Join us

News

2021年英アルバムチャート1位の約半分がロック作品。復権の兆しと近年で最も勢いがある理由

Published on

Photo by James Giddins on Unsplash

ストリーミング時代になり世界的にポップやヒップホップが台頭している音楽シーンですが、全英アルバムチャートではロック・アルバムがチャート1位を獲得することが、昨年、そして2021年の上半期では格段に増えています。1位になったロックの作品や話題の作品、そしてなぜロック・アルバムが1位になっているのかについて『rockin’ on』5代目編集長、現在は音楽ライター/ジャーナリストとして活躍されている粉川しのさんに解説いただきました。

<関連記事>
英チャートに異変!?久々にロックアルバムが1位を連発中
イージー・ライフ(イージー・ライフ):UKバンドの枠組みからはみ出す5人組の魅力とは
イージー・ライフ『life’s a beach』解説:コロナ禍で作り上げた逃避/日常/希望


 

5月28日にリリースされたイージー・ライフの待望のデビュー・アルバム、『life’s a beach』が6月4日付のUKオフィシャル・チャートで見事2位を獲得した。ちなみに同週の1位は世界規模で大ブレイク中のオリヴィア・ロドリゴの『Sour』であり、それと対峙した新人バンドとしては大健闘の2位だと言えるだろう。『life’s a beach』の素晴らしさについては以前こちらで力説しているが、同作はUK の批評家からも極めて高い評価を集めており、今年のイギリスのバンド・シーンを象徴する一作となるのは間違いない。

easy life – skeletons (live) | vevo studio performance

リリースから約1ヶ月後の6月には、大人気オンラインゲーム『フォートナイト』との驚きのコラボも実現した。イギリス人アーティストが同ゲームとコラボするのは初めてのことで、さらに言えばロック・バンドとしても初の快挙だという。このニュースを聞いた時は何ともシュールな組み合わせだと思ったが、蓋を開けてみればイージー・ライフがゲーム内に登場する「The O2」島でライブを繰り広げるという、想像以上にがっぷり四つに組んだコラボレーションになっていた。

ちなみに「The O2」はロンドンに実在するイギリス有数の巨大ライブ会場であり、そのリアルとバーチャルの交差点に立つのがイージー・ライフだったというのも、『life’s a beach』を聴けば納得だろう。このアルバムはまさに夢と現実、ソーシャルとパーソナルを行き来することがテーマのひとつになっていたからだ。『フォートナイト』内で繰り広げられた実際のバーチャル・ライブの映像がこちら。

easy life – live at The O2 in Fortnite Creative (full set)

 

2021年英上半期1位獲得ジャンル

そんなイージー・ライフの『life’s a beach』だけではなく、UKロック・バンド/ギター・ミュージックの活況ぶりは、この2021年にも顕著だ。1月最終週に今年初の全英No.1ロック・アルバムとなったユー・ミー・アット・シックスの『Suckapunch』から、6月最終週の1位であるノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズのベスト盤『Back the Way We Came: Vol. 1 (2011–2021)』まで、2021年上半期に全英1位を獲得したロック・アルバムは計12作品。年間で計19枚のロック・アルバムが1位になった昨年と比較しても、かなりのハイペースでここまで来ていると言っていいだろう。ちなみに2019年のNo.1ロック・アルバムは12枚、2018年に至ってはわずか3作品(アークティック・モンキーズ、ミューズ、The1975)だったことを思えば、この1年半の間はUKロックの復調が継続しているということになる。

*iTunes/Amazonらのジャンル分けをもとに全ジャンルを5つに分類(編集部調べ)

You Me At Six – Beautiful Way

 

1位獲得ロックアルバムと注目作

2021年上半期に全英No.1を獲得した12枚のロック・アルバムの顔ぶれは実に様々だ。前述のユー・ミー・アット・シックス、そして『For Those That Wish to Exist』でキャリア初の1位を獲得したメタルコア・バンド、アーキテクツのように、ゴリゴリにハードなロック作品が長期ロックダウンで鬱々としていたUKシーンに風穴を空けた意味は大きい。昨年もビッフィ・クライロの『A Celebration of Endings』が1位獲得で爪痕を残したが、UKらしいメロディアスなインディー・ロックだけではなく、こうしたラウド・ロック勢がきっちり存在感を示しているのも、現行のUKロックの強みでもある。

ベテラン勢の活躍も顕著だ。特筆すべきは昨年の『On Sunset』、今年の『Fat Pop (Volume 1)』と2年連続でNo.1アルバムをリリースしたポール・ウェラーだ。『On Sunset』のツアーがパンデミックの影響で出来なくなったので、「だったらアルバムを作ろう」ということだったらしいが、還暦をとうに過ぎた大ベテランとしてはもはや異次元のバイタリティだ。しかもタイトルにもあるように非常にメロディアス&ポップな仕上がりで、ロックダウン鬱を吹き飛ばすような一作なのだ。初ベスト盤でソロ10周年の区切りをつけたノエル・ギャラガーも、連続1位記録を再び更新している。

