政治的で社会性を持つコンシャス・ヒップホップ、2010年代のベスト20曲【全曲試聴リンク有】

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ヒップホップ・ミュージックは、生まれたときから政治的な社会性を帯びていた。ラスト・ポエッツやワッツ・プロフェッツといった語り言葉を前面に出したグループが刺激となり、グランドマスター・フラッシュ&ザ・フューリアス・ファイヴのようなグループが登場してきた。

しかし1980年代後期になると、そういった政治的、社会的なテーマを取り上げるコンシャス・ヒップホップの代わりに、もっとエッジの効き下世話で過激なギャングスタ・ラップが現れ、その後20年以上にわたりジャンルとしてのヒップホップだけでなくポピュラー・カルチャーそのものを席巻していった。融和やコミュニティのプライド、そして政治的な意識を訴えかけるメッセージが、縄張り争いのような地元愛、ドラッグやギャングの物語、女性嫌悪の発露に取って代わられたのだ。

しかしながら、今の私たちが日々の暮らしで政治・人種・社会の対立に直面する中、コンシャス・ヒップホップを復活させようという動きが近年進んでいる。ここで紹介するのは、そんな政治的で社会性を持つコンシャス・ヒップホップの再来を印象付ける2010年代の20曲である。

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1. YG「FDT feat. Nipsey Hussle」(2016年『Still Brazy』)

ドナルド・トランプがアメリカ合衆国第45代大統領になる前に発表された「FDT」は、まだ候補者だったトランプの危険性を訴えた曲だった。YGはトランプの考え方に警鐘を鳴らしながらマイノリティ集団に言及し、トランプが当選すれば前大統領のバラク・オバマのことが懐かしくなるだろうと語っている。

ニプシー・ハッスルの助けを借りた「FDT」は、コンシャス・ヒップホップが恐れを知らず、大胆に権威に食ってかかっていた時代を思い起こさせる作品だった。

 

2. NAS「Cops Shot The Kid」(2018年『Nasir』)

NASは「Cops Shot The Kid」で、現在アメリカ社会を蝕んでいる問題、つまり警官の暴力を取り上げている。カニエ・ウェストがプロデュースし、自らも参加したこの曲は、1955年にリンチでなぶり殺しにされたアフリカ系アメリカ人少年エメット・ティルにまで遡って、警官の暴力を描き出している。

スリック・リックの「Children’s Story」をサンプリングしたこの楽曲は、音楽的には先祖返りの感もあるが、歌詞の面では非常にタイムリーな話題を扱っている。

 

3. ケンドリック・ラマー「How Much A Dollar Cost」(2015年『To Pimp A Butterfly』)

ケンドリック・ラマーは、新世代のコンシャス・ヒップホップMCの代表格の一人として数えられている。彼はこの曲では、ダブル・ミーニングを駆使して重層的な物語を語っている。このトラックを聴けば、ケンドリックが同じ世代の中でもトップクラスの語り手とみなされているのがどうしてなのか、よくわかるに違いない。

 

4. コモン「Black America Again feat. Stevie Wonder」(2016年『Black America Again』)

コモンはアメリカの都市生活を描き出す。銃、ドラッグ、アフリカ系アメリカ人少年トレイヴォン・マーティンの射殺事件、警官の暴力……。スティーヴィー・ワンダーの助けを借りたこの曲は、現代の都市生活を映し出す鏡のようなトラックになっている。

 

5. プロフェッツ・オブ・レイジ「Take Me Higher』(2017年『Prophets Of Rage』)

プロフェッツ・オブ・レイジは、パブリック・エネミーのチャック・D、サイプレス・ヒルのB-リアル、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのティム・コマーフォード、トム・モレノ、ブラッド・ウィルクが結成したスーパーグループ。これは、ドローンの危険性を訴えるメッセージを含む曲だ。

 

6. パブリック・エネミー「Man Plans God Laughs」(2015年『Man Plans God Laughs』)

