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アリアナ・グランデ、新作アルバム『eternal sunshine』歌詞徹底解説

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2024年1月に配信した、マックス・マーティン、イリア・サルマンザデと共作・共同プロデュースした先行シングル「yes, and?」が全米1位を獲得したアリアナ・グランデ(Ariana Grande)。

この先行曲を収録した7作目のスタジオ・アルバム『eternal sunshine』が3月8日に発売となった。全曲の歌詞・対訳が付いた日本盤(通常盤)は3月15日に、アクリルスタンドやトレーディングカードが付いたデラックス盤は4月5日にリリースされる。

この新作について国内盤CDに収録される対訳を担当した音楽ライター/翻訳家の池城 美菜子さんに歌詞の面について解説いただきました。

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映画からとった新作タイトル

『eternal sunshine』。アリアナ・グランデの7作目のタイトルだ。映画ファンであれば、「あ、ジム・キャリーの」とピンと来る、2004年のミシェル・ゴンドリー監督、チャーリー・カウフマン脚本の名作『エターナル・サンシャイン』と同名である。辛い別れを経験した男女が、お互いに関する記憶を消す手術を受ける。‥にもかかわらず、という筋書き。アリアナは本作を指して「ある意味、コンセプト・アルバム」とコメントしている。「同じ出来事をさまざまな角度から映し出した作品」とも。

6作目『Positions』から3年半。その間、アリアナが経験した婚約〜結婚〜別居〜離婚と、新しい恋人についてのアルバムなのだ。3月8日にリリースされたオリジナル・ヴァージョンが35分強と短いのも、架空の人物による詩的だがあいまいな設定は一切、含まれていないから。

本稿は、リリースされてから4日目に書いている。記録破りの再生回数は強固なファンダム、アリアネイターを抱える彼女の通常運転として、今作は海外メディアや批評家筋の評価が高い。筆者は曲を聴いていない時点で、国内盤のために対訳を担当した。いつになく率直で、日記のような歌詞に驚きながらもサウンドは予想しづらかった。韻を踏まず、言葉数が少ない歌詞からして4作目の『Sweetener』(2018)以降、顕著だったトラップR&Bはほとんどやっていないことだけ、はっきりしていた。

アリアナはもともと、ひとつの作品に関わる制作陣を絞って、アルバム全体に統一感を持たせるタイプだ。本作は、『thank u, next』(2019)や『Positions』(2020)以上にその傾向が顕著である。サウンドの要はマックス・マーティン。スウェーデン出身のイリア・サルマンザデや、LAを拠点とする日系プロデューサー、シンタロー・ヤスダ(Shintaro Yasuda)らこれまでも組んで来たメンバーで固めている。

親友にしてソングライターの盟友、ヴィクトリア・モネの不在も目立つ。2024年のグラミー賞で最優秀新人賞に輝いたヴィクトリアの快進撃を考えれば、自分の活動に集中していたと考えるのが妥当だろう。加えて、それ以上にこの作品はアリアナ自身が歌詞を書く必要があったのだ。実際、数曲でマーティンが助けている以外は、すべてアリアナのペンによる。

 

アルバム制作の前提となった出来事と恋愛遍歴

ぶっちゃけてまとめると、離婚劇と後ろ指を指される覚悟で始めた新しい恋をめぐる、かなりしんどい状況を彼女にしか出せない美しいソプラノで歌い上げた作品である。ドロドロな状況を、美声で歌うことでどこまで浄化できるのか、という文化的な実験とも取れる。

サウンドは00年代に主流だった少し懐かしいR&Bを混ぜたポップが大半。先行シングル「yes, and?」はハウスだったが、ダンス・ミュージックはこの曲のみ。アリアナが一番伝えたい言葉を、マーティンが中心になって一言一句カスタムメードで曲に仕上げた、きわめて私的なアルバムなのだ。

本稿では、全体の流れをなぞりながら、とくに目立つ歌詞を解説してみる。その前に、前提として彼女の近年の出来事と、恋愛遍歴を共有しておきたい。

2017年5月にイギリスのマンチェスターで起きた、コンサートで自爆テロ事件が起き、22人ものファンが命を落とした。その苦境を、恋人だったラッパーのマック・ミラーの助けで耐えたものの破局。大人気のコメディアン、ピート・デヴィッドソンとスピード婚約をして世間を騒がせたが、同時期にミラーを麻薬のオーバードーズで失ってしまう。ピートと婚約解消したあと、「7 rings」や「thank u, next」など制作に関わっていたソーシャル・ハウスのマイキー・フォスターとの交際説も流れた。

