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ブルーノートとヒップホップの関係:最高峰のジャズ・レーベルは、いかにして最先端の音を受け入れ形成し続けているか

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ブルーノートとヒップホップは、切っても切れない仲となった。ブルーノートの楽曲は、幾度となくサンプリングされ、現在ではジャズとラップを融合するアーティストと契約を結ぶまでになった。

80年代後半、クインシー・ジョーンズがジャズとヒップホップの関係について、ふたつは同じ木から実った果実であると認め、「ビバップとヒップホップは、多くの点で結びついている。インプロヴィゼーション、ビート、ライムといった点で、多くのラッパーがビバップ・アーティストを彷彿とさせる」と語ったが、昔気質のジャズ・ファンの中には、この考えに異論を唱える者たちもいた。しかし、ジャズはソウルについでヒップホップに大きな影響を与えた音楽とされており、ブルーノートとヒップホップは、切っても切れないほど密接な関係にあるのは事実だ。

 

「ヒップホップはジャズのポエトリーと『ザ・ダズンズ』から生まれた」

チャーリー・パーカとラッパーのクール・モー・ディーは音楽的な親戚だというクインシー・ジョーンズの考えに納得しない者たちもいるが、マイケル・ジャクソンの『Thriller』のプロデューサーとしても知られる彼はさらに一歩踏み込み、ジャズとヒップホップが持つ共通のルーツをこう説明している。「西アフリカのグリオ(吟遊詩人)が、デルタ地帯の奴隷の労働歌、さらにはジャズのポエトリーとユーモラスな罵り合いへと伝わり、そこからヒップホップが生まれたことに気づいているラッパーはほとんどいない」。

時が経つにつれて、ジャズとラップは異種ではなく同種である、というクインシー・ジョーンズの主張は広く認められるようになった。古いジャズのレコードをサンプリングして構築したヒップホップ・トラックが多く登場し、この主張の正当性を証明したこともその一因となった。AKAI900のサンプラーを所有するヒップホップ・プロデューサーの卵にとって、1,000枚に近い数を誇るブルーノート・レコードのカタログは、ビートやグルーヴを探すうえで、宝の山となった。早くからブルーノートのカタログを積極的にサンプリングしていたヒップホップ・グループのひとつが、ア・トライブ・コールド・クエストだ。1990年にデビューした彼らは、ジャズとラップの密接な関係を体現したグループとなった。

80年代後半から90年代初頭にかけて、レーベル、プロデューサー、さらにはアーティストに至るまで、音楽業界関係者の大半は、サンプリングによる著作権侵害と闘うべく、弁護士で武装していたが、ブルーノート・レコード(アルフレッド・ライオンとフランシス・ウルフが1939年に設立したアイコニックなジャズ・レーベル)のブルース・ランドヴァルは、ヒップホップが同レーベルの歴史に関心を集めてくれる可能性があると考えた。

1992年、ジェフ・ウィルキンソン率いる英国のヒップホップ・グループ、Us3グラント・グリーンのブルーノートからの旧作を無許可でサンプリングした楽曲を制作すると、ブルース・ランドヴァルは同グループと契約を結び、ブルーノートのカタログでビートが作れるよう、彼らに無制限のアクセスを与えた。Us3はハービー・ハンコックが1964年に発表した「Cantaloupe Island」をサンプリングすることでこの古いジャズ・レコードを再構築し、新しいヒップホップ・トラック「Cantaloop (Flip Fantasia)」を作り出した。これがアメリカで大ヒットを記録し、ブルース・ランドヴァルの決断が正しかったことが証明されると、90年代には、ブルーノートとヒップホップの関係が急速に発展していった。

 

大量に使用されたジャズ・レーベルのカタログ

Us3の『Hand On The Torch』はブルーノート初のヒップホップ・アルバムだが、その後も同レーベルはヒップホップ作品のリリースを続けた。1997年、Us3はセカンド・アルバム『Broadway & 52nd』(このタイトルは、ニューヨークのビバップ発祥の地に因んでいる)をリリース。初めて登場した80年代半ばには音楽業界を混乱させたサンプリングだったが、この頃までにはきちんと認知されるようになっていた。使用許可を取り、作曲者に印税を支払って原曲をクレジットすれば、どんな曲でもサンプリングができるようになったのだ。サンプリングという新たなテクノロジーは、音楽業界で最も利益の上がる新ビジネスとなり、ブルーノートのミュージシャンの中には、同レーベルのカタログがビートやサンプルで大量に使用されたことによって、金銭的に大きな利益を得る者たちもいた。

ブルーノートは、ヒップホップとの結びつきによって、若いオーディエンスから信頼を得るようになった。特に、ルーツをもっと知りたいと思うラップ・リスナーから大きな信頼を得ると、同レーベルの人気が再燃した。ブルーノートはこの関係を強化し、特によくサンプリングされている楽曲を集めた長寿コンピレーション・シリーズ『Blue Note Break Beats』と、ヒップホップ・コミュニティにとって重要な意味を持つヴィンテージ・アルバムを再発した『Rare Groove』シリーズをスタートする。それと同時に、ヒップホップから影響を受けた前途有望なジャズ・アーティストとの契約にも乗り出し、サックス奏者のグレッグ・オズビー、トランペット奏者のティム・ヘイゲンス、ギタリストのチャーリー・ハンターのほか、メデスキ、マーティン・アンド・ウッドといったバンドや、ニューヨークのレトロファンク・トリオ、ソウライヴ、さらにヨーロッパからは、スイス生まれのトランペット奏者、エリック・トラファズや、フランスの“ヌー・ジャズ”アーティスト、サン・ジェルマンなどが、同レーベルに迎え入れた。

