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ルイ・アームストロング「What A Wonderful World / この素晴らしき世界」の舞台裏と歌にこめた意味

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Photo: Verve Records / Courtesy of Louis Armstrong House Museum

ルイ・アームストロング(Louis Armstrong)の代表曲であり、今でも世界中で流れ続ける「What A Wonderful World / この素晴らしき世界」の新たなミュージック・ビデオが公開となった。当初はレコード会社の社長から没にされたが、デモを気に入ったルイ・アームストロングは秘密裡に録音を実施。そんな制作舞台裏、そして歌詞や曲にはどんなメッセージが込められているのか? をご紹介。

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Louis Armstrong – What A Wonderful World (Official Video)

ニューオーリンズの歌手でトランペット奏者のサッチモことルイ・ルームストロングは、1923年からレコードを作り続けていたが、1968年2月、彼が66歳の時に自身のキャリアの中で最も売れた曲「What A Wonderful World(この素晴らしき世界)」をリリースした。

1920年代のディキシーランド・スタイルのジャズの先駆者の一人として知られるアームストロングだが、グラミー賞を受賞した1964年のシングル「Hello Dolly」でザ・ビートルズの「Can’t Buy Me Love」を蹴落として全米シングルチャート1位を記録し、ジャズ以外のポップ・チャート・ファンでも知らない人はいなかった。しかし、そんな状態の中でリリースされたスロー・ポップ・バラード「What A Wonderful World」はそれまでの彼のどの活動とも全く違った結果になった。

ルイ・ルームストロングはゴツゴツとした声で希望の歌を歌い、全ての人々の心に響くようだった。彼のパフォーマンスを魅力的なものにしたのは、その切なさだ。66歳という黄昏の年を迎え、心臓病を患っていたアームストロングが、人生の最後に感謝の気持ちを込めて、多くの人が当たり前のことを当たり前にこなして生きていることを見直しているかのような印象を受ける。

What a Wonderful World

没となり、秘密裡に行われた録音

「What A Wonderful World」は1967年にジョージ・デヴィッド・ワイスが、ABCレコードでアームストロングのプロデュースを担当していたジョージ・ダグラスのペン・ネームを持つボブ・シールと一緒に書いた曲だ。2005年の著書『What A Wonderful World: A Lifetime Of Recordings』のなかで、この曲は60年代後半のアメリカが直面していた、ケネディ暗殺、ベトナム戦争、人種間の争い、いたるところでの混乱、深まる国民的トラウマといった問題の解決のための心強い解毒剤となることを意図していた、とボブ・シールは述べている。

ボブ・シールによる「What A Wonderful World」のデモテープを聞いたアームストロングはこの曲の録音を熱望していたが、ABCの社長ラリー・ニュートンの好みに合わずに拒否され、一時は暗礁に乗り上げた。そんな社長の意見にもかかわらず、アームストロングは1967年9月のラスベガスでのライヴの直後にこの曲のレコーディングを密かに実行した。彼のヴォーカルはオーケストラとの生演奏で録音されたがスムーズに進まなかった。というのも近くを通り過ぎる貨物列車の大きな警笛がスタジオのマイクに拾われたため、2回のテイクがダメになっていたのだ。

しかし、アームストロングが直面していた問題はそれだけではなかった。彼のプロモーション用の写真を撮るためにラスベガスに来ていた社長のラリー・ニュートンは、レコーディング・セッションのことをききつけ、それを止めさせようとしたのだ。ボブ・シールはなんとか社長をとめることができたが、このシングルがアメリカでリリースされたときに、社長のラリーはこの曲の宣伝活動を拒否して復讐を果たした。

時代を超えたヒットとメッセージ

そんなこともありアームストロングの母国アメリカでは「What A Wonderful World」は売れなかったものの、ヨーロッパを中心とした世界各地では大成功を収め、イギリスではシングルチャートに29週間も入り続けて60万枚を売り上げるほどで、オーストリアでもチャート1位を獲得した。

アームストロングは、彼が亡くなる1年前の1970年に新たにイントロを加え「What A Wonderful World」を再録音している。そして19887年の映画『グッドモーニング,ベトナム』に使われたことで、この曲は再びチャートに登場して新しい世代のリスナーの注目を集めた。その11年後、この曲はグラミー賞の殿堂入りを果たしている。それ以来、トニー・ベネット、ジョーイ・ラモーン、セリーヌ・ディオン、フレーミング・リップスなど、多様なカバー・ヴァージョンが「What A Wonderful World」の象徴的な地位を確固たるものにしている。

オリジナルのリリースから50年以上経過した今でも、ルイ・アームストロングの「What A Wonderful World」は、愛、平和、調和という時代を超えたメッセージを通してインスピレーションを与え続けている。アームストロングにとって、それは可能性の物語だった。彼は1970年のバージョンの曲のイントロでこう言っている。

最近若いやつがよく俺にこう言ってくるんだ
「“この素晴らしき世界”ってどういう意味なんですか?」
「世界中で戦争が行われていますよね?」
「それも素晴らしいっていうんですか?」
「飢饉や環境汚染の問題もありますよね?」
「全然すばらしくなんてないですよ」
落ち着いてこのじいさんの言うことに耳を貸してくれ
俺には世界がそんなに悪いって思えない
人間が世界にしていることが悪いんだ
俺が言いたいのは、世界にもう少しチャンスを与えれば、
みんなその素晴らしさがわかるってことさ
愛だよ愛。それが秘訣なんだよ
もしもっとみんながお互いを愛しあったら
沢山の問題なんて解決される
そして世界はとびきり面白くなる
だからこのおいぼれは言い続けるのさ

Louis Armstrong – What A Wonderful World (Original Spoken Intro Version) ABC Records 1967, 1970

Written by Charles Waring




ルイ・アームストロング『What A Wonderful World』
CD / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music


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