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シャナイア・トウェイン以降の新世代女性カントリー・シンガーたち6名

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シャナイア・トウェインがタイトルにビックリ(!)マークを入れた曲をあんなに沢山レコーディングしているのも不思議ではない。彼女のセカンド・アルバム、1997年の『The Woman In Me』は、まさにそのエクスクラメーション・マークそのもののような作品だった――つまり、聴き手に対して大声で呼びかけ、注意を払うことを要求しているかのような。彼女は最終的にガース・ブルックスからボールを奪って走り、カントリー・ミュージックのアリーナ・ロックとの気まぐれなイチャつきを、真剣な恋愛関係へと発展させてしまったのだった。

あのアルバムの参加ミュージシャンたちが百戦錬磨のナッシュヴィルのセッション・マンたちだった(彼女のもっとトラディショナルで地味な結果に終わったデビュー・アルバムとほぼ同じ顔ぶれである)ということはこの際気にしないように。シャナイア・トウェインと彼女のプロデューサーであり共作者、そして夫でもあったマット・ラング(そう、あのデフ・レパードやザ・カーズを手掛けたのと同一人物)の手によって、カントリーはかつてないほど現代風に合理化され、都会的に洗練された音楽へと変貌した。純粋主義者たちが敗走する中、シャナイア・トウェインは意気揚々と新世代の女性カントリー・シンガーたちを先導し、歴史が作られていったのである。

2017年、シャナイア・トウェインの後に続く最も成功したアーティストは……誰あろう、シャナイア・トウェイン本人である。カムバック・アルバムの『Now』は既にNo.1に輝き、彼女独自のアリーナ・カントリーは今も変わらず愛されている(そして彼女はマット・ラングがいなくても十分やっていける)ことを証明した。シャナイア・トウェインの活躍は実に幅広いカントリー系女性シンガーたちに一気に門戸を開くこととなり、彼女同様ポップ・ロックにクロスオーヴァーした 者たちもいるが、よりトラディショナルな方面で活動している者たちも少なくない。

Shania Twain – The Woman In Me (Needs The Man In You)

 

ケイシー・マスブレイヴス

あるいは、ケイシー・マスグレイヴスの場合はその両方と言うのがぴったりかも知れない。彼女のブレイクのきっかけとなった、2013年のシングル 「Merry Go Round」から垣間見えるのは、確固たるルーツと鋭いまなざし(曲に登場する田舎町のキャラクターたちはいずれも明確に描き分けられている)を持ったシンガー・ソングライター(アレンジメントは彼女の憧れのひとり、アリソン・クラウスに近いものを感じさせる)である。

ソングライティングはずっとケイシー・マスグレイヴスのトレードマークだが、パフォーマーとしての彼女はカントリーとロック両方で仕事をしていて、一方ではシングル「Forever Country」のオールスター・クルーの中に名を連ねながら、もう一方ではブライアン・ウィルソン最新アルバムに参加したりもしているのだ。また、クリスマス・アルバム『A Very Kacey Christmas』でも分かる通り、彼女は人一倍優れた音楽センスを持っていて、トラディショナルでありきたりなスタンダード・ナンバーの大半をあえて迂回し、幾つかのオリジナルと、ゲイル・ピーヴィーの40年代の知る人ぞ知る名曲「I Want A Hippopotamus For Christmas」をウェスタン/スウィング仕立てのヴァージョンで披露している。

I Want A Hippopotamus For Christmas

 

キャリー・アンダーウッド

キャリー・アンダーウッドは人気オーディション番組『American Idol 』を卒業し、メインストリームの成功を手にした、ポスト・シャナイア・トウェインの世界で最も輝く女性カントリー・シンガーのスターのひとりである。彼女はデビュー当時から誇り高き先祖返りだった:ブレイクの第一歩となったシングル 「Jesus Take the Wheel」は、豪勢なストリングスからお涙頂戴のストーリーラインまで、徹底してオールドスクールのナッシュヴィル・スタイルを踏襲しており、聖歌 「How Great Thou Art」の彼女のヴァージョンは、67年にエルヴィス・プレスリーがこの曲をレコーディングして以来最も敬虔なテイクと言える。

キャリー・アンダーウッドはもっとモダンなサウンド・プロダクションのレコードも作っているが(彼女の最近のソロ・ヒット、 「Dirty Laundry」はフル・パワーのロック・ナンバーだ)、何よりも彼女が体現しているのは、カントリー・ミュージックによるトラディショナルな価値観擁護の発想の復活である。2007年のヒット曲 「All-American Girl」――タフ・ガイだった男が娘が生まれた途端に角が取れて温和な年寄りになったという内容で、若干の愛国心扇動要素も入っている――は恐らくカントリーの歴史において、最も健全な楽曲と言っていいかも知れない。

Carrie Underwood – Jesus, Take The Wheel (Official Music Video)

 

