Star Wars”)

     

    心に響く曲をお探しのクラシック音楽ファンに最適なクリスマス・ギフトは……

    アンドレア・ボチェッリ 『ビリーヴ』
    アンドレア・ボチェッリ のニュー・アルバム『ビリーヴ』は魂を癒す音楽のちからを祝福し、ボチェッリ自身が長いキャリアを通じて、常にインスピレーションを与えられ、支え続けられてきたという心に響く楽曲のコレクションだ。

    グラミー賞受賞アーティストのアリソン・クラウス、チェチーリア・バルトリとのデュエットの他、先日惜しくもこの世を去ったイタリア人コンポーザーの巨匠エンニオ・モリコーネの未発表曲も収録。また、このアルバムのためだけにボチェッリは「アヴェ・マリア」と「パドレ・ノストロ」の2曲を書き下ろしている。

    「『ビリーヴ』の背景にあるコンセプトは“信じる心”、“希望”、”思いやり”の3つの言葉に基づいています」とボチェッリは言う。「これらはキリスト教の三元徳でありながら、どんな信仰にも当てはまり、すべての人間の人生に意味をもたらし、人生を完全なものにする、重要な3つの鍵なのです」

    Andrea Bocelli, Alison Krauss – Amazing Grace

     

    コンテンポラリー・クラシカルが好きなクラシック音楽ファンに最適なクリスマス・ギフトは……

    ルドヴィコ・エイナウディ『エイナウディ・アンディスカヴァード』
    ルドヴィコ・エイナウディの新作『エイナウディ・アンディスカヴァード』はエイナウディ自身が25年のキャリアの中から個人的に選び抜いた貴重なレアリティ、隠れた名曲、未発表曲を集めた大作。

    「Nuvole Bianche」「Elegy For The Arctic」「Four Dimensions」「La Nascita」「In Un’Altra Vita」のライヴ・ヴァージョン、「Experience」のStarkeyリミックス、これまであまり知られていない映画音楽作品、そして以前日本のみでリリースされていた映画『三人目の殺人』メイン・テーマが収録される。

    ルドヴィコ・エイナウディは言う。「私にとってはこれまでを振り返り、記憶を蘇らせ、驚き、自分を再び知り、過去の“石”を使い、新しいネックレスを作り出す良い機会でした」

    Ludovico Einaudi – Nuvole Bianche (Live From The Steve Jobs Theatre / 2019)

    マックス・リヒター『ヴォイシズ』
    作曲家マックス・リヒターが世界人権宣言にインスピレーションを得たという画期的アルバム『ヴォイシズ』。リヒターは全世界の人々を招き、クラウドソーシングによる世界人権宣言の朗読を実現。こうして何百もの声を取り入れて作られた聴覚の風景の中を音楽が流れて行く。

    タイトルである『ヴォイシズ』とはまさにこの声のことだ。世界の重大問題に取り組むべく、1948年、国際連合総会で採択された『世界人権宣言』は、エレノア・ルーズベルトを長とする哲学者、アーティスト、思想家らによって草案された。

    『ヴォイシズ』の冒頭で聞こえるのは1949年に録音された『世界人権宣言』を朗読するルーズベルト本人の肉声。『ビールストリートが話せるなら』で知られるアメリカ人女優キキ・レインがナレーションを担当し、コーラルかつオーケストラル、かつエレクトロニックな音景はさらに広がる。

    Max Richter, KiKi Layne, Mari Samuelsen – All Human Beings (Official Video)

    オーラヴル・アルナルズ『サム・カインド・オブ・ピース』
    オーラヴル・アルナルズにとってこれまでで最も本質を抉り出すような、脆さを含む新作『サム・カインド・オブ・ピース』。そこで描かれるのは、この1年オーラヴル自身のパーソナルな経験から人生にもたらされた変化や新たな視点だと言う。

    アルバムに関わったコラボレーターの全員が、アルバム制作時のオーラヴルの人生に欠かせない存在。イギリス人ミュージシャンのボノボ、オーラヴルが長年ファンだったと言うアイスランド出身シンガー/マルチ奏者JFDR、そして友人であるドイツ人シンガーソングライター、ジョシン。

    「これはとてもパーソナルな、恐らくこれまでで最もパーソナルなアルバム」とオーラヴルは言う。「背景にあるのは、突然カオスの中に放り込まれた世界だ。僕の愛、夢、そして恐れのすべてをこのアルバムに注ぎ込んだ。それは決して楽ではないものの、魔法のようなプロセスで、大いに誇りを感じさせてくれる結果に仕上がったと言えるだろう」

    Ólafur Arnalds – Woven Song

     

    クリスマスの名曲が大好きなクラシック音楽ファンに最適なクリスマス・ギフトは……

    アンドレ・リュウ『ジョリー・ホリデー』
    アンドレ・リュウの新作クリスマス・アルバム『ジョリー・ホリデー』(CD&DVD)に収録されているのは「ジングル・ベル」「おめでとうクリスマス」「ホワイト・クリスマス」「きよしここ夜」など、どれも時代を超えて多くの人に愛され続けてきた、ロマンティックなメロディを持つクリスマスの有名曲ばかり。

    アンドレ・リュウと彼の楽団ヨハン・シュトラウス・オーケストラが2019年12月、マーストリヒトで行なった魔法のようなクリスマス・コンサートを収録したライヴ録音を、今年は皆さんの自宅で体験していただきたい。DVDには、とびきりの“ウィンター・ワンダーランド”の舞台が出来上がるまでのメーキング・シーンも収録。

