「Black Lives Matter 2020」:繰り返される人種問題と抗議運動、ミュージシャンの反応

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Photo by Logan Weaver on Unsplash

2020年5月25日、ミネアポリスでアフリカ系男性ジョージ・フロイドさんが、警察官によって首を圧迫されて亡くなりました。その光景を捉えた映像は即時に広がり、アメリカでは各地で大規模な抗議運動が展開、一部が暴徒化して、暴動、そして略奪が起きている地区もあります。

繰り返される人種問題と、そして抗議運動「Black Lives Matter」について、アメリカで21年間生活していたライター/翻訳家である池城美菜子さんに解説いただきました。

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プリンスが愛したミネアポリスが燃えた。

1965年のワッツ、1967年のデトロイト、1992年のロサンゼルス、2014年のファーガソン。終わらない人種差別に怒り心頭の人々が、抗議の声を上げるために集まり、警察が武力行使をし、一部が暴徒化して火の手が上がった。発端は、いつも似たり寄ったりだ。警察官や自警団を名乗る白人男性(ラティーノだったケースもある)が、丸腰の黒人男性を殺しても、「職務のうち」「治安のため」という理由を盾に罪に問われない。アメリカ人は、抗議の気持ちは行動で示す。自分の権利を主張するために集まって声をあげるのは黒人だけではなく、1960年代後半はすべての人種が公平を求めてそれぞれ抗議運動を行った。

だが、黒人差別についてだけ半世紀、いや、一世紀以上も抗議運動が続く理由は、元凶となる差別が改善されるどころか、悪化しているからだ。2013年から始まったBlack Lives Matter(ブラック・ライヴス・マター/黒人の命を軽んじるな)運動の特徴としては、褐色の肌の人々だけではなく、人種差別に辟易している他人種の人々も行動をともにしていること。人種差別撤廃運動は当事者の黒人がもっとも多いが、常にサポーターはいた。1960年代の公民権運動にも、白人やアジア系の参加者はいたのだ。一方、63名が命を落として最悪の結果を招いた30年前のロサンゼルス暴動の際は、黒人が多く住む地区で店を出していた韓国系やユダヤ系の店が多数襲われたので、原因が同じでも時代ごとに結果や影響は異なる。

 

5月25日のふたつの事件

今回の事件の背景を説明するために、5月25日におきたふたつの出来事を書く。

まず広く伝えられている、ミネソタ州のミネアポリスでジョージ・フロイド(George Floyd)さんが、警官だったデレック・ショービン(Derek Chauvin)に圧死させられた件。夜8時過ぎに偽の20ドル札を使ったとして、同僚の警官3人が取り囲むなか、ショービンが首に膝を押し付けて9分弱かけて窒息死させたもの。4人は翌日解雇になり、ショービンだけ第3級殺人罪で同月29日に逮捕された。問題は、残りの3人は逮捕されておらず、どこにいるか分からないこと。事件の直後にその様子を収めた映像がインターネットを駆け巡ったため、有名人、一般人を問わず怒りを表し全国的な抗議運動へと広がった。ちなみに、アメリカで偽札はそれほど珍しくない。本当にその事実があったかは別にして、フロイドさんが地面に組み伏せられる理由としては、あまりにも弱い。ショービン容疑者がフロイドさんと知己だったという情報もあり、何よりも文字通り見殺しにした残り3人の警察官が逮捕されていないことに対して、抗議運動が続いているのだ。

もうひとつ、同日の午前中にニューヨークのセントラルパークでもっと小さな、しかし決定的な意味合いをもつ事件があった。散歩中の犬にリードをつける規則があるエリアで飼い犬を放し飼いにしていたエイミー・クーパー(Amy Cooper)さんを、バード・ウォッチング中のクリスチャン・クーパーさん(Christian Cooper:同姓だが赤の他人)が丁寧に注意したところ、彼女は無視したうえに、その様子をスマホで撮影されると「黒人男性に撮影され、自分と犬が脅されている」と警察に通報したのだ。規則を破っても、白人女性である自分が「黒人男性」を強調すれば、警察は味方になってくれると思っての行動だ。

クリスチャンさんの妹、メロディーさんがSNS に投稿したところ、こちらも瞬く間に拡散された(私のFacebookでも2人ほど投稿していた)。反響は大きく、エイミーさんは翌日、投資会社を解雇された。本来なら住人同士の小競り合いで済む事件でも、「黒人男性」と「警察」というキーワードが絡むと話が変わる。メロディーさんの「ハーバード卒であろうが、兄は黒人男性というだけで(2014年に警官に撃ち殺された)マイケル・ブラウンと同じ運命になったかもしれない」とのコメントが、状況の深刻さを物語っている。この事件とフロイドさん殺害事件は、奇しくも同じ月曜日にインターネットを駆け巡り、黒人男性はふつうに生活をしているだけで命の危険に晒されている、という事実を強調したのだ。

 

