Join us

Columns

改めて知るリナ・サワヤマ:日本人英国スターの魅力を6つの要素で解説

Published on

©Thurstan Redding

新潟県生まれ、英国をベースに活動しながら全世界で話題を振りまいているシンガー・ソングライターのリナ・サワヤマ(Rina Sawayama)。そんな彼女の魅力について、辰巳JUNKさんに解説いただきました。

<関連記事>
LGBTQミュージシャン史:セクシャリティが二の次になる新世代まで
ライオット・ガールズ:世界を変えた女性ミュージシャンたち


 

「アイコンとは、あえて他の人と異なる存在となり、あえて政治的であることだと思います。人々に深慮させるために、己をさらけ出すのです」

レディー・ガガを見て形成したというリナ・サワヤマのアイコン論は、彼女自身をも象徴している。「Comme des Garçons (Like the Boys)」で歌われたように「ロンドンから目黒まで」名をとどろかせる日本人英国スターの魅力を、キャリアとともに辿っていこう。

 

1. 邦楽×洋楽サウンド

1990年、新潟に生まれたリナ・サワヤマがイギリスに移ったのは5歳ごろ。父の転勤がきっかけだったが、両親の離婚後、母親と2人でロンドンで暮らすことになった。家庭内、そして日本人学校で宇多田ヒカル、椎名林檎などのJ-POPを愛聴していたというが、現地の公立学校に転校して以降、ビヨンセやブリトニー・スピアーズ、N.E.R.D.など、現地で流行していたR&Bやポップに夢中になっていった。

1990年代から2000年代を通した音楽体験は、サウンドにもあらわれている。ケンブリッジ大学にて政治学や心理学を学んだ彼女は、音楽こそ自分のやりたいことだと気づき、インディアーティストとしての道を歩みはじめた。2015年、スマートフォン依存を歌う「Tunnel Vision」で注目を集めることとなったが、この頃、 無理に白人社会に同化しなくてもいいと思える気づきもあったという。それは「日本の音楽の影響を受けた英国アーティスト」こそ、己の個性ということだ。

そのオリジナリティが活かされた作品こそ、ブレイクスルーを果たした「Cherry」。2018年当時、Vice Media より「世代最高峰のポップスターであることの証明」とまで評された2000年代調シンセポップは、英米ではマライア・キャリーと比較されている。同時に、日本では宇多田ヒカルの影響を感じとるリスナーも少なくなかった。

また、パンセクシュアル目線の同曲は、とくに有色人種のクィアの人々のアンセムとされていった。「学生当時、アジア系の人気アーティストは皆無だった」 と回想するリナだが、自身こそがアジア系クィアとしてのアイコンとなったのだ。

Rina Sawayama – Cherry (Official Video)

 

2.「日本人」像の打破

「(こんな目に遭わされたのは)私だけじゃないんでしょうね どうして私を尊重しないの? あんたの幻想どおりの私を期待したんでしょ もう、ただ座って そして、黙れクソ野郎」(「STFU!」より)

The 1975が在籍するインディレーベル、ダーティヒットと契約した2019年には、ニューメタルに振り切った「STFU!」で爆発的な話題を巻き起こした。ほかのレーベルから契約交渉を打ち切られるきっかけにもなったこの問題作が描くのは、西洋で日本人が受ける、日常的な偏見。ミュージックビデオ冒頭では、リナに対して「君が英語で歌っていて驚いた」と語る(つまり、東アジア系の容貌というだけで「外国人」扱いするような)白人男性との気まずい会食が展開。そんな相手に憤怒する映像は「日本人女性は怒らない」ステレオタイプ問題も意識されている。

Rina Sawayama – STFU!

日本人像を打破する「STFU!」は、多様な議論を引き起こした。有色人種の人々が共感を寄せたのはもちろん「自分はこういうことをしていた」と反省する男性リスナーもいたという。さらに「白人の自分も、外国だとこういうふうに感じることがある」といった告白も出たようだ。

さまざまな意見が生まれていったことには、ユーモラスなタッチの影響もあるだろう。MV中に名前が出るルーシー・リューの『キル・ビル』、『チャーリーズ・エンジェル』における演技が意識下にあったようだ。ちなみに、短編映画のようなMVを制作するリナは、キアヌ・リーブス主演映画『ジョン・ウィック』シリーズ第4弾に出演予定。日本映画風の「Bad Friend」、テレフォンショッピング番組調の「XS」がオファーのきっかけだったという。

Rina Sawayama – Bad Friend (Official Video)

 

3. ポップな政治

「ネオンライトにゴールデン街 あなたはステレオタイプに夢中」「これもきっと、東京についての歌」(「Tokyo Love Hotel」)

「自分の政治的信念を通して次世代に何を残せるのか」つねに考えているというリナの楽曲には、パーソナルでありながら社会問題を扱うものが多い。同時に、どんなに秀でたコンセプトだとしても、音やメロディが良くなれば意味がない、というのがシンガーソングライターとしての信条だという。そんな彼女が使命として掲げるのは「良いサウンドでありながら、意味深いポップソング」 だ。