    アンドレ・リュウは言う。「幻想的なコンサートの雰囲気、そしてここだけでお見せする舞台裏のシーンも含め、このアルバムをみなさんにお届けできることを本当に嬉しく思います。音楽にあふれた素晴らしいホリデー・シーズンをお過ごしください」
    https://youtu.be/_BSCSfXJudY



     

  • クリスチャン・ツィメルマン、ベートーヴェンのピアノ協奏曲全集を来年4月9日発売。先行配信スタート

    クリスチャン・ツィメルマン、ベートーヴェンのピアノ協奏曲全集を来年4月9日発売。先行配信スタート

    世界中がベートーヴェン生誕250年を祝う中、現代最高のピアニストのひとり、クリスチャン・ツィメルマンがベートーヴェンのピアノ協奏曲全5曲を再録音。2021年4月9日にリリースすることが発表された。ツィメルマンがベートーヴェンのピアノ協奏曲を録音するのは実に約30年ぶりとなる。

    旧録音は1989年の巨匠レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィルとの共演。第1番と第2番の録音を残してバーンスタインが亡くなったため、この2曲は、1991年にツィメルマン自身が指揮を兼ねて全集を完成させた。これは数多の録音の中でも高い評価と人気を獲得している。

    Beethoven: Piano Concerto No. 5 in E-Flat Major, Op. 73 "Emperor": I. Allegro (Live)

    今回のベートーヴェン生誕250年を記念した新録音は、サー・サイモン・ラトル指揮ロンドン交響楽団との共演で、円熟を増したツィメルマンとラトルの組み合わせに期待が高まっている。なお本日より、「ピアノ協奏曲第1番」の先行配信がスタートした。

    また、ツィメルマンはドイツ・グラモフォンがコンサート映像を有料配信している「DG Stage」に登場する予定だ。12月18、20、22日の3回にわたって全5曲の映像がストリーミング配信される。

    【DG Stage】クリスチャン・ツィメルマン/Beethoven Piano Concertos
    ■日本時間12月18日(金)・20日(日)・22日(火)
    チケット購入はコチラ▶DG Stage
    ※DG Stageのサイトは日本語に対応しておりません。


    ■リリース情報

    2021年4月9日発売予定
    サー・サイモン・ラトル指揮、ロンドン交響楽団

    クリスチャン・ツィメルマン『ベートーヴェン:ピアノ協奏曲全集』
    iTunes / Amazon Music / Apple Music / Spotify

    収録曲:
    ピアノ協奏曲 第1番 ハ長調 作品15
    ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 作品19
    ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調 作品37
    ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 作品58
    ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品73 《皇帝》




     

  • ベートーヴェン、250回目の生誕日にムター、ポリーニ、ラン・ランからお祝いコメントが到着。

    ベートーヴェン、250回目の生誕日にムター、ポリーニ、ラン・ランからお祝いコメントが到着。

    今年で生誕250周年を迎えた大作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)。生誕日とされる本日12月16日に、クラシック音楽最古のレーベル「ドイツ・グラモフォン」に所属する世界的なクラシック演奏家からのお祝いコメントが公開された。

    ©Anja Frers

    アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリニスト)
    ベートーヴェンの楽譜を見ることほど素晴らしいことはありません。手書きの楽譜からは、彼が実際に作品と対話し表現した全てを感じる事ができます。私は演奏家として、それを読み解く事に、いつも幸せな高揚感を感じます。

    ©Cosimo Filippini

    マウリツィオ・ポリーニ(ピアニスト)
    ベートーヴェンはあまりにも偉大なアーティストであり、彼の作品から重要なものを理解しようとする欲求が尽きる事はないと思います。だからこそ、私はこのアニバーサリーに、難しい作品を通して彼をより理解していきたいと感じました。もし、彼に実際に会えたとしたら、私たちが時間をかけて理解しようとしている事を、本人に聞くことができる最高の機会だと思います。

    ©Olaf Heine

    ラン・ラン(ピアニスト)
    私にとってベートーヴェンは音楽の神です。交響曲だろうと、ピアノ・ソナタだろうと、コンチェルト、全ての器楽曲、室内楽、そしてオペラだろうと、彼が私たちに与えてくれるものはすべて神からの贈り物です。


    また、年間を通して「ベートーヴェンを聴こう!」キャンペーンを実施してきたユニバーサルミュージックからは、アニバーサリーを締めくくる一枚として、現代最高の巨匠指揮者にして、ピアニストであるダニエル・バレンボイムの『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集』が本日リリース。今作は、ハイレゾ音源も収録した国内盤となり、前人未踏の5度目の録音という事でも、すでに大きな話題を呼んでいる。

    Beethoven: Diabelli Variations, Op. 120: Var. 20. Andante (Live at Pierre Boulez Saal, Berlin,…

    そして、前代未聞のクラシカルDJとしてドイツ・グラモフォンからデビューした指揮者の水野蒼生は、本日12月16日(水)22:00~、ベートーヴェン生誕日を祝ってインスタトークライブを開催する。

    今年3月にベートーヴェンの生涯、作風の変化を楽しめるようなトリビュート・アルバム『BEETHOVEN -Must It Be? It Still Must Be-』をリリースして以降、1年にわたり、「ベートーヴェンを聴こう!」キャンペーンのスポークスマンとして、その作品や生涯を掘り下げ、紹介してきた水野蒼生が、ゲストを迎えて250回目の楽聖の生誕日を祝う予定だ。

    水野蒼生 インスタトークライブ
    12月16日(水) 22:00~
    https://www.instagram.com/aoi_mizuno_official/

