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【レビュー】映画『ウィキッド ふたりの魔女』ピンク&エメラルドグリーンの知られざる友情物語

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Photo By 塚田 桂子

2024年11月22日に公開された実写映画『ウィキッド ふたりの魔女』(原題:Wicked)。日本では2025年春に公開される本作を、本場ロサンゼルスのユニバーサル・スタジオ内で行われた試写会に参加したL.A.在住のヒップホップジャーナリスト、塚田 桂子さんによるレビューを掲載。

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映画『ウィキッド ふたりの魔女』特報<2025年春、全国ロードショー!>

 

“ユニバーサル・スタジオ・ロット”での試写会

世界中で親しまれてきた冒険物語『オズの魔法使い』に、実は裏話があったことをご存知だろうか? この物語に登場する魔女の視点を元に1995年に出版された『オズの魔女記』が、2003年に脚本化され、ブロードウェイ・ミュージカルとしてデビューしたのが『ウィキッド』であり、以来21年の間、劇場版『ウィキッド』は世界中の人たちに愛され続けてきたロングランの名作だ。

その『ウィキッド』が満を持して、映画『クレイジー・リッチ!』の大ヒットで有名なジョン・M・チュウ監督の指揮の元、イギリスの女優シンシア・エリヴォ扮するエルファバ、アメリカのシンガーソングライター、女優アリアナ・グランデ扮するグリンダをふたりの魔女として主演に迎えた豪華キャストで映画化され、アメリカでは家族が集う感謝祭前の11月22日に公開され、大いに話題になっている。

ロサンゼルスのストリートには、この冬公演予定のミュージカル版『ウィキッド』の広告と共に、映画版『ウィキッド』のビルボード看板が至る所に飾られ、“ウィキッド祭り”さながらの盛り上がりぶりだ。この話題の映画をLAで、一足早く体験できる機会に恵まれた。

広大な230エイカー(東京ドーム約20個分!)の敷地に広がる「ユニバーサル・スタジオ」といえば、スリル満点のテーマパークやハリウッド映画の裏側を体験できるスタジオツアーなどのアトラクションに溢れる映画スタジオとして有名であり、この夢の国を訪れたことがある方もいらっしゃるだろう。

その敷地内にある、テレビ番組と映画専用の撮影所「ユニバーサル・スタジオ・ロット」の施設で行われた試写会。会場を訪れると、招待客に上映前の軽食やドリンクが振る舞われ、会場に展示された名作映画の歴史の数々を閲覧しながら、上映ルームに向かった。100人ほどのゲストたちの期待が高まる中、ついに夢のような最新ハリウッドファンタジーの幕が切って落とされた。

日本では2025年春に公開予定のため、ネタばれしすぎない範囲で、この映画の大きな魅力をいくつかあげてみたい。

 

壮大な舞台設定

まるで魔法のほうきにのった魔女がカメラを回しているかのような視点で、「オズの国」に広がる息を呑むほど豪華でカラフルな光景から映画は始まる。例えばその景色のひとつに、絨毯のように一面に咲き誇る見事なチューリップ畑があり、観る者は目と心を奪われる。

人間(魔女)以外の動物や景色、舞台設定はほぼCGが駆使されているのかと思いきや、実際900万本(!)の本物のチューリップを植えてこの光景を創り上げたとをチュウ監督があるインタビューで語っていて、その壮大さに思わず度肝を抜かれた。おとぎの国に広がるきらびやかな建物や景色、登場人物たちのコスチュームは、想像を絶するディテイルとリアルさで実際に創り上げられているのだ。

Wicked | What Is This Feeling

 

豪華キャストが繰り広げる感動のミュージカル

実は個人的にミュージカルはちょっと苦手な方だったのだが、個性的な豪華キャストが繰り広げる歌とダンス、それをサポートする心ときめく映画音楽、ローラーコースターのように展開していくストーリーに圧倒されるこの映画は、とても2時間41分とは思えない程、あっという間に一気に観終わってしまった。

中でもキャストたちの歌は大きな魅力のひとつで、ピンク色に包まれた可愛らしいグリンダ(最初はガリンダとして登場)を演じるアリアナ・グランデの、透き通るように心地よい歌声にしばしうっとりしていると、緑色の肌を持つ生真面目なエルファバを演じるシンシア・エリヴォのソウルフルで力強い歌声に、思わずぶっとんでしまった。

さらに特筆すべきは、実は『ウィキッド』のオリジナル曲であることをこの映画を観るまでは知らなかったのだが、今作の中でも重要かつ有名な「ポピュラー」という曲を歌うグリンダの歌声は、オリジナル曲を彼女らしくアレンジしていて心に残り、彼女のこの曲を聴きたくて、何度もトレーラーを見返したくらいだ。しかもこの曲を歌う時のグリンダは非常にユーモラスで観る者の笑いを誘い、みな彼女を愛さずにはいられないのだ。

Wicked | Popular

アメリカの映画館で映画を観ていておもしろいのは、まるで銀幕の中で俳優が実際に演技しているかのように、観客は感動的なシーンや歌いっぷりに遭遇すると、歓声を上げたり、興奮して拍手をしたり、「がんばれー!」と声援を上げてみたり、感情を素直に表現してキャストと一体になって楽しんでしまうところだろう。この夜も、グリンダやエルファバが素晴らしい歌を披露する度、感動的なシーンに出会う度に、観客は一喜一憂してストーリーを楽しんでいた。

