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R&Bは死なない:ポップ・ミュージックを活気づけるモダンR&B

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毎年開催される表彰式の類が、そのときどきの音楽の状況を正確に映し出しているとは限らない。とはいえ、メインストリーム・ミュージックはかなりのところまで窺い知ることができる。2018年、ブルーノ・マーズはグラミー賞の計3部門で賞を獲得。アルバム『24K Magic』は、年間最優秀アルバムに輝いた。これはダンス・ポップの大スターであるブルーノ・マーズのキャリアにおける画期的な出来事だったが、それだけではない。この受賞はさらに大きな変化の兆しでもあった。つまりモダンR&Bのアーティストたちが実験的で多様な作品作りに挑み、さらに大胆な活動を繰り広げるようになったのである。

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モダンR&Bがメインストリームで認められるためには、昔ながらの流儀を再び採用することが必要だったように思える。『24K Magic』はコンテンポラリー・ポップのアルバムだったかもしれないが、音作りの面では往年の作品群を思い起こさせる部分がある。たとえばアルバムのタイトル・トラック「24K Magic」は、ザ・ギャップ・バンドの1980年代ファンクに通じる雰囲気を持っている。また「That’s What I Like」は、ボーイズⅡメンのような1990年代のモータウン・ソウルにかなり近い。さらに「Finesse」は、ポップスやR&Bのラジオを席巻したニュー・ジャック・スウィングに強く影響されたトラックだ。

その他一連のアーティストたちも、彼のあとに続いた。エラ・メイの「Boo’d Up」は、1990年代のヒップホップ・ソウルにコンテンポラリーな風味を付け加えた楽曲。リアーナの「Love On The Brain」は、1950年代から1960年代にかけてリリースされたドゥーワップ・ソウルを現代的に発展させたトラックだった。どちらの曲も、米ビルボード誌のポップ・チャートでトップ5入りを果たした。R&B風のシングルがそこまでの大ヒットを記録するというのは快挙といっていいことだった。

Ella Mai – Boo'd Up

さて、2019年のグラミー賞に話を進めよう。この年、年間最優秀アルバムに選ばれたのはカントリー・ミュージックのスター、ケイシー・マスグレイヴスだったが、ノミネートされた作品の中にはR&B色の強いアルバムが2点も含まれていた。 H.E.R.のコンピレーション『H.E.R.』とジャネール・モネイの『Dirty Computer』である。

R&Bの影響を強く受けたアルバムはそのほかにもあった。その例としては、ドレイクの『Scorpion』 (アルバムのB面全体がR&B 風味のトラックで占められていた) 、ポスト・マローンの『Beerbongs & Bentleys』 (トラップR&B、ヒップホップ、ポップのミクスチャーといった作品だった) 、ケンドリック・ラマーの『Black Panther: The Album』 (大部分はヒップホップ・サウンドトラックだったが、ソウルフルなインストゥルメンタルやR&Bもいくつか含まれていた) といったタイトルが挙げられる。

Paranoid

 

R&Bは死なず

評論家たちはかつて「ロックの死」 を予言した。そんな誤った予言は、21世紀が始まったころにR&Bに対しても行われた。しかし実際のところ、R&Bはヒップホップやメロディック・ラップに少し席を譲っただけに過ぎなかった。モダンR&Bは、非常に革新的なサウンドを今も作り続けている。

過去数十年間に、R&Bはソウルフルなサウンドというひとつの特徴を持つジャンルから、さまざまなサブジャンルを含む幅広い音楽へと変身した。R&Bのヴォーカルのテクニック、スターの力、音楽的な融合はかつてないほど進化している。

そうしたニューフェイスの中でも抜きん出た存在となったのがH.E.R.だった。その他にも、SZAやエラ・メイといったR&Bアーティストたちがポップ・チャートで大成功を収めている。何年ものあいだ、インディ・レーベルからEPやミックステープを発表してきた彼らのスタイルは、1990年代のメアリー・J・ブライジらの活躍によって生まれたヒップホップ・ソウルをフル活用している。

エラ・メイの「Trip」や「Shot Clock」、あるいはアルバム『Black Panther』に収められたSZAの「All The Stars」を聴けば、こうしたスタイルが再び蘇ってきたことがよくわかるだろう。ケンドリック・ラマー (彼の「Pray For Me」も『Black Panther』に収録されている) や彼のTDEレーベルは、ヒップホップ界でのリーダー的な立場を利用して、モダンR&Bのヒット曲を次々とポップ・ラジオに送り込んだ。そうしたやり方は、ザ・ウィークエンドのXOレーベルの手法にならったものだった。