    なお、水野蒼生選曲によるプレイリスト『作曲家の物語:ベートーヴェン』も本日公開。ベートーヴェンが作曲してきた楽曲を、年代順に紹介したもので、ベートーヴェンの生涯を楽曲で振り返ることができる内容になっている。


     

    ■リリース情報

    ダニエル・バレンボイム『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集』
    2020年12月16日発売
    CD / iTunes /Amazon Music / Apple Music / Spotify





     

     

  • 作曲家クリスチャン・レフラー、クラシック作品をリワークした新作リリース。Yellow Loungeにも登場

    作曲家クリスチャン・レフラー、クラシック作品をリワークした新作リリース。Yellow Loungeにも登場

    ドイツのコンセプチュアル・アーティストであり作曲家のクリスチャン・レフラーが、バッハ、ベートーヴェン、ショパン、ワーグナー、スメタナ、ビゼーの6人の偉大なクラシック作曲家の楽曲をリワークしたアルバム『Parallels: Shellac Reworks』が2021年2月12日にリリースされる事が発表された。(アルバムより4曲は先行配信中)

    クラシックの老舗レーベルであるドイツ・グラモフォンとGoogle Arts & Culture の共同修復プロジェクト「シェラック・プロジェクト」により、1930 年代まで主流だったアナログ・レコードの多くがデジタル化され、リマスターされた。

    クリスチャン・レフラーはドイツ・グラモフォンの誘いとGoogle Arts and Cultureの支援を得て、この「シェラック・プロジェクト」に参加、クラシック音楽界で最も偉大な6人の作曲家の作品をリワークすることになったという。

    今作には、ライプツィヒの聖トーマス教会の聖歌隊が歌うバッハの〈汝エホヴァがためにわれは歌わん〉や、子供の頃、母親がよく聴いていたワーグナーの〈パルジファル〉など、あまり知られていない楽曲から大作まで収録。

    ベートーヴェン作品に関して、レフラーは「録音を聴いていて思ったのは、この音楽の中には、実際にはとても人間的で親しみやすいものがあるのに、何十年もかけて再生したり、考え直したりしているうちに、どこか心もとないものになってしまっているものがあるんじゃないか、ということです。私はそれを非常に基本的な感覚に戻したいと思ったのです」と語っている。

    Christian Löffler – Pastoral (Official Music Video)

    なお、レフラーは、12月12日(日本時間12月13日)にベートーヴェンの生誕250周年を記念してドイツのボンにあるベートーヴェン・ハウスで行われる「YellowLounge」の配信ライブに出演することが決定している。ベートーヴェン作品をリワークした楽曲を生演奏する予定。

    https://youtu.be/8sjv1kyntO0

    Yellow Lounge Beethoven 250

    日本時間12月13日(日)午前6時
    出演:Seong-Jin Cho, Kian Soltani ,Christian Löffler

    「Yellow Lounge」は、ドイツ・グラモフォンが、“一流の音楽を気軽に楽しむ”というテーマのもと、コンサート・ホールを抜け出してクラブをはじめとした様々な会場で実施している新コンセプトのイベントで日本でも話題となっている。


    ■リリース情報

    クリスチャン・レフラー『Parallels: Shellac Reworks』
    2021年2月12日発売
    iTunes / Amazon Music / Apple Music / Spotify





     

  • マックス・リヒターが新作『ヴォイシズ』に込めた想い。世界人権デーに世界各国のラジオで放送。

    マックス・リヒターが新作『ヴォイシズ』に込めた想い。世界人権デーに世界各国のラジオで放送。

    クラシックとエレクトロニカを融合したポスト・クラシカルのカリスマ作曲家として絶大な人気を集めるマックス・リヒター。映画/テレビのサウンドトラックも数多く手がけ、第63回グラミー賞でも「最優秀映像メディア・サウンドトラック部門」にノミネートされている。

    To the Stars (From "Ad Astra" Soundtrack)

    そんな彼の新作『ヴォイシズ』が今日、12月10日(木)、欧州放送連合(EBU)との協賛によりBBCラジオ3を始めとするヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア他、世界各地の35局にて放送される。

    『ヴォイシズ』は世界人権宣言からインスピレーションを受け、構想10年以上をかけて制作された作品だ。世界人権宣言というプリズムを通じて、人間が向き合っている様々な疑問に関して、考える場所を提供したいという想いが込められている。作品は、1949年に録音されたエレノア・ルーズベルトの肉声で始まり、マックスならではの美しいメロディとアメリカの女優キキ・レインのナレーションで構成されている。

    Max Richter, KiKi Layne, Mari Samuelsen – All Human Beings (Official Video)

    マックス・リヒターは「世界人権宣言をどう形にしようかと考え始めた時、1949年にエレノア・ルーズベルトがその前文を読んだ録音をたまたま見つけました。彼女は世界人権宣言を起草した一人であり、彼女からスタートすることが重要でした。

    一方でナレーターからは若々しさと可能性がもたらされます。というのも、世界人権宣言が謳っているのはまさに未来のこと。僕らがまだ作り得ていない世界のことだからです。

    過去を書き換えることは出来ませんが、未来はまだ書かれておらず、世界人権宣言は僕らが選びさえすれば、手が届くより良い世界への明るい展望を示してくれるのです。『ヴォイシズ』はそんなインスピレーション溢れる基本原則と再び繋がるための音楽的空間だと言えるでしょう」と語っている。

    この『ヴォイシズ』が世界人権デーの今日、世界各地の35のラジオ局で放送されることを記念して、マックス・リヒターとクリエイティヴ・パートナーであるユリア・マーは国連と世界を結ぶ質疑応答にも参加する予定だ。

