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aron! (アロン)とは?:老舗レーベルが送り出す22歳が“ジャズ・ポップ”をやる理由

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Photo: Isabel Crist

2025年6月6日にVerve RecordsからデビューEP『cozy you (and other nice songs)』をリリースしたaron!(読み:アロン)。その後もホリデーEP『a cozy christmas』のリリースや、メインストリームに躍り出る可能性を秘めたグローバルアーティストを選出し、毎年わずか20組のアーティストのみが選ばれるプログラムであるVevoDSCVR Artists To Watch 2026」に選出されるなど、そのキャリアを着実に積み重ねている。

今年7月には初来日を果たし、雑誌やWeb媒体の取材やラジオ出演、ショウケースを開催。その際にライター/音楽評論家の新谷洋子さんがインタビューを実施し、デビューEPの話はもちろんのこと、ルーツとなった音楽的ストーリーを彼の発言を交えて寄稿いただきました。

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aron! – table for two (official music video)

 

テクノロジーからリアルへの回帰

ここ数年、決して派手さはないものの静かにひとつのうねりを作り出しているように感じるのが、ジャズやクラシックの様式を取り入れ、往々にして専門的な音楽教育に裏打ちされたミュージシャンシップを駆使し、アメリカン・ソングブックの職人的ソングライティングをポップに消化する、Z世代のシンガー・ソングライターたちだ。

グラミー賞に輝いたレイヴェイやサマラ・ジョイを筆頭に、レイヴェイと同じバークリー音楽大学で学んだメイ・シモネスのようなインディ・アーティスト、或いはレイやポピー・アジューダやマヤ・デライラといった英国勢まで、例を探せば枚挙に暇はなく、あのビリー・アイリッシュもエラ・フィッツジェラルドやチェット・ベイカーへのリスペクトを公言。作品にはありありと影響が見て取れる。

前置きが長くなったが、6月にVerve RecordsからデビューEP『cozy you (and other nice songs)』を送り出したaron!ことAron Stornaiuoloは、こうした動きにぴたりと寄り添う若き逸材だ。

「こういう音楽が若い世代にアピールしている理由は、テクノロジーの進化に関係しているのかもしれません。テクノロジーに疲れてしまって、ヒューマンでリアルでオーセンティックなものに立ち返りたいという願望が生まれているのではないでしょうか」

こう分析する彼は、生まれも育ちも米国ノースカロライナ州のシャーロット。その旺盛な音楽的好奇心ゆえに、まだ22歳ながら実に豊かな音楽遍歴を誇る。出発点は両親を介して接したロック、8歳にして音楽ゲーム『GUITAR HERO』をきっかけにギターを弾き始めるものの、ジャズ畑のギター講師と出会い、彼のレッスンを通じてジャズに開眼したという。

「彼は一人暮らしで、家はものすごく散らかっていました。新聞がうず高くあちこちに積まれていて、やっとのことでふたりが座るイスとギターとアンプを置くスペースを確保できたという感じで。そこで夜中の12時までレッスンを受けていたんです。もっとも、彼はいつも自分の人生について話してくれて、実際にギターを弾いたのは最後の30分くらいでしたけどね(笑)」

aron! – table for two|야외녹음실|Beyond the Studio|LIVE|애런!

 

何故ジャズなのか?

また若くしてジャズに惹かれた理由を訊ねると、しばし考えた末に「ジャズにはあまり壁が無いように感じた」と興味深い答えが返って来る。

「ジャズの場合、自分の想いをリスナーに届けるにあたって、障害物が最も少ない気がするというか。ポップ・ミュージックを聞いていてももちろん、何となく言いたいことは分かります。でもジャズだとすぐに、“うん、そうだよね!僕もそれを感じる”と思えました。アーティストが感じたことをそのまま、必要最低限の要素を介して表していて。僕にとってジャズは、非常にコミュニケーションの能力に優れた音楽なんです」

以来フランク・シナトラやエラ・フィッツジェラルドといったアイコニックな歌い手に加えて、コール・ポーターやジョニー・マーサーらアメリカン・ソングブックの名曲を綴ったソングライターたちにのめり込むと共に、ボブ・ディランやジョニ・ミッチェル(「ソングライティングを磨く栄養源として絶対に聴かなければならない人たちですね」)、より新しいところではジョン・メイヤー、ジェイソン・イズベルなどなどアメリカーナ系の実力派に至るまで、嗜好の幅を広げていく。そしてコロナ禍のロックダウン中は、バッハのコラール集を入手して独学でピアノの練習に費やしたそうだ。

