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1969年6月ハイド・パーク、12万人の観衆を前にしたブラインド・フェイスのデビュー・ライブ

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Photo: Mick Gold/Redferns

1969年はさまざまなフェスティヴァルが開催された1年だった。実際、こうした音楽フェスの話になると、この年のことが引き合いに出されることが多い。夏には北米とイギリスのどこかで、毎週のようにフェスティヴァルが開催されていた。同年最初の大きなフェスティヴァルは、カナダで行われたアルダーグローブ・ビーチ・ロック・フェスティヴァルだ(ニュー・ボードヴィル・バンドやギター・ショーティーなど風変わりな顔ぶれが出演)。

一方、UKで開催されたその年初めてのハイド・パークでのコンサートでは、エリック・クラプトンの新バンド、ブラインド・フェイスが12万人の観客の前に初めて登場した。

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ブラックヒル・エンタープライズが主催した無料コンサートにブラインド・フェイスがヘッドライナーとして出演したのは1969年6月7日の土曜日だった。ブラックヒルを経営していたピーター・ジェナーとアンドリュー・キングはロンドンのアングラ・シーンの中心人物で、トッテナム・コート・ロードにあったUFOクラブの開店を手伝ったのも彼らだった。

ピーター・ジェナーはロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで教鞭を執っていたこともあったが、ラドブローク・グローブの外れの店を改装して5人でブラックヒル・エンタープライズを興したのだった。

ブラックヒル社の本業はエージェントで、ハイド・パークのコンサートの恩恵を誰よりも受けたのは彼らが抱えるアーティストで、彼らはUKで小規模なライヴを重ねても得られない名声を1日にして得ることになったのだ。1968年にブラックヒルは初めて英国建設省にハイド・パークでのコンサート開催の伺いを立てたが、当初はきっぱりと棄却されている。だが粘り強い交渉が身を結び、1968年6月29日にピンク・フロイドをヘッドライナーに迎えたコンサート(サポートはティラノサウルス・レックス、ジェスロ・タル、ロイ・ハーパー)が行われた。

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ハイド・パークでのコンサートはブラインド・フェイスにとって、1969年に予定されていた4回のショーのうちデビュー・ステージに当たる。同日のオープニング・アクトはサード・イヤー・バンド、リッチー・ヘヴンス、ドノヴァン、そしてエドガー・ブロートン・バンド(当時のイギリスのフェスティヴァルはこのバンドなしで成立しなかった)だった。ステージの作りは間に合わせ程度で、舞台の高さも1メートルほどしかなかった。

コンサートは午後2時半頃に始まった。猛暑日にも関わらず12万人が詰めかけたが、当時のイギリスのメディアや大衆紙でもほとんど取り上げられることはなかった。観客の反応を見ても、唯一、ギターを狂気的なほどにかき鳴らしたリッチー・ヘヴンスを除いて、熱狂を生んだアクトはいなかった。おそらく観客はエリック・クラプトンの華麗なギター・プレイを期待していたはずだ。何しろ、彼がジンジャー・ベイカー、スティーヴ・ウィンウッド、リック・グレッチと結成したブラインド・フェイスは、彼らの輝かしい経歴から新しい「スーパーグループ」と呼ばれる存在だったのだ。

ブラインド・フェイスがステージに上がったのは午後5時頃のこと。バンドは「Well All Right」を皮切りにデビュー・アルバム『Blind Faith』(邦題:スーパー・ジャイアンツ)の収録曲の大半を披露した。セット・リストはクリームというより、トラフィックのレパートリーに近いブルージーな楽曲。ジンジャー・ベイカーはこう回想している。

「当時のエリックの演奏はすばらしかった。それなのにハイド・パークでは、いつまでたっても弾き始めなかったんだ」

当のクラプトンはこう話す「ステージを降りたとき、俺はすっかり震え上がっていた。またみんなを失望させたと思ったんだよ」。

Blind Faith 2

後にヒプノシスに参加するデザイナーのリチャード・エヴァンスは、この際のステージを以下のように評している。

「確かに、あの時の彼らはクリームほどに洗練されてはいなかった。しかし、名ミュージシャンたちが少々“煮え切らない”演奏をしたからといって魅力は損なわれない。なぜならそれこそが良質なロックンロールだからだ。少し荒削りで、ところどころぎこちなく、ミスもある。だが、それのどこが問題だというのか」

ミック・ジャガーと、ガールフレンドのマリアンヌ・フェイスフルもこのステージを見ていたという。ブラインド・フェイスの演奏を目の当たりにし、大勢が詰めかけた会場の空気に浸ったミックは、ザ・ローリング・ストーンズの新曲のプロモーションとしてハイド・パークでの無料コンサートを行うことに決めた。これこそが、当時スランプ気味と思われていたストーンズに今一度脚光を集める方法だと考えたのだ。ブラインド・フェイスは、ステージ脇から見守るミックへの挨拶代わりにストーンズの「Under My Thumb」のカヴァーを披露している。数日後、ミック・ジャガーはメロディー・メーカー紙の取材に応え、以下のように語っている。

「すごくいいバンドだと思ったよ。俺はステージのすぐ後ろにいたから姿は見えなかったけれど、彼らはどこか緊張しているようだった。これからまとまりが出てくるだろうし、何よりジンジャーはすばらしかった。俺の知っている中で最高のドラマーだね」

Written By Richard Havers



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1969年8月9日発売
CD&LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music

 

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