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ハード・ライフのマレーが語る日本への大きな愛と長期滞在、そして新作『onion』
BBCが毎年注目の新人を選ぶ「BBC Sound of」2位に選出、NMEアワード2020では「Best New British Act」を受賞した、2021年のデビュー・アルバム『life’s a beach』と2022年のセカンド・アルバム『MAYBE IN ANOTHER LIFE…』はともに全英アルバム2位を獲得したバンド、イージー・ライフ(easy life)。
順調に活動を進めていたイージー・ライフだったが、2024年6月に航空事業などを手掛ける英企業イージーグループ(easy Group)から、名前の類似を指摘されてバンド名を変更するか、高額な費用をかけて法廷闘争が解決するまで音楽活動を停止するかという状況となってしまい、バンド名をハード・ライフ(hard life)へと変更せざるを得なくなった。その改名トラブルを歌った楽曲「tears」を含めて3年ぶりとなるサード・アルバム『onion』を2025年7月18日に発売することが決定している。
そんなバンドの中心人物であるマレー・マトレーヴァーズ(Murray Matravers)は、2024年9月から、ビザを更新するために都度母国へ帰りながらも日本に長期間滞在し、新作のレコーディングも日本のスタジオで行っている。彼に日本への想いや新作について独占で6月にインタビューを実施した。
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初めての日本
―― 本日はよろしくお願いします。日本でのインタビューということで今回は日本のことについてお聞きさせてください。ちなみに初めて日本に来たのはいつですか?
マレー:2022年8月が初めての来日でした。千葉と大阪でのSUMMER SONICと、渋谷クラブクアトロでの単独公演ですね。
―― その時の思い出を教えてください。
マレー:実はそれまでには他のアジアの国にも来たことさえなくて、アジア自体が初めてでした。その前からずっと、日本の文化、特に日本のストリートウェアやファッションが大好きだったのですが、東京に到着した瞬間、本当に度肝を抜かれました。
―― なぜですか?
マレー:世界で最も大きな都市で、非常に多くの人々がいるのに、すべてがとても整理されているからですね。そして、日本の人々が大好きですなんです。とても親切で「おもてなし」の心がありますよね。食事も最高だし、ナイトライフや飲みの文化も素晴らしい。皆さん本当にフレンドリーなんです。あの時の旅で、完全に日本に恋をしてしまいました。確か2週間弱滞在したと思います。
―― 2週間も!ショーの後も観光したんですね。
マレー:大阪と千葉の両方で公演があって、その後も滞在したんです。それからオーストラリアに行きました。その間、毎晩のようにカラオケに行ったり、ハイボールを飲んだりして過ごしました。あの旅がきっかけで日本に夢中になり、それ以来、日本に取りつかれて、ここに住みたいと思うようになったんです。
日本への深い愛情:食べ物、文化、そして人々
―― 日本のどんなところが好きですか?
マレー:まず最初に思いつくのは食べ物ですね。
―― どんな種類の食べ物がお好きですか?
マレー:もう、全部です。寿司、ラーメン、焼肉、しゃぶしゃぶ、おでん…。
―― おでん!
マレー:刺身も大好きですし、唐揚げも。熊本で先週、馬刺しも食べました。
―― すごいですね!
マレー:ええ、とにかく全部食べます。どれも本当に美味しいです。もちろん、わさびも。
―― ちなみに海外の方が苦手な納豆はどうですか?
マレー:納豆は…まあまあですね。お寿司に入っているのは気にしませんが、そのものだけの状態だと…。食べられますけど、大好きというわけではないですね。自分にとっては挑戦的な食べ物です。
日本の友人たちは、いつも僕に「チャレンジ、チャレンジ」と言って何かを買ってきてくれるんです。大抵は珍しい見た目の魚だったり、外国人が食べたら面白いだろうと思うようなものをいただくので、かなりクレイジーなものをたくさん食べましたよ。でも、全部楽しんでいます。
あと、味噌汁も挙げないといけませんね。味噌汁は僕のお気に入りです。イングランドでも作ります。それから、ご飯ですね!日本の米は世界一だと思います。
―― おー白米ですか?
マレー:ええ、ご飯が信じられないくらい美味しいです。
―― ご飯は日本人の魂ですから嬉しいです。
日本での生活とクリエイティブな日々
―― ここ最近、日本に何度も来られているとのことですが、どれぐらいの頻度で来られているのですか?
マレー:アメリカやヨーロッパ、UKをツアーで回っていて、ここ2年間はかなり忙しかったんです。そんな中、2022年の夏以来、日本に戻ってきたのは去年の9月でした。それから、ほぼ今までずっと滞在していますね。ビザ更新のために、この半年で日本とロンドンを5回往復していて、今年はイングランドにいるより日本にいる時間の方が長いんです。
―― なぜ日本に長く滞在しようと決めたのですか?
