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今年の英チャートに異変!?久々にロックアルバムが1位を連発中:活躍するアーティストとその理由

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Photo by Ian Taylor on Unsplash

新型コロナウイルスが蔓延し、アルバムのリリース延期やライヴの中止など、世界中の音楽業界には大きな影響が出ています。そんな中、全英アルバム・チャートではロック・アルバムがチャート1位を獲得する機会がここ数年の中で格段に増えています。1位になったロックの作品や話題の作品、そしてなぜロック・アルバムが1位になっているのかについて、『rockin’ on』5代目編集長、現在は音楽ライター/ジャーナリストとして活躍されている粉川しのさんに解説いただきました

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ロック復活の兆し?

2020年のUKアルバム・チャートに異変が起こっている。なんと「ロック・アルバム」が次々に1位を獲得しているのだ。にわかには信じ難いかもしれない。筆者も当初はそうだった。2月にブロッサムズがサード・アルバム『Foolish Loving Spaces』でデビュー作以来の1位を奪還した時も、ソロ・デビュー以降、完全に勢いを取り戻したリアム・ギャラガーの『MTV Unplugged』が6月に1位に立った時もアーティスト自身の成果として理解していたし、それをUKシーンにおけるロックの復活と位置づけるのは時期尚早だろうとも感じていた。

Blossoms – The Keeper

しかし、「もしかしてこれは本当に状況が変わってきたのでは…?」と思うタイミングがいくつかあったのも事実だ。例えば、今年6月にウエスト・ロンドンを拠点に活動するニューカマー、スポーツ・チームのデビュー・アルバム『Deep Down Happy』が全英2位を獲得した時がそうだった。英国流アイロニーの効いたロマンティックなギター・ロックをやっている彼らはけっしてトレンドセッターではなかったわけだが、それでもバンドの地力だけで2位を獲れてしまった!という嬉しい驚きがあったのだ。

Sports Team – Here's The Thing (Mercury Prize 2020: Album of the Year)

また、2000年代に一斉を風靡したベテラン・バンド、ダヴズの実に11年ぶりのカムバック作『The Universal Want』が9月に全英1位を記録したのも象徴的だった。『The Universal Want』はダヴズがダヴズの王道を取り戻した素晴らしいアルバムで、彼らは11年のブランクを埋めるために時流におもねることはしなかった。

そう、ダヴズとスポーツ・チームは共に自分たちらしいやり方で成功を収めたのだ。「(時代遅れの)ロックが生き残るためには現在進行形のポップ・トレンドに適応することが不可欠」という強迫観念が2010年代のUKロック・シーンにはあったが、この両者の成功はロックに対するよりニュートラルな個別評価の時代の訪れを予感させるものだったと言える。

Doves – Carousels

そしてUKシーンにおけるロックの復活の予感が確信に変わったのが、アイドルズのサード・アルバム『Ultra Mono』の全英1位獲得だった。3作目にしてついにトップに立ったアイドルズ は既に若手ではないし、アリーナやスタジアムを埋めるタイプのモダン・ロック・バンドでもない。YouTubeの再生回数を稼ぐキャッチーなシングルを量産している訳でもないし、TikTokのダンス動画にフィーチャーされることもなければ、SNSでバズるタイプのプロモーションとも無縁だ。

つまり直近5年で確立されたポップ・ミュージックを売るノウハウを一切使わず、パワフルなパンク・サウンド(本作は際立ってアンセミックでポップだが)に真摯なメッセージを乗せたオーセンティックなロックで1位を獲った、という意義が大きいのだ。

IDLES – War (6 Music Live Session in the Radio Theatre)

2020年9月までのロック・アルバム首位の数

一体、2020年のUKチャートに何が起こっているのか。改めて1月から9月までのUKチャートをチェックしてみたところ、さらに驚いた。同期間に1位を獲得したアルバムは全部でのべ39作品。その内の実に11枚がロック・カテゴリーのアーティストの作品だったのだ。(編注:Amazon UKでのジャンル分けを元に調査)

これがいかに凄い記録であるかは、直近の数年と比較すると明らかだ。例えば2019年の同期間に1位を獲ったロック・アルバムはブリング・ミー・ザ・ホライズンの『Amo』やスリップノットの『We Are Not Your Kind』など3作品にすぎない。2018年に至ってはアークティック・モンキーズの『Tranquility Base Hotel & Casino』のわずか1枚(!)のみだ。2020年のロック・アルバムのチャート・アクションがいかに異例なのかがご理解いただけるはずだ。