「ただ僕は小指と薬指を使わずに弾いていたんですよね。最近初めてピアノの先生についてレッスンを受けるようになって、ちゃんと全部の指を使わなくちゃダメだと教わりました(笑)」

次いで高校を卒業すると、まずはノースカロライナ芸術大学でクラシックの作曲を専攻。続いてマイアミ大学でジャズ・ヴォイスと映画音楽を学び、Sunny Side Up!というインディロック・バンドのフロントマンも務めていた。

「僕の世代は子どもの頃から多様な音楽にアクセスすることが可能で、どんなジャンルの音楽だろうと試していいんだという意識が備わっていたんだと思うんですよね。それに今の時代、ミュージシャンになるためには可能な限り多様な表現方法を身につけて、多数の楽器を弾きこなせなければならないとアドバイスされたんです。あとは、進路を決められずにいたということもあって、どれも楽しそうでひとつに絞れなかった。そのうちに曲を作ることにすごく惹かれて、器楽を専攻している学生に練習用の曲を作ってあげていたんです。例えば、オーボエとチューバの組み合わせでどんな曲が生まれるのか実験しながら。結果が芳しくなかったケースもありましたけどね(笑)、多分そういうインストゥルメンタルのデュエット二重奏の曲を50くらい書いたと思います」

Sunny Side Up!: “Stars In My Cereal” | Live Studio Performance | Circle Up Sessions

 

ジャズ・ポップでのデビュー

そんなaron!は、学業とバンド活動に加えて、ソロ名義でも様々なスタイルの曲を発表。ミュージシャンとして、進路の選択肢はたくさんあった。最終的に彼が、“cozy pop(心地いいポップ)”と自ら命名したノスタルジックにしてフレッシュなジャズ・ポップ路線でデビューに至ったのは、成り行きだったと言えなくもない。昨年Instagramに投稿したジャズ寄りの音源が大きな反響を呼んだことが、全ての始まりだった。

「ジャズ寄りの音楽が好きな人があんなに大勢いるなんて、想定外だったんですよね。それで興奮させられて、『cozy you (and other nice songs)』に収められている6曲を1週間で書き上げ、2日間で全曲をレコーディングしたんです。マイアミ大学の友人たちに参加してもらって、学内のスタジオで。全員に楽譜を書いて渡し、かなり具体的に僕がやりたいことを伝えました。様々な音がどう嚙み合ってストーリーを描くのか考えるのは楽しいですから、音楽監督を務めるのが好きなんですよね。そしてヒューマンさをキープしたかったので、全員で一緒にプレイし、僕もその場で歌いました。もっとも、そこまで巧いわけではないのでヴォーカルは差し替えましたけどね(笑)。だからVerveはこのEPに関与していないんです。完成したあとで契約に至り、レーベルも気に入ってくれてそのままリリースすることになったんです」

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そう聞くと、EPの完成度に改めて驚く人も多いのではないかと思う。ギターとヴォーカルのほかに、aron!はアレンジとプロデュースも担当。ギター/ベース/ピアノのトリオを基本に、それぞれに編成を変えて録音された6曲で彼は、流麗でノスタルジックなメロディ、遊び心あふれるストーリーテリング、ヴィンテージ感を湛えた音色、そして肩の力の抜けたナチュラルなヴォーカルをショウケースしながら、タイムレスでロマンティックな音楽体験を提供している。

aron! – eggs in the morning (lyric video)

このあと来年に向けてアルバム制作も考えているというが、今のところはひたすら曲作りに励んでいると話す。

「結果的にどんな曲が生まれても構わない。ソングライティングの作業そのものが楽しくて、高揚させられるんです。言葉を使った複雑なパズルみたいなものですからね」とaron!。と同時に、音楽的に多様な表現を備えた彼は「“cozy pop”は僕の終着点ではない」とも強調する。

「今の自分が鳴らしている音楽をすごく気に入っています。でも飽きてしまう可能性もあるし、自分をもっと刺激してくれる音楽が見つかれば、そちらを試すと思うんですよね。明日はデス・ポルカを鳴らすかもしれない(笑)。でもどういう音楽を作ろうと、必ず関連性が見て取れるはず。僕はただ自分が望む時に、仲のいい友達と一緒に、音楽をプレイできればいい。レーベルの担当者は気にしているでしょうけど、チャート記録にもあまり関心はありません。ハッピーになるために、僕はあまり多くを必要としない人間なんです(笑)」

aron! – cozy you | Vevo DSCVR Artists to Watch 2026

Written By 新谷洋子


aron!『cozy you (and other nice songs)』
2025年6月6日発売
LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music

1. cozy you
2. table for two
3. i think about you lots
4. a life with you
5. i hate it
6. eggs in the morning


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