有名人たちとの交際の後に出会ったのが高級物件を扱う不動産エージェント、ダルトン・ゴメスである。一緒にパンデミックを乗り切ったふたりは2020年12月に婚約、2021年5月に結婚。2023年前半には2周年を祝ったというニュースと、年明けから別居しているとの噂が錯綜した。昨秋には離婚が発表され、それと同時に新しい恋人の存在が浮上。相手は、2024年大型期待作でミュージカルの実写映画『ウィキッド』で共演したブロードウェイ俳優のイーサン・スレーター。

問題は、ふたりが撮影で出会ったとき、イーサンは幼い子どもがいる妻帯者であったこと。アリアナはダルトンと、一つ上のイーサンは高校の同級生で2018年に結婚した元妻、リリー・ジェイとの離婚が成立する前から交際していたのでは、と噂になったのだ。

 

アルバムの収録内容

新作の内容を見ていこう。

頭の「intro (end of the world)」は、“世界の終わり”とつけながらもイーサンのことだ。「どうしたら健全な恋愛関係だってわかるのかな?」と尋ねる相手は、母方の祖母、ノンナことマージョーリーだ。ノンナはイタリア語でおばあちゃんを意味する愛称。ちなみに、アメリカでは「ナナ(nana)」である。

I’d rather tell the truth
Than make it worse for you, mm
真実を話したい
あなたを窮地に立たせるくらいなら

と、ここでアルバム全体の意図をはっきり伝えている。2曲目の「bye」は当然、元夫への曲。荷物をまとめて出ていく様子を歌っているが、アップテンポの曲調も声の張りも前向きである。ぶった斬った曲の終わりがサドンデスを思わせ、新しい失恋アンセムになりそう。

Ariana Grande – bye (lyric visualizer)

3曲目の「don’t wanna break up again」では、より詳細に離婚に向かう日々を綴っている。

I don’t wanna fuck with your head
It’s breakin’ my heart
To keep breakin’ yours again
This situationship has to end
But I just can’t refuse
I don’t wanna break up again
あなたを混乱させたくないの
心が壊れそう
またあなたの心を傷つけ続けるのは
この状況を終わりにしないと
でもあなたを拒絶できなくて
また別れを経験したくない

自分の心変わりははっきりしているけれど、どう切り出していいかわからない。本音が透けているのが、曲名だ。恋多き女性として知られているアリアナらしく、また別れを経験するのは気が重い、と締めているのだ。

【和訳】アリアナ・グランデ – don't wanna break up again / Ariana Grande (lyric visualizer)

次のインタールード「Saturn Returns Interlude」では、星占い師が登場。本物の占い師ダイアナ・ガーランドによる、本当の占い結果なのだ。

5曲目のタイトル曲は、前述したように映画『エターナル・サンシャイン』のタイトルから取られている。さらに書けば、映画の正確な題は「eternal sunshine of the spotless mind」であり、18世紀の詩人、アレキサンダー・ポープの詩「エロイーズからアベラールへの手紙」からの引用だ。ホープの詩のもとになった300年前に実在した恋人たちの話は、悲話というより残酷物語の域に入っているので、気になる人は調べてほしい。「eternal sunshine」の歌詞を見よう。

Now it’s like I’m looking in the mirror
Hope you feel alright when you’re in her
I found a good boy and he’s on my side
You’re just my eternal sunshine, sunshine
鏡に映った自分を見ているみたい
彼女に入っている時 あなたの気分が晴れればいいけれど
私はいい人を見つけたよ 今 隣にいる
それでもあなたは私にとって永遠の日差し 太陽の光なの

別れ間際の喧嘩の様子と、元夫にも新しいパートナーがいたことを知らせている。

【和訳】アリアナ・グランデ – eternal sunshine / Ariana Grande (lyric visualizer)

6曲目の「supernatural」では、新しい恋人との出会いを「超自然現象」と呼ぶアリアナ。「彼女だとあなたにはっきりさせてもらいたいの」と、要求をはっきり言える恋愛強者だ。

7曲目の「true story」は悲痛だ。

I’ll play the bad girl if you need me to
If it makes you feel better
I’ll be the one you love to hate, can’t relate
Too much on my plate
お望みなら悪役を演じてあげる
それであなたの気分が晴れるなら
喜んで憎める相手になってあげる 共感はできないけど
私はやるべきことが多いから

強気ではあるが、「愛して 愛を 私を愛して」のコーラスはつらい。ロングランになっているブロードウェイ・ミュージカル『ウィキッド』の実写映画(2024年11月公開)でアリアナは愛されキャラだが影がある魔女、グリンダを演じている。観る前から当たり役としか思えないが、ここで「悪役を演じてあげる」と歌っているのも、人気者なのに恋したフィエロだけには振り向いてもらえないグリンダと重なっている。

Ariana Grande – true story (lyric visualizer)

8曲目の「the boy is mine」は、1998年のブランディとモニカの大ヒット曲と同じタイトル。曲調も懐かしめのR&Bだ。「彼は私のもの」と宣言している通り、イーサンへの曲だ。