ちなみにこれはUKチャート特有の動きで、アメリカのビルボード・チャートではそのようなことは起こっていない(先日のマシン・ガン・ケリーのアルバムがロック・アルバムとして1年1か月振りの1位だ)。また、シングル・チャートについては英米の間でそこまで大きな乖離は起こっておらず、イギリスのアルバム限定での「ロックの復活」の様相だと言っていいだろう。では実際に、2020年のUKチャートで大健闘したロック・アーティストはどんな顔ぶれなのだろうか。

 

UKチャートで大健闘したロック・アーティスト

2010年代以降のUKバンド・シーンのトップランナーと言えばThe 1975で、彼らの4作目『Notes On A Conditional Form(仮定形に関する注釈)』はもちろん全英1位、これでデビュー・アルバムから4作連続1位と記録を更新している。The 1975はUKロックが低迷に喘いでいた2010年代をその軽やかでエクレクティックなサウンドでサヴァイヴしながら「ロック・バンド」の批評性を高め、その意味自体を再定義してみせたバンドだった。

The 1975 – If You’re Too Shy (Let Me Know) (Official Live Video)

そしてThe 1975以降に登場したニューカマーたちが、この2020年のロックの活況を下支えしているのは間違いない。前述のブロッサムズやスポーツ・チームに加え、UKインディ・ロック界の若きプリンスと称されるデクラン・マッケンナのセカンド『Zeros』がザ・ローリング・ストーンズの『Goats Head Soup(山羊の頭のスープ)』のリイシュー盤と熾烈な1位争いを繰り広げ、新世代の台頭を印象付けたのも記憶に新しい。

惜しくもストーンズに約800枚差で2位となったデクランだが、それでも前作の『What Do You Think About the Car?』が11位だったことを思えば大健闘だろう。大健闘と言えばグラス・アニマルズが前作『How to Be a Human Being』(23位)からサード・アルバムの最新作『Dreamland』で2位に一気にジャンプアップしたのも快挙だった。

オックスフォード出身の4ピース・バンドであるグラス・アニマルズは、インディ・サイケデリックな出発点から徐々にR&Bやヒップホップ、エレクトロ・ミュージックを取り入れたクロスオーバー・サウンドに進化していったバンドで、そういう意味ではThe 1975やトゥー・ドア・シネマ・クラブのようなバンドたちと近い「ロック・バンド再定義」の勝負によって道を切り拓いている新世代だ。彼らは若手UKバンドとしては珍しくアメリカ進出も成功させていて『Dreamland』では自身過去最高のビルボード7位につけている。

Glass Animals – Heat Waves (Official Video)

一方、デビュー・アルバム『New Hope Club』が全英初登場5位とスタートダッシュを飾ったニュー・ホープ・クラブは、R3HABとのコラボでトロピカル・ハウスやエレクトロ方面にも積極的にアプローチしていくポップ・ロック・バンドで、マンチェスター出身としては異色の存在と言えるかもしれない。

New Hope Club, R3HAB – Let Me Down Slow

ここまでご紹介した5組の新世代アーティストは見事にバラバラなサウンドと方向性を持ったアーティストたちで、彼らは各自の最適な方法で成功にリーチしている。ハイプ化したムーヴメントで芋づる式に売れるのではなく、個人商店がそれぞれに繁盛しているような、いたってヘルシーな状況なのだ。

UKチャートのロックの活況を下支えする若手は、もちろんイギリス国内のアーティストに留まらない。近年、UKのインディ・ロック・シーンに大いに刺激を与えているのがお隣アイルランドのバンド・シーンで、その筆頭に挙げられるフォンテインズD.C.のセカンド・アルバム『A Hero’s Death』は初登場2位、テイラー・スウィフトの『folklore』と同週リリースでなければ1位を獲れていただろう。

また、UKシーンはザ・ストロークスの昔から本国に先駆けてUSオルタナ/インディ・バンドを発掘してブレイクさせてきた歴史があるが、そんなイギリスで常に高い人気を誇るLAの3姉妹バンド、ハイムのサード・アルバム『Women in Music Pt. III』も堂々の1位だ。

『Women in Music Pt. III』は今年上半期のオルタナ/インディのハイライトとなる傑作で、カントリーやジャズからソウル、ガラージ系ハウスまで大胆に取り入れたその風通しのいいサウンドは、コロナ禍の憂鬱を吹き飛ばすパワーを秘めていた。なお、本国ビルボードの総合アルバム・チャートでは13位だったが、個別部門のロック・チャートでは1位に輝いている。

