クィーン・ラティファ:一流ラッパー、女優、起業家、そしてジャズシンガーまで幅広く活躍する才能

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Photo: Imeh Akpanudosen/Getty Images for Thelonious Monk Institute of Jazz

レコードデビューしてから約30年、クィーン・ラティファ(Queen Latifah)、本名ダナ・オーウェンズは、いくつもの肩書きを重ねたマルチタレント以上の存在になっている。生まれも育ちもニュージャージー州の彼女は、ラッパー、シンガー、女優、レーベル・オーナー、プロデューサー、美の伝道師、テレビ番組のホスト、起業家である。一流のヒップホップ・アーティストから演技の道へうまく転身した最初の5年で、まず自分が主人公のテレビドラマのシリーズをヒットさせた。1990年代の半ばには、彼女はラッパーより女優として有名になっていた。

2000年代になった頃には、完全に女優と起業家として知られ、止どまる気配がないほど次々と新しい仕事を達成したため、音楽活動は軌跡のひとつとなっていった。しかし、ラティファの音楽的才能と功績を鑑みると、これは不公平な事態だ。彼女がスターとして習熟した音楽の幅広さと、肩を並べられる同業者は少ないし、完全に対抗できる人となると、皆無なのだから。

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ヒップホップ黄金期のMCであり、また男性優位のジャンルで早いうちに女性の居場所を作ったクィーン・ラティファ。彼女はまた、自分でもよく実態がわかってないままブラック・フェミニズムを掲げた、社会意義のあるラップを始めたひとりでもある。音楽的には、彼女のアルバムはヒップホップの狭い定義を超えて、ダンスホール・レゲエやハウス、ジャズの影響を受けたトラックに、歌とライムを載せていた。

「(ラップ・ミュージックで)私は歌いたかったし、音楽の要素を増やして、ハーモニーも入れたかった」と、ラティファはかつて説明した。「そんなことをしている人はほとんどいなかった」とも。

振り返ってみると、彼女の音楽にある要素は、19才でシーンに躍り出た人間としては先を行っていたのだ。1994年、モータウンからリリースしたサード・アルバム『Black Reign』からの「U.N.I.T.Y」は、ヒップホップ・カルチャーに蔓延する女性蔑視への明快な警笛だった。

このラティファによるアンセムの影響力は甚大で、ラップ部門において女性初の受賞を果たしただけでなく、過去25年以上もの間、音楽、ヒップホップ、メディア一般における黒人のフェミニズムについての記事や学問の対象として取り上げられている。感慨深いことに、現在の#MeToo 運動や、#ProtectBlackWomen(黒人女性を守れ)の抗議運動のスローガンとして、いまこの曲がリリースされても、少しもおかしくないのである。

常にハードにラップするのと同様に、クィーン・ラティファはシンガーとしても伸び代があることを示してきた。まずは、アルバムの収録曲のフックのいくつかを歌い、それからテレビ番組『Living Single』のテーマソングでも歌っている。事実、彼女はラップを始める前、学校でコーラス隊に所属し歌手を目指していたのだ。女優としてのキャリアを積むうちに、歌唱力を示すチャンスを得たのである。歌手としてのラティファに期待されたのは、コンテンポラリーなR&Bかアダルト・コンテンポラリーにはまる音楽だったが、彼女はポップ・スタンダードやブルース、ジャズに挑戦して艶やかな面を披露した。

1998年の映画『マンハッタンで抱きしめて』では、ラウンジ・シンガーのリズ・ベイリーを演じ、広く愛されながらもその難しさで悪名高いビリー・ストレイホーンのスタンダード「Lush Life」を歌ってみせ、観客を驚かせた。数年後、この女王は2002年の映画『シカゴ』でビッグ・ママ・モートンを演じ、グラミー賞にノミネートされたのだ。モートンで声を張り上げたパフォーマンスが好評だったことから自信を得て、ラティファは自分のジャズ・エイジに突入する決意をする。デビューしてから15年、「U.N.I.T.Y」でヒップホップ史に旗じるしを立ててから10年を経て、自身のレーベル、フレイヴァ・ユニット/A&Mか『The Dana Owens Album』をリリースしたのである。

このアルバムはデイナ・ワシントンやアル・グリーンといったアーティストのジャズやソウルのスタンダードをカヴァーしたほか、「Lush Life」の新録も収録した。それまでのキャリアから甚だしくかけ離れていたわりには成功し、ビルボードのR&B/ヒップホップ・アルバムのチャート11位に、トップ200では16位でデビューし、2005年の最優秀ジャズ・ヴォーカル・アルバムにノミネートされた。

