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シン・リジィのベスト・ソング20:アイルランドの英雄フィル・ライノット率いるロックバンドの名曲

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“画期的なロックン・ロール・バンド”

シン・リジィ(Thin Lizzy)以上にその言葉にふさわしいバンドはそうそうない。カリスマ性あふれるリーダー、フィル・ライノットに率いられたこの華々しいグループは、1970年代のハード・ロックを代表する、息の長い名曲をいくつか生み出している。

そしてあの比類のないアルバム『Live And Dangerous』が証明しているように、彼らはとてつもなく強力なライヴ・バンドだった。シン・リジィはパンクやメタルのファン向けにたくさんの曲をレコーディングしていたが、その一方でこのバンドはすばらしいバラードも巧みに作り上げることができ、ファンクやアイリッシュ・トラディショナルのスタンダードをこなす実力も持っていた。

2020年、彼らは「ロックの殿堂」にノミネートされた。そこで今回は、ダブリンから生まれたまさしく唯一無二のこのグループを讃えるため、シン・リジィの名曲を20曲選んでご紹介しよう。

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20位「The Rocker」

この曲は、ほぼ間違いなく、シン・リジィが出した最初の名曲と言っていいだろう。実にふさわしい題名がついた「The Rocker」は、彼らが1973年に発表したサード・アルバム『Vagabonds Of The Western World (西洋無頼) 』の中でもひときわ優れた曲だった。

1974年、オリジナルメンバーのギタリスト、エリック・ベルの代わりにブライアン・ロバートソンとスコット・ゴーハムがシン・リジィに加入すると、それ以前の曲はライヴであまり演奏されなくなったが、それでもこの曲はレパートリーにしっかり残っていた。1970年代中期から後期のシン・リジィではスタイリッシュで小生意気な作風が特徴的となったが、その基本形を形作ったのがこの「The Rocker」である。

The Rocker (7" Edit)

 

19位「Killer On The Loose」

シン・リジィがリリースした楽曲の中で最も物議を醸したのが、このエッジの効いた「Killer On The Loose」だった。これがシングルで発表された時、イギリスでは悪名高き連続殺人犯のピーター・サトクリフ (ゴシップ誌がつけたあだ名は「ヨークシャー・リッパー」) が警察に追われ、逃走していたのだ。

この歌はサトクリフにインスピレーションを受けて作られたわけではなかったが、それでもメディアは連続殺人事件に便乗しようとしているとしてフィル・ライノットを非難した。1980年の秋、「Killer On The Loose」は全英チャートのトップ40に入り、最高10位を記録している。

Thin Lizzy – Killer On The Loose

 

18位「Whiskey In The Jar」

この「Whiskey In The Jar」は、役人から金を強奪した追い剥ぎが恋人に裏切られるといった内容の、古くからあるアイルランド民謡だった。1960年代になると、この曲はアイリッシュ・フォークのグループ、ザ・ダブリナーズのレコードで広く人気を集めることになった。色恋と悪事がいっぱいに詰まったこの曲の歌詞に、フィル・ライノットは魅力を感じたのだ。

これはシン・リジィの全体的なサウンドを代表するような曲ではなかったが、それでも彼は自分のバンドでカヴァー録音した。1973年2月、そのシングルが彼らにとって初めてイギリスのヒット・チャートのトップ10に入るヒットとなった(アイルランド・チャートでは初めての首位を獲得している)。

Whiskey In The Jar

 

17位「Renegade (反逆者) 」

1981年に発表されたアルバム『Renegade』で、シン・リジィは急速に変化していた当時のトレンドに対応しようとしていた。とはいえ、彼らの曲作りの腕は決して鈍っていなかった。その証拠に、このアルバムには優れた曲が並んでいた。その例としては、ノリのいい「Hollywood (Down On Your Luck)」やラテン風味の「Mexican Girl (哀しみのメキシカン・ブラッド) 」、そしてメランコリックなアルバム・タイトル曲が挙げられる。これらの曲は、シン・リジィの代表曲に選ばれる資格が十分にあるだろう。

Renegade

 

16位「She Knows」

シン・リジィの4枚目のアルバム『Nightlife』(1974年に発表)は、そのあとに出た『Jailbreak』などと比べるとパワフルさが少し欠けていたかもしれない。このアルバムは過小評価されがちだが、それでも名盤だと言える。アルバム冒頭の「She Knows」には、このグループの実にポップでキャッチーな側面がふんだんに出ている。しかしそれだけではない。この曲は、フィル・ライノットとギタリストのスコット・ゴーハムが一緒に作った初めての作品という点でも重要だ。