たとえば、「Tokyo Love Hotel」。普通に聴けば傷心のラブソングに聴こえるものの、歌詞を解析していくと、観光を軸とした西洋人の日本へのまなざしが歌われているとわかる。

後述する「Chosen Family」のようなクィアアンセムにしても、リリシズムに工夫があるようだ。リナいわく、セクシャリティを理由に家族から追放される体験をしている人は多くない。しかし、それを「親に拒絶される感覚」に組み替えれば、より広い層に響く。キャッチーでありながら様々な社会問題を表象するリナの音楽は、ポップミュージックの可能性を立証するものでもあるだろう。

Tokyo Love Hotel

 

4. 英国音楽界の変革

2022年、家族とアイデンティティをテーマにしたデビューアルバム『SAWAYAMA』は、PitchforkやThe New York Timesといった有名メディアの年間ベストに軒並み選出される成功をおさめた。一方、それゆえの問題も起こった。英国籍を持たないことを理由に、音楽界の権威であるブリット・アワードおよびマーキュリー賞の候補になれなかったのだ。

このことから、国籍条項の改訂を求める「#SawayamaIsBritish」運動が広がり、翌年、両賞の統括団体が規定を変更。5年以上の永住者も包括する新体制下、ブリットにはリナ、マーキュリーにはトリニダード・トバゴ生まれのラッパー、バーウィンが候補入りする結果をもたらした。

一方で、渦中、冷静に移民としての体験を語ったリナは「私はコールアウトカルチャー(対象人物の過ちを公的に糾弾する活動)タイプの人間ではない」 と語る。実際、フェミニズムの名のもとにインターネットいじめが起こってしまう問題を憂慮しており「誤解や認識不足は必ずしも悪意から生まれているわけではないことを忘れてはいけません」 と注意も促している。

そんなリナは、皮肉や怒りを描きながらも、敬意と愛を忘れない。たとえば、ブラジルのドラァグクィーン歌手パブロ・ヴィターともコラボレーションした「Comme des Garçons (Like the Boys) 」は、男らしさ概念の皮肉を歌いながらも「痛みを自信に使う」クィアコミュニティに捧げられている。

Rina Sawayama – Comme Des Garçons (Like the Boys)

 

5. コミュニティ愛

「遺伝子や名字が一緒じゃなくていい だって、あなたは、私のチョーズン・ファミリー」(「Chosen Family」)

20代前半、精神状態を悪化させたリナを救ったのは、大学で出逢ったクィアコミュニティだったという。ファンとともにキャリアを築いたインディアーティストとして励んでいるのは、セーフプレイスの形成だ。

抗議活動も大事なものの、日常のなかで自分に適したコミュニティがあることも大切である……そんな想いからつむがれた「Chosen Family」は、クィアコミュニティのファミリーの絆を讃えるアンセム。「すべての歌はラブソングである」という信念のもと、さまざまな題材をラブソング形式に落とし込んできたリナ・サワヤマの作家性の結晶とも言うべきバラードだ。オープンリィ・ゲイ歌手のレジェンド、エルトン・ジョンとのデュエット版も制作されたこの曲は、キャリアで最も誇りにしている作品だという。

Rina Sawayama, Elton John – Chosen Family (Performance Lyric Video)

 

6. 地獄のダンスフロア

「この地獄では あなたと一緒にいたほうがいい 燃えあがろう」(「This Hell」)

ユーモアやアイロニーを忘れずに、社会問題、そして愛をメロディアスなポップに乗せるリナ・サワヤマ。その作家性は2022年も健在だ。ただし、大規模にパワーアップして帰ってきた。

2ndアルバム『Hold The Girl』のリードシングル「This Hell」は、楽曲そのものがコミュニティ、踊り場であるようなパーティーアンセム。発表前、コーチェラ・フェスティバルにおいて、フロリダ州の「Don’t Say Gay法案」の反対をオーディエンスとチャントしたリナは、権利を奪われていくLGBTQ+コミュニティを念頭に、この曲を書いた。

「世界から”愛と保護に値しない”と言われるのなら、私たちはお互いに愛と保護を与えあうしかないのです。この地獄では、あなたと一緒にいたほうがいい」

凄惨な状況を描きながら愛と連帯を叫ぶ「This Hell」は、現在進行系の問題への注目度を上げるとともに、ダンスフロアとコンサートの復活シーズンを燃えあがらせるだろう。

2ndアルバム『Hold the Girl』のリリースは2022年9月に予定されている。それまでのあいだ、世界は地獄のように熾烈かもしれない。だからこそ、リナ・サワヤマの音楽と「一緒にいたほうがいい」だろう。

Rina Sawayama – This Hell (Official Music Video)

Written By 辰巳JUNK



リナ・サワヤマ『Hold the Girl』
2022年9月2日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



Share this story
Share
日本版uDiscoverSNSをフォローして最新情報をGET!!

uDiscover store

Click to comment

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Don't Miss