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パーラメント『Mothership Connection』解説:天文学的スケールで送るファンクの名盤

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1975年当時、パーラメント(Parliament)はアメリカのブラック・ミュージック界で群を抜く存在だった。狂気の天才、ジョージ・クリントン率いる彼らは、ジェームス・ブラウンが築いたファンクの伝統の継承者であり、同時にスライ&ザ・ファミリー・ストーンの流れを汲むヒッピー精神も兼ね備えたバンドでもあった。

パーラメントはもともと、ドゥー・ワップを得意とする5人組グループとしてニュージャージー州プレインフィールドで結成。その後、サイケデリックなファンク・ロックを奏でるバンドへと変貌を遂げ、恐れ知らずの自由な発想であらゆる既成概念を壊していった。

また、彼らは実質的にひとつのバンドでありながら、ふたつの顔を持っていた。ひとつはジャンルに縛られないサイケデリックな黒人ロック・グループ、ファンカデリックであり、もうひとつがパーラメントだ。後者は王道のファンクの可能性を広げ、宇宙規模のスケールの作品を生み出し、1975年12月15日に彼らがリリースした『Mothership Connection』は、ポピュラー・ミュージックの概念すら変えてた重要作である。

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「俺たちは黒人たちを予想もしない状況に置いたんだ」

『Mothership Connection』はグループのアイデアが花開いた渾身の力作だ。パーラメントの最高傑作として名高い同作は、Pファンクの世界観を描いたコンセプト・アルバムの記念すべき第1作目でもある。

このアルバムでパーラメントはテクノロジーや未来、宇宙と黒人文化が結びついたムーヴメント「アフロフューチャリズム」とSFを組み合わせ、オリジナルの神話を作り出した。ここに登場する架空のキャラクターの数々やテーマは、その後のジョージ・クリントンが作り出す音楽においても常に重要な要素にもなっていく。そんなジョージ・クリントンは同アルバムの着想をどのように得たかについて、クリーヴランド・シーン紙の取材にこう話している。

「俺たちは (自分たちの作品の中で) 黒人たちを予想もしないシチュエーションに置いてきた。たとえばホワイト・ハウスみたいな場所だ。ほかに黒人に似つかわしくないシチュエーションはどこだろうって考えていたら、宇宙が思い浮かんだんだよ。俺は『スタートレック』の大ファンなんだ。そんなこともあって、キャデラックみたいな形の宇宙船に乗った男の話を作ったんだよ。ジェームス・ブラウン風のグルーヴに乗せて、流行り言葉とかスラングもたくさん入れてね」

パーラメントというグループの中核がジョージ・クリントンであることに議論の余地はない。一方で、超一流のミュージシャンを集め、その演奏技術を存分に発揮させたこともまた、Pファンクの大きな特徴だ。そのあたりは『Mothership Connection』の随所から如実に感じ取ることができる。

 

ミュージシャンとしての使命

ウィリアム・”ブーツィー”・コリンズ、バーニー・ウォーレル、グレン・ゴインズ、メイシオ・パーカー、フレッド・ウェズリー、マイケル・ハンプトン、ジョー・ファレル、ブレッカー・ブラザーズ。パーラメントにはこうした面々を筆頭とするその筋の伝説的なミュージシャンが集結していた。彼らは音楽シーンを救うスーパーヒーローであり、ファンクで瀕死の世界を救うというたったひとつの使命を背負っていた。だからこそメンバーたちは、『Mothership Connection』の最初のビートから全身全霊を込めたパフォーマンスを披露しているのだ。

それぞれの楽曲の配置から音響面、ジャケットのアートワークに至るまで、『Mothership Connection』というアルバムには些かの欠点も認められない。パーラメントは冒頭の「P-Funk (Wants To Get Funked Up)」で早速、電波をジャックする。「ファンクの伝承者の筆頭」は自分たちであり、そのポジションを奪おうとする者がいれば受けて立つと宣言するかのように。

P-Funk (Wants To Get Funked Up)

強烈なグルーヴがリードする次の「Mothership Connection (Star Child)」では、ジョージ・クリントンの作品を代表するキャラクターが初めて姿を表す。スピリチュアル・ソング「Swing Down Sweet Chariot (静かに揺れよ、懐かしのチャリオット) 」の歌詞を引用したこの曲は、スター・チャイルドの登場を告げるテーマ・ソングになっている。

Parliament – Mothership Connection (Star Child) – Live Houston 1976

 

混じりっけなしのファンク ~ 極上の逸品

迫力あるサウンドの「Unfunky UFO」にしても、肩の力が抜けたリズムの「Supergroovalisticprosifunkstication」にしても、パーラメントはソウル、R&B、ジャズ、ファンクなどの要素を巧みに融合させている。

そこにドゥー・ワップやゴスペルのハーモニーを加えることで、彼らは同世代の他のグループと一線を画してきたのだ。他方、グレン・ゴインズの秀逸なヴォーカル・パフォーマンスが際立つ「Handcuffs」では、スローでセクシーな即興演奏も披露される。

Handcuffs

そしてアルバム『Mothership Connection』を決定付ける1曲が「Give Up The Funk (Tear The Roof Off The Sucker)」である。これは、まさに直球のファンク・ナンバーであり、パーラメントを代表するトラックと言っていい1曲だ。この曲は『Mothership Connection』からシングル・カットされたトラックの中で最高のチャート・アクションを記録し、ビルボード誌の”Hot Soul Singles”のチャートでは5位、同誌の”Hot 100 pop singles”チャートでも最高位15位をマークするヒットを記録して、グループにとって初のミリオン・セラーにもなった。

Parliament – Give Up The Funk (Tear The Roof Off The Sucker)

同曲に続くのはアルバムのクロージング・トラック「Night Of The Thumpasorus Peoples」で、これは簡潔に言うなら、聴き手に恍惚感をもたらしてくれるファンク・ナンバーということになろう。

 

その影響

『Mothership Connection』は、パーラメントによるPファンクの世界に燦然と輝く1作だ。アメリカの議会図書館もその高い完成度を認めており、2011年には全米録音資料登録簿 (National Recording Registry) に登録され、「ジャズ、ロック、ダンス・ミュージックに多大な影響を与えたアルバム」であると評している。またローリング・ストーン誌は、これを同誌が選ぶ”歴代最高のアルバム500選 (500 Greatest Albums Of All Time) “の1枚に選定している。

ジェームス・ブラウンを例外とするなら、ジョージ・クリントンとパーラメントは、その作品を最も頻繁にサンプリングされてきたアーティストということいになるだろう。彼らが残したファンクの遺伝子は、後進に脈々と受け継がれている。その例を挙げてもギャップ・バンド、キャメオ、プリンス、アウトキャスト、シーロー・グリーン、ブルーノ・マーズなどビッグ・ネームばかりである。

また、『Mothership Connection』がドクター・ドレーのデビュー作『The Chronic』の下地になるなど、Pファンクのサウンドはウェスト・コースト・ヒップホップの礎を築き、アイス・キューブやデジタル・アンダーグラウンド、スヌープ・ドッグ、ケンドリック・ラマーといったアーティストたちに影響を与えてきた。

名盤『Mothership Connection』は、リリースから約半世紀を経過した今もなお、「ファンクといえばこのアルバム」と断言することのできる、同ジャンルの決定版だ。

Written By Rashad Grove



パーラメント『Mothership Connection』
1975年12月15日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music




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