このあとふたりはたくさんの曲を共作していく。スコットは2013年のインタビューでこう語っている。

「フィルはみんなに曲を作るように勧めていた。彼は、ひとりきりのローン・レンジャーになりたくなかったんです。彼はいつだって、他の人と共作したがっていた。特にバンドのメンバーとね」

She Knows

 

15位「Southbound」

1977年のアルバム『Bad Reputation (バッド・レピュテイション〜悪名) 』にはたくさんのハイライトがある。そのひとつ、内省的な「Southbound」ではフィル・ライノットが放浪する吟遊詩人の物語を生き生きと描き出している。その詩人は、初期のシン・リジィと同じように、富と名声を追い求めながら一夜限りの仕事を無数にこなしていく。哀愁を帯びた歌詞のこの曲はスコット・ゴーハムのギターが奏でる甘美なメロディーで彩られており、1970年代後期を通してライヴでは人気曲となっていた。

Southbound

 

14位「The Sun Goes Down (夕暮れにて) 」

シン・リジィが発表した最後のスタジオ・アルバム『Thunder And Lightning』(1983年)は、ライノット、ゴーハム、ドラムスのブライアン・ダウニーという以前からのメンバーに加え、ギターのジョン・サイクスとキーボードのダーレン・ワートンという新加入のメンバーが参加して作られた。これは彼らの他の作品と比べるとメタル色が強い内容に仕上がっていたが、それでも優れたアルバムであることは間違いない。それに今から考えれば、これは最後の幕切れというよりも新たな章の幕開けのような雰囲気の作品だった。

『Thunder And Lightning』では、「Cold Sweat」とアルバム・タイトル曲がマイナー・ヒットになっている。しかしこのアルバムでも特に優れた曲と言えば、哀愁を漂わせたネオ・バラード「The Sun Goes Down (夕暮れにて) 」ということになるだろう。

The Sun Goes Down

 

13位「Suicide」

コンピレーション『At The BBC』に収録された1973年7月のヴァージョンを聴くとわかるように、「Suicide」は初期のシン・リジィのステージで定番の人気曲だった。当時この曲は、エリック・ベルが弾くブルージーな泣きのスライド・ギターの見せ場となっていた。やがてこの曲は1975年のアルバム『Fighting』に収録され、そこでは新加入のリードギタリストふたり、ブライアン・ロバートソンとスコット・ゴーハムが存分に腕を振るっている。

Suicide

 

12位Johnny The Fox Meets Jimmy The Weed (サギ師ジョニーとヤクザのジミー) 」

シン・リジィのメンバーは、それぞれが多種多様な音楽を好んでいた。そうした音楽の趣味が反映されているのが、このバンドにしては珍しくファンキーな「Johnny The Fox Meets Jimmy The Weed」である。アルバム『Johnny The Fox (サギ師ジョニー) 』に収録されていたこの曲は、フィル・ライノットが好んでいたフィリー・ソウルのグループ、オージェイズの「For The Love Of Money」が土台となっており、そちらの曲のメイン・リフから影響を受けている。スコット・ゴーハムはクラシック・ロック・マガジンのインタビューでこう語っていた。

「(ライノットは)サウンドチェックでいつもあのファンキーなリフを弾いていました。やがて、それに合わせてブライアン・ダウニーが彼ならではのファンキーなドラムを叩き始めて、そこから曲全体がまとまっていったんです」

この曲の題名に登場するジョニーとジミーは実在の人物がモデルになっている。彼らは、ライノットの母親がマンチェスターで経営していたホテル、クリフトン・グレインジの常連客だったという。

Thin Lizzy – Johnny The Fox Meets Jimmy The Weed

 

11位「Do Anything You Want To (ヤツらはデンジャラス!!) 」

ギタリストのゲイリー・ムーアをフィーチャーした唯一のアルバム『Black Rose : A Rock Legend』は隅から隅まで名曲で埋め尽くされていた。それにふさわしく、このアルバムは1979年の初夏に全英チャートのトップ40入りを果たし、最高2位を記録している。