ヒラリー・スコット

また、健全と言えばレディ・アンテベラムのフロントウーマン、ヒラリー・スコットは、自分のソロ活動を両親と妹との仕事に捧げている。昨年のゴスペルをテーマにしたアルバム『Love Remains』は、大半がピアノを基調とした宗教色の濃いポップ・カントリーだが、何と言っても必聴なのはフィナーレのトラディショナルな賛美歌 「Ain’t No Grave」だ。始まりは喜びに満ちたローファイな家族の合唱なのだが、その声がどんどん大きくなるにつれ、プロダクションも徐々に膨れ上がって行く。ここにはゴスペルのモダン・ミュージックに対する明らかな影響が示されると同時に、ヒラリー・スコットの卓越したハーモニー・シンガーぶりも如何なく発揮されている。

Hillary Scott & The Scott Family – Thy Will (Official Video)

 

クレア・ダン

更に踏み込んだポップ方面へのクロスオーヴァーと言えば、これまでリリースした4枚のシングルで大ブレイクを果たしたクレア・ダンで、とりわけ2015年の「Move On」は出た直後からラジオでかかりまくり、ディエクス・ベントレーをはじめ多くの人々から絶賛された。彼女はある意味、モダン・サウンドとプロダクションでカントリーの魅力を引き出すという、97年にシャナイア・トウェインがやり遂げたことのアップデイト版である。もっともクレア・ダンの場合、その道具はプログラミングされたドラムスと軽めに施されたオートチューン(Auto-Tune)、イカしたギター・ソロ(彼女自身がプレイしてる)、そして拳を振りたくなるほどパワフルでキャッチーなフックのあるコーラスだ。

彼女の書く歌詞もオールド・ファッションとは程遠く、「Move On」のコーラスでは彼女自身が選りすぐった男に対して “move on and make a move on me(さっさと行動起こして私をモノにしなさいよ)”と呼びかけると言う趣向だ。彼女のデビュー・フル・アルバムは今年の末に出る予定だが、これを契機にまた新世代の女性カントリー・シンガーたちにとって、新たな変革がもたらされるかも知れない。

Clare Dunn – Move On

 

ミッキー・ガイトン

もうひとり、独自のアプローチで潮目を変えようとしているのがミッキー・ガイトンだ。彼女はトラディショナルなカントリーをプレイするアフリカ系アメリカ人女性として、否応なしに注目される存在となっている。だが何よりも心を掴まれるのはその声で、パッツィ・クライン(とりわけ彼女がより無防備に感情をさらけ出しているバラードでの歌い方)とよく比較される評価も頷ける。ミッキー・ガイトンはドラム・マシーンもシンセサイザーも一切使わない;その代わりに現在出ている彼女のシングルは全て、スティール・ギターとドブロがフィーチャーされている。デビュー・シングル「Better Than You Left Me」を聴けば、彼女がパッツィ・クラインのトレードマークのひとつを既にマスターしていることが分かるだろう:失った恋をすっかり乗り越えたという歌詞を歌いながら、それを歌う声はまるで正反対の事実を示唆しているのだ。

Mickey Guyton – Better Than You Left Me (Official Music Video)

 

マディ&テイ

最後に、近年屈指のブラック・ユーモア溢れるシングルと、それにぴったり合った内容のPVを出している2人の女性カントリー・シンガーについて触れておこう。マディ&テイは高校卒業直後に(それぞれテキサスとオクラホマから)ナッシュヴィルに出て来て、シャナイア・トウェイン的なプロダクション・アプローチを少々パクった上にパンチの利いたドラムスを加えてサウンドを完成させた。だがこの涼しげな面差しのデュオは、予想外にも破壊活動分子だったのである。

2014年のシングル「Girl In A Country Song」はレッドネック[訳注:redneck=「赤首」とは南部の貧しい労働者階級男性を指す蔑称で、無教養・男尊女卑・保守的で頑迷な田舎者という意味を含んでいる]の男どもや典型的な性差別主義的考えに対する情け容赦なしの(そして極めて愉快な)パロディになっている。

そして、興味深くも時代の流れを感じさせるのは、この曲の歌詞にある “Conway and George Strait never did it this way, back in the old days(コンウェイとジョージ・ストレイトならこんなこと絶対しなかったわ、遠い昔の話だけどね)”という一節だ。そう、80年代になってようやくデビューを果たしたアーティスト(ジョージ・ストレイト)が、既に保守派のロートル呼ばわりなのである。彼女たちの次のシングル「Shut Up & Fish」はそれより更に辛辣だ。マディ&テイが彼女たちを追いかけ回す男たちよりも賢いことは誰もが知るところだが、この曲の中での彼女たちは釣りの腕前も彼らより上手である。ファンも魚も、モノにするには突くべきツボをわきまえるべし、ということか。

Maddie & Tae – Girl In A Country Song

 

♪シャナイア・トウェインの名曲の数々と、その他90年代の革新的な女性カントリー・シンガーたち。
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