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ボーイ・ジョージ『Sold』解説:カルチャー・クラブの突然の解散から復活を遂げたソロ・デビュー作

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“洋楽名盤”の魅力を再発見する新企画として、海外及び日本で展開している音楽コンテンツキュレーションサイト「uDiscoverMusic」の名を冠した新シリーズ「uDiscovemusicシリーズ」が始動。

時代を超えて愛される洋楽名盤やアーティストの代表作を数多くラインナップし、「新しい音楽との出会い」の場を提供する新たなスタンダード・シリーズの第一弾として、カルチャー・クラブ&ボーイ・ジョージの全6作品が9月24日に発売される(予約はこちら)。

カルチャー・クラブ
1. Kissing To Be Clever
2. Colour By Numbers
3. Waking Up With The House On Fire
4. From Luxury To Heartache

ボーイ・ジョージ
5. Sold
6. Tense Nervous Headache

このアルバムの解説を順次公開。第5回目はボーイ・ジョージのソロ・デビュー作『Sold』。解説は音楽ライターの矢口清治さんです。

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カルチャー・クラブの解散から更生、ソロとしての再出発

“お払い箱 聞いただろ? 売っ払われたんだ わかるだろ お払い箱さ”

ある意味自虐的なコーラス(サビ)のタイトル曲で幕を開けるのが、ボーイ・ジョージのソロ・デビュー・アルバム『Sold』。1987年6月に英米日で発表。ほぼ1年前、1986年夏、世界に衝撃を与えたドラッグ・スキャンダルによる逮捕劇が、栄光の道のりを築いてきたカルチャー・クラブのあまりにあっけない解散を招く。そして消え去った過去のアイドルと見做されたジョージは、更生施設で薬物依存から脱け出すことに努めた。

1987年2月にBBC 1のTV番組“Wogan”にて中毒状態を克服した報告と同時にバンドはすでに解散となり自分はソロとして再出発すると公式に述べている。この時点で、『Sold』の制作は終えられていた。イギリスにてジョージのソロ・シングル「Everything I Own」が発売されたのがその直後、2月23日。極めて好評を得ると、3月14日付で同名映画とジーンズ(リーヴァイス501)のCM使用とでリバイバルしていたベン・E・キングの「Stand By Me」に替わって全英1位に輝くと2週留まり、メル&キムの「Respectable」に譲っている。見事な復活であった。

「Everything I Own」のオリジナルはソフト・ロックの権化として我が国でも人気の高いロサンゼルスのバンド=ブレッド(1972年全米5位/邦題「涙の思い出」)。典型的なアダルト・コンテンポラリー・バラードの秀作は、ジャマイカのケン・ブースによってカヴァーされ1974年10月末から3週イギリスで1位を獲得しており、13歳のボーイ・ジョージに大きな印象を残した。つまり、ブース版を比較的忠実になぞりレゲエ・ポップの傑作として蘇らせたのである。

Everything I Own

 

 

フェリー・エイド参加が後押しした復活劇

ジョージのカムバックの大きな追い風となったひとつに、フェリー・エイドへの参加も挙げられるであろう。1987年3月6日に起きたカーフェリー=ヘラルド・オブ・フリー・エンタープライズ号沈没事故の犠牲者のためのチャリティー・シングル「Let It Be」において御大ポール・マッカートニーやケイト・ブッシュ、ポール・キング、キム・ワイルドなど錚々たる顔ぶれに加わる。バンド・エイドの再現として注目されたビートルズ・クラシックのリメイクにおいて抜群の存在感を示した声。マッカートニーによる歌い出しを引き継いで響いたのがジョージのそれであった。

「Let It Be」は「Everything I Own」の後、わずか1週おいて4月4日付から3週全英1位を続けた。つまりこの時期の人々はとても頻繁にジョージのヴォーカルに触れ、“あのカルチャー・クラブのアイコン”のシーンへの帰還に、歓迎の準備をしていたようさえに思える。

Ferry Aid – Let It Be (1987)

 

多彩な音楽性が描く“再生”のストーリー

『Sold』は、ジョージ・マーティン所有のカリブ海モンセラット島にあるエアー・スタジオと、ロンドンのラック・スタジオにてレコーディングされた。セッションを仕切ったプロデューサーは、カルチャー・クラブのデビューからの3作を手がけたスティーヴ・レヴィン。再出発にあたり、もっともジョージを理解しているであろう人物が選ばれた。それは賢明な判断だった。ジョージをよく知りカルチャー・クラブの音楽をもきちんと理解しているレヴィンの存在は貴重だった。

またレヴィンと組んでエンジニアの任を負ったグレン・スキナーはソングライター/キーボード奏者でもあり、ダニー・ウィルソンやキリング・ジョーク、ワークシャイ、デボラ・ハリーらの作品でプロデューサーとしての手腕もふるう逸材。よりコンテンポラリーな作風へのアプローチに大きく貢献しており「We’ve Got The Right 」はスキナーの単独制作だ。

イントロに強烈なアタックを携えオープニングを飾るタイトル曲「Sold(ソールド)」は、冒頭に述べたように逆説的に自らを揶揄する歌詞も刺激的なソウルフルなロック・ナンバー(3枚目のシングルとなり全英24位)。これを初め計4曲にジョージとの共作者としてモータウンの大ヒット・メイカー/ソングライター=ラモン・ドジャーがクレジットされている。

Sold

名匠ジェリー・ヘイのホーン・アレンジも冴える「I Asked For Love」に続く「Keep Me In Mind」は、例えればマリア・マルダーの「Midnight at the Oasis」を思わせる美麗な心地よさだけでできているアダルト・コンテンポラリー・テイスト(2枚目にカットされ全英29位)。

先述の大ヒット「Everything I Own」でのレゲエ・ビートを継承した「Freedom」ではまた、この1年のジョージの状況や心境が刻み込まれているようだ。「Church Of The Poison Mind」直系のモータウン・ビート「Just Ain’t Enough」では唸るようなダミ声ヴォーカルを聴(効)かせ、豪快な「Where Are You Now(When I Need You)?」と「Little Ghost」でも濃厚でパワフルなブラス・ソウルがアルバム中盤を盤石に彩る。

デヴィッド・ラズリー作(1984年の『Raindance』収録曲のカヴァー)「Next Time 」においてもモータウン・フレイヴァーのヴァリエーションに富んだヴォーカル・ワークが新鮮だ。メランコリックで美麗なメロディー・ラインに酔わせる「We’ve Got The Right」はまさにAORであろう。

本作からの最終シングル(全英13位)となったのが「To Be Reborn」。悔恨と再生の想いが込められた、あまりに真摯なバラードこそ、すべての人々が待ち望んだ<感情表現を歌で成し遂げ得る真に優れた稀有な才能>の証明である。曲が静かな終焉を告げた瞬間、『Sold』が描き出した有意義な時間の移ろいを、私たちは深く噛み締めているのに気づく。

To Be Reborn

フェリー・エイドの「Let It Be」でジョージの声は綴ったー<真っ暗闇の中 すぐそばで彼女の声が聞こえた そのままでいい、と>。それは芸術の女神MUSEからのメッセージだったのかもしれない。ボーイ・ジョージが私たちのところに、還ってきたのだ。

Written By 矢口清治


ボーイ・ジョージ『Sold
2025年9月24日発売
購入はこちら

★英国オリジナル・アナログ・テープを基にした2022年DSDマスタリング(一部楽曲を除く)
★SHM-CD仕様
★解説/歌詞・対訳付



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