Haim – The Steps (Official Video)

この10年、アメリカではロック・バンドが総合チャートで1位を獲るのは恐ろしく難しくなっていて、ファイヴ・セカンズ・オブ・サマーの『CALM』は惜しくも2位だったが、UKチャートではがっちり1位をキープした。(*編注:ファイヴ・セカンズ・オブ・サマーはサウンドは“ロック”だがチャート上は“ポップ”に区分け)

5 Seconds of Summer – Teeth (Official Video)

こうして2010年代以降にデビューした若手が目覚ましい活躍をみせた一方で、前述のダヴズにせよ、ビッフィ・クライロの『A Celebration of Endings』にせよ、キラーズの『Imploding the Mirage』にせよ、2000年代アルバム・デビューの中堅バンドたちがきっちり1位を獲って結果を残していることも忘れてはならないだろう。

ビッフィ・クライロは3作連続、キラーズに至ってはデビューから6作連続で全英1位という不動の人気ぶりなわけだが、日本のリスナーからすると若手と比べるとメディアのハイプは減り、ベテラン勢と比べると確立したネームバリューの点で劣るこれらの中堅層の活躍が、おそらく最も見えづらい部分なのではないか。しかしこの世代が最前線で踏ん張っていることがUKロック市場の層の厚さに繋がっているのだ。

UKが誇る無敵のラウド・ロック・バンドであるビッフィの『A Celebration of Endings』は、そのステイタスに胡座をかかない攻めの新作で、新型コロナウィルスの感染拡大によるロックダウンの最中でオーケストラルな広がりを獲得した同作は希望や解放を感じさせる傑作として高く評価された。

Biffy Clyro – Space – Live from The Barrowland Ballroom, Glasgow (August 2020)

一方のキラーズの『Imploding the Mirage』は彼らのファンの誰もが待ち望んでいたキラーズらしさの復活作であり、同時にそこに宿っていたものもまた希望だった。彼らの力強いメッセージが全英1位という結果として刻まれたことは、ロック云々を超えて2020年のUKの音楽シーンを鼓舞するものだったと言える。

The Killers "Blowback"

 

ベテラン勢の強さ

こうして若手、中堅がそれぞれに結果を残したのに加えて、四半世紀から50年以上のキャリアを持つベテラン勢のビッグ・リリースも多かった。そのトータルをもって2020年の最初の9ヶ月間で11枚ものNo.1ロック・アルバムは誕生したのだ。

前述のリアム・ギャラガーのように10年近い低迷期を突破して再び輝き出した例から、グリーン・デイの『Father of All Motherfuckers』のようにパンクの衝動に原点回帰したアルバム、さらには『Goats Head Soup(山羊の頭のスープ)』のリイシューで時空を超えてチャートを制してしまったストーンズ、そして時代に囚われないボブ・ディラン個人の絶対評価として傑作と呼ぶに相応しい『Rough and Rowdy Ways』と、全英1位を獲ったこれらのベテラン勢の圧倒的な強さに関しては、2020年特有の現象ではなく「例年通り強かった」と評価すべきかもしれないが。

The Rolling Stones – Scarlet (Featuring Paul Mescal) | Official Video

そんなベテラン勢の中でもUKシーン特有の例を一人挙げるとすれば、やはりポール・ウェラーということになるだろう。デビューが10代と早かったせいで未だ60歳そこそこだが既にキャリア40年を軽く超えているウェラーは、紛うことなきUKロックの伝説のモッド・ファーザーだ。

70年代のオリジナル・パンクとしてデビューして現在も第一線で活躍しているアーティストは殆ど存在しないわけで、ザ・ジャムからスタイル・カウンシル、そしてソロと常に超現役でコンスタントにアルバムを出し続けているウェラーは異例中の異例のレジェンドということになる。

彼が常に現役であり続けている理由は、自分の揺るぎないスタイルの根を張りながらも変化を恐れず自由に枝葉を伸ばしてきたアーティストだからだ。実際、彼のソロの作風は激渋の枯れたフォーク、ブルース作から性急な苛立ちに身をまかせるパンク作までアルバム毎に変幻自在で、全英1位の最新作『On Sunset』は貪欲にコンテンポラリーなR&Bを吸収・体現していたスタカン時代の彼を彷彿させる作品であったりする。こういう常に現在進行形のベテランがいることも、UKロック・シーンの強みであるのは違いない。

Paul Weller – On Sunset (Official Video)

 

なぜ2020年はロックの1位が目立つのか?