90年代が終わり、2000年代に入っても、ブルーノートはジャズとラップが交わる領域の最前線に君臨し続けた。2003年、同レーベルは当時世界で最も独創的なターンテーブリストの1人と評されていたDJ/プロデューサーのマッドリブに古いブルーノート楽曲のリミックスを許可し、『Shades Of Blue: Madlib Invades Blue Note』が誕生した。そうして、本名オーティス・ジャクソン・ジュニアことマッドリブは、ドナルド・バード、ボビー・ハッチャーソン、ホレス・シルヴァーといったアーティストの楽曲に新鮮な解釈を加えていった。

Stepping Into Tomorrow

光り輝くブルーノート

ジャズとヒップホップの関係を発展させるという文脈において、ブルーノートは2005年に、2000年代で最も重要な契約を交わした。テキサス州出身の若手ピアニスト、ロバート・グラスパーをレーベルに招き入れたのだ。彼はハービー・ハンコックのように華麗なアコースティック・ピアノを弾くことができただけでなく、エレクトリック・キーボードにも長けており、さらにはヒップホップからも大きな影響を受けていた(後に、コモンやケンドリック・ラマーのアルバムにも参加している)。ロバート・グラスパーのデビュー・アルバム『Canvas』は、正統派なジャズ路線だったが、セカンド・アルバム『In My Element』では、特にグルーヴやビート、さらにはループのように奏でられるピアノのセクションなど、ヒップホップからの影響が顕著に現れていた。2009年になって正統派ジャズとR&B/ヒップホップの楽曲を半々に収録したアルバム『Double Booked』で、大変革をもたらすと、ロバート・グラスパーは2012年の『Black Radio』 でジャンルを融合したこの路線の頂点を極める。そして続編となった2013年の『Black Radio 2』で、R&B、ヒップホップの世界をもまたぐトップ・ジャズ・ミュージシャンとしての地位を確固たるものとした。さらに近年、ロバート・グラスパーはブルーノートのスーパーグループ、R+R=NOWを結成。2018年のデビュー・アルバム『Collagically Speaking』は、ブルーノートとヒップホップをより密接に近づけている。

ロバート・グラスパーのデビューと成功以来、ドン・ウォズが率いるブルーノートは、ヒップホップに影響を受けたジャズ・ミュージシャンのラインナップを拡大していった。その1人が名ベーシスト、デリック・ホッジだ(ロバート・グラスパー・エクスペリメントのメンバーでもある)。彼は現在までに2作のアルバムをブルーノートでレコーディングしたほか、コモンやケンドリック・ラマーともコラボレーションを果たし、ヒップホップ色の強い音楽を制作している。

I Stand Alone – Robert Glasper Experiment featuring Common & Patrick Stump

 

そして2011年、カリフォルニア州出身のトランペット奏者、アンブローズ・アキンムシーレがブルーノートに加わった。彼はデビュー・アルバム『The Heart Emerges Glistening』で、特徴的なホーン・サウンドを披露すると、すぐさま批評家から高い評価を得た。そして2018年、ブルーノートから4作目となるアルバム『Origami Harvest』をリリース。非常に政治的なメッセージを持ち、ポスト・バップと最先端のヒップホップをスリル満点に融合している今作は、彼のキャリアにおける最重要作であり、同時に、露骨な歌詞を警告する「Parental Advisory」ステッカーを貼った初のブルーノート作品となった。

ヒップホップのDNAの形跡は、サクソフォン奏者のマーカス・ストリックランドと彼が率いるバンド、トワイ・ライト(同グループが2018年にリリースした『People Of The Sun』では、ベテラン・ラッパーのファロア・モンチがフィーチャーされている)や、ナッシュビル出身のソウル・ジャズ・シンガー、キャンディス・スプリングスの多彩な音楽にも見て取れる。なお、後者のセカンド・アルバム『Indigo』は、ジャズ・ドラマーからラップのプロデューサーへと転身したカリーム・リギンスがプロデュースを手掛けている。

 

切っても切れない密接な関係

ブルーノートとヒップホップの結びつきをすべて取り入れた系図を描いてみれば、いくつも関係が重なった複雑な図ができるはずだ。そして、ブルーノートの歴史がヒップホップの進化と密接に結びついていることが分かるだろう。

1939年に設立されたブルーノートは、ジャズとヒップホップという2つの音楽ジャンルの融合に貢献した。そして同レーベルは、アフリカン・アメリカン・ミュージックの最新状況を作品に残す最前線にい続けている。アルフレッド・ライオンとフランシス・ウルフが50年代後半、当時のハード・バップ・ブームをブルーノートの作品として残したように、ブルーノートは現在も重要なレーベルであり続けている。そしてブルーノートとヒップホップの関係から、これからもさらに先進的な音楽が生み出されていくに違いない。

Written By Charles Waring



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