アルバム冒頭に収録された「Do Anything You Want To」はまさにシン・リジィの代表曲と言っていいすばらしい内容で、こちらもシングルとして全英チャートのトップ20に入っている。信じられないことに、この曲の楽しいミュージック・ビデオでは、フィル・ライノットが学校の教師を演じており、手に負えない不良生徒たち(リジィの他のメンバーを含む)を受け持っていた。

Thin Lizzy – Do Anything You Want To

 

10位「Sarah」

紛らわしいことに、シン・リジィはこれより前にも同じ題名の曲を発表している(1972年のアルバム『Shades Of A Blue Orphanage』に収録)。しかしここで取り上げるのは、そちらとはまったく違う曲だ。フィル・ライノットは、自分の娘が生まれたことをきっかけにこの優しく心にしみる「Sarah」という曲を作った。

噂によれば、この曲はもともとアルバム『Black Rose』ではなく、ライノットのソロ・レコードのために録音された。レコーディングに参加したメンバーは、ライノット、ギタリストのゲイリー・ムーア、そしてスタジオ・ミュージシャンのドラマー、マーク・ノーシーフの3人だけだった。しかし最終的には『Black Rose』の収録曲に選ばれ、このアルバムから出た3枚目のシングルにもなった。そして全英チャートのトップ30に入るヒットを飛ばしている。

Thin Lizzy – Sarah

 

9位「Warriors (勇士) 」

シン・リジィの出世作となった1976年のアルバム『Jailbreak (脱獄) 』にはたくさんのハイライトがある。たとえば、彼らの曲の中でもとりわけハードな曲のひとつ「Warriors」 もそのひとつ。この曲の歌詞では、フィル・ライノットがジミ・ヘンドリクスやデュアン・オールマンといったミュージシャンを讃えている。こうしたスターたちはギリギリの生活をしながら「限界まで挑戦しようとはっきり意識していた」。そうした歌詞に刺激されたのかバンドは非常にダイナミックな演奏を披露している。

スコット・ゴーハムは2013年の『American Songwriter』のインタビューでこう語っている。

「ああいう曲があるから、シン・リジィでギタリストをやるのは本当にクールなことだったんです。ほとんどの曲はギターが原動力になっていた。ああいうのはギター・ソロを弾くためにあるような曲でした」

Warriors

 

8位「Jailbreak (脱獄) 」

特徴ある簡潔なリフ、リード・ギター2本のバトル、アウトローを歌った歌詞、派手に盛り上がるコーラス。「Jailbreak」は、シン・リジィの名曲にふさわしい要素をすべて備えている。それは一度聴くだけですぐわかるだろう。

今ではクラシック・ロック・ラジオの定番曲となっているこの曲は、1976年にヒットを収めて以来、特に人気の高い作品のひとつとして定着した。これをカヴァーしたアーティストがたくさんおり、その中にはボン・ジョヴィアンスラックス、そしてリジィの元メンバーであるゲイリー・ムーアも含まれている。

Jailbreak

 

7位「Rosalie」

ボブ・シーガーが作った「Rosalie」は、もともとはオンタリオ州ウィンザーのラジオ局CKLW-AMの音楽ディレクターを務めていたロザリー・トロンブリーを讃える歌だ。CKLW-AMは、1960年代から1970年代のアメリカを代表するヒット曲専門ラジオ局のひとつだった。

シン・リジィは、1975年の『Fighting』でこの曲をカバーしパンチの効いたスタジオ・ヴァージョンを録音している。とはいえほとんどの人は、1978年の『Live And Dangerous』に収録されたエネルギー全開のライヴ・ヴァージョンが「Rosalie」の決定版だと考えているはずだ (こちらのヴァージョンは『Jailbreak』の「Cowboy Song」も少々引用しながら演奏されている) 。

Rosalie (Cowgirl's Song)

 

6位「Waiting For An Alibi (アリバイ) 」

『Black Rose』から最初にシングル・カットされた「Waiting For An Alibi」は、パンクのエネルギーに満ちあふれた曲だ。歌詞は、フィル・ライノットが作った中でもとりわけ映画的なイメージが広がっている。さらにはサビには印象的なコール・アンド・レスポンスが含まれており、スコット・ゴーハムとゲイリー・ムーアの堂々としたギターもフィーチャーされている。まさにクラシックロックの名曲と言えるようなパンチの効いたダイナミックな曲だ。ラジオ向きの仕上がりになったこの曲は1979年の初頭に全英チャートのトップ40入りを果たし、最高9位を記録している。

Waiting For An Alibi

 