Kendrick Lamar, SZA – All The Stars

一方、世界各国のアーティストが自らのルーツを盛り込んだ独自のR&Bで個性を打ち出している。UK生まれのエラ・メイもそのひとりだ。ジョルジャ・スミスの「Blue Lights」や「Where Did I Go」と言った曲の土台には、明らかにエイミー・ワインハウスの影響がある。そうした曲では、ソウルフルな曲がUK訛りで歌われている。

これまた新進気鋭のアーティスト、カリ・ウチスはデビュー・アルバム『Isolation』でラテン・アメリカのルーツを披露している。たとえば「Tyrant」 (ジョルジャをフィーチャー) ではボサノバ、「Nuestro Planeta」ではレゲエといった具合だ。

生まれた場所はマイアミだがドミニカ系のダニリーは、最新作『The Plan』でさらなる実験を重ね、シングル「Lil Bebe」でトラップとK-POPをミックスさせている。一方シンガー・ソングライター / プロデューサーのケラーニは、「Nights Like This」で東アジアのポップスと’90年代R&Bを融合させた。そうしたサウンドは、TLCやアリーヤといった女性シンガーたちのヒット曲を想起させる。

DaniLeigh – Lil Bebe (Official Video)

さらにはアフロビートからの影響も見逃せない。モダン・ポップやダンス・ミュージックだけでなくコンテンポラリーR&Bもアフリカからの影響を受けているのだ。たとえばダビドやウィズキッドといったナイジェリアの才能あふれるアーティストたちは、この国ならではのサウンドをアメリカのラジオに送り込んでいる。またチャイルディッシュ・ガンビーノの人気曲「This Is America」も、アフロビートのグルーヴを土台としながら、制度化された人種差別に矛先を向けている。

Childish Gambino – This Is America (Official Video)

 

トラップ・ミュージック

モダンR&Bの中でとりわけ突出しているジャンルのひとつがトラップ・ミュージックである。トラップは、ヒップホップやポップスにも浸透した (たとえばアリアナ・グランデの『Sweetener』など) 。それと同じように、トラップR&B、あるいは”トラップ&B”は独自のシーンとなり、抜群に優れたアーティストたちが続々と登場してきている。ガールグループのフィフス・ハーモニーから離れたノーマニは、R&Bの天才アーティスト、カリードと組んで「Love Lies」を発表。トラップ&Bとクワイエットストーム・ソウルを融合させ、ポップ・チャートでヒットさせている。

Khalid & Normani – Love Lies (Official Video)

このシーンの重要人物としては、シンガー/ラッパーの6lackも挙げられる。デビュー・アルバム『Free 6lack』で注目を集めた彼は、2018年に次のアルバム『East Atlanta Love Letter』を発表。J・コールをフィーチャーした「Pretty Little Fears」は、懐かしの1990年代R&Bとトラップ&Bをブレンドしている。同様に、アリン・レイ、ブリソン・ティラーも要注目のアーティストだ。

6LACK – Pretty Little Fears ft. J. Cole (Official Music Video)

6lackの作品は雰囲気に富んだスタイルのR&Bで作られており、プロジェクトごとに独特のストーリー性を醸し出している。こうしたコンセプトにならうR&Bアーティストはたくさんいる。彼らは、自らの音楽性や可能性と必ずしも合致しないシングルをたくさんリリースするようなことはしない。たとえばジャネール・モネイも、そうしたコンセプトで作品を作っている。

モネイの『Dirty Computer』はサイケデリック・ソウル (「Screwed」) やネオ・ソウル (「I Like That」) 風の音作りをするだけでなく、ブラック・カルチャー、クィア、女性全般に対する意見も表明している (「Pynk」「Django Jane」) 。

Janelle Monáe – PYNK [Official Music Video]

 

フューチャー・ファンク

伝統的なR&Bのソウルフルな要素とサブジャンル (トラップ、チルウェーヴ、ヒップホップ、エレクトロニカ) をブレンドさせるアーティストたちは、”フューチャーR&B”というサウンドを生み出し、R&Bの炎を燃やし続けた。またテクノロジーの進歩と共に、R&Bは未来派 (フューチャリズム) のアイデアやイデオロギーを取り入れるようになった。フランク・オーシャンの『Blonde』やリアーナの『ANTI』は、そうした抽象的でアバンギャルドな要素をメインストリームに持ち込んだ作品ととらえられる。