Paul Weller ★ FAT POP LIVE ★ Special 5-track performance

ちなみに2021年上半期のアメリカで、ビルボード・チャートで1位を獲ったロック・アルバムは1枚もない。No.1アーティストの顔ぶれはテイラー・スウィフト(『evermore』『Fearless (Taylor’s Version)』)、ジャスティン・ビーバー(『Justice』)、オリヴィア・ロドリゴ(『Sour』)らポップ勢と、ロッド・ウェイブ(『SoulFly』)やリル・ベイビー&リル・ダーク(『The Voice of the Heroes』)らヒップホップ勢が占めていて、UKチャートとは全く異なる様相を呈している。US/UK同時進行で売れているのはオリヴィア・ロドリゴの『Sour』くらいだ。それだけUKシーンがガラパゴス化しているとも言えるが、一方のアメリカでもカントリー・アルバムとして史上最高のストリーミング数を記録したモーガン・ウォーレンの『Dangerous: The Double Album』(10週連続全米1位!)のような極ローカルなお化けヒット作もあるわけで、どちらが偏っているということでもないのかもしれない。

ただひとつ確かなことは、ロック・アルバムは本当にアメリカで1位を獲れなくなったということだ。そしてビルボードでは3位だったフー・ファイターズの『Medicine at Midnight』と、11位だったキングス・オブ・レオンの『When You See Yourself』は、UKチャートでは共に盤石の1位を獲っている。『Medicine at Midnight』は2021年上半期のアルバム・セールスでデュア・リパの『Future Nostalgia』に次いで2位と、今のところ今年UKで最も成功したロック・アルバムだ。

Foo Fighters – Waiting On A War (Official Video)

UKアーティストの話に戻ると、ロイヤル・ブラッド(『Typhoons』)とウルフ・アリスの(『Blue Weekend』)の3作目が揃ってがっつり1位を獲得した意味も大きいだろう。ギター・レスのデュオでありながらロックのプリミティヴな興奮を純粋抽出したグルーヴを鳴らしているロイヤル・ブラッドと、90年代オルタナ・ギターの魅力を現在形にアップデートしたウルフ・アリスは、2010年代半ばに真っ先にUKロック復活の狼煙を上げたバンドだったわけで、2020年代に入って不動の地位を確立した彼らの姿には、伏線を回収したような痛快さがあるのだ。

Royal Blood – Typhoons (Official Video)

スコットランド出身の新人バンドのデビュー・アルバムとしては、実に14年ぶりの全英1位を獲得したのがザ・スナッツの『W.L.』だ。彼らはまさにUKインディ・ギターの王道のさらにど真ん中を行くバンド。長らく「王道が空いている」状況が続いたUKロック・シーンだが、彼らや近年のブロッサムズやスポーツ・チームの成功によって、その状況にも変化が生じつつある。

スコットランド出身と言えば、モグワイが最新作『As the Love Continues』でデビュー25年目にして初の全英1位に立ったのも感慨深い。収録曲の大半がインスト・チューンの同作は過去の彼らの作品同様に素晴らしく、意図して売れ線の作品を作ったわけではなく、モグワイがモグワイらしい作品で1位を獲ったのが凄いのだ。しかも、こうした例はモグワイだけではない。ブラック・カントリー・ニュー・ロード(『For the First Time』)、ドライ・クリーニング(『New Long Leg』)、スクイッド(『Bright Green Field』)ら、強烈アヴァンギャルドな個性を持つ新人バンドのデビュー・アルバムが、揃ってトップ5にエントリーしたのも特筆すべきだろう。真にインディペンデントで革新的なギター・バンドが、商業的な成功も手中にし始めているのが今年上半期の顕著な傾向だったと言える。

瞬発力とシビアな現実

ベテランから新人まで幅広い層のロック・アーティストが、ひとつのムーヴメントやトレンドに吸収されることなく個々に点在して輝きを放っているのが現在のUKロック・シーンだ。長年のリスナーとしては嬉しいかぎりだが、だからこそ次のステップとして向き合うべきシビアな現実も知っておくべきだろう。例えば、2021年上半期にイギリスで最も売れたアルバムの上位40作品に、新作ロック・アルバムとして食い込んだのは前述のフー・ファイターズとキングス・オブ・レオンの2作品のみだ。

ストリーミングで途切れなく数字が積み重なっていくポップ・アーティストの作品や、ヴァイナルも好調で途切れなく売れ続けているクラシック・ロック・アルバム(上記リンクからクイーン『Greatest Hits』の驚異の粘り腰をご確認ください)と比較すると、セールスの瞬発力はあっても持続力に欠ける点や、若い世代のロック・リスナーを着実に開拓しつつも、広く浅く一般層に訴求するには至っていないという点が、今後の課題として浮かび上がってくる。今年も残すところあと半分、ゲーム・チェンジャーとなる作品の登場に期待したい。

Written By 粉川しの




イージー・ライフ『life’s a beach』
2021年5月28日発売
国内盤CD 7月16日発売
CD / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



 

 

Share this story
Share
日本版uDiscoverSNSをフォローして最新情報をGET!!

uDiscover store

Click to comment

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Don't Miss