5位「Still In Love With You (それでも君を) 」

「Still In Love With You」は、間違いなくシン・リジィが作り上げた最高のバラードだ。これはもともと、1974年の初頭にフィル・ライノット、ブライアン・ダウニー、ゲイリー・ムーアの3人がデモ録音している。そのデモは、同じ年の夏にポリグラム・レーベルと新たに契約を結ぶとき、かなりの効果を発揮した。

正式なスタジオ・ヴァージョンは1974年11月発表のアルバム『Nightlife』に収録され、そのヴァージョンはライノットとフランキー・ミラーのデュエットで録音されていた。しかし「Still In Love With You」が真価を発揮するのはライヴでのことだった。『Live And Dangerous』収録の8分間のヴァージョンはブライアン・ロバートソンの華麗なリード・ギターで彩られており、まさに圧巻だ。

Still In Love With You (Live)

 

4位「Don’t Believe A Word (甘い言葉に気をつけろ) 」

アルバム『Johnny The Fox』を象徴するヒット曲「Don’t Believe A Word」は、簡潔だが魅力あふれる作品だ。たった2分20秒の中に必要なものすべてが詰まっている。全英チャートで最高12位という記録は、この曲にはっきりとした売れ線の要素が含まれていたことを反映しているといえるだろう。

興味深いことに、このひどくパンチの効いたアンチ・ラブソングは、初めのうちはベン・E・キングの「Stand By Me」に似たアコースティック・バラードだった。やがてブライアン・ダウニーがシャッフルのリズムを付け加え、さらにブライアン・ロバートソンがシャープで特徴的なリフを持ち込み、アレンジがすっかり変わってしまったのだ。

Thin Lizzy – Don't Believe A Word

 

3位「Emerald」

「Emerald」は、『Jailbreak』の最後を締めくくるすばらしい曲。ここでは、フィル・ライノットが自ら誇りとするアイルランドの伝統を歌詞の中でいかんなく発揮している。これは、彼が作った歌詞の中でも特に鮮烈で印象的な部類に入るだろう。また音楽的な面でも力作になっている。スコット・ゴーハムは2013年の『Classic Rock』のインタビューで、「Emerald」をきっかけにブライアン・ロバートソンとの特別な化学反応が始まったと語っている。

「ブライアン・ロバートソンがリード・ギターの掛け合いを始めたのはあのときが初めてでした。彼が弾いたあと、それに答えるフレーズを俺が弾いて……そういうやり取りを続けていった。あれを手始めに、ギタリストふたりで掛け合いをやるというスタイルの曲作りが確立していったんです」

Emerald

 

2位「Dancing In The Moonlight」

1970年代のハード・ロック・バンドの中で、「Dancing In The Moonlight」のような曲を作るだけの度胸を持ったバンドはそうそう見当たらなかった。これはダブリンの街角で遭遇した若い頃の災難を懐かしく振り返る曲だ。これは1977年にヒットし、今も人気が高い。

フィル・ライノットはヴァン・モリソンのブルーアイド・ケルティック・ソウルに惚れ込んでいたが、そうした気持ちはこの曲にはっきり表れている。バックの演奏にはスーパートランプのジョン・ヘリウェルがサックスで参加。またスコット・ゴーハムも魅力的なギター・ソロを弾いている。

Dancing In The Moonlight (It's Caught Me In It's Spotlight)

 

1位「The Boys Are Back In Town (ヤツらは町へ) 」

アルバム『Jailbreak』の収録曲のうち、少なくとも半数はシン・リジィのベストソングリストに入れてもいい。とはいえフィル・ライノットとシン・リジィの代名詞ともいえる代表曲を選べと言われた場合、このアルバムから出たヒット曲「The Boys Are Back In Town」 で決まりだろう。

肩で風を切るような威勢の良さでいっぱいのこの曲は、まさしく不滅のロック・ソングだ。ここでは、ライノットが世界中のマッチョな連中を讃えている。この曲はシン・リジィにとって転機となり、全英チャートのトップ10に到達。英米両方での成功に道を開いた。

Thin Lizzy – The Boys Are Back In Town

 

Written By Tim Peacock


74曲もの未発表音源やドキュメンタリー番組を収録したボックス


シン・リジィ :『ROCK LEGENDS』
2020年10月23日発売
CD / iTunes / Apple Music

<日本盤のみ>
英文解説翻訳/歌詞対訳付/SHM-CD仕様/日本語字幕付(DVD)



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