    さらに、デッカ・レコードからは『ヴォイシズ』の冒頭に収録されている「オール・ヒューマン・ビーイングズ」の新バージョンも配信リリースされた。「オール・ヒューマン・ビーイングズ」のフランス語、ドイツ語、スペイン語、オランダ語、英語によるナレーションをフィーチャーしたものとなっている。

    ナレーションを担当するのは以下の通り。
    ドイツ語:ニーナ・ホス(『イェラ』『ホームランド』)
    フランス語:ゴルシフテ・ファラハニ(『タイラー・レイクー命の奪還』『パターソン』『彼女が消えた浜辺』)
    オランダ語:マリーカ・ルーカス・リーネヴァルド(作家。2020年『The Discomfort of Evening』国際ブッカー賞受賞)
    スペイン語:マリア・バルベルデ(「汚れなき情事』『エクソダス:神と王』『約束の馬』)
    英語:シーラ・アティム(オリヴィエ賞受賞女優。BBCラジオ3の放送でも登場予定)

    マックス・リヒターとユリア・マーは「こうして再び『ヴォイシズ』を届ける機会を得られたのはとても嬉しいことです。この実に奇妙で不安な時代に重要なのは、音楽を鳴り続かせ、世界人権宣言の精神を生き続かせることです。

    『ヴォイシズ』をプレミア公開した2月と今とでは、世界は大きく変わってしまいました。そんな違和感と不安が渦巻く時代、パンデミックにも関わらず、世界人権デーを記念した新たな作品をリリースできることは私たちにとっての大いなる喜びです。

    人類の歴史上ないほどのこの困難な時代において、世界人権宣言に謳われた言葉の持つ意味は今までになく重要なのです」と語る。

    なお、マックス・リヒターは、8時間以上に及ぶコンサートで話題をさらった「SLEEP」のドキュメンタリー『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』の日本公開も決定している。

    Max Richter – SLEEP (Official Film Trailer)

    神経科学者デイヴィッド・イーグルマンの協力のもと、“眠っている間に聴く音楽”として作曲された「SLEEP」は録音史上最長の1曲8時間24分21秒。2016年にはベルリンのクラブにて深夜0時から8時間、観客がベッドに寝ながら聴き、途中で寝てしまっても構わないというスタイルでライブで披露された。さらに、ロサンゼルス野外のグランド・パークやシドニーのオペラハウス、アントワープの聖⺟⼤聖堂など世界各地のシンボリックな場所で開催され、注目を集めている。

    このまったく新しいスタイルのコンサート「SLEEP」の全貌とその裏側を、マックス・リヒターの素顔とともに追いかけた珠⽟のドキュメンタリー作品が公開となる。監督はボノやサム・スミスなど様々なミュージシャンとコラボレートしてきたナタリー・ジョーンズ。

    ドキュメンタリー『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』は、2021 年3 ⽉26 ⽇(⾦)、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋⾕、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国公開となる予定だ。


    ■リリース情報

    マックス・リヒター『All Human Beings International Voices』
    2020年12月10日発売
    Amazon Music / Apple Music / Spotify


    マックス・リヒター『ヴォイシズ』
    2020年9月11日発売
    CD / iTunes / Amazon Music / Apple Music / Spotify





     

  • アンドレア・ボチェッリ、新作『Believe~愛だけを信じて』について語る最新インタビュー

    アンドレア・ボチェッリ、新作『Believe~愛だけを信じて』について語る最新インタビュー

    現代最高峰のテノール歌手、アンドレア・ボチェッリが11月、2年振りとなる待望のニュー・アルバム『Believe~愛だけを信じて』をリリースした。グラミー賞27回受賞のレジェンド、アリソン・クラウスや世界的なメゾ・ソプラノ歌手であるチェチーリア・バルトリとの共演に加えて、エンニオ・モリコーネの未発表曲や名曲「ハレルヤ」などバラエティに富んだ楽曲を収録した意欲作だ。今回、そんな彼の最新インタビューが到着。新作の制作について、聴きどころなどを聞いた。



    クラシックとポピュラー・ミュージックの両ジャンルに跨がって幅広い層のファンを獲得している、世界で最も有名なイタリア人テノール歌手、アンドレア・ボチェッリ。昨年は、自身の体験を「アモス」という名の主人公の少年に投影した、自伝的小説を原作とする映画《アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール》が日本でも公開されて話題に。

    2020年は4月12日(日本時間13日午前2時)のイースター・サンデーに、コロナ禍で都市封鎖中のミラノの歴史的建造物・大聖堂ドゥオーモにて、無観客コンサート「MUSIC FOR HOPE(希望の音楽)」を開催。〈アメイジング・グレイス〉など5曲を披露し、その模様は世界中に生配信され、音楽パフォーマンスとしては史上最多、クラシックもののライヴ配信としてもYouTube史上最多の同時視聴者数を記録。アーカイブは放送開始後24時間以内で2800万回以上再生されるなど大きな反響を呼んだ。

    Andrea Bocelli: Music For Hope – Live From Duomo di Milano

    その後、自らも新型コロナウイルスに感染していたと明らかにし、既に回復して治療研究用に自分の血漿(けっしょう)を病院に提供したと報道陣に語ったのも記憶に新しい。そんなボチェッリからニュー・アルバム『Believe~愛だけを信じて』が届けられた。