マレー:東京に住んでいる音楽プロデューサーのTaka Perryと一緒に仕事をしているのが大きな理由です。でも、それだけが理由ではありません。日本にはたくさんの友達がいますし、何より東京が大好きなんです。大好き。本当に最高です。東京だけでなく、日本全体が好きですね。日本のあちこちも旅しています。
―― 日本にいるときはどこに滞在しているのですか?
マレー:東京では、だいたい西側エリアが多いです。学芸大学とか祐天寺もそうですし、恵比寿も。友人の家に泊まったり、ホテルやAirbnbを利用したりしています。恵比寿が一番好きな場所ですが、かなり値段が高いので、少し離れたところに滞在しています。でも、恵比寿は本当に好きです。
―― 東京以外で好きな場所はどこですか?
マレー:うーん、どこだろう。お気に入りを決めるのは難しいですが、かなり多くの場所に行きました。大阪、長野、熊本、沖縄も。沖縄では、石垣島や西表島にも行きました。
―― 西表島まで!すごい!本物の日本通ですね。
マレー:それから富士山にも何度も行きました。富士急ハイランドも。
―― 絶叫マシンには乗りましたか?
マレー:「ええじゃないか」は事故の影響で運転を停止していたので乗れなかったのですが、他のFUJIYAMAともう一つの大きいやつには乗りました。
日本のアーティストとのコラボ:[Alexandros]とSIRUP
―― [Alexandros]とのコラボレーションについて教えてください。
マレー:(川上)洋平さんとは、初めて日本に来た時、SUMMER SONICの時に会いました。彼がラジオ番組をやっていて、インタビューしてくれたんです。それから僕たちは友達になって、ずっと連絡を取り合っていました。いつか一緒に音楽を作りたいとずっと思っていて、彼らが今年4月に発売した新しいアルバム『PROVOKE』に収録された「Coffee Float (feat. hard life)」で実現しました。彼は僕にとっての「センパイ」ですね。
―― [Alexandros]とハード・ライフとは音楽のスタイルが少し違いますが、レコーディングは大変でしたか? 日本のファンにはあなたの最初のパート「お邪魔します」が好意的に受け入れられています。
マレー:そう言ってもらえるのは嬉しいです。確かに彼らのスタイルと自分のスタイルは違いますが、自分のパートは自分のスタイルで歌ったので、レコーディングは楽しくできました。自分の声がいつもと違った曲で聴こえるのは自分にとってエキサイティングな体験でした。
―― コメントを見ると[Alexandros]のファンは、あなたと彼らがステージで共演することを望んでいますよ。
マレー:僕もそう思っています!いつか実現することを願っています。(*7月5日に[Alexandros] presents THIS FES’25 in Sagamihara」に出演することが発表となった)
―― SIRUPとのコラボレーションはどうでしたか?
マレー:SIRUPの音楽スタイルは僕と似ているところがあります。初めて日本に来て、日本に夢中になった後、日本の人たちと音楽を作りたいと思うようになりました。それで2022年にインスタグラムでSIRUPにメッセージを送ったんです。
―― なぜSIRUPだったんですか?
マレー:彼のスタイルが大好きだったからです。彼の音楽は本当にクールだと思いました。僕が日本で出会った音楽の多くはJ-POPやJ-ROCKで、僕のスタイルとは少し違いましたが、SIRUPとは共通点がたくさんありました。
彼にメッセージを送ったら返事が来て、一緒に仕事をすることになりました。オンラインでコラボレーションを始めて、それがきっかけでTaka Perryにも出会ったんです。SIRUPのプロデューサーがTakaだったんです。その後、Takaは僕の親友になり、一緒に仕事をするようになりましたが、始まりはSIRUPを通じてでした。
それは2022年のことでしたが、その後、訴訟の対応に2年ほどかかってしまい、すぐに曲を出すことはできませんでした。なので、去年の9月に日本に戻ってきてレコーディングしたんです。今年の2月にはミュージック・ビデオも一緒に撮影しました。
新作アルバム『onion』のアートワーク
―― アルバムタイトルが『onion』なのはなぜですか?
マレー:白金にある「onion」という会社のビルの中のスタジオで僕たちは新作の全てを、そこで3週間かけて作ったので、スタジオにちなんで名付けました
―― アートワークもタマネギですね。
マレー:はい、このアートワークを選んだのは、ただシンプルで美しいタマネギだと思ったからです。それに、アルバムには「tears」という曲も入っていて、タマネギと関連しています。
―― LPには日本のCDについている「帯」もデザインに取り入れていますね。
マレー:ええ、大好きなんです。日本のレコードの帯やパッケージングはいつも素晴らしいと思っています。このジャケットも日本にインスパイアされています。
―― ちなみに帯は着物の帯から来ているんですよ。
マレー:ああ、なるほど!ああ、そうなんですね!