9曲目は大ヒットした先行シングル「yes, and?」。この曲で重要なラインは、セルフラヴを掲げるコーラスだろう。

“yes, and?”
say that shit with your chest….. and
be your own fuckin best….. friend
say that shit with your chest…..
keep moving like “what’s next?”
“yes, and?”
「そうだけど、何か?」
胸を張ってそう言いなよ それで
自分自身の最高の親友になって
胸を張ってそう言いなよ それで
前に進もうよ 「次は何?」って感じで
「そうだけど、何か?」ってね

余計な詮索をしてくる相手にたいして、「だから何?」と言い返せばいい、と歌う曲だ。詮索する内容がセクシャリティとも、恋愛の状況とも取れる点が秀逸。このシングルだけは自分自身の体験だけではなく、LGBTQ+への連帯と、真の味方は自分自身しかいない、と今までも何度か歌ってきた主張をいま一度くり返している。

【和訳MV】Ariana Grande – yes, and?

10曲目「we can’t be friends (wait for your love)」は最新シングル。

We can’t be friends
But I’d like to just pretend
You cling to your papers and pens
Wait until you like me again
Wait for your love
Love
私達 友達にはなれないよね
なれるふりくらいはしたいの
書類とペンにしがみついているあなた
また私を好きになってくれるまで待っている
あなたの愛情を待っている
愛を

先頃公開されたミュージック・ビデオでは、映画『エターナル・サンシャイン』を大胆に引用している。「thank u, next」でも00年代の有名なラブコメ映画の有名シーンを再現した彼女らしく、今回もとても丁寧だ。

そういえば、アリアナと何度も共演して仲がいいザ・ウィークエンドも、『Dawn FM』でジム・キャリーを登場させていた。『エターナル・サンシャイン』にせよ、『トゥルーマン・ショー』にせよ、コメディ映画ながら観る側が一生考え続けるような、ある意味トラウマ級の作品にまで昇華できる俳優である。

アリアナがより感情移入しているのは、衝動的で奔放な、ケイト・ウィンスレット演じるクレメンタインだ。アートワークの赤いリップも彼女へのオマージュだそう。映画ではジムが演じるジョエルとクレメンタインを、ダルトンによく似た俳優とアリアナが模倣している。ただし、ラストシーンは正反対。どちらが幸せかは映画を観て判断してほしい。

【和訳】アリアナ・グランデ – we can't be friends (wait for your love) / Ariana Grande

11曲目の「i wish i hated you」では「もっと憎めればいいのに」と、嫌い合って別れたのではない、と歌う。「私の記憶を並べ替えて 私達の人生を書き換えているの」は、やはり映画の世界観とつながっている。

次のミュージカル調のメロディが挟まれる「imperfect for you」は、アメリカのコメディ番組「サタデー・ナイト・ライヴ」の音楽ゲストとして出演した際、パフォームしたばかり。イーサンとの関係を歌った曲では、よく宇宙や星が出てくる。最後におばあちゃんが締める「ordinary things (feat. Nonna)」の歌い出しでは、親日家ぶりを発揮する。

We could go pop all the champagne in California
We could have omakase in Tokyo if you wanna
Hypothetically, we could do
Anything that we’d like
We could hit up all the slopes in matching snowsuits
We could hang out at the Louvre all night if you want to
We could spend every dime
But I don’t want anything but more time
カリフォルニア中のシャンパンを開けてもいいし
東京でおまかせのコースを食べてもいいよ あなたが望むなら
仮の話だけど
私達はなんでも好きなようにできる
お揃いのスキーウェアでゲレンデを全部滑ってもいいし
一晩中ルーブル美術館を巡ってもいい あなたが望むなら
有り金を全部使ってもいいけれど
欲しいのはあなたとの時間だけ

日本への観光ブームは歌詞にも影響を与え、最近の海外の曲によく出てくる。多いのが「プライベート・ジェットに乗って 目覚めたら東京で鮨を食べる」パターン。そこは現実的、かつ食べたことがありそうな「omakase」を出すあたり、来日上級者だ。

Ariana Grande – ordinary things (lyric visualizer) ft. Nonna

7作目について、「似た内容の曲が多い」と英語で書かれたレビューを見かけた。その特徴こそ、アリアナの離婚に至るまでの迷いと大変さを物語っているのではないか。新しいサウンドや自分をよく見せるためのテクニックを一旦、すべて置いて「自分の真実」をファンに打ち明けた、潔いアルバムである。結果、「離婚で大変なときに聴くといいアルバム」というニッチなニーズに応えてもいる。映画を含め、今年のアリアナ・グランデの活躍が楽しみでしかたない。

Written By 池城 美菜子(noteはこちら



アリアナ・グランデ『eternal sunshine』
2024年3月8日発売
CD&LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


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