    「アルバムのアイデアはロックダウン中に思いつきました。レパートリーや選曲などについては、その期間中に私たちがみな経験した心境が反映されています。収録曲は宗教歌、または少なくとも人々の魂の理性とリンクしている歌ばかりです。魂の理性を思い起こさせる精神的、神秘的なものを、私たちはいまだかつてないほどに必要としているからです」

    ライナーノーツによると本作のコンセプトは「信仰」と「希望」そして「慈愛」。各国で大勢が苦しい状況に置かれている現在において、音楽を通じて人々に安らぎを与えたいという想いが込められている。アルバムのタイトルに「BELIEVE」という言葉を選んだことについて、熱心なカトリック信者でもある彼は以下のようにコメントしている。

    「信仰、希望、そして慈愛という3つの言葉には支えが必要で、それが無ければ存在し得ない。そしてその支えというのは、信じる(believe)という言葉に集約されます。つまり、私たちは自らが行い、考え、追い求めているものを信じる必要があるということです。

    他人を思いやりたいと感じるなら、その行いに深い信念をもって行う必要があります。希望を持ちたいと願うなら、より良い未来を信じる必要があります。そして信仰というのは非常に優れた信条でもあるのです」

    アルバムはミュージカル《回転木馬》から生まれ、後に勇気と団結を鼓舞する応援歌としてサッカー・クラブなどのアンセムにもなった〈ユール・ネヴァー・ウォーク・アローン〉で幕開け。単なるラヴ・ソングのような類いの楽曲はなく、全体的に敬虔な雰囲気に包まれている。クラシックの作曲家による宗教作品にまじって、ラテン語の典礼文にボチェリが曲を書いたオリジナルの〈アヴェ・マリア〉があるのも聴き所。

    「ロックダウンの間、私はよくピアノを弾いていましたが、そんなことは久しぶりでした。ある日一つのアイデアが浮かび、それを基に〈アヴェ・マリア〉の旋律が生まれ、そこからアルバムのコンセプトを思いついたのです。

    カナダの生んだ偉大な詩人でシンガー・ソングライターであるレナード・コーエンの〈ハレルヤ〉から〈アルビノーニのアダージョ〉やフォーレの〈ラシーヌ讃歌〉、そして私が子どもの頃に大人たちが手にキャンドルを持ちよく歌っていた伝統的な歌まで、多様なジャンルから選曲されたアルバムだと言えるでしょう。

    なかには南イタリアで守護聖人の日に歌われる聖歌〈ミラ・イル・トゥオ・ポポロ〉のように非常に美しく、一見シンプルに見えるが音楽的にも良く構築されていて深遠な曲もあります。このようにとても幅広い内容ですが、魂という共通したテーマは貫かれています」

    Andrea Bocelli – Ave Maria

    アッシジの聖フランチェスコの半生を描いた、フランコ・ゼフィレッリ監督《ブラザー・サン シスター・ムーン》(1972年)からの曲や、1917年にポルトガルで起きた「ファティマの聖母」の奇跡を描いた、マルコ・ポンテコルヴォ監督《FATIMA》(2020年 ※日本未公開)のエンドクレジット・ソング〈グラティナ・プレナ〉など、信仰がテーマの映画からの楽曲も収録。また、今年の7月6日に91歳でこの世を去った、イタリアが生んだ映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネの未発表曲も聴き逃せない。

    「これはとても興味深いことだと思いますが、この曲はマエストロ・モリコーネが亡くなる1か月ほど前に作曲されたものだということを聞かされました。この世を去る一月前に祈りとなり得る曲をマエストロが書いたという事実は非常に意味のあることだと思いますし、個人的な意見ではありますが、全くの偶然では無いと考えています」

    そして、ボチェッリといえば音楽ファンの間で周知なのが“デュエットの達人”ということ。前作の『Sì~君に捧げる愛の歌』(2019年)でも息子で歌手のマッテオ・ボチェッリから、エリー・ゴールディングやエド・シーラン、デュア・リパなどポップス・シーンの大スターに、女優のジェニファー・ガーナーまで、多彩なアーティストたちとの豪華コラボで魅了してくれたが、今回もアメリカのカントリー・ブルーグラス界のトップ・シンガーであるアリソン・クラウスと名曲〈アメイジング・グレイス〉での共演が実現。

    Andrea Bocelli, Alison Krauss – Amazing Grace

    また、現代最高峰のメゾ・ソプラノDIVAチェチーリア・バルトリとのデュエットが2曲も収録されていることに世界中のオペラ・ファンが驚喜していることだろう。特に以前、英国が誇る人気歌手キャサリン・ジェンキンスとのデュエットでもヒットした〈アイ・ビリーヴ〉を再録音しているのも嬉しいサプライズのはずだ。

    「チェチーリアとは長い間お互いを尊敬し合ってきた間柄です。今回の〈アイ・ビリーヴ〉という曲は、実はこの曲が20年以上前にチョン・ミョンフンとサンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団により録音(※アルバム『アヴェ・マリア 地球讃歌2』にボチェッリの単独歌唱で収録)されて以降、彼女とのデュエット曲として候補にあがっていたものです。

    その時は実現しなかったのですが、理由は思い出せません。私たちが求めるレベルまでにクオリティを高める時間が無かったからかもしれません。それから長い時を経て、この美しいデュエットが誕生したというわけです」

    プロデュースを手掛けたのはスティーヴン・メルクリオやハイドン・ベンダル。メルクリオは殆どの楽曲のオーケストレーションなども担当している。

    「これまでにたくさんの時間を共にしてきたスティーヴとの作業は、とても喜ばしいものでした。彼とは多くのオペラを録音してきました。特に『イル・トロヴァトーレ』、『カヴァレリア・ルスティカーナ』、『道化師』はよく覚えています。レコーディングだけではなくマディソン・スクエア・ガーデンなどの数々のコンサートも共に創り上げてきました。