拡散される革命

ジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデ、ビヨンセなど多くのアーティストが声を上げ、正義を訴えた。これまでのブラック・ライヴス・マター運動につながった事件の多くは、

⇨ 罪のない黒人の男性が警察官や自警団に殺される
⇨ 捜査が遅々として進まなかったり、陪審員制の裁判でなぜか無罪になったりする
⇨ 遺族と住民が怒る

という流れだった。だが、2017年あたりから、事件の様子を収めたビデオがネットで駆け巡るや否や、すぐに抗議運動が起きるようになった。これは、おざなりの捜査と、差別を生み出す構造への改革に無関心なトランプ大統領への二重の不信感からだと思う。

1971年、詩人であり歌手のギル・スコット=ヘロンは「革命はテレビに映らない(The revolution will not be televised)」というスポークン・ワードを残している。1960年代のブラック・パワーの高揚を受けて、人々が身の危険を冒してまで社会情勢を変えようと運動をしても、テレビのニュースは無視する、と端的に伝えた有名な曲だ。半世紀後のいま、真逆の様相になっている。すべてが映像として残され、拡散される。フロイドさんが殺されてから6日がたった現在、全米で抗議運動が飛び火し、戒厳令が敷かれている都市も多い。ほとんどがトラブルを避けて示威行動を取っているなか、わざと事を荒立てようと工作をする人々も出てきたようだ。

 

なぜ、略奪するのか

日本では理解しづらい略奪行為について解説したい。人種差別は構造的な問題であり、有色人種は教育環境、就職で不利な立場に立たされる。2018年の調査では、アメリカの全人口で12%しかいない黒人の貧困層の割合は、全体の20%以上もある(白人の貧困率は8.1%)。コロナ禍で注目されたエッセンシャル・ワーカーのなかで、時給が低い店員や配達員の仕事をしている人が多く、それが原因で罹患する比率が突出して多かった(シカゴ市の人口の黒人の割合は30%だが、全死者数に対する割合は72%にも上っている)。

抗議運動が暴動化したとき、略奪がつきものであるのは、日頃から搾取され、貧困から抜け出せない人々の一部に「搾取された分を取り戻す」という心理が働くからである。もちろん、火事場泥棒のような略奪行為が見過ごされるはずはなく、沈静化したあとで監視カメラの映像や商品のシリアル番号でだいたい足がつく。感情に任せて暴れても、地元のビジネスにも、本人にもいいことはないのをわかっている人が多いため、抗議運動の参加者同士で諌める動きもあった。

 

トランプ大統領 対 テイラー・スウィフト

少し、音楽サイトへの寄稿らしくなくなってきた。ここで、今回の事件で目立ったアーティストの発言と行動を取り上げよう。ひとつ目は、テイラー・スウィフトのトランプ大統領へ向けた、強烈な一撃である。

「大統領就任期間、ずっと人種差別と白人至上主義を焚きつけてきたくせに、切迫した暴力を前に高潔なモラルを持っているふりがよくできますね。『略奪が始まれば、銃撃も始まるだろう』だって? 11月に落選させてやる」

このテイラーのツイートは、トランプ大統領の以下のつぶやきへの反応である。

「ちんぴらどもがジョージ・フロイドへの追悼を汚そうとしているが、私は許さない。ティム・ウォルツ知事に連絡して軍隊を派遣すると伝えた。どんな局面でもコントロールできるが、略奪が始まれば、銃撃も始まるだろう。静聴ありがとう」

「略奪が始まれば、銃撃も始まるだろう / When the looting starts, the shooting starts」は1967年の暴動の際に、マイアミ市警のウォルター・ヘッドリー本部長が黒人に対して脅しとして発した言葉の引用であり、21世紀に大統領が気軽に使うにはあまりにも暴力的で、大きなショックを与えた。米ツィッター社は注意勧告としてすぐに見られない処置を施し、リツィートもできないようにした。トランプ大統領と米ツィッター社の仲が悪化していたところに、拍車がかかった形である。

公平を期すと、現職の大統領はフロイドさんの家族と話したり、WHOからの脱退を示唆した記者会見の最初にお悔やみを述べたり、被害者家族への配慮はひと通りおこなった。それと同時に、鎮圧に際して「shooting」という言葉をあえて使って警察が銃を使うことを奨励し、間接的に自分の大きな支持団体であるNRA(全米ライフル協会)を抜け目なく肯定するのも怠らない。彼の頭のなかでは、ジョージ・フロイドさんの身に起きた事件と、それに怒りを上げる人々の現実は別物でのようであり、加害者であるデレック・ショービン個人を非難しつつも、彼のような警察官を生み出す背景に、自分の断定的で強気な姿勢が関係している点がなぜかつながらない。

 