とはいえ、フューチャーR&Bはそうした高尚な考え方やアフロ・フューチャリズムを取り上げた曲ばかりではない。このジャンルには、キワモノといっていい類の作品もある。ヒップホップ・ソウル・トラックがネットでパズるというのは、今時のカルチャーでなければ考えられないことだ。ドジャ・キャットのコミカルな「Mooo!」はまさにその好例だ。フューチャリズムをコンセプトとしたその他のアーティストとしては、シンガー・ソングライターのティナーシェがあげられる。彼女のアルバム『Nightride』には「Spacetime」という曲が収録されていた。またアルバム『Joyride』のアートワークでは、彼女がアンドロイドとして描かれていた。

Doja Cat – "Mooo!" (Official Video)

フューチャーR&B / ソウルというジャンルは今も広がり続けており、さまざまなアーティストやスタイルがありとあらゆる方向に向けて領域を拡大しつつある。オーストラリアの四人組ハイエイタス・カイヨーテのメンバー、ネイ・パームは、R&Bトーンを好むヒップホップ・アーティストたちのミューズとなっている。

一方、狭いジャンルに区分されることを拒否するマセゴ(Masego)は、故郷であるジャマイカのリディムの要素を元にしたフューチャー・ソウルを生み出した。彼自身の言葉を借りれば、それは「トラップハウスジャズ」だった。

Masego – Passport (Visualizer /シングル版)

このジャンルで活躍するアーティストは他にもたくさんいる。たとえばヴォーカリスト / プロデューサー / サウンド・エンジニアのナジ(Naji)は、『Act I』や『Act II』といったEPでドラムマシンを見事に使いこなし、メロウなサウンドを作り出している。

1980年代にファンキーなテクノが登場して以来、シンセサイザーはR&Bの一部となったが、現代の実験的なアーティストは再びそうしたシンセサイザーを好んで使うようになってきている。

スウェーデン出身の新進アーティスト、スノー・アレグラは、アルバム『Feels』の冒頭で自分のヴォーカルを歪ませ、大胆に切り刻んでいる。このアルバムは全体的にスペイシーなサウンドで貫かれており、シンセサイザーやキーボードが大胆な形で使われている。

All I Have – Intro

同じように、アトランタの女性シンガーで6lackのレーベルメイトであるサマー・ウォーカーは、ヒット曲「Girls Need Love」でトリップ感覚あふれるサウンドスケープと温かみのある繊細なサウンドをうまくブレンドさせている。

Summer Walker – Girls Need Love (Official Music Video)

 

境界線を壊す

ヒップホップはよりソウルフルなアプローチに回帰してきたが、それはケンドリック・ラマーの功績かもしれない。特に2015年に彼が発表したアルバム『To Pimp A Butterfly』は画期的だった。このアルバムは評論家から絶賛され、メインストリームで大きな地殻変動を起こし、意識の高いヒップホップが再び盛り上がるきっかけとなった。フリー・ジャズ、ゴスペル、スポークン・ワードを融合させたこのアルバムは、ブラック・ミュージックの基礎をより多くのファンに広げる役割を果たした。

『To Pimp A Butterfly』はスタイルの境界線を壊しただけでなく、後に続くヒップホップやR&Bのアーティストたちのために新たな道を切り開くことになった。スミノ (や彼のコラボレーション相手であるサバやノーネーム) は、ラップとヴォーカルを容易く両立させており、スポークン・ワードと並んで即興的なハーモニーを駆使している。

Kendrick Lamar – King Kunta

彼のスタイルはたくさんの要素で構成されており、エレクトロ・ファンクとネオ・ソウルを組み合わせている。R&Bラジオで流れる曲というと、今も伝統的なアダルト・コンテンポラリー系の曲が中心だが、H.E.R.やダニエル・シーザーといったアーティストたちも放送される機会が増えてきている。こうした人たちが主流になるのも、もはや時間の問題だろう。

ネオ・ソウルがモダンR&Bで再び盛り上がったきっかけは、エリカ・バドゥやビラルといった名高いアーティストたちがコンテンポラリー・カルチャーに引き続き姿を見せていることにあるのかもしれない。ビラルは、ラマーの『To Pimp A Butterfly』に収録されたふたつの曲、「Institutionalized」と「These Walls」に参加している。彼のスタイルは2001年に発表されたデビュー・アルバム『1st Born Second』からはっきり確立されていたが、そうしたスタイルがモダンR&Bというジャンルを切り開いてきたと言っても過言ではないだろう。SiR、BJ・ザ・シカゴ・キッド、マセゴといったアーティストたちは、ビラルのシャープなテナー・ヴォーカルに声質が近い。彼らの音楽は、アーシーでソウルフルな存在感を持っている。