ここまで若手、中堅、ベテランと、2020年のUKチャートで1位を獲得したアーティストたちの顔ぶれを追ってきたが、本当にあらゆる世代、あらゆるサウンド傾向を持つロック・アーティストたちが入れ替わり立ち替わり1位に立っており、ロック・ファン的につくづく充実した9ヶ月間だったことを再確認できるはずだ。

できることならこのままロックの復活を祝って万歳三唱で締めくくりたいところなのだが、チャートというデータに基づくコラムであるからにはやはりシビアな現実も記しておくべきだろう。そう、2020年にリリースされた「アルバム全体」のセールス成績は、そもそもどうだったのか?という点だ。

<The Official Top 40 biggest albums of 2020 so far>

上記のリンク先の「Official Charts」の記事は、2020年9月までの9ヶ月間にイギリスで最も売れたアルバムの上位40作のリストだ。このリストを一目見れば明白なように、1位は昨年5月にリリースされたルイス・キャパルディの『Divinely Uninspired to a Hellish Extent』だ。

2019年にイギリスで最も売れたアルバムである『Divinely Uninspired to a Hellish Extent』は、どうやら2020年のセールスでも年間1位になりそうな勢いなのだ。2位のハリー・スタイルズ『Fine Line』も2019年作。それどころか全40作のうち2020年にリリースされたアルバムはデュア・リパの『Future Nostalgia』(4位)、レディー・ガガの『Chromatica』(14位)、テイラー・スウィフトの『folklore』(16位)など5作品しかない。

また、2020年には2019年の『Divinely Uninspired to a Hellish Extent』や2018年の映画『グレイテスト・ショーマン』のサントラのように、何週にもわたって延々と1位をキープし続けるアルバムも少なく、ほとんどのNo.1アルバムが1週でその座を明け渡している。つまり、身も蓋もないない結論になってしまうが、2020年にリリースされたアルバムは、全体的にセールスが振るわなかった。そして全体のセールスが沈下する中でも比較的セールスを維持できていたロック・アルバムが急浮上して見えた、ということなのだ。

UKシーンに留まらず、2020年の世界的な音楽・エンターテイメント産業の不振は、もちろん新型コロナウィルスの感染拡大の影響をもろに受けたせいだ。イギリスでは3月以降ロックダウンに入り、ライヴは軒並みキャンセルになったし、CDショップなどのサプライチェーンも休業を余儀なくされた。アルバムのリリース延期も相次ぎ、ステイホームでプロモーションもままならない状況だったし、今年の上半期はまさに「音楽どころではなかった」のだ。では、音楽どころではなかったにもかかわらず、他ジャンルの作品の急激なシュリンクと比較するとロック・アルバムがそれでも聴かれ、手堅いセールスを積み重ねることができたのはなぜなのか。

その理由の一端を担うのが、アナログ・レコードが実は昨年以上に売れているという事実だ(参照/参照)。アナログ・レコードのセールスが右肩上がりなのは2010年代後半からの顕著な傾向ではあるものの、ロックダウン下で小売りが壊滅的な状況に追い込まれたことに加え、アマゾンでは一時レコードの取り扱いが途切れたにもかかわらず、それでもイギリスでもアメリカでもアナログがさらに売れたというのは本当に驚きだ。

アナログ・レコードでアルバムを聴くようなコアな音楽ファンは、パンデミックでも変わらず音楽を求め続けたということだろう。そしてそんなコアな音楽ファンの多くがロック・ファンであること、ロック・アルバムの多くが「ストリーミング+アナログの売り上げ」の合わせ技でセールスを伸ばしていることは、アイドルズ の『Ultra Mono』が今年のUKアナログ・チャートで最速売上げ記録を樹立したことにも明らかだ(参照)。

ちなみにこちらは2020年1月〜9月までに最も売れたアナログ・レコードの上位40作のリストだ。新旧問わずロック・アーティストの圧倒的強さをご確認いただけると思う。

2020年のUKチャートでのロック・アルバムの健闘が明らかにしたもの、それは「ロックはしぶとい」ということだ。危機に直面した非日常の中で、価値観や常識が大きく揺さぶられる恐慌状態の中で、私たちはロックのしぶとさを再発見した。これから始まる新しい日常の中でも、ロックはそうして聴かれ続けるはずだ。

Written by 粉川しの



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