キラー・マイクの演説

各地で緊張が高まる中、全人口の3割以上を黒人が占めるアトランタではラッパーのT.I.とキラー・マイク(Killer Mike)が市長の記者会見に立ち、暴動をおこさないように呼びかけた。キラー・マイクはアウトキャストのダンジョン・ファミリー出身で、2013年から白人のエル・Pとユニット、Run The Jewelsを組んでさらに評価が高まっている。涙ながらの彼のスピーチは感動的で、説得力があった。まず、自分は警官の息子であり、アトランタ警察に敬意を払っていると明確にしたうえで、「怒りに任せて自分の地元を焼きはらうのはやめましょう」と呼びかけた。スピーチの一部を訳してみよう。

「私は烈火のごとく怒っています。昨日の朝は世界が焼き尽くされることを期待して目を覚ましたほどに。黒人の男性が殺されるのを見るのにうんざりしたからです。(ショービンは)躊躇なく9分間も人間の首に膝で圧をかけたのです。彼はライオンに食いちぎられるシマウマのように亡くなりました。そして、私たちはその殺人ポルノのような映像をくり返し見続けました。だから、若者たちは全焼させようとしているのです。それ以外、何をすればいいか分からないから。事態を好転させるのが我々の役目です。ひとりの警官が罪に問われるだけでなく、4人全員が起訴され、有罪になるべきです。(スーパーマーケットの)ターゲットが燃やされるのではなく、構造的な人種差別を引き起こす世の中の仕組みが燃え尽きるところが見たいのです」

 

ビリー・アイリッシュ「All Lives Matter」にブチ切れる

この原稿の冒頭で、よく「黒人の命は大切だ」と訳されるブラック・ライヴス・マターを、あえて「黒人の命を軽んじるな」と否定形を使って訳したのには理由がある。「〇〇の命は大切」だと、必ず「オール・ライヴス・マター(All Lives Matter;すべての命は大切)」とまぜっ返す人が出てくるからだ。非常事態の「黒人の命を軽んじるな」運動を論じているときに、ふんわりした正論をかざしても解決にはならない。その手の反論を受けて、インスタグラムでブチ切れたのがビリー・アイリッシュである。「あと1回でも『全員の命が大切』とか書き込まれたら、気が狂う」とFワードを2回使って書いたのだ。

私は、アジア系女性としてアメリカに21年間住んでいた。差別を受けることもたまにあった。でも、それで命の危険を感じたことはないし、仮に運悪く強盗に遭ったり、殺されかけたりしても、警察は助けに来てくれるし、ニューヨークの日本領事館も何かしら手助けをしてくれるはずだ。

その、当たり前のことを多くのアフリカ系アメリカ人たちは期待できないで暮らしている。警察を呼んだところであと回しにされたり、前述したクリスチャン・クーパーさんみたいに一歩まちがえば加害者だと思われたりするケースが多いのだ。ビリーの怒りは、その不平等に起因している。18才らしい言葉遣いながら、彼女は自分で状況を判断して発信した。人種差別を含む差別問題においては、年配者より若者のほうが意識を高くもち、正しく捉えているのもいまのアメリカである。

ブルックリンの、カリブ海系の住人が多いフラットブッシュ地区でのデモに参加した友人によると「(参加者が多いのは)コロナ禍のストレスも少し関係あるだろうけど」と断ったうえで、

「白人の人の姿も目立ったし、『Asians for Black Lives Matter (ブラック・ライヴス・マターをサポートするアジア人)』や、『Latino for Black Lives Matter(ブラック・ライヴス・マターをサポートするラティーノ)』みたいなプラカードがあったのが新しかったよ。さすがにもう『All Lives Matter』を掲げるマヌケはいなかったかな。酒屋や宝石店は早いうちからシャッターを閉めていた」

とのこと。また、黒人の血が入った16才の息子がいる母親として、フロイドさんが殺される映像をくり返し見せられるのは耐えられない、とも言っていた。「あんな残酷なシーンが当たり前のように拡散されるのも黒人だけだ、って周りのお母さんたちも怒っている」との言葉にハッとした。

 

ケンドリック・ラマーの「Alright」

抗議運動に参加しているラッパーやミュージシャンも多い。まだ収束していない状況でこの記事を書いているが、注目を集めたことで日本でも差別について考えるきっかけになるといいな、と思う。最後に、抗議活動の件数が多かった2016年にブラック・ライヴズ・マターのアンセムとなったケンドリック・ラマーの「Alright」のビデオを紹介しよう。

2015年『To Pimp a Butterfly』に収録された、ファレル・ウィリアムスとサウンウェイヴのプロデュースによる曲である。ラマーは、アメリカという国が黒人にものを消費させようとする一方で、警官に命を狙われている現実をラップし、「それでも俺たち きっと大丈夫だよ」というフックで同胞を励ました。2016年のグラミー賞の4部門にノミネートされ、2部門を受賞、アルバムも『ベストラップ部門』を(やっと)制した。モノクロのラストシーンでは、彼の表情に注目してほしい。

Written by 池城 美菜子(ブログはこちら



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