Kendrick Lamar – These Walls (Explicit) ft. Bilal, Anna Wise, Thundercat

1998年生まれのカリードは比較的若手の部類に入るが、その声はアーロン・ネヴィルを思わせ、彼のエモ・R&Bは、ミレニアル世代やジェネレーションZから支持を集めている。彼らは、カリードの曲で描かれる恋愛の不安定さやアイデンティティの模索といったテーマに惹きつけられている。こうしたテーマは、ビラル、アッシャー、カール・トーマスらが2000年代初期に追求していたテーマと共通している。

メインストリームにも受けるトラップ&Bの魅力は、ポップ・ミュージックにとってかなり重要なものになった。それを証明する好例がポスト・マローンである。「Better Now」「Psycho」「Rockstar」といったヒットシングルのおかげで、彼のアルバム『Beerbongs & Bentleys』はチャートの首位に留まり続けた。

Post Malone – rockstar ft. 21 Savage

サブジャンルとしてのトラップ&Bは、セックス・ドラッグ・ロックンロールをモダン・ミュージックにおいて最も受け入れやすい形態で表現している。ホールジーの「Without Me」からアリアナ・グランデの「7 Rings」に至るまで、メジャーなポップ・アーティストがこのサウンドを取り入れた例は枚挙に暇がない。

Ariana Grande – 7 rings (Official Video)

やはりヒップホップ界の大物のひとり、ドレイクも過去10年間にR&Bに多大なる影響を与えてきた。その総決算となったのがアルバム『Scorpion』のB面である。「Peak」や「Doesn’t Matter To Me」といった曲を聴けば、リスナーは2010年代初頭にタイムスリップするだろう。あのころ、ティナーシェ、ザ・ウィークエンド、フランク・オーシャン、ジェネイ・アイコはこの種のサウンドで活動の基盤を固めつつあった。

Don’t Matter To Me

同じ『Scorpion』に収められていた「After Dark」では、ドレイクはタイ・ダラー・サインを起用してクワイエット・ストーム流の味付けを施し、さらには男性視点からのR&Bという作風をより強固なものにしている。

タイ・ダラー・サインは、”キング・オブ・R&B”をめぐる議論の中でダークホースと言える存在だった。彼は西海岸のヒップホップ、R&Bとポップスを結びつける力を持ち合わせていたが、それはトリー・ラネズやクリス・ブラウンといったアーティストとも共通する力だった。

 

R&Bの復活

近年になると、1990年代や2000年代初期の大スターたちが最近のトレンドを取り入れた曲で再び脚光を浴びるようになってきている。タンクの「When We」はR&Bラジオやストリーミング・サービスで旋風を巻き起こした。エイメリーは『4AM Mulholland』や『After 4AM』といったアルバムでトラップ&Bを取り入れている。

また、ビヨンセは夫のジェイ・Zと組んでザ・カーターズを結成。アルバム『Everything Is Love』でトラップ&Bや1970年代以降のR&Bを見事に表現している。マライア・キャリーは、マスタードがプロデュースした「With You」やリル・キムのサンプリングを使った「A No No」で巧みな曲作りを披露。トニ・ブラクストンは、アルバム『Sex & Cigarettes』のエモーショナルな「Long As I Live」でアダルト・コンテンポラリー・バラードに新たな風味を付け加えている。

Toni Braxton – Long As I Live

R&Bのように長い伝統があるジャンルでは、過去の偉大なるアーティストたちがスタイルのオマージュやサンプリングによって敬われている。リオン・ブリッジズは、”キング・オブ・ソウル”の称号をサム・クックから引き継いだ。またチャーリー・ウィルソンとレイラ・ハサウェイは、どちらも2019年のグラミー賞にノミネートされている。

こうしてR&Bは、再び強い影響力を持つようになった。このジャンルは、これからも新たな革新とすばらしいヴォーカリストたちによって発展し続けていくだろう。今後また新しいサブジャンルが生まれ、細分化が進むかもしれない。しかし、ソウルフルなリズムと、何か伝えたいことを内に秘めたシンガーが歌を歌い続ける限り、R&Bは消えることがないはずだ。

Written By Da’Shan Smith


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