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デフ・レパード『On Through The Night』解説:NWOBHMの名作として愛され続けるデビュー盤

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デフ・レパード(Def Leppard)が、1980年にリリースしたデビュー・アルバム『On Through The Night』は、彼らの代表作である『Pyromania (炎のターゲット)』や『Hysteria』ほどの批評面/セールス面での成功こそ収められなかったが、自信を持って最初のキャリアを歩み出したグループの姿がしっかりと捉えられたアルバムだ。

そして、彼らはその非凡なキャリアにおいて世界中で1億枚以上のレコードを売り上げ、神聖なロックの殿堂入りも果たすことになるのである。

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NWOBHMの登場

『On Through The Night』は1980年3月14日にリリースされたが、デフ・レパードが同作のリリースに至るレコーディング契約を獲得できたのは、彼らが“New Wave Of British Heavy Metal (NWOBHM)”のムーヴメントに関連付けられていたからだった。

NWOBHMという言葉は、草の根レベルで急成長を遂げつつあったUKのロック・バンド(アイアン・メイデン、タイガース・オブ・パンタン、サクソン、ダイアモンド・ヘッドなど)を一括りにするため、雑誌Soundsの記者だったジェフ・バートンが1979年5月に初めて使用した表現だった。そうした新しいバンドは、ディープ・パープルやブラック・サバス、シン・リジィといった一世代上である70年代ハード・ロック・グループへの愛を前面に押し出しながら、そこにパンクのエネルギーや活力を吹き込んだサウンドを特徴としていた。

デフ・レパードのギタリストであるフィル・コリンは2018年、Record Collectorの取材で当時のことについて次のように話している。

「(1977年には)ロックは過剰になり過ぎていた。ギター・ソロを延々と弾くような、本当につまらないものになっていたんだ。パンクが登場して全員をぶっ飛ばしてくれたときは最高の気分だったよ。(セックス・)ピストルズには何年振りかってくらいに興奮したよ。“God Save The Queen”はいまでも着信音にしているんだ!」

“の上なくタイトな演奏”

タインサイドに拠点を置くニート・レコードをはじめ、新興の独立レーベルが次々に設立されたのもこの時期だった。そうしたレーベルはパンクのDIY精神に触発され、モーターウェイやタイガース・オブ・パンタンなどNWOBHMに括られるグループの初期のシングルを発表。そうして、パンクとメタルの境界も曖昧になっていった。

その流れの中でデフ・レパードも、1979年前半にセルフ・タイトルのデビューEPを自主制作でリリース。グループが自ら興したレーベル、Bludgeon Riffolaから発表されたこのレコードは、粗削りながらも爽快感のある1作に仕上がった。そして、ある出来事がきっかけで彼らの活動は一気に軌道に乗り始める。ヴォーカリストのジョー・エリオットがシェフィールド大学で、BBCラジオ1の人気DJであるジョン・ピールにこのEPを手渡したのだ。

ジョン・ピールの後押しとラジオでの全国放送を得た彼らは、『Def Leppard EP』と高まりつつあったライヴ・アクトとしての評判を武器に、UKとヨーロッパでのアルバム・リリースに向けたフォノグラムとの契約を獲得した(アメリカではマーキュリーと契約)。そして、新たな所属レーベルとなったフォノグラムは、ジューダス・プリーストの作品などを手がけていたトム・アロムをデビュー・アルバムのプロデューサーに起用する。

レコーディングは、リンゴ・スターが田舎町のアスコットに所有していたスタートリング・スタジオで行われた。このときバンド側もプロデューサー側も、デフ・レパードの持ち味であった荒々しいライヴ・サウンドをアルバムに落とし込みたいと考えていたという。そうして『On Through The Night』の制作は急ピッチで進められ、1979年のクリスマス前に行われた2週間のセッションでレコーディングを完了。その後、1980年前半の2週間を費やして微調整やミキシングが行われた。

プロデューサーのトム・アロムは2011年、クラシック・ロック誌の取材で次のように話している。

「一緒に働くには最高のやつらだった。素晴らしいバンドだったよ。アルバムを作り始める前に、彼らの演奏を見に行ったんだ。デフ・レパードは、そのときバーミンガムでAC/DCのオープニング・アクトを務めていた。見事だった。若くて、活力に満ちていて、すごくタイトな演奏だった。だから、彼らから優れたパフォーマンスを引き出すのは簡単だろうと思ったんだ」

 

野心が垣間見える作品

今や伝説となっているその後のアルバムのような落ち着きやスマートさこそみられないが、それでも威勢の良いサウンドの『On Through The Night』には沢山の魅力がある。

キャッチーでエネルギーに満ちた「Wasted」「Rock Brigade」「It Could Be You (誘惑の叫び) 」などのアンセム、再録された『Def Leppard EP』の人気曲である「Rocks Off」などからは、彼らの荒々しいロック・サウンドと3分間のポップ・ソングの形式との相性の良さがよくわかる。

Rocks Off

他方、クイーンのように多重録音されたヴォーカル・アレンジが印象的な「Hello America」や、ラッシュの作品のように入り組んだ大作「Overture」からは、ジョー・エリオット率いるグループの野心が垣間見える。

Def Leppard – Hello America • TopPop

だがもっと明白なのは、劇的な1曲「Sorrow Is A Woman」が、「Bringin’ On The Heartbreak」や「Love Bites」といったその後の楽曲の青写真になっていることだ。激しい感情がこもったそれらのロック・バラードで、デフ・レパードはのちに世界的なバンドへと飛躍を遂げることになるのだ。

Sorrow Is A Woman

デビューながらの成功

『On Through The Night』は全英トップ40チャートで最高位15位をマークし、早くもデフ・レパードに成功への道を開いた。彼らは同作のプロモーションのため、アメリカでパット・トラヴァースやテッド・ニュージェントらの前座を務めて注目を集めたほか、UKでもレディング・フェスティバルへの出演を果たしている。

「バンドのデビュー・アルバムとしては恐ろしく優れている」と評したローリング・ストーン誌をはじめ、『On Through The Night』は批評家から高い評価を受けた。何より大きな意味を持っていたのは、そうした評判が、AC/DCの作品のプロデューサーを務めていたマット・ラングの目に留まったことだ。彼はのちに『High ‘n’ Dry』『Pyromania』『Hysteria』のプロデュースを手掛け、デフ・レパードを現在のような伝説的グループへと成長させることになる。

Written By Tim Peacock



デフ・レパード『On Through The Night』
1980年3月14日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


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デフ・レパード『Diamond Star Halos』
2022年5月27日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



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