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シーラ・ジョーダンが96歳で逝去。ブルーノートを代表する女性ジャズ歌手の功績を辿る
ブルーノート・レコードを代表する女性ジャズ・ヴォーカリスト、シーラ・ジョーダン(Sheila Jordan)が、96歳で逝去した。
現地時間8月11日、彼女の娘トレイシーが、自身のインスタグラムに次のような声明を投稿し、この訃報を伝えた。
「親愛なるジャズ・ファミリーの皆さま、友人の皆さま。最愛の母シーラ・ジョーダンは、8月11日(月)午後3時50分に安らかに息を引き取りました。友人のジョアン・ベルグレイヴが、彼女の亡き夫マーカス・ベルグレイヴのビバップ・チューン“Bill for Bennie”を母に聴かせてくれていました。母は、自らが愛し、そしてその発展に貢献してきた音楽を聴きながら眠りにつきました。皆さまからのご支援とご厚意に感謝申し上げます。GoFundMeページでお寄せいただいた資金は、彼女の医療費の支払いと、ウッドローン墓地の「ジャズ・コーナー」における埋葬区画の確保に充てさせていただきます。追悼式は、後日あらためてニューヨーク市のセント・ピーターズ教会で執り行う予定です」
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その生涯
1928年11月18日にデトロイトで生まれたシーラ・ジョーダンは、父親が家族を捨て家を去り、母親はアルコール依存症に苦しんでいたため、ペンシルベニア州で祖父母に育てられた。
アレゲーニー山脈での暮らしも決して楽ではなく、やがて彼女はデトロイトの母のもとに戻るが、母は依然としてアルコール依存、虐待的なパートナーとの問題を抱えたままだった。2014年のエレン・ジョンソンによる著書『Jazz Child: A Portrait of Sheila Jordan』の中で彼女は、ジャズとの最初の出会い、そして当時の彼女がその音楽にどれほどの救いを見出したかについて次のように明かしている。
「私はずっと歌っていたけれど、どんな音楽を歌いたいのかはわからなかった。あの忘れられない日が来るまでは。高校の向かいにあるハンバーガー店に入って、ジュークボックスでチャーリー・パーカー&ヒズ・リボッパーズの“Now’s the Time”をかけた。それで人生が変わった。最初の4つ音符を聴いた瞬間に心を奪われて、鳥肌が立ち、これこそ自分がずっと待ち望んでいた、一生を捧げて歌っていく音楽だと瞬時にわかったんだ」
のみ込みが非常に早かったシーラは、複雑極まりないチャーリー・パーカーのソロを習得し、すぐに自らの声で完璧に再現できるようになった。程なくしてデトロイトで頻繁に演奏していた“バード”本人の前でその才能を披露する機会も与えられたという彼女は、その日の出来事をこう振り返っている。
「バードの曲を1曲歌ったら、彼が“君は百万ドルの耳を持っているよ、お嬢さん”って言ってくれたの。でも(当時は)その意味が全然わからなかった」
1951年、シーラはニューヨークへ移り住み、その2年後にデューク・ジョーダンと結婚。彼はチャーリー・パーカーのオリジナル・カルテットのピアニストだったが、ヘロインに依存していたため、二人の関係はすぐに影響を受けることになる。彼は二人の間に生まれた娘の養育にほとんど関わらず、1962年に離婚。同年、シーラはジャズ理論家のジョージ・ラッセルに招かれ、彼のアルバム『The Outer View』でヴォーカルに抜擢された。これが彼女にとって初のスタジオ録音となり、翌年発表されたデビュー作『Portrait of Sheila』(1963年)は、今日に至るまで最も重要なヴォーカル・ジャズ作品のひとつとされている。
『Portrait of Sheila』は大成功を収めたが、彼女は娘が大学に進学するまで、次の録音を行わなかった。2作目のアルバム『Confirmation』を完成させて以降は精力的な活動を続け、リーダーまたはメンバーとしておよそ30作のアルバムを発表。生前最後の作品『Portrait Now』は2025年にリリースされている。
シーラ・ジョーダンは、その長いキャリアの中で数々の栄誉に授かり、2012年には84歳でアメリカ国立芸術基金(NEA)のジャズ・マスターに選出されている。晩年に至るまでジャズ界で演奏を続け、多くのアーティストにインスピレーションを与えた彼女は、2014年に行われたNPRのインタビューでこう語っていた。
「私のやっていることを尊重し、仕事を依頼してくれる人たちがいるだけで十分。生きている限り、この音楽を続けていくだけよ」
そして彼女は、まさにその人生を全うした。
Written By Will Schube
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