    暫くはお互いの道を進み共演することはありませんでしたが、今回こうして再び仕事を共にし、親密な時間を過ごせたことをとても嬉しく思っています。コロナ禍という状況下にあっても、アルバム制作の作業はとてもポジティヴなものでしたし、私自身にとっても非常に感動的なものでもありました」

    日本時間の12月13日(日)18:00には配信コンサート「Believe in Christmas」を予定。シルク・ド・ソレイユを大成功に導いたことで知られる世界的演出家フランコ・ドラゴーヌによるディレクションでパルマ王立劇場から数々のスペシャル・ゲストを交え、クリスマスにふさわしいゴージャスなイベントになりそうだが、やはりファンとしては来日コンサートが待たれるところだろう。

    「私の歌、そして音楽を届けるために日本をぜひ訪れたいという気持ちはこれまで以上に強いものとなっています。ツアーが出来るということはこの状況が改善され、日常に戻れるということでもあるので、一日も早くそれが実現できると良いと思っています。日本の皆さんが健康であること、そして皆さんにお会いできることを楽しみにしています」

    Interviewed & Written By 東端哲也


    ■コンサート情報

    Andrea Bocelli – Believe in Christmas (Official Trailer)

    配信コンサート「Believe in Christmas」
    日本時間12月13日(日)18:00開催
    チケットはコチラ
    ※アーカイヴ配信は予定されておりません。


    ■リリース情報

    アンドレア・ボチェッリ『Believe~愛だけを信じて』
    2020年11月18日(水)発売
    CD / iTunes / Amazon Music / Apple Music / Spotify

    収録曲:
    1. ユール・ネヴァー・ウォーク・アローン
    2. ブラザー・サン、シスター・ムーン
    3. ハレルヤ
    4. ピアニッシモ (w/ チェチーリア・バルトリ)
    5. アメイジング・グレイス (w/ アリソン・クラウス)
    6. 祈り (トスティ)
    7. グラティア・プレナ (映画『FATIMA』より)
    8. ラシーヌ讃歌 (フォーレ)
    9. インノ・スッスラート ※エンニオ・モリコーネの未発表曲
    10. アルビノーニのアダージョ
    11. アイ・ビリーヴ (w/ チェチーリア・バルトリ)
    12. アヴェ・マリア
    13. 神の天使 (プッチーニ)
    14. 神の仔羊
    15. 夜も昼も ※ボーナス・トラック
    16. ミラ・イル・トゥオ・ポポロ ※ボーナス・トラック
    17. アメイジング・グレイス (ソロ・バージョン) ※「Music for Hope」より ※ボーナス・トラック



     

     

  • 映画音楽の巨匠、ジョン・ウィリアムズの代表作10選:『スター・ウォーズ』や『E.T.』など必聴の傑作選

    映画音楽の巨匠、ジョン・ウィリアムズの代表作10選:『スター・ウォーズ』や『E.T.』など必聴の傑作選

    映画音楽の巨匠ジョン・ウィリアムズの代表作10選

    去る11月25日に発表された第63回グラミー賞ノミネーションで、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(2019)がBest Score Soundtrack For Visual Media部門にノミネートされ、通算72回のグラミー賞ノミネート(これまでに25回受賞)を記録することになった映画音楽の巨匠ジョン・ウィリアムズ

    その1週間前にあたる11月18日には、イギリスの権威あるロイヤル・フィルハーモニック協会から最高栄誉のゴールド・メダル(過去の受賞者にブラームス、ホルスト、シベリウス、ストラヴィンスキーなど)を授与され、ウィリアムズは名実ともに現代最高の現役作曲家となった。

    その彼が過去に音楽を担当した大作映画、名作映画の多くは近年4Kリマスターが進んでおり、劇場公開時の35mmプリントないしは70mmプリントに匹敵するクオリティを4K UHDや放送、配信で楽しむことが可能となっている。

    以下にご紹介する楽曲(今回はウィリアムズならではの醍醐味が集約された“フライング・テーマ”を中心にセレクト)は、いずれも彼の音楽を語る上で欠かせない代表作ばかりだが、もしも映画本編をまだご覧になっていなければ、年末年始のお休み中にぜひとも本編をご覧いただきたい。映画音楽作曲家としてのウィリアムズの凄さ、その偉大な芸術の真髄が堪能出来るはずである。

    鮫狩り/檻の用意!~『ジョーズ』(1975)から

    アメリカ東海岸の観光地アミティの沖合に巨大なホウジロザメが出現し、住民や海水浴客を次々に食い殺す。地元の警察署長ブロディ(ロイ・シャイダー)は漁師クイント(ロバート・ショー)や海洋学者フーバー(リチャード・ドレイファス)と共に鮫狩りに向かうが……。

    ウィリアムズが初めてアカデミー作曲賞を受賞したスティーヴン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』は、鮫の原始本能を「ジャンジャンジャンジャン……」という短二度のモティーフで表現したテーマが有名だが、本編後編の鮫狩りの部分を試写で見たウィリアムズは「この映画は海賊映画だ」と看破し、鮫狩りのシーンに海賊映画風の陽気な音楽を付けた。

    後半部《檻の用意!》の原題は《シャークケージ(檻かご)のフーガ》。ウィリアムズは、さまざまな声部が主題を追いかけていく(=追跡していく)フーガ技法を用いることで、果てしなく続く鮫の追跡を象徴的に表現しているが、それだけでなく、フーガ主題を導入するコントラバスとピアノをユニゾンで重ねたユニークな楽器法を用いることで、映画音楽らしい重量感あふれるサウンドを生み出している。