楽曲制作の裏側:「tears」と銭湯でのMV撮影
―― 「tears」はナタリー・バーグマンの「Keep Those Teardrops From Falling」をサンプリングしていますが、なぜこの曲を選んだのですか?
マレー:友人がこのアルバムを教えてくれて、「絶対に気に入るから聴いてみて」と言われたんです。聴いた瞬間に、これをサンプリングしたら素晴らしいものになると思いました。彼女はこのアルバムを作る前に両親を交通事故で亡くしていて、アルバムにはその感情がたくさん込められています。僕が当時経験していたこととも重なり、この曲がぴったりだと感じました。本当に美しい曲です。
―― 「othello」のミュージックビデオは銭湯で撮影されていますね。
マレー:はい、僕は銭湯が大好きなんです。日本にいるときは、日本にいるときは週に3~4回ぐらい行きます。日本の文化の中でも、銭湯や温泉はお気に入りの一つですね。この間、九州の別府に行ったのもそれが理由です。
このビデオは、映画『PERFECT DAYS』にインスパイアされました。映画の中の彼が銭湯にいるシーンが大好きで、それに似た銭湯を探したんです。日暮里にあるこの銭湯「帝国湯」は薪で湯を沸かす、日本で最も古い銭湯の一つだったと思います。
―― 薪ですか、クラシックスタイルですね!
マレー:だからかとても熱かったですよ。今まで入った中で一番熱い銭湯でした。
―― このビデオの監督は誰ですか?
マレー:僕の友達のチャーリーですね。僕のキャリアのすべてでアートディレクターもしてくれているて、もう10年くらい一緒に仕事をしています。この撮影のために日本に来てくれて、次にアルバムから公開される「y3llow bike」という新曲のビデオも撮影してくれました。
―― 今回のアルバムはさっきおっしゃったTaka Perryと一緒に作ったとのことですが、彼との仕事はどうでしたか?
マレー:Takaとの仕事で特にいいことは、僕らは1時間くらいで1曲作れることなんです。
レコーディングは本当に素早くて、始めてから1時間後にはミキシング以外は完全に完成しています。
昔は曲を作るのに何週間もかかったんです。でも今回のような作り方だと、アイデアや感情を純粋に瓶に詰め込むことができる。例えば新作は全部で3週間で作ったんです。だからこのアルバムには感情が全部入っていて、そういった意味でもTakaと仕事をするのが大好きなんです。
―― ちなみに日本では今でも2018年の「nightmares」がロングヒットで聴かれています。この曲の思い出など教えてください。
マレー:この曲のトラックは、ディオンヌ・ワーウィックの「Loneliness Remembers What Happiness Forgets」をサンプリングしたんです。作曲はバート・バックラックですね。この曲のテーマは「誰も自分の辛さなんて気にしてくれない」っていうメンタルヘルスについての曲です。それに僕は、今もそうだけど、不安を抱えていて。8年前のあの頃は違う精神的な健康問題もありました。そういったこともあって、自分の作品の中ではよく語るテーマなんです。
なぜこの曲が人々の心に響いたのかは自分にはわからないんですけど、ありがたいことにヒットになりました。ビデオもすごく良かったと思います。NHSって知ってますか?イギリス国営の医療や国民保健サービスのことなんですが、それは僕たち国民がとても誇りに思っているシステムです。でもあの頃は、さまざまな理由、政治的な理由などもあってうまくいっていなくて、今もまだそうなんですが。それで僕たちは病院でMVを撮影して、看板はすべてカスタムメイドにして、NHSを救えとかっていう少し政治的なメッセージも入れました。イングランドでこの曲がうまくいったのはそういう理由もある気がします。
日本でもよく聴かれている理由はわかりませんが、そうだと聞いて嬉しいですね。他の昔の曲に比べると「nightmares」は今でも新鮮に感じていて、今でもこの曲を演奏するのは好きです。
未来への展望:東京移住計画
―― それでは最後に、今後の計画について教えてください。
マレー:僕の計画は、東京に移住することです。長く滞在できるビザが取れ次第ですね。現実的には来年になると思います。今年は9月にまた東京に来て、10月には2回、そして12月にも戻ってきて、その後はずっと滞在できればと思っています。
もっと日本語を上達させて、もっと音楽を作りたいです。来年も新しいアルバムをリリースしたいと思っていて、もうほとんど完成しています。もっと音楽を作りながら、東京に戻ってきたいです。
―― ありがとうございます。2022年以来の日本でのライブも期待しています!
マレー:ありがとうございました!
Written By uDiscover Team
ハード・ライフ『onion』
2025年7月18日発売
CD&LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music
ハード・ライフ2025年来日公演
10月18日:MIND TRAVEL
11月1日:[Alexandros] presents THIS FES ’25 in Sagamihara
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