パブリック・エネミーのこの曲は、サビで「カルチャーのためにやれ 若い世代のためにやるんだ / Do it for the culture, do it for the youth」と訴えかける。パブリック・エネミーは、かつて「権力と闘え / Fight The Power」と呼びかけていたことは有名だ。

この曲「Man Plans God Laughs」は、彼らのそうした1987年のメッセージの力強さを思い起こさせる曲になっている。

 

7. ヴィンス・ステイプルス「BagBak」(2017年『Big Fish Theory』)

ヴィンス・ステイプルスは「BagBak」の中で「オバマだけじゃ足りない。ホワイトハウスにもっとアフリカ系アメリカ人が必要だ」と大胆に宣言している。ここで彼は、ジェントリフィケーション(貧しかった地区が再開発され、高級住宅街となり、元々の住人が追い出される現象)や人種間の隔たりといった問題にも触れている。

ステイプルスは、ヒップホップのとがった態度をプロテスト・ミュージックに持ち込んだ。そして、その結果、新たなメッセージが生まれたのだった。

 

8. J・コール「Friends」(2018年『KOD』)

昔からヒップホップ・カルチャーの一部ではドラッグが流行しているが、グランドマスター&メリー・メルが1983年に発表した麻薬撲滅を題材とした楽曲「White Lines」が登場してからはこのジャンルの中からも反ドラッグの声が上がってきた。

J・コールは「Friends」の中で、モダン・ヒップホップで蔓延している鎮痛剤オビオイドや抗不安薬ザナックスの問題を取り上げている。アルバム『KOD』そのものもモダン・ドラッグ・カルチャーをテーマとしているが、「Friends」はただ単にドラッグをこき下ろす曲ではない。ここでコールは、ドラッグ依存の裏に隠された人の心理を描き出そうとしている。題名からもわかる通り、この曲は薬物を手放すことができない友人に手を差し伸べる曲である。

 

9. ジェイ・Z「Smile feat. Gloria Carter」(2017年『4:44』)

ジェイ・Zの最もプライベートなアルバムに収録された「Smile」は、内省的な曲である。ここで彼は過去の荒れた生活を振り返り、今の自分がどうやって形づくられたのか語っている。この曲は、彼の母、つまりグロリア・カーターの「カミングアウト」にもなっていた。曲の中では、

ママは四人の子持ちだったけど、レズビアンだった
長い間、役者のふりをしなきゃいけなかった
Mama had four kids, but she’s a lesbian
Had to pretend so long that she’s a thespian

と彼は明かしている。スティーヴィー・ワンダーの「Love’s In Need Of Love Today」のサンプリングによって、この曲はさらに自省的な雰囲気が増している。

 

10. ザ・ルーツ「Understand feat Dice Raw, Greg Porn」(2014年『And Then You Shoot Your Cousin』)

ザ・ルーツは神にすがる人々の偽善に目を向けるが、神様が近寄って来たら「振り向いて逃げよう」と語る。ダイス・ローとグレッグ・ポーンに助けられながら、ここでオルガン中心のビートに乗ってリード・ヴォーカルのブラック・ソートは内省的な言葉を口にしていく。

 

11. ケンドリック・ラマー「The Blacker The Berry」(『To Pimp A Butterfly』、2015年)

この「The Blacker The Berry」でケンドリック・ラマ―は、パブリック・エネミーの魂とエネルギーにチャネリングしている。腐敗した警察から制度化された人種差別までありとあらゆる話題をカヴァーしたケンドリックは、現代のコンシャス・ラッパーの代名詞ともいえる存在だ。

 

12. NAS「Daughters」(2014年『Life Is Good』)

親の責任についてこれほど強いメッセージを持つ曲をラッパーが作ったのは、エド・OGの「Be A Father To Your Child」以来のことだった。NASは“娘を持つ男”に思い出させる。娘が生まれて初めて接する男は、その娘の父親だということを。この「Daughters」では、NASの天才的な才能が存分に発揮されている。

 

13. ジョーイ・バッドアス「Land Of The Free」(2017年『All-Amerikkkan Bada$$』)