 

典型的な構図超えるストーリー

その愛くるしさから、オズの国のお姫様のように皆に愛され敬愛されることがデフォルトのグリンダ。かたや、緑色の肌で生まれた瞬間から家族や世間からつまはじき、生真面目で正義感の強いエルファバ。真逆とも言える境遇と環境で生まれ育ったふたりの魔女は、オズの国の最高学府であるシズ大学のルームメイトとして、不思議な運命の出会いを果たすことになる。

そんなふたりからは最初、生まれた時から与えられた特権を疑いもせず享受する白人女性(良い魔女)のグリンダに、緑色の肌で生まれて世間に嫌われ嘲笑を受けながらも自由と正義を求める黒人女性(悪い魔女)のエルファバという、現代アメリカ社会を反映したかのような人種構図が浮かび、正直、最初はその安易とも思える進展が鼻についた。ああ、ハリウッドはまた、この典型的な構図をわたしたちに押しつけてくるのか、と。

しかし、グリンダとエルファバは衝突しながらも、相手が最も助けを必要としている瞬間に、実に誠実なきっかけから、少しずつ心を通じ合わせていく。ふたりがお互いの違いを超えて真の友情を育み、分かつことのできない大親友になっていく様子に、気がつけば夢中になって惹きつけられている自分に気づき、痛快な驚きを覚えた。

ふたりの主人公以外にも、台湾と中国からの移民の両親の元でアメリカ人とし生まれ育ったジョン・M・チュウ監督は、本作に白人、黒人、ラティーノ、アジア系と、実に多様な背景を持つ人種のキャストを選抜していて、より現実的なアメリカ人口を反映したハリウッド映画という印象を受ける。そして物語の中でも非常に重要な役割を担うシズ大学の魔法学の権威、マダム・モリブル役に、『クレイジー・リッチ!』にも出演し、アカデミー賞主演女優賞を受賞した中国系マレーシア人女優のミシェル・ヨーを選んだ彼ならではのキャスティングにも、ハリウッドへの新しい風を感じさせる。

Wicked | Meet Madame Morrible

 

「アンリミテッド~無限の力」というメッセージ(*ネタばれ注意)

エルファバは、自分に特別な魔法使いの才能があることは分かっていたが、それをどう使っていいか分からずにいた。マダム・モリブルがそんな自分の特別な才能を見い出して応援くれたことで、彼女に憧れを抱いていたが、ある出来事から、実はマダム・モリブルは自分が考えていたような存在とは真逆の存在であることを知り、怒りと失望に陥ってしまう。

その後マダム・モリブル側に反逆者とみなされると、エルファバとグリンダはエメラルドシティの護衛兵たちに高い塔のてっぺんに追い詰められ、絶体絶命のピンチを迎える。そんな時にどこからともなくほうきが現れ、エルファバがそのほうきに魔法をかけると、「わたしには無限の力がある。わたしは魔法使いなんて怖くない。魔法使いたちがわたしを恐れるべきよ!」という、悪への闘いを挑む、この映画のパンチラインとなる名台詞を放ち、今までの恐怖と不安を振り払って、重力に逆らって空へ勇敢に飛び立っていく…

そしてさらなる予想外のパンチラインは、この映画が終了したと思った瞬間に、「The End」ではなく、「To be continued, Part I(次へ続く、パート1)」という字幕が流れ、「まだまだ続くんだ!」という驚きと喜びに、観客は銀幕に向かって拍手喝采を送り、幕を閉じたところだろう。

爽快なフィナーレは、次のチャプターの始まりでもあったのだ。なんというエンディング。なんというストーリー。魔法使いの世界に人間界のメッセージを投影した、夢と勇気溢れるこのファンタジードラマは、名曲が詰まったサントラと共に、この冬~春に世界中に映画版『ウィキッド』ファンを新たに生み出すことだろう。

Written & Photo By 塚田 桂子


『Wicked: The Soundtrack』
2024年11月22日配信
CD&LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify

<収録曲>
1. 「No One Mourns the Wicked」Ariana Grande ft. Andy Nyman, Courtney Mae-Briggs, Jeff Goldblum, Sharon D. Clarke & Jenna Boyd
2.「Dear Old Shiz」Shiz University Choir ft. Ariana Grande
3.「The Wizard And I」Cynthia Erivo ft. Michelle Yeoh
4.「What Is This Feeling?」Ariana Grande & Cynthia Erivo
5. 「Something Bad」Peter Dinklage ft. Cynthia Erivo
6.「Dancing Through Life」Jonathan Bailey ft. Ariana Grande, Ethan Slater, Marissa Bode & Cynthia Erivo
7.「Popular」Ariana Grande
8.「I’m Not That Girl」Cynthia Erivo
9.「One Short Day」Cynthia Erivo & Ariana Grande
10.「A Sentimental Man」Jeff Goldblum
11.「Defying Gravity」Cynthia Erivo ft. Ariana Grande

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