    Suite (From "Jaws")


    抜粋~『未知との遭遇』(1977)から

    世界中で謎のUFOが目撃される怪事件が続出。ある夜、眩いUFOを目撃した電気技師ロイ(リチャード・ドレイファス)は、それ以来不思議な山のイメージに取り憑かれてしまう。その山がワイオミング州にある巨岩、通称デビルズタワーだと知ったロイは、軍隊の制止を振り切り、デビルズタワーに向かう……。

    本編の撮影に先立ち、スピルバーグ監督とウィリアムズは地球人と宇宙人のコンタクトの手段として、シンプルな音列を用いることにした。数百にも及ぶ音列のパターンを検討した結果、ようやくふたりが見つけ出したのが、本作で有名になった5音のモティーフである。

    この《抜粋》では、まず本編オープニングの音楽が序奏として流れた後、デビルズタワーの上空に巨大な宇宙船(マザーシップ)が現れるシーンの音楽となり、ペンデレツキ風の不気味なトーンクラスターが光の洪水を思わせる壮麗な和音に変化していく。その後、ラコーム博士(フランソワ・トリュフォー)と宇宙人が音階手話(ハンドサイン)で5音のモティーフをやりとりするシーンの音楽を経て、地球人がマザーシップを見送るラストの音楽となり、5音のモティーフがシンフォニックな“フライング・テーマ”となって展開される。

    Excerpts (From "Close Encounters of the Third Kind")


    メイン・タイトル~『スター・ウォーズ/新たなる希望』(1977)から

    ひょんなことから銀河帝国と反乱軍の争いに巻き込まれた青年ルーク・スカイウォーカー(マーク・ハミル)は、反乱軍を指揮する王女レイア(キャリー・フィッシャー)を救うため、ハン・ソロ船長(ハリソン・フォード)らと共に帝国軍秘密基地デス・スターに向かう……。

    『スター・ウォーズ』サーガの生みの親ジョージ・ルーカス監督は「ロボットや宇宙船など、見慣れぬものがひしめく中で、音楽だけは耳慣れたものにしたい」という理由から、当初はクラシックの有名曲を本編で流すつもりでいた。ところが、ルーカスの友人スピルバーグから作曲担当に推薦されたウィリアムズはそのアイディアに反対し、19世紀ロマン派のスタイルに基づいた音楽を書き下ろすことを提案。その結果生まれた本作の音楽で、ウィリアムズは2度目のアカデミー最優秀作曲賞を受賞した。

    一般に《スター・ウォーズのテーマ》として親しまれている《メイン・タイトル》の音楽は、主人公ルークを表すだけでなく、サーガ全体を通じて反乱軍の勝利と結びつけられたり、あるいはスカイウォーカー家そのものを表すために用いられたりすることもある。

    John Williams & Wiener Philharmoniker – "Main Title" from "Star Wars: A New Hope"


    マーチ~『スーパーマン』(1978)から

    惑星クリプトンの唯一の生き残りとして、たったひとり地球に送り込まれたカル=エル。子供のいないケント夫妻に育てられ、クラーク・ケント(クリストファー・リーヴ)として成長した彼は、自らの超人的な能力を駆使し、正義の味方スーパーマンとして活躍する。そんな彼の前に、カリフォルニア壊滅を計画する大悪人レックス・ルーサー(ジーン・ハックマン)が現れた……。

    この《マーチ》は、スーパーマンの“フライング・テーマ”として書かれたメインテーマの主部と、もともと挿入歌《キャン・ユー・リード・マイ・マインド》として作曲された愛のテーマの中間部からなる三部形式の祝典行進曲として書かれている。

    Superman March (From "Superman" / Live at Walt Disney Concert Hall, Los Angeles / 2019)


    夜の旅路~『ドラキュラ』(1979)から

    ブロードウェイで初演され、ロングランを記録したフランク・ランジェラ主演の舞台を、ジョン・バダム監督が格調高く映画化したゴシック・ホラー。それまでの吸血鬼映画と異なり、セクシーでロマンティックなドラキュラというキャラクター設定が、公開当時大きな話題となった。

    この《夜の旅路》は本編のメインテーマ、すなわちドラキュラの化身であるコウモリの“フライング・テーマ”を変奏したラブシーンの音楽で、アンネ=ゾフィー・ムターのためにヴァイオリンの技巧的なセクションが新たに書き加えられている。

    あまり知られていないが、『ドラキュラ』のロマンティックなスコアは、直後に作曲された『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』のスコアと共通する部分が多く、特に『帝国の逆襲』に登場するクラウド・シティの音楽は、『ドラキュラ』の変奏曲的な性格を備えている。

    Night Journeys (From "Dracula" / Audio)


    帝国のマーチ~『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(1980)から

    本作のクライマックスにおいて、ルークの父親だと自ら素性を明かすダース・ベイダー(デヴィッド・プラウズ)のテーマを勇壮にアレンジした軍隊行進曲。ベイダー個人だけでなく、シスの暗黒卿として彼が率いる帝国軍のテーマとしても用いられ、《スター・ウォーズのテーマ》と共にサーガ全体を代表する“裏テーマ”として親しまれている。

    なお、ベイダーを演じたデヴィッド・プラウズは、去る11月28日に85歳で逝去した。彼の名演を偲ぶ意味でも、ここに《帝国のマーチ》を挙げておく。

    John Williams & Vienna Philharmonic – Williams: Imperial March (from “Star Wars”)