「Land Of The Free」の冒頭で、ジョーイ・バッドアスは「自分自身を変えるまでは世界なんて変えられない / Can’t change the world until we change ourselves」と言い放つ。この曲の印象的なミュージック・ビデオには、白人至上主義の団体KKKの制服を着た警官が登場する。この曲は、コンシャス・ヒップホップのタイムリーな好例だ。

 

14. ラプソディ「Power feat. Kendrick Lamar, Lance Skiiiwalker」(2017年『Laila’s Wisdom』)

ラプソディは、クイーン・ラティファ、アイシス、シスター・ソウルジャーといった先達に続く女性MCで、歯に衣を着せず、権力に歯向かっている。「Power」で、彼女は権力についての誤った考え方を取り上げ、本物の力は、魂・融和・愛情の中にあると訴える。こうした意見は、現代のヒップホップではあまり人気のあるものではないかもしれないが、ラプソディはそれにあえて挑んでいるのだ。

 

15. J・コール「Be Free」(2014年)

警察の暴力を非難する「Be Free」は、何の武器も持っていなかったアフリカ系アメリカ人の少年マイケル・ブラウンが警官に射殺された事件を受けてラッパー / シンガーのJ・コールが作った曲。「Be Free」では、この射殺事件を報じるニュースの音声もサンプリングされている。

 

16. T.I.「We Will Not」(2016年『Us Or Else』)

T.I.は、ストリート・ライフの厳しい現実とポジティブで明るいメッセージを結びつけるのが恐ろしいほど上手い。2016年の「We Will Not」では、ストリート・ライフに触れることなく、融和の呼びかけと警察の暴力や銃撃による大量殺戮に反対するスタンスを打ち出している。

 

17. ジェイ・Z「Spiritual」(2016年)

ジェイ・Zが「Spiritual」を作ったのは、警官がフィランド・キャスティルとアルトン・スターリングを射殺した事件(この2件は数日のうちに相次いで起こった)がきっかけだったと言われている。ジェイ・Zほどの有名アーティストが社会を揺るがした事件に対するメッセージを出すというのは予想外のことだったが、「Spiritual」を皮切りにこのラッパーは社会派の曲を次々と作り出していくことになった。

 

18. ロジック「America feat. Black Thought, Chuck D, Big Lenbo, No I.D.」(2017年『Everybody』)

チャック・D、ノー・ID、ブラック・ソート(ザ・ルーツ)といったヒップホップ界の伝説たちにバックを支えられた新進気鋭のスターMCのロジックはこの曲で人種差別、階級差別、アメリカ政治の偽善といったテーマを取り上げている。彼が政治的なメッセージを曲に載せるのはこれが初めてのことだったが、ロジックはまったく妥協なしにとことんやり抜いている。

 

19. ヴィック・メンサ「16 Shots」(2016年『There’s A Lot Going On』)

「16 Shots」は、政治的なメッセージが色濃く出たEP『There’s A Lot Going On』の中でも特に強力な曲のひとつ。ヴィック・メンサはここで、シカゴの少年ラクアン・マクドナルドが警官に射殺された2014年の事件について辛辣な言葉を述べている。メンサはこのレコードを「自己防衛」の作品だと表現した。この曲のミュージック・ビデオには射殺事件の車載カメラ映像も収められている。

 

20. パブリック・エネミー「Mine Again」(2015年『Man Plans God Laughs』)

この曲のミュージック・ビデオはアフリカで撮影され、アフリカ大陸にある54の国すべてを讃えている。ここでもパブリック・エネミーは、新たな領域に挑戦し続ける。

「Mine Again」という言葉はトリプル・ミーニング、つまり3通りの意味を含んでいる。まずリーダーのチャック・Dが自らのルーツがアフリカにあることを再確認している。さらにこの言葉には、さまざまな戦争で埋められたままになっている地雷(Mine)と、子供に重労働を科しているダイヤモンド鉱山の意味も込められているのだ。

Written By JayQuan




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