3年後、彼女は『Trav’lin Light』をリリースする。もし、『The Dana Owens Album』がジャズにつま先を水に浸した作品とすれば、『Trav’lin Light』は完全に足を突っ込んでいた。ジャズ・レーベルのヴァーヴ・レコーズと組んだラティファは、シャントゥース(ラウンジで歌う女性シンガー)の役割を存分に楽しみ、ミュージシャンとのライヴ・セッションでレコーディングを行い、ビッグ・バンド風の曲もレパートリーに入れたのだ。

この時点で、彼女はデイナ・オーウェンズではなくクィーン・ラティファでとしてアルバムを発表した。すでに自分の芸術性にジャズを包括して、分ける必要がなくなっていたのである。このLPはビルボードのジャズ・チャートの1位でデビューし、3週間も留まった。そして、2008年の最優秀オリジナル・ポップ・ヴォーカル賞(グラミー賞におけるジャズ・スタンダードの賞)にノミネートされた。

ラティファが世に出た時期は、ヒップホップとジャズに線引きするのは粋ではなかった。クィンシー・ジョーンズは、くり返しビバップは音楽的、精神的にラップの前身だと指摘していたし、90年代初期の数年はア・トライブ・コールド・クエスト、ディガブル・プラネッツ、ギャング・スターといったグループがジャズとラップを混ぜた音楽を流行らせた。その後、ヒップホップ・バンドのザ・ルーツや、彼らも所属したソウルクウェリアンズのアーティストがジャズに影響を受けた音楽を奏で続けた。だが、彼らが繋げたのは演奏法やリズム、テンポといった音楽的な面だけ、ふたつのジャンルにある音楽的なDNAだけであった。

ラッパーからかけ離れたジャズ・ヴォーカルまで行ったのは特異であり、現時点でクィーン・ラティファしかいない。おそらく、もっとも驚くべきは、彼女のジャズ・アルバムは特別なプロジェクトではなく、十分に稼ぎ、大きな影響力を持つ有名人が、長年の歌いたいという夢を追い続けた結果という点だろう。「ジャズの黄金期」の規準を理解する者だけが出入りを許されるような、ジャンルとしてのジャズを高尚な場所に隔離し、厳格な規範にこだわるジャズの純粋主義者にさえ、ラティファの音楽は受け入れられた。彼女の父親は、ニューヨークのWGBO ジャズ 88(ニューヨーク市で唯一のジャズ専門局)の熱心なリスナーだったのだ。デイナ・オーウェンズはシンガー−−それも上手な−−であり、自身の音楽的な知識と巧みなヴォーカルをわかっている、年季の入ったプロなのである。

この女王とアルバムで組んだあと、ヴォーカル・アレンジャーのジョン・クレイトンは、『ジャズ・タイムス』に対して、「技術的に、彼女は自分の声でほとんどなんでも歌えます」と話している。「声域やイントネーションだけでなく、陰影や色をつけることもできるんです。また、女優らしく、リリックをどう聴かせるかもわかっています。それを把握していない上手な歌手はたくさんいます」。

最近、クィーン・ラティファは50才になったが、正式にジャズへ進出して、決定的に方向転換をしたわけではない。新しい方向は、年を重ねるごとにまた記録されるべきだ。ヒップホップ自体が50手前であり、年齢でジャンルから締め出す考え方そのものが時代遅れである。

2009年、彼女はラッパーとして『Persona』をリリースし、ヒップホップやソウル、ポップとロックといったジャンルを実験的に跨いだり混ぜたりして、そのうち数曲は成功していた。さらに最近では、2019年のMTVビデオ・ミュージック・アワードで、バイクにまたがって現れ、マイクを握るというラティファらしいパフォーマンスを見せた。彼女はいまでも易々と熱くラップをし、ガンと言葉をかます。そして、彼女はふたつのジャンルを選ぶ必要はない、と証明したことが、なによりも素晴らしいのだ。

Written By Naima Cochrane

uDiscovermusicで連載している「ブラック・ミュージック・リフレイムド(ブラック・ミュージックの再編成)」は、黒人音楽をいままでとは違うレンズ、もっと広く新しいレンズ−−ジャンルやレーベルではなく、クリエイターからの目線で振り返ってみよう、という企画だ。売り上げやチャート、初出や希少性はもちろん大切だ。だが、その文化を形作るアーティストや音楽、大事な瞬間は、必ずしもベストセラーやチャートの1位、即席の大成功から生まれているとは限らない。このシリーズでは、いままで見過ごされたか正しい文脈で語られてこなかったブラック・ミュージックに、黒人の書き手が焦点を当てる。



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