    レイダース・マーチ~『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981)から

    考古学の教授として大学で教鞭をとるかたわら、世界中の秘宝を探し求める冒険家インディアナ・ジョーンズ(ハリソン・フォード)。モーゼの十戒の破片を納めた伝説のアーク(聖櫃)の探索を米陸軍に依頼され、インディはかつての恋人マリオン(カレン・アレン)と共に冒険に旅立つが、ふたりの行く先々でナチス・ドイツの魔の手が忍び寄る……。

    スピルバーグ監督&ルーカス製作総指揮の『インディ・ジョーンズ』シリーズ第1作の作曲に際し、当初ウィリアムズは主人公インディを表すテーマとして、候補曲を2曲作曲した。ところが2曲とも気に入ったスピルバーグは「両方使えないだろうか?」と提案し、ウィリアムズは5度音程で跳躍するテーマをメインテーマ、もうひとつのテーマをブリッジ部分に使用することで2曲を合成し、《レイダース・マーチ》の主部を書き上げた。中間部には、愛のテーマの役割を果たす《マリオンのテーマ》が登場する。

    John Williams & Anne Sophie Mutter – "Raider’s March" from "Raiders of the Lost Ark"


    地上の冒険~『E.T.』(1982)から

    地球探査中に取り残されたE.T.(地球外生命体)は、偶然身を寄せた一軒家の住人エリオット少年(ヘンリー・トーマス)と交流を深め、エリオットはなんとかE.T.を宇宙に帰そうと努力する。しかし、E.T.の捕獲を試みるNASAのスタッフが近づき……。

    ウィリアムズが3度目のアカデミー作曲賞を受賞した『E.T.』の《地上の冒険》は、NASAからE.T.を救い出したエリオットたちがマウンテンバイクで逃走するシーンと、ラストシーンの音楽を中心とした組曲で、E.T.の“フライング・テーマ”として書かれたメインテーマが巧みにアレンジされている。

    サントラ録音時、ウィリアムズはこの部分の音楽をフィルムに合わせて指揮したがテンポがうまく合わず、録音セッションに居合わせたスピルバーグ監督が「シンクロのことは気にせず、思い通りのテンポで自由に指揮して」と提案した。その演奏に合わせてスピルバーグがフィルムを編集し直し、音楽と映像の見事なコラボが生まれたという逸話が残っている。

    Adventures on Earth (From "E.T. the Extra-Terrestrial")


    シンドラーのリストのテーマ~『シンドラーのリスト』(1993)から

    ナチス・ドイツに強制収容されていたユダヤ人を軍需工場に雇い入れることで、最終的に1000人以上ものユダヤ人をガス室から救い出したドイツ人事業家オスカー・シンドラー(リーアム・ニーソン)の実話をスピルバーグ監督がモノクロで映画化し、アカデミー賞計7部門を受賞した3時間17分の大作。

    試写を見たウィリアムズは「私より相応しい作曲家がいるはずだ」といったん作曲を辞退したが、「わかってる。だが、その作曲家たちはみな故人だ」というスピルバーグの殺し文句にほだされ、作曲依頼を受諾。撮影前の構想では、本編の中にユダヤ人のフィドラー(ヴァイオリン弾き)が登場する予定だったが、ウィリアムズはその構想を活かし、独奏ヴァイオリンが哀歌を奏でるメインテーマを作曲した。この作品でウィリアムズは4度目のアカデミー作曲賞を受賞している。

    Theme (From "Schindler's List" / Audio)


    ヘドウィグのテーマ~『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001)から

    魔法魔術学校ホグワーツに入学が許可されたハリー・ポッター(ダニエル・ラドクリフ)は、友達のハーマイオニー(エマ・ワトソン)やロン(ルパート・グリント)らと共に魔法の勉強に励むが、3人はホグワーツに隠された“賢者の石”をめぐるトラブルに巻き込まれる……。

    ウィリアムズは、J・K・ローリングの原作の大ファンだった子供や孫に勧められ、小説第1作『ハリー・ボッターと賢者の石』の映画化が決まるずっと以前に原作を読んでいた。その後、『ホーム・アローン』(1990)などでウィリアムズとコンビを組んだクリス・コロンバス監督が映画化に着手すると、コロンバスは即座にウィリアムズを作曲担当に指名。

    通常、ウィリアムズは試写の第一印象に基づいて作曲を始めることが多いが、この作品に限っては、すでに読了していた原作の印象に基づき、予告編用音楽を直接書き下ろした。それが、ふくろうヘドウィグの“フライング・テーマ”として書かれた《ヘドウィグのテーマ》である。

    John Williams & Vienna Philharmonic feat. Anne-Sophie Mutter – “Hedwig’s Theme” From “Harry Potter”

    Written By 前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)


    ■リリース情報

    2020年8月14日発売
    ジョン・ウィリアムズ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、
    アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン)

    『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン』
    CD+ブルーレイ / CD
    iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music


    2021年2月5日、新バージョンが発売

    『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン 完全収録盤』
    SA-CDハイブリッド(限定盤)
    *ライヴで演奏された全19曲と、ジョン・ウィリアムズによるMCも全て収録した2枚組
     *日本盤のみSA-CDハイブリッド仕様
    収録内容詳細はコチラ

    『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン』【Blu-rayビデオ】
    *公演全曲の映像が収録
    13曲のハイレゾ音源収録
    *ジョン・ウィリアムズとアンネ=ゾフィー・ムターの対談のボーナス映像収録
    収録内容詳細はコチラ